スクウェア・エニックスが2017年7月13日に発売するPS4用ソフト「ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ」。本作でプロデューサーを務める加藤弘彰氏、ディレクターの片野尚志氏へのインタビューをお届けする。

目次
  1. PS4でも吉田明彦さんイラストが動くイメージは絶対に崩さない
  2. プレイヤーにいろいろと試すチャンスを与えたかった
  3. 武田君たちの新しいボイスもぜひ聞いてほしい

2006年にPS2で発売された「ファイナルファンタジーXII(FFXII)」が、PS4でHDリマスターとして蘇る。まずはこの事実に、心の底から喜んでいるファンも多いことだろう。

本作は、プレイヤーごとの自由な育成を可能にしたライセンスボード、味方への作戦指示をカスタマイズできるガンビット、広大なフィールドの中リアルタイムでバトルが展開するADB(アクティブ・ディメンション・バトル)など、画期的なシステムの数々で「FF」シリーズの中でも異彩を放つ作品として知られている。熱狂的なファンも多く、今回のHDリマスター版「ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ」はまさに待望の作品と言えよう。

今回、プロデューサーの加藤弘彰氏、ディレクターの片野尚志氏へのインタビューを行い、「FFXII」をあらためて作るためにやってきたこと、その道のりを伺った。膨大なボリュームを誇る「FFXII」にチャレンジする前に、ぜひ読み進めてもらいたい。

左から加藤弘彰氏、片野尚志氏

PS4でも吉田明彦さんイラストが動くイメージは絶対に崩さない

――今回はHDリマスターということなので、まずはお二人がPS2版「FFXII」にどのような形で携わっていたのか教えてもらえますか。

加藤氏:僕はオリジナルのときはプロジェクトマネージャーとして、全体のスケジュール管理ですとか、対外的な契約のやり取りを見ていました。今回、プロジェクト全体を把握していたという経験を踏まえ、プロデューサーとして開発を見ることになりました。

片野氏:オリジナルのときはリードプログラマーを担当していました。今回HDリマスターを作るにあたって、どんなところをどう改良するかを考えるという点で、経験を活かせたと思います。

――「FFXII」をもう一度作ることになったわけですが、当時と比較して作品に対する印象に変化はありましたか?

加藤氏:まずはこのタイトルを再び手がけることになるとは誰も思っていなかったことですよね(笑)。本格的にリマスターの話が立ち上がったとき、スタッフとインターナショナル版をプレイしてみたんですね。するとゲームプレイ自体は、今でも充分面白いなと。

やはりバトルを伊藤裕之(※PS2版「ファイナルファンタジーXII」ディレクター。「ファイナルファンタジーV」「ファイナルファンタジーVIII」などのバトルデザインも手がけた)が担当していて、彼がそれまでに培ってきたキャラ育成、工夫の楽しさが詰め込まれているんです。そこに古臭さは感じなかったですし、現在でも通用するという印象でした。グラフィックも高解像度化するだけでキャラクターはある程度綺麗に写りますし、細かい作り込みもより栄えると感じましたね。

片野氏:再度プレイをして感じたのは今でも楽しんでいただけるベースは充分にあるということでした。だからこそ、ただ綺麗にするだけでなく、今楽しむならさらに何をプラスするべきかを考えることができました。

――ちなみに、今回のリマスターを作ることになったそもそものきっかけは何だったのですか? 先ほど加藤さんは「再び手がけることになるとは…」と仰っていましたが。

加藤氏:ハードがPS3からPS4へ移っていく中で、「『FFXII』はリマスターする価値があるのでは」という話題はちょくちょく挙がっていました。味方のAIをカスタマイズできるガンビットとか、そう簡単には作ることのできない要素が詰まっている作品ですからね。ただ、やるんだったらオリジナルのメンバーを揃えようというのはずっと考えていて、それがなかなか実現できなかったんです。今はフリーランスのスタッフや、作曲の崎元仁さんも含めて運良くタイミングが整ったので、ようやく動き出せました。

――「FFXII」のリマスターは以前から多くのファンが熱望していたと思うんです。発表したときの反響はいかがでしたか?

