PS5/PS4/Nintendo Switch/Xbox Series X|S/Xbox One/PC(Steam)にて発売中のアクションアドベンチャーゲーム「アフターイメージ」のレビューをお届けする。
目次
本作の特徴としては、広大な2Dのマップを探索し、新たな能力を手に入れることで探索範囲が広がっていく、“メトロイドヴァニア”と呼ばれることの多いゲームデザイン、それから美麗なグラフィックやキャラクターのアニメーションといったビジュアル表現などが挙げられる。
そこにレベル制の成長要素や、武器・防具の装備システムも搭載。敵に倒されるとその場に経験値の一部を落としてしまう、セーブポイントで回復すると敵の配置がリセットされるといった“ソウルライク”的な要素も取り入れられている。それらがより良いプレイフィールに繋がっているかと言えば……そうは言い切れないというのが正直なところだ。
ビジュアル表現に惹かれたのならプレイしてみるのも良いと思う。ただ、メトロイドヴァニアの名作がすでに数多く世に出ているいま、本作をプレイするのなら、強烈に惹かれる“何か”を見い出しているか、これからレビューで明らかにしていくゲーム内容が納得できるものであるのが望ましいと感じる。
なお、発売直後にも関わらず、本作はアップデートによって数多くの修正を行っている。本稿でお伝えする問題点のうちいくつかは、将来的に改善されるかもしれないことは先にお伝えしておこう。また、このレビューはNintendo Switch版のプレイをもとに作成した。2023年4月29日18時の時点でSwitch版にはVer1.0.3のアップデートが来ていなかったため、レビューはVer1.0.2の内容をもとに行っている。
https://steamcommunity.com/games/1701520/announcements/detail/3730712358727090687?l=japanese
退廃的で美しい作品世界と、主人公・ライネの魅力
神が創り、かつては活気に満ちていた世界。しかし、人間たちが仕掛けた戦争を切っ掛けに大災害が発生。文明は崩壊し、都市は廃墟と化した――それから数年後を舞台に、「アフターイメージ」の物語は幕を開ける。記憶を失った少女・ライネは、記憶の中に存在する“先生”を救うため、精霊のイフとともに旅に出る。
ゲーム中の言語はボイスも含め完全に日本語化されており、ライネは「NieR:Automata」の2Bや、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」のヴァイオレットなどを演じた石川由依さん、その相棒であるイフは「ポケットモンスター」のピカチュウや、「ワンピース」のチョッパーなどを演じた大谷育江さんが、それぞれ声を当てているといった力の入れようだ。
人間の文明こそ崩壊しているものの、廃墟とそこに芽吹いた色とりどりの自然を表現した2Dのグラフィックは実に美しい。画面全体のやや淡い色彩と、結晶体や魔法のエフェクトといったファンタジー要素の融合は、プレイヤーを幻想的な世界へといざなう。
プレイヤーの操作に対応してさまざまなアクションを見せるライネの流麗なアニメーションも、ゲームプレイの楽しさを底上げしていると感じられた。
メトロイドヴァニアらしいワクワク感が少ないと感じる理由
冒頭に書いたとおり、本作はメトロイドヴァニアとソウルライクを組み合わせたゲームデザインを採用している。道中には敵キャラクターが配置されており、これを排除しながら探索を行っていくあたりもこれらジャンルのオーソドックスなゲーム進行だ。
戦闘の基本は敵のモーションに合わせてのヒットアンドアウェイ。序盤でダッシュが使えるようになると、バックステップなどを駆使してよりスピーディに立ち回れるようになる。敵の飛び道具を剣戟などで弾き返してダメージを与えるなどの楽しさもある。なお、戦闘システム自体にはソウルライクらしい要素は少なく、スタミナなどの概念も存在しない。
敵を倒すなどしてドロップする武器には剣、鎌、鞭ほか複数の種類があり、モーションも異なる。2種類の武器をボタンにセットできるので、組み合わせて連続攻撃をくり出すことも可能だ。ドロップアイテムには武器以外の装備品や素材などもあり、後者は街などの拠点で協力者が料理にしてくれるなどしてライネの基礎ステータスを上げる役割も果たす。
