Onion Gamesより2019年10月10日より配信中のNintendo Switchダウンロードソフト「moon」。本作を初めてプレイする、ライターのカワチによる、インプッション記事をお届けします。
「Nintendo Direct 2019.9.5」にてNintendo Switch版の移植が発表されて大きく盛り上がった「moon」。その後も雑誌で特集が組まれたりゲームのバラエティ番組でコーナーを作られたりと話題は加速。ソフトがプレミアム価格になっていたり今まで移植されていなかったこともあり、よろこぶファンが続出しました。
ただ、自分は存在を知っていたもののプレイしたことはなかったので、作品に思い入れが無く、なんとなくその盛り上がりに乗ることができませんでした。ボクと同じようにオタクの人間ならわかってもらえると思うのですが、オタクってどこかひねくれてて「周囲が盛り上がっていると冷めてしまう」性質があるんですよね。世間で人気のものを素直に受け入れられないというか……。
そんなわけで今回の「moon」もスルーしようとも思ったのですが、自分の好きなRPG「Undertale」が「moon」に大きな影響を受けていることを思い出し、この作品をプレイすれば「Undertale」のことをもっと根幹から知ることができるかなと思い、そこを取っ掛かりにプレイしてみることにしました。
そのため、今回のインプレッション記事は、「moon」直撃世代のおっさんゲーマーだけど、「moon」に対してとくに思い入れのない人間の視点になります。自分のように「moon」をプレイしていなかった人や、今回の熱狂に乗り切れずにスルーしている人にぜひチェックしてみてほしいです。
無双する勇者が怖い。物語を客観的に見てみる面白さ
「moon」は、最初は勇者がドラゴンを倒すために冒険をするという王道的なストーリーが展開します。もうすぐドラゴンが倒せそうなところで、母親から「ゲームなんかやめて、早く寝なさい!」という声が聞こえてきて冒険が中断。消したはずのテレビの電源が点き、主人公はテレビの中に吸い込まれてしまい、先ほどまで遊んでいたゲームの世界へ。そこでプレイヤーは世界の真実を知り、この世界の「ラブ」を集めることになります。
本作がいわゆる第四の壁を破ろうとする「メタ」を扱った作品であることは事前情報で知っていましたが、プレイしてみるとその演出が上手で引き込まれます。たとえば王道RPG的な世界を楽しんでいるときに急にリアルな「母親の生声」が聞こえてくるとドキッとしますし、勇者が罪のないモンスターを一刀両断する人物だと分かったときは甲冑の「ガチャガチャ」という音や不穏なBGMが恐怖心が煽ります。有名なRPGゆえにゲームの内容はある程度知っていたので新鮮味は低かったとはいえ、やはり体感すると衝撃がありますね。
一方で実際に体感してわかったもうひとつのことに、20年前のゲームゆえに不便な点が多いということです。本作では時間帯や曜日によって起きるイベントが異なるのですが、時間の早送りができないので待たされることがしばしば。また、うっかりタイミングを逃して次のタイミングまで待たなければならなくなることも。
さらに本作では1日に行動できる活動時間「アクションリミット」が存在。このアクションリミットが無くなるとゲームオーバーとなり、自動セーブしたところからやり直しに。人助けをしたりアニマルを救出したりすることで「ラブ」が増えていき、アクションリミットも増えていくのですが、序盤はすぐにゲームオーバーになってしまいます。
そのため、効率よく進めようと思うとストレスが溜まってしまいます。ただ、この世界のキャラクターがゲームの進行のために存在しているのではなく、それぞれの意思で生活しているのだと気付いてからは考えが変わりました。自分自身がスマートフォンゲームの期間限定イベントなどに慣れすぎていて、ゲームは早解きするのが当たり前のようになっていましたが、別にゆっくりプレイして世界観を堪能してもいいんですよね。最近は作品を消費するようにこなしていることが多かったなぁと反省しました。
キャラクターやアニマルをじっくり観察するのが楽しい
ゲームの目的に関しては上でも少し語りましたが、困っている人を助けたり、勇者に倒されてしまったアニマルの魂を「キャッチ」してラブを集め、光の扉を開けるというもの。そのためジャンルこそRPGですが敵との戦闘は存在しません。どうやって人々の悩みを解決するのか、逃げたり届かなかったりする魂をキャッチするのかを考える謎解きがメインになります。個性的な人間やアニマルの行動を観察して解答のヒントを得ましょう。
ゲーム内のイベントは心を打つような温かいものが中心ですが、なかには社会風刺のあるブラックなネタも。これからプレイする人には、大人がプレイするからこそ気付く皮肉にも注目してみてもらいたいですね。
この「ラブ」を集めるシステムは確かに「Undertale」に近いと思いましたし、アクの強いキャラクターや単純にいい話で終わらせずにプレイヤーに考察を与える部分を残すことなども影響を与えているのではないかなと思いました。いい分も悪い分も含めて強烈な個性を持っています。22年前とはいえ……いや、という前置きが無くとも、「moon」はその独自性で強く引き込まれる作品です。
ゲームを経験する時間が無駄ではないと教えてくれる優しい作品
さて、ここからはエンディングについても語ろうと思います。まだプレイしていない人は読まないように気をつけてください。
本作ではクライマックスで勇者に破れ、ゲームを続けようとすると後味の悪いバッドエンドになり、ゲームをやめて現実に戻ることで真のエンディングを見ることができます。最初は「ラブを集めた世界に戻ることが不正解なのは、そのゲームを否定しているということだから悪趣味だなぁ」と思いました。すごく簡単に解釈すると「ゲームを止めて現実に戻れ」と言われているわけですから。勇者という悪を作って、それを倒すことで物語を解決をするのは確かにオーソドックスすぎますが、なにもここまで来て、そんなドンデン返しをしなくても……と思いました。
ただ、エンディングムービーでゲームのキャラクターたちが現実世界に登場している姿を見て、これは「ゲームよりも現実に戻れ」と言っているのではなく「ゲームの経験は無駄ではなく、その経験は現実でも生き続ける」ということを描いているのではないかと思い直しました。そう考えると、「moon」を経験したうれしさはもちろん、2019年の現在までゲームというカルチャーを卒業せずにこれまで生きてきた自分の生き方も無駄ではなかったと思えてきて一気に鳥肌が立ちました。確かに自分はゲーマーという人生を歩んできたことで楽しいことやツライことをたくさん覚えて人生が豊かになった。それは間違いない。そんなことを思い返す機会になりました。アンチRPGと呼ばれている本作ですが、ぜんぜんそんなことは無かった。このゲーム自体にゲームへの「ラブ」が詰まっています。
ゲームと人生を肯定してくれる「moon」。22年前のゲームだからだとか、みんながプレイしているからとか、そんなことを考えずに素直にプレイすればよかった。このゲームに出会えて本当に良かったです。
(C) KADOKAWA CORPORATION / (C)Route24 Inc. All rights reserved.
コメントを投稿する
この記事に関する意見や疑問などコメントを投稿してください。コメントポリシー