筆者にとって初めてのVRでのADVゲームとなった「DYSCHRONIA: Chronos Alternate」Episode I(以下、「ディスクロニア:CA」エピソード1)。本作を最後までプレイして実感した、VRだからできるADV体験について語っていく。

目次
  1. VRでADVをプレイすることの意義
  2. 濃密なVR体験がしたい?ならば「ディスクロニア:CA」だ

2022年9月23日にMeta Quest 2向けに発売された「ディスクロニア:CA」エピソード1は、「東京クロノス」「ALTDEUS:Beyond Chronos」に続く、MyDearestが製作するVRアドベンチャーゲーム(ADV)だ。

発売から1ヶ月以上経った今もその評価はうなぎ登りで、Questストアにおいて世界一レビュー評価の高いゲームとなっている。

既にいくつものレビュー記事が世に出ているので、ゲーム内容の紹介は簡潔なものに留めよう。

物語の舞台は、システムによって人々が管理されている人工的な世界「アストラム・クローズ」。犯罪発生率は0.001%、過ちなど起きるはずがないこの世界で、都市の創設者であるアルバート・ラムファード博士が殺害されてしまう。管理局に着任したばかりの特別監察官である主人公ハル・サイオンは、この事件の捜査を担当することになる。

ハルは「変異体」と呼ばれ、特殊な能力を持つ人間の一人だ。彼は「メモリーダイブ」という、物を通じて過去の記憶を読み取る能力を持っている。さらには記憶を読み取った人物の行動を、少しだけ変えることも可能である。

一方で、彼には過去の記憶がない。ラムファード博士が行った変異体の実験によって、過去の記憶を失ってしまったのだ。こういった、ハルが抱えるあれやこれやの事情が物語にドラマ性を生み出すことになる。

さて、本稿では「ディスクロニア:CA」の長所を振り返りながら、本作を最後まで遊んだ中で実感した、VRでADVをプレイする意義といったところを語っていこうと思う。

VRでADVをプレイすることの意義

VR元年と言われた2016年から6年。この間に、筆者もいくつかのVRゲームを取材したり、プレイしたりした。当初から一貫して言われているのは、VR自体の敷居の高さである。それをさらに引き上げるかのごとく、Meta Quest 2が値上げしてしまったのは残念だ(とはいえ、Meta Quest 2はスタンドアローン機ということも相まって、VRの中ではかなり敷居が低い方だと思う)。

そんなVRでわざわざADVをプレイすることの意義はどこにあるのか。「ディスクロニア:CA」が教えてくれたのは、「別世界への没入体験」である。では、その没入体験は本作のどのような要素によってもたらされているのだろうか?

手で証拠品を持つ「体験」

「ディスクロニア:CA」は捜査系ADVである。捜査系ADVに、証拠品の収集はつきものだ。

一般的なコンシューマー向けの同種のADVでは、例えば特定の場所に行き、特定のアングルからアイテムをカーソルで指定したりしながら証拠品を集めていく、といったシステムが多く見受けられたと思う。

しかしVRなら、行ける場所であれば自由に足を運ぶことができる。さまざまな場所を調査しつつ、証拠品となりうる物体に、実際に手を伸ばして持つことが可能だ。手に持ったら「これは何だろう?」とさまざまなアングルから観察することができる。こうしたことができるだけで、自分が特別監察官になった感覚が高まっていく。

「ディスクロニア:CA」は、物を手に取る行動そのものの意味合いも深い。

前述の通り、ハルは物体を媒介にして過去にさかのぼることができる。それによって事件の真相に迫っていくので、物を手にすることは半ば必須の行動と言えるのだ。

また、物を手にすることで捜査ログに情報が溜まっていき、事件の輪郭が描かれていく。事件解決のためにプレイヤーは自然と物を手に取るという、VRならではの体験がナチュラルに味わえるようになっている設計だ。

捜査ログでは、手でパネルを操作しながら直感的に事件の様相を振り返ることができる。
情報が集まっていくのは収集要素のようで楽しい。

あちこち歩き回り、事件の鍵となりうる物を集めていく。この行動で生まれる没入感を支えているのは、しっかりと作り込まれた背景グラフィックだ。

未来感を感じさせるゲーム内での現実世界。アストラム・クローズの市民が眠りにつくと導かれる、幻想的な「拡張夢」の世界。

どちらもかなり作り込まれていて、自分がいる世界に不自然さを感じることはただの一度もなかった。だからこそ、あちこち歩き回ってみようと思える。プレイヤーの心に湧く探索意欲を、作り込まれた背景が下支えしていると言えるだろう。