敵を倒すたびに経験値も手に入る。レベルが上がるたびに“天賦”と呼ばれるポイントを入手、これをスキルツリーに振り分けることでライネのHPやMP、攻撃力に防御力といった基礎ステータスを向上させたり、武器種ごとの新たな攻撃技をアンロックしたりできる。スキルツリーにはレベルキャップが設定されている項目も多く、成長のために踏むべき段階はある程度ゲーム側にコントロールされている。育成に自由度を求めるプレイヤーは物足りなさを感じるかもしれない。
これらの成長・強化要素はゲームプレイに変化をもたらしマンネリを防いでくれるし、鍛えることで苦戦していた敵を倒しやすくなるのもプレイヤーの間口が広がる、良い設計だと言えると思う。一方でメトロイドヴァニアと言えば、操作キャラクターの能力が拡張され、それによって探索範囲が広がっていくワクワク感を期待する人は多いはず。本作にはこうした設計が成長・強化要素とは別に用意されているのだが、ここが弱い。
序盤で手に入る“スライディング”の能力は、ライネの足もとにある隙間を通り抜けられるようになる能力なのだが、ほかに使い道がない。「攻撃手段にもなるのだろうか?」と、試しに敵に向かってスライディングをしてみたが、敵に接触したライネがダメージを受けただけだった。スライディングを使い、敵の攻撃をかいくぐって接近するといった使いどころも、筆者には見付けられなかった。
たとえば「メトロイド」シリーズならミサイルが手に入ると、これまで開けられなかった扉を開けたり、障害物を破壊できるといった探索範囲の拡張に繋がる以外に、強力な攻撃手段にもなり、ビームと使い分けることで強敵をより素早く倒せるなどの気持ち良さも与えてくれた。モーフボールならこれまでと異なる操作感や、隠し通路の発見といった複数の新たな刺激を得られた。
「アフターイメージ」は一部能力に、こういった“ゲームプレイの広範囲に影響を及ぼす変化”が薄いため、それに伴い「次はどんな能力が使えるようになるのだろう」という先々のゲームプレイへの期待感も、プレイを続ける中で減少していってしまった。その上で、こうした能力を新たに入手するまでの間隔も、かなり広く取られている印象を受ける。
些細な能力であっても「少し前に手に入れた能力で行けるようになった場所を探索したら、また新たな能力が見つかった。これでさらに探索範囲が広がりそうだ」といった“期待感の連鎖”が生まれるゲームサイクルであったなら、それはそれでなかなかコントローラーを置くことができない楽しさがあっただろう。
ひとつの能力を得るたびに、それなりの時間を掛けて広範囲を探索し、道中にいる敵を倒して回る本作のサイクルは、ゲームプレイを間延びさせている印象を受けてしまった。
問題点の多くは“レベルデザイン”に集約される
本作のフィールドはなかなか広大なものとなっており、それ自体は壮大な世界観とマッチし、美麗なグラフィックを活かせるといった長所でもある部分だ。ただ、それが“ゲームプレイの間延び”を大きくしている感じもある。
本作は行ける範囲こそ広くても、進行の自由度自体はそこまで高くなく、「それなりの時間を掛けて向かった先で何も得られない」ということも多い。
上に辿り着くまでしばし待たされるエレベーターに乗り、しばらく進んだ先で初めて見る敵に一撃で倒され、セーブポイントに戻されたことがあった。「こんなに強い敵がいるということは、ここはまだ来るべきではなかったのかもしれない」とは思ったが、その敵を超えた先の道がどうなっているかは分からなかったので、すぐに別の道を探す気にもなれない。
何度も同じ敵に倒され、「別の道を探そう」と結論づけるまで、道中ではセーブポイントからの道のりで毎回エレベーターの待ち時間を味わうことになった。一度なら気にならずとも、何度も向かうことになり得る地点への道中にこれがあることによる最終的な徒労感は、なかなか大きいものだった。
「進行の自由度は高くなく、向かうべき場所は決まっているが、行動できる範囲は広い」「いま進んでいる道が正解かどうかの判断が付きづらい」、したがって「それを検証するための時間的コストが高い」……ひとつひとつは些細でも、これらの連鎖はストレスを生む。
