HandyGamesからリリースされた「Chicken Police」をレビュー。獣人たちの暮らす街を舞台に起こる事件を描くノワールアドベンチャー。そのハードボイルドな魅力を紹介する。
「Chicken Police」はHandyGamesからリリースされたアドベンチャーゲームで、PC(Steam)をはじめPlayStation4やニンテンドーSwitchといったハード向けに配信されている。さらに、6月にはスマートフォン版もリリースされた。その内容は、オーソドックスなポイントクリック型アドベンチャーゲームをベースとした本格的なハードボイルドストーリー。この記事ではiOS版をベースに、本作の詳しい内容を紹介していきたい。
獣人たちの街で起きた事件を描くハードボイルドなノワール
本作でまず目を引くのが、モノトーンのビジュアルだろう。このビジュアルは、本作のジャンルを直接的に表現している。本作のジャンルとはすなわち、ノワール・アドベンチャー。ノワールとは、フランス語で「黒」という意味で、差別や犯罪、暴力といった人間の闇の側面を描いた作品のことを意味している。たとえば映画なら「フィルム・ノワール」といった具合。
さらに本作は、ハードボイルドなテイストも持っている。ハードボイルドとは、暴力や反道徳といった内容を客観的に描く手法のこと。客観的というのは、言い換えるなら事実をありのままに描くということになる。
なので、暴力はよくないだとか、反道徳的なことはしちゃいけないといった正義を訴える勧善懲悪的作品とは真逆のテイスト。とはいえもちろん、暴力や反道徳を肯定しているわけじゃない。そもそも「肯定」という行為は客観どころか主観的な行為。客観的な視点からすると、暴力や反道徳は現実的に存在していて、乗り越えなければならない類のもの…となるだろう。
このため、ハードボイルドの主人公は何が善で何が悪かといった「思索」ではなく、どうやって乗り越えるかという「行動」で問題解決にあたる。
このため、ハードボイルドでノワールな本作は暴力的・反道徳的な要素がガッツリと出てくる。たとえばそのひとつが、「人種差別」。ただし、「人種差別」の問題をストレートに描くと、表現上様々な問題にぶつかる。
本作で「巧みだな」と感じたのがこの点。というのも、本作の舞台は獣人たちが暮らす街。鳥、牛、ネコ、犬…といった動物はもちろん、ハエのような虫に分類されるものまでさまざまな種族の獣人が存在するものの、「人種」は存在しないのだ。
本作の主人公はニワトリの私立探偵・サニー。なお、一時解雇中ではあるが警察にも所属しているため、まさに「Chicken Police」というタイトル通りだ。ちなみに、本作はいわゆるバディものであるため、サニーには相棒も存在する。相棒もサニーと同じくニワトリで、現役警察官のマーティ。
では警察はニワトリばかりなのかというとそうではなく、ハリネズミもいれば犬もいる。上司のブラッドボイル本部長は犬。ただの犬ではなく、差別主義者…「種族」差別主義者の犬だ。このため、ブラッドボイルはサニーやマーティーに対し、「ニワトリであること」を揶揄してくる。
だが、その一方でブラッドボイルはあらゆる汚職に染まらない高潔な本部長であり、サニーは街が今以上に荒廃していないのはブラッドボイルの力だと認めている。単なる嫌なヤツ、悪いヤツとは割り切れず一筋縄ではいかないブラッドボイルの人物造形は、いかにもハードボイルド/ノワールらしい。
ただ、ブラッドボイルの差別は本作にとってまだほんのさわり。より深刻なのが、クロービル職工地区、通称「巣箱/ゴキブリ町」。その名の通りこの地区は、昆虫系種族が暮らす…というより、強制的に押し込まれた上、壁によって他の地区と隔てられている強制居住区域なのだ。
この「巣箱/ゴキブリ町」の表現は、プレイヤーにかなり「考えさせる」ものになっている。というのも、プレイヤーがまず目にするのは、カフェの前に座り込んで音楽を奏でる、ハエ獣人の姿なのだ。このハエ獣人、擬人化の度合いが他の獣人より低く、本来のハエのイメージに近いこともあって筆者は思わず、「レストランの主人はハエ獣人を追い払わなくていいのかな」と感じてしまった。
ただ直後に考えたのは、ハエ獣人に対するこのちょっとした嫌悪感こそ、昆虫系種族に対して他種族の抱える差別感情の根源だろうということ。つまり、本作は「獣人たちの暮らす街」というコンセプトによって、人間たちを直接描くよりも強く、プレイヤーを差別という課題へと向き合わせる…そんな作品といえるだろう。
