「少女と宇宙の物語 Milkmaid of the Milkyway」をレビュー。ノルウェー発のインディーゲームがスマートフォンへ移植された。多数の受賞歴を持つその魅力を紹介したい。

目次
  1. 世界観と物語が魅力のポイントクリック型アドベンチャー
  2. UIに課題あり!スマートフォン版における残念ポイント
  3. 作品としてはオススメ!iOS版のUIについては要検討

「少女と宇宙の物語 Milkmaid of the Milkyway」は、ノルウェーのインディーデベロッパーMattis Folkestad氏(開発会社:MchineboyAS)が開発したアドベンチャーゲーム。2017年に「SPILLPRISEN GAME OF THE YEAR」「GAME OF THE YEAR SMALL SCREEN」の二冠に輝くなど、多数の受賞歴を持ち、その内容は高く評価されている。

世界観と物語が魅力のポイントクリック型アドベンチャー

ゲームシステムだけ見ると、本作は典型的なポイントクリック型アドベンチャーゲームだ。画面内のポイントをクリックし、手がかりやアイテムなどを入手。手に入れたアイテムを特定ポイントへ使うことでゲームが進んでいく。

スマートフォン向けゲームというくくりで見ると、つくりはいわゆる脱出ゲームに近い。ただ、脱出ゲームのようにパズルや暗号入力といった謎があるわけではない。基本的に適切なタイミングで、適切なアイテムを適切な場所へ使用すればOK。つまり、ファミコン時代にあったレトロなアドベンチャーゲームに近いといえる。

また、ビジュアルのドット絵も、レトロなイメージを感じさせる。最近では、アートスタイルとしてドット絵を採用するゲームが少なくない。このため、ドット絵=レトロとは言い切れないのだが、本作の場合、あえてレトロ感のある見せ方をしているようだ。少なくともゲーム序盤では、シェーダーなどを使った光の処理や、パーティクル(粒子)処理、中間色を大量に使うなどモダンな技術が使われていない。このため、8bit世代のレトロなアドベンチャーゲームに見える。

こうしたレトロ感は本作冒頭の世界観にこれ以上ないほどマッチしている。というのも、本作の主人公・ルースの仕事は牧場経営。牛の乳を搾って、チーズやバターを作ることで生活しているのだ。牛の世話をしたり、ミルクを加工したりといった作業は非常にのどか。こののどかな雰囲気が、レトロ感のあるシステムやビジュアルによって強調されているように感じた。

では、本作は、のどかな雰囲気とレトロ感を楽しむ作品なのか?…というと、そうではない。それだけでは多数の受賞歴を持つことはなかっただろう。本作はのどかなだけでは終わらない。序盤から中盤にかけて本作の世界観は大きく変わっていくのだ。

そもそもゲーム開始直後にアイテムの日記を読んだなら、ルースの境遇が決して恵まれたものでないことに気づくだろう。日記には、ルースは母と父を失ったことが書かれている。しかも、ただ亡くしたわけではない、母親は亡くなる前に山頂で見た奇妙な光に執心するようになっており、そのことが夫婦に不和を読んでいた。

また、牧場経営にも暗雲が立ち込めている。ゲームスタート時点では牧場が嵐に襲われ、道具が吹き飛ばされてしまう。さらに、大企業がマーガリンを提供し始めたため、町で牧場のバターが売れなくなってきたのだ。

その上、ある夜、牧場の牛の一匹が失踪してしまう。…のどかで平和だった雰囲気が、不穏な何かにジワジワと浸食されていく感覚は、非常にスリリング。ホラー作品のような怖さはないものの不安感は強いので、先が気にならずにはいられない。秀逸なストーリー展開だ。

そしてこうした不穏さが極まったタイミングで、それまでの世界観を覆すような大きな出来事が発生する。それは、宇宙船との遭遇。ルースは宇宙船によって連れ去られた牛たちを追い、宇宙船の中へと突入する。このシーン、ストーリー的に大きな変化をもたらす出来事だが、ビジュアル的にもそれまで使われてなかった光の処理やパーティクル(粒子)処理といったモダンな処理が入っており、非常にインパクトが強い。

本作のこのストーリー展開は、大きく2つの魅力を持っている。ひとつは、のどかな世界観の中に、不穏な要素をにじませていくというストーリー展開の上手さ。これがうまいからこそ思わず没入し、プレイをズルズル継続してしまう。

そして2つめの魅力が、独自性。ゲームのストーリーというのは、ジャンルによってある程度展開の予測がつくことが多い。しかし本作のストーリーは、予測不能な展開を見せる。だから、新鮮で目が離せない。

