【CEDEC 2017】「オープンエア」の世界はこうして作られた―「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」におけるフィールドレベルデザインの講演をレポート

【CEDEC 2017】「オープンエア」の世界はこうして作られた―「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」におけるフィールドレベルデザインの講演をレポート

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2017年8月30日よりパシフィコ横浜にて開催中の「CEDEC 2017」。ここでは、31日に行われたセッション「『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』におけるフィールドレベルデザイン ~ハイラルの大地ができるまで~」をレポートする。

任天堂から2017年3月3日に発売されたNintendo Switch/Wii U専用ソフト「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」(以下、BotW)。「ゼルダ」シリーズ初の「オープンエア」と呼ばれる、シームレスで描かれる広大かつ自由度の高いフィールドがもたらす数々の新鮮な感動は多くのプレイヤーを虜にし、全世界で高い評価を得たタイトルだ。

今回の講演では、本作のディレクター・藤林秀麿氏とシニアリードアーティスト・米津真氏が登壇し、「BotW」の世界がどのような意図と創意工夫の元作られていったかが明かされた。

なお本講演で語られていた内容は現代におけるゲーム制作を理解する上で大変興味深く、クリエイターだけではなく、普段ゲームをプレイする側にとっても意味のある内容となっていた。「BotW」のプレイ有無に限らず一読してみることをおすすめしたい。

左からディレクター・藤林秀麿氏、シニアリードアーティスト・米津真氏
「BotW」の理想を実現するために行った、4つの施策

まず講演では、「BotW」のフィールド全景がカラフルに彩色された2種類の地図が公開された。これは「BotW」のテストプレイにおいて、テストプレイヤー達が通過したルートを表示するヒートマップで、赤や黄色などの暖色系の色になっていくにつれ多くのプレイヤーがその場所を通ったことを示している。

この2つの地図は、それぞれある施策を行った前と後の状態の変化を示したものとなっている。

最初の地図ではプレイヤーの多くが同じ道を通っている一方、ほとんどの人が立ち入らなかったゾーンも多数見受けられる。これはテストプレイにおいて、約8割のプレイヤーがゲーム中のルートである街道に沿ったルートを移動したのに対し、約2割のプレイヤーはあてのないまま闇雲にフィールドを散策しており、プレイヤーによって行動が極端に2分されてしまった結果なのだという。

一方の施策を行った後の地図は、前と比較すると全体的に暖色系の色が増えており、明るくカラフルとなっていることがわかる。これは多くのプレイヤーが様々な場所を自由に散策しながら、高い割合で特定の場所へと立ち寄るという共通した行動をとったため。こちらは「ある程度の行動指針が存在しながら、ほどよく分散している」という、「BotW」が目指す理想に近い状態のものとなっている。

この状態を作るために藤林氏ら開発チームが行ったのが「プレイヤーの誘導法」「地形による誘導法」「フィールド設計図の作成手法」「大人数でのフィールド作成運営」という、4つの施策。ここからは、それら施策の内容を一つずつ紹介していこう。

強制力を与えず、能動的に行動してもらう「プレイヤーの誘導法」

「BotW」のような極めて自由度の高いタイトルでは、必然的にプレイヤーがどのような行動をとるのかが、作り手にとっても予想することが極めて難しい。そこで藤林氏が最初に考えたのが、「点と線」によってプレイヤーを誘導するというものだった。

例えばゲーム中には「塔(シーカタワー)」という建築物が存在している。これらの塔はその構造上遠くの場所からでも発見が用意な上、起動することで周辺の地図情報を獲得できるというゲーム的なメリットがあるため、テストプレイでも多くのプレイヤーがこの塔を目指して移動を行っていた。

そこでこの塔を「点」とし、それぞれの塔と塔をつなぐ「線」の上に様々なイベントを配置しておけば、目的地を目指しつつ、自然とイベントも体験することができるという導線を作ることができるのではないか……という考えだ。

ところがこの試みは、失敗に終わることになる。あまりにもプレイヤーの誘導が強すぎたため、「やらされている」感覚や一本道に感じるという不満意見が多く寄せられたのだという。