加藤氏:オリジナルのときはバトルシステムが斬新なこともあり、賛否両論ありました。ですが時は流れて、「FFXII」のようなリアルタイムバトルが当たり前になりました。そんな時代の変化もあって、当時からのファンはもちろん、「もう一度挑戦したい」という人も多かった印象ですね。

――「FFX/X2」のリマスターが2013年に発売されたこともあって、ファンの間で「『FFXII』のリマスターも来るのでは?」という風潮が長く続いた印象もあります。

加藤氏:「『FFXII』はよ!」とメッセージをもらったことを覚えてます(笑)。「いよいよ出るんじゃないか!?」という噂が立つことも多かったですね。

――僕自身も噂に一喜一憂してましたね(笑)。結果的に「FFX/X2」のリマスターからは時間が空きましたけど、当時と比較して作り方に変化はありましたか?

片野氏:私は「FFX/X2」のHDリマスターにもかかわったのですが、初めてのHDリマスターということもあり、ファンの方々が何を望んでいるのか探りながら作った面があったと思います。「FFX/X2」という経験をしたことによって皆さんが期待していることも分かりましたし、「FFX/X2」を踏まえてどのように遊びやすく改良しようとか、もう一段踏み込んだ意識を持てました。

――「FFX/X2」との違いとして、いきなりPS4から入るのは大きかったと思います。

―片野氏:g:PS2のデータをPS4に入れて確認したところ、それだけでも綺麗ではあったものの、やはりブラウン管での表示を前提としていたので解像度が足りない部分も見えてきました。そのため、ブラウン管で見えていたイメージをHD化することを最低限として、その上で
PS4の性能を使い高品質化を目指すためにどのように改良をしていくかを検討していきました。

加藤氏:PS2版のデータでもキャラクターはとても綺麗なんですけど、背景やUIはどうしてもボケてしまう。そこをPS4向けにカスタマイズしてトータルのバランスを取るのが開発テーマの1つでした。

――カスタマイズをする際、特に気を使った点はどこですか?

片野氏:今の技術で映像表現をしようとするとフォトリアルな世界になりがちです。「FFXII」のアートスタイルを崩さないためフォトリアルな表現は抑えて、キャラクターデザインの吉田明彦さんのイメージを再現し改良する工夫をしていきました。

加藤氏:吉田さんのイラストが動くイメージは「FFXII」の大切なところですし、これだけはPS4でも絶対に崩してはいけないと考えていました。

――グラフィックを綺麗にするだけでなく、雰囲気作りも重要だったと思います。「FFXII」の場合は天候の変化など、ロケーションによって見え方が変わってきますから。

片野氏:そうですね。今回はゲームプレイの際の全体の印象にも非常に気を使いました。全体を平均的に底上げしていかないとゲームプレイをした全体の印象に違和感が生まれてしまいます。メインキャラクターだけ綺麗になっているとか、特定の部分だけに力を入れるとがった高品質化ではなく、全体を底上げするような高品質化を目指そうと最初から決めて開発を進めていました。

――なるほど。そうして完成を迎えたわけですけど、あらためて注目してほしいポイントはどこですか?

加藤氏:それはもう全部と言いたいところですけど(笑)。「FFXII」はあえてセリフを使わず、目の動きや口の動きといった表情で感情を伝えようとしていて、それがかなり分かりやすくなっています。これはPS2版のときから力を入れていたところではありますが、より洗練されていますね。

片野氏:PS2のときからすべてのロケーションを見ていて、どれかひとつを選ぶというのは難しいところですね。その中でも砂漠の砂の表現だったり、フォーン海岸の天候の変化だったりは高品質化の恩恵を受けている場所だと思います。特に天候による雰囲気の変化はさらに分かりやすくなっているので、フィールド自体も楽しんでいただきたいです。

加藤氏:東ダルマスカ沙漠に初めて入るとき、陽炎が揺らめく演出が入っているんです。これもPS2のときからあったものの、「なんとなくある」くらいだったんです。しかしPS4版を今のモニターでプレイするとしっかり表現されていて、「砂漠ってこうだよね」と私たちも手応えを感じています。

プレイヤーにいろいろと試すチャンスを与えたかった

――グラフィックだけでなく、システム面でもかなり手が加えられていますよね。

加藤氏:遊びやすさの改良として、ハイスピードモードやオートセーブ、ロケマップの透過などは施しています。遊びやすくなったことによって、いろいろなサブルートにもチャレンジしやすくなったと思います。これによって、オリジナルでは気付かなかった発見をプレイヤーの皆さんがしてくれるのではと期待しています。住人の何気ない会話とか、寄り道にある仕掛けとか、自分自身でもあらためて発見がありましたから。

――寄り道という意味では、オートセーブは特にありがたい機能ですね。

加藤氏:広大なマップを何時間もかけて移動して、うっかり強力なモンスターに手を出してしまいゲームオーバー、というのを経験した人もいると思います。数時間が無駄にならなくなったのは、モチベーションの維持という点でも大きいですね。

――僕も必死になって逃げていた記憶があります(笑)。遊びやすくするために、特にこだわった箇所はどこですか?

