8月27日、パシフィコ横浜で開催された「CEDEC 2015」にて、「『ゲームの面白さ』に対するチームの気持ちの揃え方 ~チーム戦やデッキ構築を評価するKPIが生み出されるまで~」というタイトルのセッションが行われた。
いち早くモバイル端末市場に参入し、「Mobage(モバゲー)」のブランドでスマートフォンのゲーム市場でもヒット作を多数持っているディー・エヌ・エー(以下、DeNA)。同社の持つ貴重なデータから得られた分析を、マーケティング本部 分析部 アナリティクスデベロップメントグループ アナリストである野中翔氏が語った。
ゲームづくりで大事にしたい「楽しさ」、でも実際は…
野中氏は、「楽しいゲームのほうが売り上げが高いという感覚が定量的に証明できればゲーム作りはかわる」と、講演のテーマを語った。ゲームの開発者ならば誰もが抱くであろう、「売り上げを決めているのはゲームの楽しさではないのではないか」という疑問に迫るという。
運営が必要になるスマートフォンゲームやMMORPGなどを想定した場合に限るが、楽しいゲームや楽しいイベントを演出しても、それを定量的に表して売上やユーザ数にどう影響しているかが解りにくい。新キャラクターを投入して、キャラクターのステータス、絵の善し悪しなどに引きずられる要素は大きいが、イベントでは定量的に効果が見えにくいため、イベントは確実性が低いとみなされて、結果的に実施は見送りになることなどもあるそうだ。
けれど、楽しいイベントで売り上げが上がるということが証明されていればいい、と野中氏は述べた。それを証明するためのデータがきちんとあれば、ゲーム現場での意思決定の場でもよりスムーズに物事が進む。
この場合、売上は課金数とみる。何故かわからないが課金数が減ってしまった、ということはよくある事例だそうだ。そういうときにデータがあれば、その理由を分析することができる。しかし活用例その1ではKPIの変化がどこで起こったかは把握はできるが、そこに楽しさとの関係を見出すことはできない。
そこでデータ活用例2として、さまざまな統計手法に基づいた議題出し、というものが挙げられた。だがそれでもわかるのは売上が下がった理由だけで、まだゲームの面白さまでには至らない。
KPIの変動だけでは本質的な問いの答えにはならない、と野中氏は語る。売上が落ちた理由をKPIから探ってその詳細は説明をすることは出来ても、次に何をすればいいのか、その方向性は定性的な意見になってしまう。
「楽しさ」を分析してゲームづくりに活かす
では実際にどのようにこれらのデータから一歩進めて「楽しさを定量化」し、ゲームの開発現場の意思決定に役立てているか、その詳細の説明に入る。
データを活用する場所が得られたとしても、これらのデータは先に述べた通り存在する変数と売上やユーザー数といった重要なKPIの関係を説明するが、まだ存在しない変数については考慮をすることができない。よってこれらの手法では、「楽しさ」の指標とはならない。
大量のログデータをひたすら読み漁ることで、ユーザの行動を追っていくのも方法の一つとしてはあるが、他のゲームにユーザーを奪われた、などという場合の数字はこのデータには出ないため、リスクも大きいという。
また、いい結果がでるかわからないものに、そこまで時間をかけることができない。実際野中氏は、分析をしても意味がないと感じたことは早めに切り上げ、定性的に議論をするという。そこを踏まえて最少の労力で必要なことだけを調べ、データを活用してのゲームづくりとはどうするべきかを、野中氏は考えていたそうだ。
では「楽しさ」を分析してゲームづくりに活かす、これを実践するにあたり、短期的な視点のものと、中長期運営に関わるものの事例を紹介する。
挑戦と仲間の存在がアクティビティを高くする
短期的な事例として挙げられたのは、GvG。多くのスマホゲームで取り入れられている、ギルドVSギルドのバトルだ。報酬の善し悪しに関係なく、「仲間と戦って楽しかった」というユーザの感情を引き出しやすいため、ゲーム設計においては非常に重要な要素であるという。
これらのデータはユーザの行動から得られたものなので、その道筋からユーザが感じたことを推定できるという前提にたって、指標を設定する。具体的にどういう手法をとるかというと、設計された遊びの楽しさが実現されたゲームの状態を言語化していく。同じようにゲームの設定が失敗した場合に改めて指標に落とすことを前提として、言語化する。
その際、接戦度やチーム内格差など、複数のパターンに分けて言語化していく必要がある。楽しい状態というのは、チームが5人だとしたら5人全員が頑張っている場合。それを言語化すると「チーム内のメンバー全員がゲームをプレイしていて、一人のユーザに負担がかかっていない」ということになる。
逆に「活動しているユーザが少ないからモチベーションに影響を及ぼす」、「得点差が大きすぎて、後から入ってきたユーザがもう追いつけないからいいやと諦めてしまう状態」などが想起される。
こうして言語化していくと、グルーピングとマッチングに指標が集まることが解る。この二つの事例をもとに、さらに分析を進めていく。接戦度は、勝利しているチームの獲得ポイントを常に分母に持ってくることで、接戦度の値が0~1に固定されるので、可視化するときに大分楽になるという。この可視化は、チームのメンバーに納得してもらうために重要なため、覚えておいてほしいポイントだと野中氏は語った。
接戦度とチーム内格差を具体的にどう使っていくかというと、そこにさらに時間変化とユーザーのステータスを足して可視化していく。具体的にはまず時間変化を足すことで、オレンジ色のユーザ数がどんどん減っているのがわかる。この状態を言語化すると、マッチングに失敗したのか他の原因なのか、とにかくユーザがやる気を失う組み合わせが増えている状態と言える。
このように接戦度と時間変化だけでもデータは見えるが、そこにユーザーの感情まで乗せることが必要だという。データだけをみてもユーザーの感情に何が起こったのかは解らないままなので、接戦度とチーム内格差を足してさらに詳細を見ていく。
