NetEase Gamesからリリースされた「Zold:Out~鍛冶屋の物語」をレビュー。2018年台北ゲームショウでINDIE GAME AWARD最終ノミネート作品に選ばれた同作の魅力を紹介したい。
「Zold:Out~鍛冶屋の物語」はスチームパンクを世界観としたSRPGだ。ただ、本作の魅力はスチームパンクよりもむしろ、ゲーム性にある。その魅力の中心は、武器クラフト・デッキ構築・タクティカルバトルという要素。これら3つの要素が高い完成度で融合し、本作ならではの楽しさを作り出している。
限られた戦術でどう戦うか?カードを使ったタクティカルバトル
本作のメインとなる要素は、タクティカルバトル。クリア条件は基本的に敵の全滅、もしくはボスの打倒。この条件を達成するため、パーティに編成した最大4体のユニットを操作し、敵ユニットを倒していく。
バトルでは、ユニット毎に手番が回ってくるターン制。ターンが回ってきたユニットは、攻撃などの行動が行える。ここまでは従来のタクティカルバトルとあまり変わらない。しかし本作が特徴的なのは、この時行える行動は、「手札から選択する」という点。
各ユニットはSPというポイントを持っている。一方の手札側には消費SPが設定されていて、ユニットのSPを手札分消費する形で行動を起こすわけだ。もちろん、ユニットのSPが余っていれば、複数回行動することも可能。
ユニットの行動終了後に、使用した分の手札が、デッキから補充される。どんなカードが来るかはわからない。意図通りのカードが来ることもあるし、「この状況でこのカード!?」と嘆きたくなるようなカードが来ることもある。つまり、採用できる戦術が、手札によって制限されてしまうわけだ。だがこの制限がおもしろい。
一般的なタクティカルバトルでは、、ユニットの動かし方がある程度パターン化してしまう。たとえば、敵ユニットと相性のよい壁役ユニットをギリギリまで接近させ、近づいてきた敵を遠距離タイプのダメージディーラーで叩く…などだ。もちろん、ステージ構成や敵ユニットの編成などによって戦略に変化が生まれるため、常にワンパターンな展開になることはない。ただそれでも、慣れてしまうと大なり小なりルーチンワーク化してしまう感覚がある。この点本作は、手札のランダム性があるため、最善手をルーチンワーク的に繰り返すことができない。毎ターン、今ある手札の中でベストを考えなければならないのだ。なので常に考える必要がある。これがおもしろい。
もっとも、この「今ある手札の中でベストを考える」という要素は、トレーディングカードゲーム(TCG)であればたいていの作品が備えている。しかし本作はそうしたTCGとも一線を画している。移動による位置取りの要素があるためだ。
本作の移動は、ウォーシミュレーションゲームでよく見られる6角形のマス=ヘックスを使ったものではなく、移動範囲の中を自由に移動することができる。では移動が何のために必要なのかというと、ひとつは攻撃。もうひとつは防御。最後に特定の場所を目指す際の移動だ。
本作の攻撃にはすべて射程範囲が設定されている。なので、攻撃をヒットさせるためには、射程範囲まで移動しなければならない。攻撃を前提とした移動は攻撃アクションとひとまとめになっており、射程範囲内の敵ユニットからターゲットを選べば、自動的にその場所まで移動してくれる。非常に行き届いた操作システムだと感じた。
また、敵が強力な魔法攻撃を繰り出す場合などは、事前に攻撃範囲が表示される。ダメージを避けるためには、攻撃発動前に範囲外に出なければならない。この時必要な移動が、「防御のための移動」だ。こうした、攻撃を伴わない移動は、ユニットを目的地へスワイプすることで行える。
最後の「特定の場所を目指す移動」というのは、攻撃範囲外の敵へ接近したり、回復魔法が使える仲間の側に移動したり…など様々なシチュエーションが該当する。ただ本作には、こうした戦況を有利にするための移動の他にも、移動を促す仕組みが存在。それは、宝箱だ。宝箱はダメージを与えることで開封でき、中から素材アイテムをゲットできる。もちろん、ユニットが宝箱を目指せば、その分パーティーの戦力はダウンする。しかし本作はクラフト要素を備えた作品なので、素材アイテムのゲットは魅力的。なんとも悩ましい…!
デッキをどう強化する?武器クラフト要素
素材アイテムの話が出たところで、続いては武器クラフト要素について触れたい。本作の主人公は、武器職人と武器商人。なので設定的にはバトルより鍛冶の方が本業だ。
武器クラフト要素自体は、作りたい武器に応じた素材を集めることで、武器を作り出すことができるという、スマホRPGではおなじみのもの。しかし、本作の武器クラフトは、他で味わえない中毒性を持っている。それは、本作の武器が、デッキに加えるカードだからだ。
つまり本作は、バトルで素材をゲットし、素材をもとにカードを作りだしてデッキを強化していく…という流れになっている。「このカードがあったらデッキが強くなるぞ!」とワクワクしながら素材を集め、カードを作ったらデッキの強さをバトルで検証。すると、バトルで新たな素材をゲット、新たなカードの存在に胸を熱くする…。この「素材ゲット→カード作成→バトル→素材ゲット…」という流れは、非常に中毒性が強い。先が見たくて「あとちょっと、あとちょっと…」とプレイを続けてしまう。しかも本作、鍛冶を行えば行うほど鍛冶レベルがアップし、新たなカードがアンロックされていくのだ。
武器職人と武器商人が協力!大陸一番の鍛冶屋を目指せ
「手札でどう戦うのがベターか?」「どう位置取りをするのがベターか?」「次に作る武器は何がいいか?」本作プレイ中、頭の中にはこれらのことが常に存在し続ける。なんとも悩ましく、なんとも楽しい。これだけで十分完成度が高いのだが、本作はその上、ストーリーも魅力的と来ている。
本作の主人公は、既に触れた通り武器職人と武器商人のコンビ。武器職人のヘリドは、鍛冶屋のオーナー。ただ彼の経営する鍛冶屋は倒産寸前。そこで、もう一人の主人公である武器商人、のオスカと協力して店を立て直そうとしている。つまり、ストーリーの中核はどん底からの経営再建ストーリー。この中核に、ライバルの武器商人やエルフ、獣人族、翼人族といったファンタジーでおなじみの異種族が絡んでくる。
ストーリーの見せ方はとてもコミカル。明るく笑わされている内に、すんなり作品世界へ没入してしまうだろう。このままストーリー部分だけライトノベルとして出版されたとしても十分通用するおもしろさだ。
万人にオススメできる良作SRPG
筆者がプレイしているのはまだまだ序盤だが、ゲームシステムやストーリーだけでなく、操作システムなどの細かい部分に至るまで欠点らしい欠点がなく、非常に完成度が高い。「INDIE GAME AWARD最終ノミネート作品」と聞いて、本作プレイ前にはインディゲームらしい、粗削りだがトガッた魅力のある作品をイメージしていたのだが、プレイしてみると180°違う。万人にオススメできる、お手本のようなSRPGだ。さまざまなゲームファンに是非プレイしてもらいたい。