「Dislyte~神世代ネオンシティ~」をレビュー。近未来都市を舞台にしたサイバーパンク的に神話キャラクターを融合させたRPG。魅力となっている世界観とバトルの戦略性について紹介する。
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「Dislyte~神世代ネオンシティ~」は、FARLIGHTからリリースされたスマートフォン向けRPG。「ネオンシティ」という名の通り、舞台となるのはネオンサインがきらめく近未来都市。しかし都市のあらゆる場所がきらびやかというわけではない。いかにも近未来といった場所もあれば、スラム的な場所も存在。そういう意味では、サイバーパンク的でもある。
ならば、この舞台にふさわしく、脳に電極を埋め込み脳からネットワークを操作してしまうような電脳的ストーリーが描かれるのかというと、そうではない。「ネオンシティ」の前についた「神世代」という言葉が示す通り、本作のキャラクターはアルテミスやアヌビス、ヴァルキリーといった幻想神話由来のキャラクターたち。つまり、サイバーパンクSF×幻想神話という異色の組み合わせ。しかも本作はこの組み合わせをストリートカルチャー的なビジュアル&音楽で演出。なんとも意欲的な作品なのだ。
違和感なく融合!サイバーパンクSF都市×幻想神話×ストリートカルチャー
サイバーパンクSF都市も幻想神話もストリートカルチャーも、それぞれが魅力を持っている。では3つを融合させればメチャクチャ魅力的になるのか…というと、そう簡単ではない。これは食べ物で考えるとよくわかる。ケーキとすき焼きとお寿司はいずれも美味しいが、全部ミックスさせたものは到底美味しそうに思えない。しかし本作は、サイバーパンクSF都市×幻想神話×ストリートカルチャーというそれぞれが異なる魅力を持った世界観を見事に融合してみせた。
本作におけるキャラクターは「神覚者」と呼ばれ、既に触れたとおり幻想神話由来の能力を有している。たとえば主人公の「ブリン」はヴァルキリーの「神覚者」。ヴァルキリーの能力を持つだけでなく、外見的にも背中から翼が生えており、一目で通常の人間とは異なる存在とわかる。
ではなぜ「神覚者」などという存在が生まれたのかというと、突如として地中から現れた「遺跡」の力によるもの。この力は「ディバインウェーブ」と呼ばれ、人間たちに「神覚者」としての力をもたらすとともに、災厄ももたらした。そもそも「神覚者」としての力も、必ずしも人類にとってプラスとなったわけじゃない。これまでの人間の力を大きく超えるような「神覚者」の力を人類全体の繫栄のために使う者もいる一方、私利私欲のために使う者たちも出てきたからだ。
そんな、私利私欲のために「神覚者」の力を使おうとする者たちの組織が「シャドウオーダー」。主人公の「ブリン」は「シャドウオーダー」の陰謀に巻き込まれ、ミュージシャンとしての仲間であるジークを拉致されてしまう。「ブリン」はジークを取り戻すため、「神覚者」の力を正しく使おうとする組織「ライトユニオン」へ加入。ジーク奪還のための行動を開始する…というのが本作のストーリーだ。
ストーリーの流れで筆者がポイントだなと感じたのは、「神覚者」の成り立ち。「神覚者」は確かに超常的な力を持った存在で、ビジュアル的にもファンタジー的な存在なのだが、決して「神の力」だとか「マナ」のような神秘的パワーで生まれた存在ではない。もちろん、見方によっては「ディバインウェーブ」も立派な神秘的パワーなのだが、遺跡から放たれた未知の波動エネルギーということで、ギリギリ物理現象としてのラインを保っている。だからこそ「神覚者」も「ある種のミュータント」ととらえることができ、サイバーパンクやSF的な空気を壊さないラインで上手く世界観が成立していると感じられた。
また、こうした世界観を実際の表現として定着させているビジュアルと音楽も素晴らしい。ビジュアルは2D/3Dのいずれも輝度の高いネオンライトのような色を使っており、サイバーパンク的な世界観を巧みに表現している。ホーム画面の明滅するネオンサインなど、いかにもサイバーパンク的なネタを取り込んでいる点もニクい。そして、音楽はラップなどのストリート系音楽。ラップのワンフレーズやレコードのスクラッチ音といったものを効果音でも使っていて、こちらも演出が上手い。
サイバーパンクといえば、電脳やサイボーグ化など未来的な技術が実現された世界が舞台。ただし、それらの技術がポジティブに描かれることは少ない。電脳によって脳から直接ネットワークにアクセスできるという利便性の反面、自分の経験した情報と他人の情報が脳内に溢れることで「自分という存在は誰なのか」という悩みを抱えてしまう…というのがサイバーパンクの王道だろう。より俯瞰的な視点からみると、あるひとつの要素に対して光と闇の両面を描いていくことが、サイバーパンク的ともいえる。この観点からすると、本作の「神覚者」という存在も、実はしっかりサイバーパンク的だ。