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組み合わせとその状態に至った過程により、ユーザーの感情の推定が可能になる。ここにきて、売り上げを分析するプロセスが完成する。この指標を一度作ってしまえば、どのような時にどういったユーザーの感情が働いているのかを簡単に可視化できる。
以上を踏まえて、まずは「提供したい遊びの本質をとらえた指標であれば、組み合わせと切り口を変えるだけで多くの分析が生み出せる」と野中氏はまとめた。
二つ目の事例は中長期にかかるユーザモチベーションの評価
今度は中長期に渡るユーザーモニタリングについて紹介。長期運営にあたっては、ユーザー獲得コストと見合っているかどうかが重要であり、また長期に渡ってユーザーがゲームに対してどういったモチベーションを抱いているのかを、分析していく必要がある。
中長期に渡るモチベーションといえば、具体的にはガチャなどを連想してもらうと話が早い、と野中氏。キャラクターのステータスは重要で、自分の作ったパーティがどんどん強くなっていくのは中長期に渡ってゲームを続けるモチベーションに直結する。
一方で、こういうものは簡単に変更できず、キャラクターのレアリティもステータス調整、レベルの解放などは頻繁に変えられない。こういった中長期のモチベーションの維持には、最適なタイミングで施策を打てる状態を保つことが必要になってくる。
では実際にこれらを言語化し、どういった指標化に落とし込んでいくか。パーティの強さなどがそれに当たり、攻撃力などの数値で評価しても構わない。強さは複雑で、スキルをそろえたパーティのほうが攻撃力が低くてもゲーム内では強い、というパターンもあるので、ユーザがそろえたいと思っているキャラクターがそろっているかという指標に落とすほうが応用がきく。
また、役に立たないキャラクターばかりを引いてもモチベーションが下がるため、ガチャで引いたユニットがきちんと使われているかどうかを確認するために、ガチャを引いた数に対してどれくらいパーティの入れ替えが行われているかというのも見ていく指標の一つになる。
これらの指標をあわせて、ユーザーの感情がどう変化しているかを表現できないか見ていく。縦軸に占有率、横軸に時間変化を設定した、最高レアリティキャラクターのパーティ占有率をグラフにした。オレンジが継続ユーザーで、青が離脱ユーザーだが、離脱ユーザーは時間変化に伴うパーティの成長が乏しいことがわかる。しかし、このグラフからだけでは、何故成長を感じられなかったかはわからない。
そのため、占有率とパーティキャラクターの入れ替え回数を組み合わせてみると、入れ替え回数に対して占有率が高まっていない場合や、その逆のパターンなど、運営側の意図したキャラクターの価値をユーザーが汲み取ってくれていないことが考えられる。
もう少し運営側がコントロールしやすい仕様として、占有率とキャラクターの配布量を組み合わせてみる。
配布量と占有率を組み合わせてみると、先程と同じようにユーザーがキャラクターの価値を理解できていない場合が考えられる。
同様に、当初の設計に反してユーザーにとっては無用なものになっている可能性も考えられる。
さらに、指標を変動したKPIの分解軸に用いることで、ユーザーの感情とKPI変動が関係付けられる。実際にゲームを遊んでいるユーザーのキャラクター占有率を分解してみる。横軸に時間軸、縦軸にDAUを設定したグラフが上記のスライドになる。
「理由はよく解らないが、ユーザー数が減っているからどうして減っているのかを調べてほしい」、というような時にはこの軸で分解してみると、占有率の高いユーザーだけが減っているとか、或いは低いユーザだけが減っているとか、何らかの傾向がわかる。
この例の場合は占有率の高いユーザーが特に減少傾向にある。その理由は、既に目標を達成してしまったのでゲーム内でやることがなくなってしまったと考えられる。例とは逆に、占有率が低いユーザーが減少している場合は、長期間に渡って成長を感じられなかったために、ユーザーがゲームに飽きを感じてやめてしまったことが考えられる。
このようにして作った指標が楽しさを表していれば、DAUや売上といった事業上重要なKPIと楽しさの指標というのを関連付けることができ、これらをまとめると条件の組み合わせ次第でユーザーが感じている「楽しさ」をはかることができる。
以上の内容を踏まえて、「大げさではありますが」と野中氏は前置きをしたうえで、今後のモバイルゲームづくりに必要な分析として、「具体的にどうしたら楽しさを定量化できるかというと、残念ながらこの方法を使えば楽しさを特定できる、という簡単なものではない。だが、色々なゲームのルールやイベント、ユーザーの性質などによっても変わるものの、たくさんのデータを見ることで複雑な指標を都度作り出すよりかは、簡単な指標の組み合わせでも論理構造を一度作っておけば、言語の状況とユーザーの感情を一対一でどんどん表現することができる。それを用いることでユーザーの感情変化と売上の変化、ユーザー数の変化というものを関連付けていくことができる。改めて、楽しさを定量的に表現することができれば、ゲームづくりの現場の意思決定はもっと変わっていくはず。」と今後のモバイルゲーム業界の在り方について語った。
野中氏曰く、「複雑な統計手法や集計方法を使うことだけが分析の価値ではない」という。最初にこの部署に配属された時には、野中氏自身もそういったものを求められ、勉強しなければならないのかと感じていたようだ。だが今では、データの活用を通して面白いゲームづくりへの最短距離を示すことが、分析の仕事なのではないかと思うようになったという。
単純な指標でも、組み合わせや切り口の設定によって、複雑な指標に勝る示唆を短時間かつチームメンバー全員にとってわかりやすい形で提供できる、と野中氏はこの講演についてまとめた。
※画面は開発中のものです。
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