開発者向けカンファレンス「CEDEC 2014」にて、「日本インディーゲームの挑戦、軌跡、その展望」と題された講演が行われた。活動資金や海外ローカライズ、マルチプラットフォーム展開などの体験談が生々しく語られたのだ。
端的に言うと「インディーゲーム」は、メーカーからの受注ではなく、クリエイターの自発的な活動によって作られるゲームのことだ。「Minecraft」や稲船敬二氏の新作「Mighty No.9」といった注目作が話題に上がることは多いが、実際のところ、日本国内における多くのインディーゲーム開発者たちは、どのように活動しているのか。クラウドファンディングの活用や海外ローカライズ展開、プラットフォーム選びなどの体験談が、当事者により直接語られた。
インディーゲームを創るために必要な活動資金について

インディーゲームの開発者が、ゲーム開発会社に所属する社員と決定的に異なるのは、作ったゲームが売れた時点で初めて、収入が発生するという点である。ゲーム開発には多大な労力と資金を要し、しかも完成したゲームが売れる保証はどこにも無い。インディーゲーム開発者が長い間“食っていく”のは、とてつもなく大変なことだ。
そんな中、ゲームに限った話ではないが、活動資金の調達方法としてクラウドファンディングの“Kickstarter”が注目を集めている。NIGOROの楢村氏は、現在開発中の「LA-MULANA2」の開発において、Kickstarterを通じて5200名から26万ドルの調達に成功しており、これに関する一連の体験談が紹介された。
楢村氏は「LA-MULANA2」の開発を決意した時点では、貯金残高がほとんど無かったという。前作「LA-MULANA」の人気が高い海外では“Kickstarter”が盛り上がっており、これに目を付けてみたはいいものの、当時の日本では前例が無く、何から何まで手探りで進めているそうだ。たとえばKickstarterの登録時に、法人格の銀行口座が必要だったり、資金調達後も投資者向けにリワードや商品を発送するなど、純粋なゲーム開発以外の仕事が意外と増えているそうだ。
もちろん、そういった苦労に見合うだけの価値はある。開発中の活動資金が得られるのが最も大きなメリットだが、それ以外にも、エントリーにより熱心なファンの間でコミュニティが形成されたり、Kickstarterの成功事例がニュースで報じられることが、プロモーションとして機能している。予想外の出来事は色々あれども、とりあえずLA-MULANA2の開発作業は前進しているようだ。

ただ、LA-MULANA2がKickstarterで成功を収めた背景には、“前作の評価および知名度の高さ”という資産を持っていたことが大きいだろう。新たに起業するインディーゲーム開発者にとっては、そういった資産は無いわけで、活動資金はより切実な問題となる。Nyamyamの東江氏は、「Tengami」の開発中は貯金を切り崩す生活を続けていたが、これは家庭持ちの氏にとって「もはや怖さを通り越す」状態だったという。「一時期はホームレスになることも覚悟した」と笑いながら語っていたが、一体どこまで冗談だったのだろうか。
また、Tengamiは開発の早い段階から、「センス・オブ・ワンダーナイト」をはじめとした国内外のゲームイベントへと積極的に出展しており、海外のゲームメーカーから熱いオファーを受けたことも何度かあったそうだ。しかし、そういった契約を結んでしまうと、プラットフォームを指定されたり、IP(知的財産)が維持できないなど、結局のところイニシアチブが維持できなくなる可能性が高いと考え、断念したという。なんのためにインディーゲーム開発を志すのか、その原点を忘れてはならないと東江氏は説く。

更にややこしいことに、活動資金があれば良いのかというと、どうやらそれも違うらしい。プチデポットの川勝氏によると、開発者としてギリギリの窮地に立たされることで初めて生まれるチャンスというものがあり、それがインディーゲームの開発において大切、とのこと。「メゾン・ド・魔王」の開発時は、チームが受注する他の仕事が途切れた際、死に物狂いで開発に取り組んだことが、完成度を高める大きな原動力になったそうだ。
海外ローカライズとマルチプラットフォームの展開について
続いてのテーマは、作ったゲームを多くの人に届けるために避けては通れない、「海外ローカライズ展開」と「マルチプラットフォーム展開」について。現在はインディーゲームも、その気になれば好きな言語やプラットフォームで配信できる状況になりつつある。インディーゲームをヒットさせた3者は、これらにどのように対応していったのか。
まずはTengamiに関してだが、本作のコンセプトは“飛び出す絵本”で、ページをめくる手触りを大切にしている。多くのプラットフォームに対応するのも大切だが、それよりはコンセプトに沿うべく、タブレットデバイスを中心に展開する方針は一貫しているそうだ。
一方で、海外ローカライズ展開は積極的に行っており、現在は世界117か国においてパズルゲーム部門の売上1位を記録している。売上の半分は英語圏によるものだそうだ。実はこれには裏話があって、Tengamiがリリースする際、プラットフォーム(Apple)の側から、海外ローカライズ展開についてアドバイスを受けているとのこと。海外展開に関しては、コンテンツによって向き不向きがあるという考えで、Tengamiの場合は結果的に良い方向に働いたようだ。
続いてメゾン・ド・魔王の事例としては、リリース時にこれといったプロモーションは特に行っていなかったそうだ。コンテンツの力を信じ、それぞれのプラットフォームで発信力の強い人に取り上げられ、そこからの情報拡散を期待していたとのこと。どちらかというとニッチに属するゲーム内容でも、海外を含めると大きな市場があるので、どこかでヒットする可能性がある。そのためにも、海外ローカライズおよびマルチプラットフォームは可能な限り行った方が良いという考えだ。
最後のLA-MULANAだが、最初はフリーゲームとして開発したところ、海外のファンが翻訳してくれて、更にWii WareやPCへと、国内外を含めさまざまなプラットフォームへと展開している。楢村氏は「無計画」と語っていたが、Kickstarterのときと同様に彼は当時の先駆者であるため、ある意味どうしようもなかったともいえる。これらの体験を踏まえたうえで、インディーゲーム開発者として食っていくのなら、日本国内の市場だけに目を向けるのは現実的ではなく、海外展開は必須との見方を示した。
インディーゲーム開発者のコミュニティ「Indie Stream」
ここまで語られた、活動資金や海外ローカライズ、そしてマルチプラットフォーム展開の他にも、インディーゲーム開発者にとって大きな問題がある。それは、多くの場合個人(または少人数)で作業しているためひたすら孤独で、しかも開発者同士の横のつながりが希薄ということだ。この弱点を補うために、インディーゲーム開発者によるコミュニティ「Indie Stream」が1年前に発足している。
Indie Streamでは、たとえば国内外のゲームショウへ出展する際のノウハウや、プレス対応の窓口、海外ゲームメーカーとやりとり等々、インディーゲーム開発者にとって必要な、環境周りの情報が共有されている。ゲーム開発においてはお互いにライバルだが、それ以外の雑事諸々が多く、そのあたりを情報共有していきたいという狙いだ。
来る9月20日、Indie Streamにちなんだインディーゲーム開発者のパーティー「Insdie Stream FES 2014」が、幕張メッセで開催される。インディーゲーム開発に興味を持った人は、特設サイトで詳細情報をチェックしたうえで、東京ゲームショウ2014のついでに参加してみてはどうだろうか。