ソウルライク由来のシステムも、こうしたゲームプレイの間延び感に拍車を掛けている印象を受けた。倒されてセーブポイントに戻された場合、倒された場所に経験値の一部を落とすことになるので、取り返したくば、ほかの道に向かうと決めたとしても、さらにもう一度、先ほどの道へと引き返す必要が出てくるからだ。
要するに、本作には良く練られた“レベルデザイン”が欠けているのだと思う。レベルデザインを“難易度設定”といった意味合いで受け取る人がいるかもしれないし、そういった用途での使用が一部で広まっているのも事実だ。しかし、この用語の本来的な意味は、プレイヤーのゲームプレイを適切に、そしてより良く楽しませるための“環境デザイン”を指す。
同じゲームシステムだとしても、マップの設計、敵やその他オブジェクトの配置、イベントが挿入されるタイミングなどによって、プレイヤーの体験はまるで違うものになる。名作と謳われるゲームタイトルには、ただ楽しんでいるうちに自然と操作方法が身に付くものが多い。それは、プレイヤーには自由にのびのびとプレイしているように感じさせながらも、適切な段階を踏み、ストレスのない体験ができるような、さりげない誘導を巧みに行っているからだ。「レベルデザインが優れている」というのは、そういうことである。
メトロイドヴァニアは、このレベルデザインの良し悪しによって体験の質がとくに大きく変化するゲームジャンルと言えるのだと思う。広大なマップを行き来したり、時に戦闘で苦戦したとしても、プレイヤーがストレスをあまり感じずに、困難を冒険の刺激として楽しめるものが求められる。適度に迷う過程が無ければプレイヤーは十分な“探索感”を得づらいが、さりげなく進むべき道を示されなければ“徒労感”が勝ってしまうという、相反する要求にバランス良く応える設計が必要となるだろう。
回避時に落下しやすく、うまく立ち回りづらい足場の上に配置された敵。倒される可能性の高い地点から離れた場所に配置されている場合も多いセーブ/リトライポイント。より純粋なソウルライクなら、プレイスキルの駆使やアイテムの活用などによりゴリ押しで突破できておかしくない場所も、メインジャンルがメトロイドヴァニアであり、ゲームを進行させる順番が完全にコントロールされていれば「たどり着いた場所でほとんど何も得られない」徒労感が残る――。
くり返すが、ゲームシステムがまったく同じだったとしても、こういった諸々のストレスを感じないレベルデザインが実現されていたら、「アフターイメージ」は数段上の傑作になっていたように思う。
「良いゲーム、おもしろいゲームってなんだろう?」
ここまで、とくにレベルデザインに焦点を当てつつ、本作の問題点を挙げてきたが、ちょっとした気になる点はほかにもいくつかある。キャラクター同士のやりとりを聞いていてもストーリーが把握しづらいことや、他機種版では事情が変わるかもしれないが、Switch版に限って言えばゲーム起動時のロードに3分前後ほど掛かることなどは、挙げておくべきだろう(Ver1.0.3のアップデートで、このロード時間は短縮されることが発表されている)。
ゲームプレイだけを見ても、さまざまなジャンルをミックスさせてはいるものの、それぞれのシステムの相互作用がより優れた体験を生み出しているとは感じられず、「好きなゲームのシステムを詰め込んだだけ」のような印象を受けてしまった。
ひとつひとつはすでにおもしろさが確立されたフォーマットであるし、映像・アニメーションの美しさが体感的なリッチさをもたらしていることもあり、佳作として楽しめるプレイヤーも多いことと思う。
本作を夢中で楽しめた人も、イマイチ楽しめなかった人も、「自分がなぜそう感じたのか?」ということを突き詰めて考えてみるといいかもしれない。楽しめなかった人は、近いジャンルのタイトルと比較してみると、そのタイトルがゲームのどういった部分に力を注ぎ、プレイヤーにどんな体験をもたらそうとしているか、理解が深まるはずだ。
夢中で楽しめた人は、筆者には気付けなかった「アフターイメージ」ならではの魅力を見い出せたのかもしれない。それもまた、自分がゲームに何を求めているのかを深く知る足がかりとなるのではないだろうか。
「自分にとって良いゲーム、おもしろいゲームってなんだろう?」
ゲーマーとして生きてゆくならば生涯にわたり考え続けることになるこの問いに、本作は新たな視座をもたらし、あなたの今後のゲームライフを、より豊かなものにしてくれるかもしれない。