つい空を見上げてしまうゲームだ。

キャラが目の前にいる「体験」

ADVには、いわゆる“紙芝居式”と言われる見せ方がある。キャラクターの複数種類の立ち絵が切り替わりながらセリフが読まれ、物語が進んでいく形式だ。工夫された多彩な演出がある作品も多いが、デベロッパーを問わずベースは変わらないだろう。

キャラクターが話をするというシーンにおいて、VRで味わえる「体験」は非常に大きい。何しろ、目の前にキャラクターが立ち、その存在を身近に感じることができる。

同じ監察官にしてハルの兄貴分的な存在であるアッシュ・シェパードの背の高さ。

ハルと深いつながりのあるマイア・ガネットの華奢さ。

幼少期のハルが見上げる、アルバート博士の大きさ。

キャラクターに近づくと、より実在感が増す。
マスコット的な存在であるリリィをなでたりすることもできる。

目の前に立つキャラクターを一人の人間として把握できることは、VRならではの「体験」と言って間違いない。特に、「ディスクロニア:CA」はアニメチックな作品だけあって、キャラクターの造形や描写には強くこだわっている印象を受けた。そんなキャラクターと目を合わせながら会話を勧めていくことで、ゲームへの没入体験はより深まるのである。

ギミック解除や逃走劇における「体験」

かなり細かい話をしてしまうが、本作の後半にはいくつかの謎解きを行うパートがある。その中で、レバーを動かしながら、照射されているレーザーを特定の位置に照射するよう操作するシーンが存在する。

レバーと照射口は自分の前方にあるものの、レーザーを照射する対象は自分の後方にあるため、後ろを向きながら、レバーをつかんだ手を動かすのである。つまり、視界にはレーザーを照射する対象を入れつつ、視界の外にあるレバーを上下させている。

正直なところ「あ、今めっちゃVRしてる」と一番強く感じたのがこの瞬間だった。VRでなければ、ゲームでこんなことはできないだろう。

言い換えれば、「ゲームの中で一番現実に近い動きをした」とも表現できる。いくらVR、あるいは「ディスクロニア:CA」とはいえ、どうしてもゲーム的な操作からは逃れられない。ボタンは都度押すし、スティックを倒して移動する。

でも、このシーンは現実で同じことをしようと考えたら、まったく同じ動きをすると思う。そんな体験ができるのも、VRのADVならではだ。

同じくゲーム後半で、狭い部屋の中で追手から隠れながら逃げ道を探すステルスパートがある。

筆者はこの手のステルスパートが嫌いだけど好きで、プレイしている間はものすごく鳥肌が立つ。「ディスクロニア:CA」はホラーゲームでもなければ、追ってくる人物はクリーチャーなどでもないのにゾワゾワしてしまった。ただ同時に、ドキドキを楽しんでもいるのだ。鳥肌が立ったり、否が応でもドキドキしたりという反応は、追いかけられている感覚がかなり強化されるVRというデバイスだからこそ。

余談ながら、このパートでは追手の注意をそらすために、部屋にある物を投げることもできる。武器にもならない物を使い、どうにかして難を逃れようとするのは非常にスリルがあるし、プレイヤーとしてもかなり必死になる。VRでホラーゲームをプレイした人はよくわかるのではないだろうか。

長くなってしまったので最後に簡単に触れるが、終盤に訪れる、集めた証拠で統合人工知能と対峙する「審問」パートも出色の出来だ。ただ証拠を突きつけるのではなく、審問に参加したキャラクターたちと一緒にホログラムとなって、実際に動きながら事件の再現を図る。こうしたVRならではの演出やゲーム進行も本作の魅力だ。

立体的に映し出された事件現場。これでテンションが上がらない男の子はいない。
このあと、ホログラム化して事件の再現に挑む。

濃密なVR体験がしたい?ならば「ディスクロニア:CA」だ

このような具合で「ディスクロニア:CA」には濃密なVR体験が詰まっている。一方で、ゲーム自体はほぼ一本道と言って差し支えなく、ゲームとしての敷居は低い。ゆえに、「VRならではのゲームを遊ぶための一本」としてぴったりの作品と言える。

さらに本作は3部作構成。2022年冬にエピソード2が、2023年春にエピソード3が発売予定だ。エピソード1は10時間前後でクリアできるので、ちょっとずつ遊びながら続編を待つと良い。蛇足ながら、いくらゲームボリュームが前述の通りとはいえ、クオリティを考えると税込2,208円という値段は、おそらくストアに上げる際に設定を間違ってしまったのだと推測している。

何度も言われていることだが、VR市場はまだまだ成熟していない。その要因は、VRの面白さは実際に体験しないとわからない点にあると考える。だからこそ、「ディスクロニア:CA」で、ぜひともVRゲームの楽しさを存分に味わっていただきたい。こうした作品が存在することは、ゲームプレイヤーにとってとても幸せなことなのではないだろうか。

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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