片野氏:オートセーブの話にもつながるのですが、プレイする方々にいろいろなゲームプレイを試していただきたいというのがあります。本作では強力なモンスターがたくさん出てきますが、そのぶん攻略の選択肢も多く用意されています。しかしPS2版はオートセーブがなくセーブクリスタルからのやり直しになるため、ゲームオーバーになった後に再挑戦を再度試すのが多少億劫になってしまう場面もあったと思います。今回はオートセーブや読み込み時間のさらなる短縮によりガンビットを改良したり、装備を変えての再挑戦をすぐに試せるようになっています。

加藤氏:本作の話が立ち上がった段階で「どう改良していくか」は何度も議論していて、遊びやすさの他に、元々ある育成システムの「ライセンスボード」にも手を加えることにしました。「ライセンスボード」はボードを解放することによってキャラクターが装備できるアイテムや、使える魔法が徐々に増えていくもので、オリジナル版では1種類、インターナショナル版ではジョブごとに12種類があり、1人のキャラクターが1つのライセンスボードを持つことになりました。今回はそれを発展させて、1人につき2つまでライセンスボードを持つことができます。これによって育成の幅がさらに広がっています。

――複数のライセンスボードを持てるのは本作からの新要素ですし、そもそもインターナショナル版のプレイ経験がない人にとっては初めて触るものです。おすすめの組み合わせとか、プレイする際のコツはありますか?

加藤氏:どのジョブを選んでもクリアできるように設計してあるので、少なくとも外れはありません。以前のインターナショナル版のときは1種類しか選べなかったため、1キャラにつき1ジョブだったので、中には理想のプレイスタイルと違うジョブを選んでしまった方もいるかもしれません。しかし今回は2つのジョブを組み合わせることが可能なので、いろいろなプレイスタイルに対応できると思います。

片野氏:キャラクターのイメージに合わせたジョブを考えてみるのもいいですね。ジョブによって扱える武器が違い、どの武器を持っているかによってキャラクターのモーションも変わりますし、ボスモンスターを倒したときのポーズにも個性があります。そもそも攻撃のアクションも違うので、皆さんが持つキャラクターのイメージを参考にしてもいいかと思います。

――よりロールプレイがやりやすくなったと。

加藤氏:そうですね。元からあるガンビットに加えて、装備のバリエーションも多彩です。そういったところをどう組み合わせていくか、工夫する楽しさもあらためて味わってほしいですね。

――なるほど。そういえば、トロフィーはどんな内容になっていますか? 寄り道が多いだけに気になっている人も多いと思います。

加藤氏:ベースはオリジナルに入っていた「空賊の隠れ家」ですね。パーティのレベルを上げたり、特定のモンスターを倒したりで解放されていきます。あとは武器の収集などもあります。初期レベルでクリアを目指す「弱くてニューゲーム」は条件に入っていないので、難易度が特別高いことはないと思います。

――武器の収集も条件になると、最強の矛がまた話題になりそうですけど、インターナショナル版と同じく入手条件が緩和されていると思っていいのですか?

加藤氏:オリジナル版に比べれば格段に難易度は下がっています。入手が大変なことに変わりはありませんけどね(笑)。

武田君たちの新しいボイスもぜひ聞いてほしい

――音楽についても聞かせてください。今回はBGMを新録しているというお話ですが、ゲーム内での印象に変化はありますか?

加藤氏:今回は全BGMを生演奏で再レコーディングしていますが、やはり生音だと違いも大きいですね。例えばフルートのちょっとした不協和音がダンジョンの恐怖感を煽ったり、プレイする感覚にも影響を与えています。シンセサイザーから生まれるデジタルの音ももちろんいいですけど、生は生の良さがあるんだと再確認しました。

――再レコーディングすることになったとき、崎元さんの反応はいかがでしたか?