ただ、じゃあ本作は差別を描くことがメインの作品なのかというと、そうではない。本作のストーリーを牽引するのは、とある女性の脅迫事件。すなわちミステリーだ。物語は大晦日の夜に、主人公サニーのオフィスを一人の女性が訪ねてくるところから始まる。その女性・イバネズが言うには、雇い主の女性…ナターシャ・キャッツェンコが脅迫を受けているとのこと。
サニーがイバネズの尋問を進めると、さらにナターシャの情夫はイブン・ウェスラ―というギャングだということが判明。途端に話が厄介さを増す。ただ、ナターシャからのメッセージによってサニーは話を断ることができなくなってしまう。そのメッセージとは、サニーの元を出ていった妻、モリ―に関するもの。ナターシャが何故モリ―のことを知っているのか?そして、話を断った場合にモリ―はどうなるのか?サニーはやむを得ず、ナターシャと会って詳細を確認することとなる…。
オーソドックスなポイントクリックパートとスリリングな尋問パート
先に書いた通り、本作のゲームシステムはオーソドックスなポイントクリック型アドベンチャー。画面内のオブジェクトをタップすることで手がかりやアイテムを集め、ストーリーを進めていくというものだ。ただ、本作ならではの要素も用意されている。それは、尋問パート。
ストーリーに触れた際、サニーがイバネズを尋問したと書いたが、本作ではこんな風にストーリー上で尋問が行われる際、アドベンチャーパートから尋問パートへと切り替わる。尋問パートでは、複数の選択肢からひとつを選ぶ形で会話を進めていく。選択肢は、尋問相手の性格を考慮しながら選ばなければならない。たとえば、恥ずかしがり屋なイバネスなら、怯えさえないよう、まずは優しい選択肢を選び、徐々に本質的な選択肢にしていく…といった具合。この選択の結果は刑事メーターというゲージによって評価され、最終的にスコアに反映される。
尋問パートの内容も、アドベンチャーゲームのシステムとしてそこまで珍しいものではない。ただ、本作のジャンルと合っていて、非常にスリルが味わえる。ノワールものにおいて暴力はありふれており、いつどのタイミングで暴力が発生するかわからない。だからこそ、尋問の際のちょっとした選択ミスが暴力に繋がるのではないか…という緊迫感があるのだ。
軽妙な会話と渋い声の演技が秀逸!大人の作品を好む人に
ここまで、暴力や差別といった、まさにノワール(=暗黒)な本作のテーマや、尋問パートの緊迫感といった点について語ってきた。なので、重厚で怖い作品というイメージを本作に抱いたことだろう。ただその一方で、本作のプレイ感はそこまで重いものではない。というのも、登場人物の会話劇が軽妙で、ユーモアに富んでいるからだ。
特に本作においてユーモアを感じるのは、サニーとマーティー、すなわちバディのやりとり。「バディもの」といえば、凸凹コンビが軽口叩き合いながら任務をこなす…というのが昔から定番だが、本作もこのフォーマットに即しており、そこここに軽口が溢れている。とりわけ、いつでもどこでも銃撃しようとするマーティーの軽さが、本作の読み口を軽くすることにもつながっていると感じた。マーティーの向こう見ずな軽口と、ツッコミ的なサニーとのやりとりが見たくて先に進めると、事件も進展していく…といった具合だ。
また、会話と並んで声優陣の演技も素晴らしい。音声そのものは英語だが、渋い声の演技がキャラクターのみならず世界観にもマッチしており、獣人という設定にリアリティを与えている。BGMとしてかかるジャズとの相性も抜群。音声を聞いているだけで、渋い大人の雰囲気に浸ることができる。思わずお酒が欲しくなってしまうほどだ。
ところで、本作はモノトーンを基調としているが、ところどころ鮮やかに彩られた部分も存在する。たとえば、オープニングで主人公が見る街の過去の姿を描いた看板や、赤いドレスといったもの。彩りのないノワールな世界において、鮮やかに彩られた部分は何を意味しているのか?…こうした部分に思いをはせながらプレイするのも、本作の味わい方のひとつといっていいだろう。
ハードボイルドやノワールというジャンルは人を選ぶジャンルだと思うし、テーマも重いため、本作は万人に無条件でオススメできる作品ではない。ただ、奥深く、味わい深い作品であることは事実。犯罪モノやハードボイルドといったジャンルが好きな人、本記事の内容やビジュアルを見て興味を持った人は、是非一度味わってみてほしい。
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