ゲームによっては、これはこれで意図する方向にプレイヤーを誘導できているとも言えるのだが、あくまでプレイヤーから自発的に自由な散策を楽しんでもらいたいという「BotW」のゲームデザインにはそぐわないという結論になったそうだ。

理想的な結果とはならなかったものの、「プレイヤーを誘導する」という目的は果たせたことを受けて、次に藤林氏が考えたのが、マップの各所にプレイヤーが思わず自分から近づきたくなるような「引力」のあるオブジェクトを配置していくという手法だ。

馬宿(捕まえた馬を登録したり、集まった人々から情報収集を行える)、ダンジョンの入り口となる祠(クリアするとリンクの体力が増加する)、敵の基地(新たな武器を入手できる)などのゲーム的なメリットの大きいランドマークは、引力をもつオブジェクトの例としてわかりやすい。

これらのランドマークは、施策を行う前から既に存在していたのだが、それぞれに明確な役割を与えるようにしたことで、より強い引力をもつ場所として機能するようになった。

本作のフィールドの各所では、キノコや鉱石といったアイテムを入手できるようになっているが、これらもプレイヤーに対する引力を発揮する。特に「BotW」では、あえて武器が敵か宝箱からの入手に限られていたり、ルピーを落とさないという仕様となっており、フィールドで入手可能なアイテムの価値を高めている。

こうした小さなポイントは遠くの場所からは見つけることができないのだが、森の中にはキノコ、大きな山には鉱石が存在するといったように、プレイヤーが経験を重ねていく内に、自然と引力のある場所を予想できるようにもなっていく。これにより、プレイヤー側に自発的に様々な場所にいってもらうことができるのもメリットとなる。

しかしこれらの引力は、プレイヤーの目に止まることで初めて効力を発揮するため、そもそも見つけることができなければ意味をもたないという欠点が残されていた。

そこで行われたのが、プレイヤーにおおまかな行動の指針を与えるため、塔の頂上から容易にランドマークを見つけられるようにする視認性の改善だった。

本作では高い場所からパラセール(グライダー)による滑空が可能となっており、テストプレイでは多くのプレイヤーが、まず塔を目指して移動することも分かっていた。

そこで塔の頂上から見下ろした時に発見できるランドマークの視認性を大幅に向上させることで、塔に登ったプレイヤーが頂上から地上を眺め、そこで見つけた興味を引かれたランドマークに向かって移動するという流れができるようになった。

すると今度は、そのランドマークに向かって移動している途中に、特徴的な模様が描かれた岩など、近くに移動することで初めて引力を発生させるロケーションを新たに発見できるという、連鎖的な現象も発生するようになる。

この結果、目的地に到着する頃には次にプレイヤーが向かいたくなる場所がわかっているため、ゲームの流れが途切れるストレスもなく、自然と探索範囲が広がっていくリズムを作ることができたのだという。

またこれらの引力は、状況によってその力の度合いが変化するのも特徴で、例えばニュートラルな状態であれば、大きな塔や山、丘といったサイズ的に大きな場所の引力がもっとも強い。

だが体力を増やしたり強い武器を集めたい、リンクの強化を目的するプレイヤーにとっては、祠や敵基地を発見した時の優先順位が高くなる。また夜になるとこれがさらに変化し、塔や馬宿といった、光が灯っている場所の引力が高まる。

こうした変化が起こることで、それぞれのプレイヤーが自分の目的に沿った場所をその時々で目指すようになり、能動的な探索を行わせる、当初に理想とした形に大きく近づけることができたのだという。

常に新しい目的地が生み出されていく「地形による誘導法」

しかし、この手法だけでは不十分だと考えた開発チームが次に試みたのが、地形による誘導法だ。

実は「BotW」では、山や丘といった三角系の地形をベースとしてフィールドが作られているのだが、それにはさまざまな狙いが存在している。

例えば、ある目的地に向かって移動しているプレイヤーが山や丘といった三角状の地形に遭遇した時、とる行動は左右に迂回するか、山を乗り越えるかの二択となるだろう。

すると前者の場合は山の向こう側にある光景が、後者の場合は山頂付近やその先にある光景が、徐々に見えるようになってくる。

「この序々に見える」という部分が重要で、山を超えた先にこれまで訪れたことのないランドマークや気になる森を発見するなど、プレイヤーがある目的地に向かって移動していくと、自然と別の目的地が新たに見えてくる……という仕組みを作ることができる。この「画面内になにかしらの目標が常に見えている」という状態こそが、「BotW」が目指した形なのだという。

