ピクセルリマスターシリーズ「ファイナルファンタジーV」をレビュー。原作はジョブチェンジを進化させ、アビリティシステムと組み合わせた画期的タイトル。そのリマスター版の出来はどのように仕上がったのか。
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「ファイナルファンタジーI」から「VI」までの6作品をリマスターするというプロジェクト「ファイナルファンタジー ピクセルリマスター」。その5作品目としてリリースされたのが「ファイナルファンタジーV」だ。「ファイナルファンタジー」ファンなら、どのタイトルも繰り返しプレイしている人も少なくないだろう。ただ、とりわけ「ファイナルファンタジーV」は、その自由度の高さから、何度も繰り返し遊んだプレイヤーが多いのではないかと思う。
筆者もそんな一人。だからこそ、「ピクセルリマスター」のタイトル中、何があろうとも「V」だけは絶対に買おうと心に決めていた。「V」の楽しさは、2021年の今プレイしても、色あせることはないだろうと考えていたからだ。そして本作は、筆者の期待に応えてくれる作品に仕上がっていたと思う。
対応ではなく試行と発見!遊びの楽しさを進化させた「ファイナルファンタジーV」
「ファイナルファンタジーV」の何がそんなに魅力だったのか?それは、バトルの自由度だろう。もちろん、プレイヤーによって魅力に感じたところは異なっているだろう。ただ、繰り返すプレイするほど「ファイナルファンタジーV」に魅力を感じていたなら、確実にバトルが楽しいと感じていたハズだ。
「ファイナルファンタジーV」の特徴は、「ファイナルファンタジーIII」のジョブチェンジシステムに、アビリティシステムを組み合わせたこと。ジョブチェンジシステムとは、いつでも好きなタイミングにキャラクターの職業(=ジョブ)を変更できるというシステム。それまでのRPGでも、転職システムという似たようなシステムを備えていたのだが、たいていの場合、転職するとレベル1にリセットされるなどの制限があった。しかしジョブチェンジシステムはこのレベルリセットを撤廃。ジョブチェンジしてもレベルが維持されるため、ダンジョン内の敵に合わせて最適なパーティー編成を組むという楽しさが生まれたのだ。
「ファイナルファンタジーV」のではさらに、「ジョブ」そのものと、ジョブが使えるコマンドを分離。あるジョブに対して他のジョブのコマンドを自由に取り付けできるようにした。たとえば、近接攻撃系の「ナイト」に対して、「黒魔法」コマンドを取り付ければ、「黒魔法が使えるナイト」を作り出せる。これがアビリティシステムだ。
育成途中で獲得したスキルを自由に組み合わせる「ビルド」は、ハクスラRPGをはじめ、最近のゲームではよく見られる。「ファイナルファンタジーV」のジョブ+アビリティシステムは、その走りといえるだろう。自分の好みに合わせてキャラクターをカスタマイズできるのが非常に楽しかった。だが、「ファイナルファンタジーV」の楽しさはそれだけに留まらない。
「ファイナルファンタジーV」が何度も繰り返しプレイされるほどの楽しさを持っていたのは、アビリティの組み合わせ次第で、超強力な戦術を生み出す奥深さを持っているからだ。たとえば、もっとも有名なのは「レベル5デス」を使った即死戦術だろう。「レベル5デス」は、レベル5の倍数の敵を倒せるという青魔法。レベルが5の倍数であれば、敵味方、ザコボス関係なく即死させることができる。もちろん「レベル5デス」が通じるかどうかは、敵のレベル依存だ。そこで、敵のレベルを半減させる青魔法「黒の衝撃」を組み合わせる。「黒の衝撃」は、レベル半減時に端数を切り捨てるため、レベル41なら半減後はレベル20となり、「レベル5デス」の対象にすることが可能。
こんな風に、ジョブの持つ特性やアビリティを組み合わせることで、非常に強力な戦術が実現できた。この楽しさは、トレーディングカードゲームで新たなコンボを発見した時に近い。この点が「ファイナルファンタジーV」の画期的な点だと思う。というのも、「ファイナルファンタジーIII」のジョブチェンジシステムは、よくできたシステムだと思うが、その楽しさは「対応」止まりだった。ゲーム内で用意された状況に対し、どのジョブが最適化を考えて「対応」する楽しさ。しかし「ファイナルファンタジーV」には、ゲーム内で用意された状況を超え、プレイヤーが能動的にジョブやアビリティを組み合わせ、新たな戦術を「試行」「発見」する楽しさがある。
そして必ずしも、「試行」「発見」しなくともクリアできるところも「ファイナルファンタジーV」の魅力だろう。ごく普通にレベルを上げ、強力なアビリティと装備、魔法を持っていれば…つまり、RPGの王道スタイルでプレイしても、ちゃんとクリアすることができる。だからこそ、発売当時、筆者の周りでは「ファイナルファンタジーV」の話題が大いに盛り上がった。強力なアビリティの組み合わせを生み出したプレイヤーは、他のプレイヤーに話したい。そして、普通にクリアしたプレイヤーもその話を聞くと、思わず試したくなる。だからこそ、何度も繰り返しプレイしてしまうのだ。
