2019年8月にリリースされ、今年5月に日本語が導入されたPC向けアドベンチャーゲーム「Anodyne 2: Return to Dust」のレビューをお届けしよう。

目次
  1. “ナノクリーナー”のノヴァになって、ユニークな世界を旅しよう
  2. 3D世界では広大なフィールドを探索、2D世界ではゼルダライクな謎解き&戦闘
  3. クリエイターのメッセージが至るところで垣間見える、いろんな意味でインディーゲームらしい一作

“ナノクリーナー”のノヴァになって、ユニークな世界を旅しよう

「Anodyne 2: Return to Dust」はPC向けに発売中のアドベンチャーゲーム。開発したのはMelos Han-Tani氏とMarina Kittaka氏という、ふたりのクリエイター。SteamやEpic Games Storeで販売されており、家庭用ゲーム機向けの移植も計画中だ。なお前作に2013年リリースの「Anodyne」があるが、世界観に直接的な繋がりはない。

物語の舞台はユニークな造形の建物が点在し、そこに住む住人までもが皆、奇妙な姿をしている“ニューザランド”という島。主人公の“ノヴァ”は生まれたばかりの女の子。彼女が生まれた理由は、この世界を蝕む“ナノダスト”を除去する、“ナノクリーナー”の使命をまっとうするため。ナノダストは人々の体内に入り込んでいるので、ノヴァも小さくなって人々の体の中へと侵入。ダストを駆除していく。

ニューザランドは初代PlayStationやNINTENDO64のゲームを思わせる粗い3Dポリゴンで描かれていて、一方で体内世界はメガドライブやスーパーファミコンを思わせる2Dのドット絵で表現されている。また、ゲームを進めていくとさらに小さな世界を探索する機会もあり、この世界を描くのはファミコンや、それ以前のゲームを思わせるさらにシンプルなドット絵。この、世界の位相によって異なる表現手法が用いられている点は、本作の大きな特徴のひとつだ。

ノヴァには“パリセード”と“Cシジン”という親のような存在がいて、彼らに導かれながらゲームは進行していく。ふたりはこの世界の文字通り中心である“センター”の命を受け、世界を浄化するためにノヴァに指示を出しているのだという。当初、ノヴァはひとことも言葉を発することなくふたりに従って旅を続けていく。しかし旅を通して様々な人と出会い、それらの出会いは、彼女の心の在り方を少しずつ変えていくのだった。

3D世界では広大なフィールドを探索、2D世界ではゼルダライクな謎解き&戦闘

パリセードとCシジンが“卵”と呼ぶ場所から始まる本作。ここでのチュートリアルが終わると、ノヴァはニューザランドへと移動。以降拠点となるのは、世界の真ん中に位置する“センター・シティ・セノーテ”という街だ。

セノーテの外には“ダストストーム”が吹き荒れているため、序盤はここから出られない。しかし、住人たちに巣食うナノダストを取り除くことで手に入るカードを、4つ集めれば、街の中心にある“ダストプリズム”の機能が回復。ストームを吹き飛ばせるようになる。以降はニューザランド中を駆け回ってダストを除去し、ダストプリズムの完全な機能回復を目指すことに。これがゲームの主な目的だ。

ニューザランドはいくつもの区画に分かれており、どの区画もそれなりの広さを有している。ノヴァはボタンひとつで自動車のような姿に変形することができるので、探索では移動速度が速いこの形態を活用していこう。

決してリアリティのある世界であったり、走り回っていて爽快だったりするわけではない3D世界の探索パート。モンスターが現れるといったこともないので、やれることは多くはない。しかし、懐かしさを感じるグラフィック表現と、ユニークな風景、シンセサイザーを用いたBGMの音色は、まどろみの中で見る夢を思わせ、えもいわれぬ心地よさがある。

点在するキャラクターたちと会話をするなどしてダストに蝕まれている対象を見つけたら、掃除の時間だ。対象にボタン連打で“スパーク”を浴びせ、ゲージをいっぱいにすると体内に侵入するためのミニゲームがはじまる。侵入を阻止しようとダストが放ってくる攻撃に、方向キーの入力でタイミングよくシールドを展開していこう。これが上手くいけば体内世界、すなわちドット絵の世界への侵入が成功し、グラフィックが切り替わる。