また、三角系の地形は大きさによってその役割が変化することもある。目的地を徐々に見せる効果の他に、より大きなものではランドマークとしての機能や、小さなものではキー入力を変化させることで遊びごたえを実感させるという役割ももっている。

プレイヤーがあらゆる方向に行動することができるオープンワールド系のゲームでは、全方向からの侵入ルートを計算しなければならないが、現実的には不可能に近い。しかし大きな三角系の周囲に小さな三角系を配置して組み合わせることで、ある程度侵入ルートを制限しながら、画面内には2つの三角形が同居しているという状態を作り出すことができる。

これと先ほどのプレイヤー誘導のテクニックと組み合わせることで、ある程度の移動の指針を示しつつ、強制感を与えない「BotW」独自のフィールドを作ることに成功した。

会場では実プレイの動画で、これらの施策を行う前と後の比較映像も公開されたのだが、その差は歴然。前者ではただ目的地に向かって移動していただけだった場所が、岩に隠されていた新たなロケーションを発見したり、アイテムが隠されていることの多い馬車の残骸が自然と目に入り、一度立ち寄りたくなるような体験の変化が生まれており、プレイヤーが受ける印象が大きく変わる結果となっていた。

ハイラルはどのようにして生み出されたか。「フィールド設計図の作成手法」

最初にヒートマップが示されていたことからも分かる通り、ここまでに紹介してきたプレイヤーを誘導する工夫は、ある程度元となるフィールドが完成した後で行われたもの。講演の後半からは、その誘導を考える前段階の、土台となる世界がどのように作られていったのかの解説も行われていた。

まず本作は「ゼルダ」シリーズ初のオープンエアと呼ばれるフィールド性を採用したタイトルであるため、フィールドの適切なサイズや規模が、藤林氏ら開発チームにとっても検討が付かなかったのだという。そこで藤林氏は、「距離感・密度感・尺感」という3つ物差しを基準として設定することで、それらを解決するための指針を形作っていく。

まず、フィールドのサイズをどの程度の広さに設定するべきかという、第一の感覚となる「距離感」。この解決のために使ったのが、藤林氏がよく知る場所である京都の地図だ。この実在の地形の地図をゲーム内にそのまま乗せ、その上でキャラクターを歩かせることで、どの程度の距離が適切なのかを実感として掴みやすくしたのだそうだ。

さらに大まかな距離感を明確に数値化するために、藤林氏はハイラル全土をおおまかに形作る地形図を3DCGツールで実際に作成。「BotW」では全ての地形が藤林氏が作った3Dの地図が元となっているそうで、これを使って地形がどのように見えるかの検証も何度も行ったという。

開発が進んだ後も、まず簡易的な3Dモデルの地形を作成し、目指している遊びを実際にゲーム内で一度やってみるという工程を行うようにした。これが距離感の基準を作る上で非常に有効だったそうだ。

一方、どの範囲の密度でロケーションを置くかという「密度感」については、最初にある程度限られた範囲を設定し、その中でいくつかのロケーションを配置して検証するという、ゲーム制作における一般的な手法に沿って進められていた。

ただしこうしたものは、クリエイターの中のイメージではどの程度の塩梅がいいのか分かっていたとしても、具体的な数字を算出して共有するのが難しい。そこで藤林氏が利用したのが、先の距離感と同じ、現実世界での感覚だ。

例として挙げられていたのが、街中にあるコンビニや郵便ポストの分布率。自身の日常生活の中から、配置したいオブジェクトと遭遇する頻度のイメージと、もっとも近いと思われるものを現実世界から探し、それが街中にどの程度の間隔でいくつ配置されているのかを調べ、その数値を参考にオブジェクトを配置していく。