人間を超えた、まさに神のような力を持つ存在が「神覚者」。だが、どんな能力を持つのかは「神覚者」ごとに異なっている。ゲームシステム的な話でいえば、攻撃特化型の「神覚者」もいれば、回復型の「神覚者」もいるといった具合。これを「生活」に置き換えれば、「神覚者」だからといった必ずしも恵まれた暮らしを送れるわけじゃないことは察しがつくだろう。
このことはストーリー内でもしっかり描かれている。「神覚者」の中には貧困に陥いっているもの存在。主人公の属する「ライトユニオン」も決して万能ではないし、「シャドウオーダー」も彼らなりの存在理由がある。こうした社会の暗部を描くストーリーは、ストリート系の音楽と合う。ストリートカルチャーとは、上流階級が生み出した「お芸術」ではないからだ。こうした要素の描き方を見ると、本作は、電脳やサイボーグといったサイバーパンク的意匠を「神覚者」にアレンジした、立派なサイバーパンクSFといえるだろう。
放置プレイだと育成とストーリーの楽しさが!手動プレイだとカードゲーム的戦略性が堪能できる戦闘
ここまで世界観やビジュアル、音楽といった要素を見てきたので、次は本作のゲームシステム面に目を向けてみよう。基本的に本作は、スタンダードなスマートフォンRPGといえる。ホーム画面からストーリーを選び、挑戦するステージを選択。会話劇によってストーリーを体験し、バトルに勝利すると次のステージがアンロックされるというかたちだ。
バトルはオート任せにすることが可能。オートを使えは、ストーリーと育成だけ特化してプレイすることができる。育成については、獲得した経験値素材アイテムをキャラクターに使うことでレベルアップというかたち。このため、好きなキャラクターを自由に育成することができる。他のスマートフォンRPGと同様、基本は放置でプレイしてスキマ時間に育成…といった楽しみ方が可能だ。
一方、本作のバトルを手動でプレイすると、ターン制コマンドバトルというシステムを活かした戦略性が味わえる。手動の場合、プレイヤーはキャラクターのターンが回ってきたタイミングで使用スキルを選ぶ。スキルを使ってもMPなどのコストを消費することはないが、スキルごとに決められたクールタイムが存在。クールタイムとして定められたターン数が経過するまで、同じスキルを使用することはできなくなる。
ここまでは他のスマートフォンRPGでもよくあるかたちといえる。だが、本作はスキル設定がユニークだ。たとえばエロスの神覚者である「キューピー」のスキル「キューピー・ジョーク」は、攻撃力160%のダメージを与えた上で敵2体を2ターンの間「リンク」するというもの。「リンク」というのは、片方の受けたダメージがもう片方にも及ぶというステータス。この「リンク」を上手に使えば、単体向けの超強力スキルを複数体に使う…ということが可能だ。
また、アルテミスの神覚者「モナ」の「ムーンショット」は、このスキルの攻撃で対象を撃破した場合に再行動可能。また、アヌビスの神覚者「ドリュー」の「死の審判」はこのスキルによる攻撃で対象を撃破するごとに対象を切り替え再攻撃という効果を有している。こうしたスキルは、使いどころと組み合わせを工夫すれば、大ダメージを狙うことが可能だ。どのスキルをいつ、どう使っていくか?…こうした立ち回りを考える部分は、カードバトルゲームのデッキ構築にも似た楽しさを持っている。
ちなみに、本作はキャラクターの獲得方法にガチャを採用している。このためガチャ運さえよければ、レア度の高い強力なキャラクターを獲得することが可能。たとえば哪吒の神覚者「リー・リン」などは非常に強力で、立ち回りをさほど考えずにゴリ押ししてもガンガン敵を足すことができる。一方、ブリンやキューピー、ドリューといったキャラクターはストーリーで獲得可能。印象としては、ストーリー上で必ず獲得できるキャラクターは、立ち回りに工夫が求められるキャラクターが多い模様。なので、オート機能を使って放置プレイ的に進めたい人はガチャで獲得したキャラクターをメインにし、立ち回りの戦略性を楽しみたい人はストーリーで獲得可能なキャラクターをメインで使っていくのがよさそうだ。
暇つぶし的にプレイするのもアリ!だけどストーリーや戦略性を深く味わうのもオススメ
本作の基本部分はスタンダードなスマートフォンRPGとして構成されているため、一般的なスマートフォンRPGと同様に暇つぶし的にプレイしても十分おもしろい。ビジュアルも音楽も、キャラクターたちも魅力的。ちなみに筆者イチオシのキャラクターはドリューとリー・リン、それとセイレーンの神覚者である「セリーヌ」だ。
一方で、サイバーパンクものを味わうようにストーリーを深く味わったり、手動プレイでバトルの戦略性を味わうといったスタイルにも本作は応えてくれる。筆者は本作の魅力が、カジュアルな部分だけに留まるものではないと感じた。RPGファンは是非一度プレイしてみてほしい。