ゲームクリエイター・河野一二三氏およびヌードメーカーの手掛けるPC用ホラーゲーム「NightCry」の完成披露会が、3月21日、東京・秋葉原にて開催された。
「NightCry」は、ホラーゲームの金字塔「クロックタワー」の魂を受け継ぐ作品として制作されたタイトル。「クロックタワー」をはじめ「無限航路」「鉄騎」のディレクターを務めた河野一二三氏と、「呪怨」「The Grudge」の監督である清水崇氏が共同で開発するとあって、とりわけホラーゲームファンからは発表当初より高い注目を集めていた作品だ。
当初はモバイル・PS Vita向けゲームとして発表されていたものの、追加プラットフォームとしてPC版の開発が検討され始めると、米国「キックスターター」にてキャンペーンが展開。無事に目標金額に到達し、PCでのリリースも決定した。今回のイベントは、そんなPC版の完成を記念して開催されたものだ。会場には完成版のプレイアブル展示もされており、多くの記者で賑わっていた。
また、ニコニコ動画で人気の牛沢さん、まおさんによる本作の実況プレイも披露され、ホラーゲーム特有の緊張感を実況で見事に表現。血しぶきが飛び散る場面の驚き方や、難解な仕掛けに四苦八苦する姿を見せ、作品の魅力をアピールしていた。
そして本イベントのメインである完成披露会には、河野氏、清水氏に加え、クリーチャーデザイナーの伊藤暢達氏、プランナーの池田祥也氏、SE担当の小池令氏の5名が立ち、トークセッションが行われた。
トークセッションではPS4版、さらにVR対応への可能性にも言及
まずは河野氏から、「NightCry」の基本的な情報、システムが改めて紹介された。
本作は非力な主人公をクリック&ポイント操作で間接的に動かし生存を目指す、まさに「クロックタワー」の流れを汲んだ作品となっている。ゲームの舞台は豪華客船「オシアネス号」であり、プレイヤーは未知の敵・シザーウォーカーに怯えながらも船内を探索し、脱出を目指す。またグラフィックは3Dになり、直感的に恐怖を感じ取れるようになったのも大きなポイントだ。
そして主人公とシザーウォーカーが遭遇すると、罠や道具で撃退したり、物陰に隠れたりして対峙する逃走モードに入る。ここで河野氏が新要素として挙げたのが、後ろを振り返り、シザーウォーカーがどこまで迫っているかを確認できる新たな視点だ。怖くて振り返れない、しかし見なければ状況を確認できないという、プレイヤーの心理を突いたシステムとなっている。
また、「クロックタワー」でもおなじみのマルチエンディングは本作でも健在で、ゲーム内でどのアイテムに注目したか、どんな行動を起こしたかでその後の展開も変わってくるという。
ここで気になるのは、なぜ「クロックタワー」の名前を使わず「NightCry」という独自の新作としてリリースすることになったのか、という点だ。
これに関して河野氏は「あくまでも違うベクトルで進化させたかったから」と語る。加えて、クリックタイプのゲームは、今の時代ではどのメーカーからもなかなか予算がでない現実もある。しかし河野氏はクリックタイプにこだわりがあったため、インディーズで一から作ることになったと述べた。
そして、このような形で完成を迎えたわけだが、河野氏は「良くも悪くも『クロックタワー』だと思ってもらえる」と手応えを口にした。「古臭いと感じる部分もあるかもしれない」と正直な感想を漏らす場面もあったが、グラフィック、ユーザビリティは確実に進化を遂げているという。
一方で、グラフィックに関しては開発途中で繰り返し作り直したことを明かした。開発現場は困難に直面する機会も多かったそうだが、それは清水氏も同じだったと語る。というのも、清水氏は本作をモチーフにした実写映像を制作しており、その中にもゲームは登場するのだ。どの場面を映像に入れていいのか、調整にはひときわ苦労したそうだ。一方で、こだわりを持って開発に臨む河野氏の姿勢には、凄みを感じる瞬間もあったという。
シザーウォーカーをデザインした伊藤氏もまた、グラフィックの作り直しに驚いたという。伊藤氏の場合は以前のバージョンから常にチェックしており、当時から「出来が悪いな…」と内心思っていたとか。また、作り直すことを最初に聞いたときは「予算大丈夫かな…」との不安を抱いたとのこと。ただ、そんな不安をかき消すように河野氏は「数千万くらいならすぐに返せますよ!」と笑顔で豪語。それだけ本作のクオリティに自信があるようだ。
その自信の源となっているのが、プランナーの池田氏、SE担当の小池氏という2人のスタッフだ。特に池田氏は昨年まで学生で、河野氏がその能力を見出した逸材だという。
「未来のトップクリエイターとして、今後に期待しています」「大手メーカーでもなかなか見つからないくらいの当たり」と河野氏から絶賛の言葉をかけられた池田氏。本人は初の表舞台ということで緊張気味だったが、開発現場では先輩のスタッフにも積極的に意見を言ったりと、存在感を示しているそうだ。そんな池田氏は、作品のスタッフロールでも堂々とトップに名前が置かれているそうなので、購入した人はぜひチェックしてほしい。
一方ゲーム業界で長く活躍してきた小池氏は、骨のある作品を作る河野氏の男気に惚れて、すぐに依頼を承諾したという。効果音の担当とあって、シナリオから密接に関わってきたという小池氏が言うには、「これはインディーズのレベルじゃないな」と率直な感想を述べていた。
トークセッションが終わると、本作のPVが流れ、PC版の発売日が3月29日と発表された。さらにその後発売が予定されているPS Vita版にも言及があり、バイオレンスシーンをどうするか、これから考えていくと述べていた。まずはPC版を全力で作ったため、レーティングにどう対応するかは今後検討していくとのこと。
さらに話題は、正式に発表されていないPS4版にまで及ぶ。河野氏自身もPS4版をリリースしたい気持ちは強いらしく、もし開発できることになったら、泣く泣くボツにしたシナリオも追加したいなど、壮大な夢を語っていた。またVRへの対応も積極的に考えているらしく、こちらも力を入れて議論を重ねているという。
PS4版とVR対応、どちらももちろん正式に決定したわけではないが、今後の展開に大きな期待感が芽生えたイベントとなった。