王道スタイルでもクリアできるんだったら、どんなに強い戦術を思いついたところで意味ないのでは?…「ファイナルファンタジーV」未プレイだと、そんな風に思う人もいるかもしれない。しかし、この点もぬかりなかった。「ファイナルファンタジーV」には、ラスボスとは別に「オメガ」「神龍」という強敵が存在している。これらの敵は、本編ストーリーとは関係がないため、戦わなくとも構わない。しかし、ラスボス以上の強さを持っているため、自分の戦術に自信があるプレイヤーにとっては、挑戦しがいのある壁として立ちはだかるのだ。作品全体が計算されていて、なんとも完成度が高い。
テンポよく楽しめる育成が中毒性高し!ピクセルリマスター版「ファイナルファンタジーV」
ここまで紹介してきたのは、ファミコンやスーパーファミコンでリリースされていた「ファイナルファンタジーV」の話。今回発売されたピクセルリマスター版「ファイナルファンタジーV」の原作となる作品だ。ピクセルリマスター版は、原作をベースにしてドット絵のリマスターと、BGMのアレンジ、難易度の調整などが行われている。
筆者は現時点で5時間ほどプレイした状況。まだラストまで到達していない。このため、「レベル5デス戦術」をはじめとするアビリティの組み合わせはまだ試していないのだが、全体的にテンポがよい印象。サクサク進むことができる。そして、サクサク進むからこそ、育成が楽しい。序盤のジョブが少ない状態から、「ナイトには白魔法を持たせて…」だとか、「魔法使いは、白も黒も両方使えるようにして…」などと、ストーリー進行そっちのけで育成に励んでしまう。正直、ハクスラゲームのような中毒性を感じている。
ストーリー進行そっちのけと書くと、ストーリーがつまらないように感じられるかもしれないが、もちろんそんなことはない。それまでのシリーズと比較して明るく、コミカル。世界の破滅を防ぐという王道的ストーリーを少年マンガ的に楽しませてくれる。ただ明るいだけでない。泣けるイベントはしっかり泣ける。シルドラのイベントには、内容を明確に覚えていたにも関わらず、胸を締め付けられた。
ストーリー進行において特に注目したいのは、キャラクターの「演技」だろう。3DCGがバリバリ使える現在のゲームであれば、映画と同等の演技だって行える。しかし、「ファイナルファンタジーV」当時のゲーム機は3DCGに対応しておらず、そこまでの表現力は持っていなかった。でもそんな中で、「いかにストーリーを表現するか?」という点に挑戦、表現を進化させていったのが日本のRPG。一枚絵のカットシーンを加えたり、アニメムービーを入れてみたり…と、ストーリーを演出するための様々な表現が生まれていった。そんな中で「ファイナルファンタジーV」が採用したのは、ドット絵の小さなキャラクターに対して表情パターンや特殊なポーズを用意し、演技させるという手法。この手法には「映画的な演技の深み」こそないのだが、「記号の組み合わせてキャラクターを活き活きと表現する」という、マンガ的な魅力を持っている。
今回のピクセルリマスターでは、解像度を上げながらも、当時のドット絵の雰囲気をそのまま活かすように作られている。ただ、海に発生する「渦」などのエフェクトについては、当時というより、現代のゲームエフェクトに近いテイストに感じた。にもかかわらず、違和感なく、巧みに融合されている。だから、「ファイナルファンタジーV」が持つマンガ的なイベント演出の魅力が損なわれていない。キャラクターの表所がコロコロ変わり、テンポよく進んでいくイベントシーンに是非注目してほしい。
また、個人的には、これまでのピクセルリマスター中、BGMのアレンジが群を抜いてよかった。これは、アレンジによって楽曲単体の魅力が増しているという話ではない。ゲーム内のテンポと、楽曲のテンポとがしっかり噛み合っているように思うのだ。楽曲単体でどうこうというのではなく、戦闘中に聴くことでグルーヴ感を高めてくれる。だから、戦闘中にコマンドを選ぶのが気持ちいい。
今でも通用する楽しさ!個人的にはピクセルリマスターNo.1
本作を含むピクセルリマスターシリーズには、懐かしさを味わうグッズという側面があると思う。かつて「ファイナルファンタジー」を楽しんだプレイヤーが、想い出とともに、再び冒険を楽しむ…という側面。本作ももちろん、そういう側面を持っている。ゲーム起動後に、「ファイナルファンタジーV」というロゴの背後で、チョコボに乗ったバッツが駆けていく…というスーパーファミコン版の演出を流してくれているところなど、まさしくそのひとつ。思わず「懐かしい!」と口走ってしまった。
しかし、「ファイナルファンタジーV」はそうした「懐かしのゲーム」に留まる作品ではないと、個人的に考えている。ひとつひとつのゲーム内要素を見て行くと、現代のハクスラRPGが持つ内容を高いレベルで実現しているからだ。確かにビジュアルはドット絵だが、現在では「ドット絵=レトロ」と直接的に結びつくものではないだろう。むしろゲーム的なポップな雰囲気を示すための手法のひとつになってきている。なので、「ファイナルファンタジーV」を知らないプレイヤーが、新作ハクスラRPGとしてプレイしても、十分楽しめる作品だと思う。筆者としては、ピクセルリマスターシリーズの中で最もイチオシのタイトル。「ファイナルファンタジー」シリーズのファンも、そうでない人も、是非プレイしてほしい。