加藤氏:崎元さん自身もPS2版のときから「生演奏でやりたい」という話をしていて、でも当時はDVDの容量にも限界があったから断念したんです。そしてリマスターの話が挙がり「このくらいの予算なら出せそうですけど…」と提案したら、崎元さんは「その予算全部ください」という感じで(笑)。やって大正解でしたね。

――キャラクターとフィールドでグラフィックに差が出ないよう気をつけたのを同じように、グラフィックとサウンドの差もなくなったのではないでしょうか。

片野氏:そうですね。ゲームはさまざまな要素が絡み合って出来上がるものであり、グラフィックとサウンドの両方のクオリティをバランスよく向上できたのは何よりも大きな成果です。

――それとは別に新曲も収録されているということですが、こちらはどのようで経緯があったのでしょうか。

加藤氏:PS2版では楽曲を流用しているシーンがいくつかあって、例えば序盤で登場するギーザ草原と終盤のツィッタ大草原が同じ音楽で、せっかくここまで来たのに同じ曲が流れているという部分もありました。そういったところはせっかくだから新しい曲を作ろうという話になったのです。崎元さんは10年以上前の自分と向き合う難しい作業だったみたいですが、今のテクニックを駆使しつつ、当時に負けない雰囲気の仕上がりになっています。

――楽曲の内容について、崎元さんに要望を出したことはあったのですか?

加藤氏:いや、基本はおまかせです。お互いがやりたいことを分かっている関係ですし、こちらが口を出すことはほとんどありませんでした。ただ、東京でのレコーディングを見させてもらったとき、崎元さん自身はOKを出していたんですけど、演奏者の方が「もう一回録りたい」お願いする場面があったんです。私たちや崎元さんだけでなく、演奏者一人ひとりもこだわりを持っているのは印象的でしたね。

――サウンドという意味ではもうひとつ、キャラクターボイスも気になるところです。

加藤氏:オリジナル版をベースにしつつ、いくつか新しく収録したパートもあります。というのも、当時は最初に日本版を作り、その後欧米の英語版を作るという流れでした。そして英語版を作る際、日本版ではボイスを入れていなかったイベントシーンにもボイスを入れていた経緯があります。今回は日本語と英語をコンフィグでいつでも切り替えることができ、差分をなくすためにも追加の日本語ボイスが必要になりました。

――ヴァン役の武田航平さんといったキャストの方々も、久しぶりに収録に臨んだのですね。

加藤氏:短めのシーンも含めて20シーンくらいですかね。武田君をはじめとしたメインキャラクターの6名と、オンドール侯爵の野島昭生さん、ウォースラのてらそままさきさんといった方々にお願いしました。10年以上前の作品なので事前にいろいろと素材を渡して、思い出してもらいましたね(笑)。

――収録はどんな雰囲気でしたか?

加藤氏:武田君とパンネロ役の小澤真利奈さんは当時10代後半で、彼らにとって青春時代を共に成長してきたタイトルでもあります。こういう形でもう一度演じることも、とても喜んでもらえましたね。特に武田君は今では役者として成長して、久しぶりの収録では「あれ、上手すぎる」って(笑)。以前のノリを思い出して、「もうちょっと抑えようか」とお願いするくらいでした。

――ははは(笑)。出演者の皆さんは確かな演技力を持っていますし、新しいボイスも違和感なく聞くことができそうですね。

加藤氏:そうですね、そこはぜひ聞いてほしいです。また既存のボイスについても音質が上がっていて、全体的に聞きやすくなっていると思います。表情の些細な変化、崎元さんの音楽も含めて感情の変化が分かりやすくなっています。かつて遊んだ方からしても、違う印象を持ってもらえるのではないでしょうか。

――最後に、ファンに向けてのメッセージがあればお願いします。

加藤氏:HDリマスター化するにあたって、グラフィックやサウンドを向上させることは当たり前として、ゲームデザインも改良してより冒険を楽しめる内容になっています。かつてPS2で楽しんだ方にとっても、美化された思い出を超える楽しさを味わっていただけると思います。逆に「ファイナルファンタジーXV」でシリーズを知った人にも、シリーズごとに一味違う冒険を楽しんでもらいたいですね。

片野氏:PS2で遊んだ方でも、すべてをやり尽くした人は少ないと思います。そういった、やり残したことにぜひ再チャレンジしてほしいですね。

――ありがとうございました。

ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ

スクウェア・エニックス

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  • 発売日:2017年7月13日
  • 12歳以上対象

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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