「BotW」におけるダンジョンの入口となる祠の数は、こうした手法によって決定されたもので、開発の初期段階から終盤までほぼ変動がなかったほどの精度を発揮していたという。こうしたコンビニやポストの位置情報はインターネットですぐに調べることができるため、フィールド作成時の工程として、誰にでも簡単に行える手頃な方法として紹介されていた。

そして三つ目のものさしが、一つ一つの遊びの長さとなる「尺感」。これは1つのダンジョンに潜ったり、一回のミニゲームに掛かる時間などゲームのテンポに直結する要素で、長すぎず短すぎない、心地よい長さを見つけ出す必要がある。

そこで開発チームが行ったのが、現実に存在する城やタワーといった観光名所の簡易的な3Dモデルを作り、ダンジョンや基地に見立ててプレイしてみるという検証作業。この結果、大きなダンジョンなら40分、小さいものなら20分程度といった、具体的な数字を導き出すことができたそうだ。

ツールによる情報共有で作業効率を向上させた「大人数でのフィールド作成」

こうした様々な角度から得られた情報を、一つのレイヤーにまとめることで、ようやくフィールド全体の設計図が完成することになるが、最終的にはそれらの作成した情報を各セクションが共有する「情報の具現化」を行うことが非常に重要となる。

特に「BotW」のような大勢のスタッフが関わる大規模なタイトルでは、プランナーとアーティストの間で意見の食い違いが発生することも少なくない。

通常、そうした情報を記載した「タスクリスト」と呼ばれる資料をエクセルなどの表計算ソフトで作成し、スタッフ間で共有することが多いのだが、開発規模の大きいタイトルであればあるほど、タスクの数は膨大に膨れ上がっていく。

その結果、発生した更新忘れや記入ミスなどが残ったままとなり、開発が進むにつれ、資料の信頼価値はどんどん低下してしまうという問題が発生することになる。

そこで米津氏らは、フィールドの開発においては「ゲーム画面の中で情報を共有すること」こそがもっともミスが発生しにくく、効率が良い形だと考え、ゲーム中の3Dマップ上に付箋を貼り付けるような形で作業フローを記載したメッセージを配置できるツールを開発。文字ではなく、視覚情報で現在のタスクを容易に確認できる環境を作り上げ、その効率を大幅に上昇させた。

さらに米津氏らが開発したツールはこれだけに留まらない。ハイラル全体を見下ろしたフィールド全体の地図を色分けし、それぞれのエリアの進捗状況を一目で確認できるようにした「フィールドタスクビュー」がその一つ。

エリアに直接タスクの内容を書き込むことができるため、別の人が同じエリアの作業を行っていたことに気付かなかったというミスを削減しつつ、アーティスト・プランナー間での情報共有も迅速なったという成果が得られたという。

また全体の作業の進行状況を比較しながら、どのエリアが遅れているのかすぐに把握できたり、偉い人から現在の開発状況を尋ねられた際にも、順調に進んでいることをわかりやすく説明する手助けにもなったそうだ。

また現場スタッフが共有できる情報が増えることで、大きく作業時間の短縮が図られた結果、アーティストとプランナー間でお互いのアイディアを生かし合う相乗効果も発生することに。

講演の最後には、クリエイターの発想や検証作業と同様に、それらを補助して効率化するツールを用意することも、ゲーム開発において非常に重要な位置づけとなることが語られていた。

日本ならではオープンワールドゲームの形として、数々の新しい体験と感動をプレイヤーにもたらしてくれた「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」。今回の講演では、何気なく見過ごしていたフィールドの光景一つ一つが、数えきれないほどのクリエイターの試行錯誤の結果生み出されたものだということが分かり、1プレイヤーとして純粋に感心させられた。

すでに「BotW」をプレイした人も、これからプレイする予定の人も、今回の講演で語られたポイントを意識しながら遊んでみると、普段とは一味違ったハイラルの景色が見えてくるかもしれない。

(C)2017 Nintendo

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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