また、ストーリーだけでなく、ポイントクリック型アドベンチャーとしての見せ方も巧みだ。「ここに何かがありそう」と思わせることが上手いので、クリックしたくなるし、アイテムを試してみたくなる。

最初に書いた通り、本作はゲームシステムだけ見れば典型的なレトロ・アドベンチャーゲームだ。にもかかわらず高い評価を受けたのは、ストーリーの見せ方やアドベンチャーゲームとしての作りが巧みだからだろう。これがスマートフォンでプレイできるというのはありがたい。本作のように没入感の高い作品の場合、ストーリーの先が気になるのに、プレイを中断しなければならないという状況が発生する。しかしスマートフォンなら、いつでもどこでも、限界まで中断しなくて済む。

UIに課題あり!スマートフォン版における残念ポイント

多数の受賞歴を持つだけあって、ストーリーやゲームの作りそのものは「さすが」と思える本作。しかし、スマートフォン版には問題がないわけではない。どんな問題かというと、UIの問題。アイテム使用にちょっとクセがあるのだ。

本作の操作は、画面下のアイテム欄を短くタップすることでアイテムの内容確認、長押しタップ後スワイプすることでアイテム使用となっている。この長押しタップが曲者で、しっかりタップしないと認識されない。タップが甘いと内容確認になってしまう。

だったらしっかりタップすればいいのだが、つい、脱出ゲームのプレイ感覚で次々テンポよくアイテムを試したくなってしまうのだ。また、そもそも本作のゲームテンポがいいことも影響していると思う。本作は三人称視点を採用しており、タップするとその場所へルースが移動して探索を行うというスタイルなのだが、ルースの移動速度が速く非常にテンポがいい。しかし、だからこそアイテムもテンポよく使いたい…。スマートフォンへ移植するにあたっては、脱出ゲームのようにアイテム欄タップでそのアイテムを選択、背景タップでその場所に選択中のアイテム使用…という形にした方がよかったのではないだろうか。

ただ、この操作方法は慣れの問題だと思う。しばらくプレイして慣れてしまえばさほどストレスではない。一方、大きなストレスを生んでしまうのが、iPhone10以降のホームボタンなしの端末を使っている場合に発生する、「ホームバー」問題。

該当機種をお使いの人はご存じと思うが、ホームボタンなしの端末ではアプリ起動中、画面下に「ホームバー」というUIが出現する。アプリを閉じる際に使う、ホームボタンの代わりとなるUIだ。この「ホームバー」の何が問題なのかというと、本作の7つめ以降のアイテム欄と重なってしまうこと。

アイテムを使う動作は、画面下のアイテム欄から背景(=画面上)へスワイプすること。そして、「ホームバー」もまた、下から上へスワイプする形で使う。したがって、7つ目以降のアイテムを使おうとすると、アイテムではなく「ホームバー」の方が動いてしまい、アイテムを使うことができない。これはさすがに困った。

一応解決方法もある。それは、iOSの「アクセスガイド」機能を使うこと。「アクセスガイド」は、画面上の一部の判定を無効にできる機能。iOSの「設定」アプリを起動し、「アクセシビリティ」>「アクセスガイド」から機能をONにし、サイドボタンを3回押すことで使用できる。「ホームバー」の影響を受ける範囲を〇で囲んで無効にしよう。これで、アイテムをスワイプできるようになるはずだ。同じ状態に陥った場合、試してほしい。

作品としてはオススメ!iOS版のUIについては要検討

最後にまとめると、本作は作品としてはオススメできる一作。秀逸なストーリーとゲームデザインによって作品世界に引き込まれ、夢中でプレイできるだろう。使っているのがホームボタンなしのiOS端末以外であれば、手放しでオススメできる。是非プレイしてみてほしい。一方、使っているのがホームボタンなしのiOS端末の場合、「ホームバー」問題を承知の上で今買うか、デベロッパーによるアップデートを待つか、他機種版を購入するか、検討が必要だろう。せっかくの没入感が台無しになってしまう不具合なので、すみやかなアップデートを期待したい。

少女と宇宙の物語 Milkmaid of the Milkyway

グラビティゲームアライズ

iOSアプリiOS

  • 配信日:2022年3月18日
  • 価格:610円(税込)

    少女と宇宙の物語 Milkmaid of the Milkyway

    グラビティゲームアライズ

    AndroidアプリAndroid

    • 配信日:2022年3月18日
    • 価格:610円(税込)

      ※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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