体内世界ではダストが生み出した敵対生物たちを倒しつつ、仕掛けを解く、鍵を集めるなどして攻略を進めていくことになる。「ゼルダの伝説」シリーズのダンジョンのようなものを想像してもらえば分かりやすいだろう。

ノヴァが武器として使うのは“ナノ掃除機”。これによって生き物やブロックを吸い込む、吸ったものを撃ち出すなどして攻撃が可能になるのだ。直接吸い込めば倒せる敵もいるが、吸い込めない敵は撃ち出しでほかの生き物やブロックをぶつけて倒そう。ダメージを受けたときは倒した敵がたまにドロップする赤い結晶を吸い込めば回復が可能。また、最後にはボスが待ち受けていることもある。

体内世界のビジュアルやギミックは、侵入前の会話で垣間見える体の持ち主の人格や、悩み、苦しみを反映しており、バリエーションは多彩。どの体内世界でも目新しい仕掛けが登場するので、難易度は高くないものの、毎回適度に頭を悩ませてくれる。ニューザランドの探索とのメリハリも効いていて、なかなか絶妙な塩梅だ。

クリエイターのメッセージが至るところで垣間見える、いろんな意味でインディーゲームらしい一作

中盤にある展開を迎えたあと、ニューザランドでは新たなエリアが解禁され、ノヴァの行動範囲はさらに広がることになる。このとき、既存のエリアにもふたつの変化が生じる。ひとつは集めることで様々な報酬と交換できる“ナノコイン”が点在するようになること。もうひとつは各所に“!マーク”のような柱が立ち、これに話しかけると本作を手掛けたクリエイターの裏話が聞けるようになることだ。

ほかのゲームでは、作品の裏話のようなものが用意されている場合、クリア後のおまけモードなど、本編とは距離を置いた場所にあることが多いだろう。本作のようにゲーム本編のプレイ中に、至るところで開発者自身からユーザーに向けたメッセージが表示されるのは珍しい。

これを好まない人もいるかもしれないが、それほど、本作がクリエイターの言いたいこと、伝えたいことを手段を選ばず取り入れ、表現したゲームであることは、心に留めておいたほうが良いかもしれない。良くも悪くも、少人数による制作のインディーゲームならではの作風だ(個人的にあるボス戦でのメタなギャグは、全体のトーンから浮いていたので無くても良かった気がするが……)。

物語の本筋に関わるテキストの量もなかなかに多い。会話の途中で、ノヴァたちの置かれた状況や心境までもがテキストによって表現される辺りは特徴的だ。

ちなみに日本語にローカライズされた文章の質は決して低くはなく、叙情的で、時としてユーモアも感じられるものになっているが、現時点ではところどころで誤字も見受けられるのがちょっと残念。文章が中途半端なところでスクロールされてしまう点も勿体ない感じがするので、今後のアップデートに期待したい。

ゲームプレイのみならず、テキストも駆使して描かれるのは、人々との出会いによるノヴァの“自我の芽生え”。世界には様々な人、悩み、考え方があることを知り、そしてあるとき彼女は、センターの考え方には縛られずに生きたい人々もいることを知る。与えられた“生きる理由”ははたして正しいのか? 疑問に感じはじめたノヴァは、終盤、とある重大な決断を迫られる。

「Anodyne 2: Return to Dust」は、3Dポリゴンと2Dのドット絵で描かれる奇妙な世界、そして多量のテキストによって、クリエイターの内面にある極めて個人的な世界観とメッセージを表現したゲームだ。そこで得られる体験はバラエティに富み、やりがいがありながらも、常に不思議な安らぎも感じられる。

研ぎ澄まされた操作性のアクションゲームのような爽快感はないし、人によっては探索を冗長に思ったり、クリエイターの自己主張が気に入らないかもしれない。しかし、この世界の在り方に身を委ねることができれば、タイトルの“anodyne”が意味する痛み止め、鎮痛剤のように、プレイヤーの苦しみを優しく和らげてくれるかもしれない。

Steam
https://store.steampowered.com/app/877810/Anodyne_2_Return_to_Dust/?l=japanese
Epic Games Store
https://www.epicgames.com/store/ja/product/anodyne-2-return-to-dust/home

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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