マーベラスより6月1日に発売されたNintendo Switch、PS4、Xbox One、Steam用ジュブナイルRPG「LOOP8(ループエイト)」のレビューをお届けする。
目次
「LOOP8」でプレイヤーは宇宙からやってきた少年・ニニとなって、田舎町“葦原中つ町”で個性豊かな学生たちや、彼らを取り巻く大人とともに、ひと夏を過ごす。この世界には人々の平穏を脅かす“ケガイ”と呼ばれる厄災が存在し、ニニは“日常パート”でほかの生徒たちと交流しつつ、“非日常パート”では交流で培った人々との関係を武器に、ケガイたちと戦うことになるのだ。
ケガイに負けると世界は滅ぼされてしまい、ニニは葦原中つ町にやってきた8月1日へと戻される。このループする日々から抜け出し“夏の終わり”にたどり着くのがゲームの目的だ。
ニニ以外のキャラクター(NPC)たちは“カレルシステム”と呼ばれるAIで制御されており、ひとりひとりが独自の行動を取り、ニニがどのようにコミュニケーションを取るかによって彼らの行動は変化。ループをくり返すたびに、彼らとの交流は異なる展開を見せ、これがケガイとのバトルなど、あらゆる要素に影響を及ぼすのが大きな特長となっている。
ゲームデザイン・シナリオを手掛けたのは芝村裕吏氏。本作同様、キャラクターに搭載されたAIを特徴とし、カルト的人気を誇った2000年発売のシミュレーションRPG「高機動幻想ガンパレード・マーチ」(以下「ガンパレード・マーチ」)をはじめ、幾つもの個性的なゲームタイトルを手掛けた人物だ。
なお、本稿はSwitch版とPS4版(使用ハードはPS5)のプレイをもとに作成した。解像度やロード時間はPS4版のほうがやや優勢に感じたが、プレイフィールにそこまで大きな違いは感じられなかった。また、このあと使用している「LOOP8」の画像は、すべてSwitch版のものとなっている。
何故「ガンパレード・マーチ」は傑作だったのか
「LOOP8」について掘り下げる前に、少しばかり「ガンパレード・マーチ」の思い出話にお付き合い願いたい。
筆者が「ガンパレード・マーチ」をプレイしたのは2010年。発売からちょうど10年ほど経ったころのことだった。当時はPS3、Xbox 360の全盛期で、PS1用タイトルだった「ガンパレード・マーチ」はゲームハード的には2世代前のゲーム。グラフィックは言うまでもなく最新タイトルと比べて見劣りするものだったが、それでもこのゲームは、2010年に筆者がプレイした中で、間違いなくいちばんおもしろいゲームだった。
画像は「ガンパレード・マーチ」公式サイトより |
幻獣との長きにわたる戦いにより、学生たちが戦闘に動員されている世界で、学園パートと戦闘パートを行き来するゲームプレイ。学園パートでのほかの生徒や先生たちとの交流では、NPCの思考に大きな影響を与えることができ、友情を育んだり、週末にはデートをしたりしつつ、仲がいいNPCから教わる“コマンド”で、行動の幅はますます広がる。
幾つかの行動では“発言力”を蓄えられて、これを消費すれば自分やほかの生徒の配置替えや昇進をさせることも可能。学園パートでは鍛錬に時間を費やすこともでき、鍛錬で身につけた能力値やNPCから教わった戦闘コマンドを駆使し、人型戦車に乗り込んで幻獣と対峙する戦闘パートもまた、噛めば噛むほど味わい深いやりごたえがあった。
画像は「ガンパレード・マーチ」公式サイトより |
軍人として一騎当千の活躍を目指すことも、整備兵に配置替えしてもらって戦闘には参加せず、数多くの生徒を口説いて浮名を流すといった学園生活を謳歌することもでき、そしてNPCの行動次第では計画が破綻することもある一筋縄ではいかない部分さえも印象深い体験に繋がっていた。
あらゆるゲームデザインが発売から10年が経過した当時でさえ(そしてきっといまプレイしても)刺激的で、「ガンパレード・マーチ」の虜になってしまった筆者。しかしハマった時期が遅かったこともあり、これ以降に芝村氏が手掛けた「ガンパレード・オーケストラ」シリーズや「新世紀エヴァンゲリオン2」、「絢爛舞踏祭」といった“AIによって制御されたNPCとのコミュニケーション”を特徴とする後継作には触れてこなかった。
そんな中、ひさびさにこれらの流れを汲むタイトルが現行機向けに発売されると聞いて、小さくない期待を寄せていたのが「LOOP8」だったのだ。
AIが制御するキャラクターたちとの関係構築、そしてループ前提の攻略が持つおもしろさ
「LOOP8」のゲームサイクルの大部分は、筆者にとって懐かしさが感じられるものだった。“日常パート”ではリアルタイムに刻一刻と進んでいく時間の中、午前9時までに教室に向かえば授業が受けられ(サボることもできる)、これが終わったらさまざまなNPCとのコミュニケーションや訓練に励んだ。フィールドの気になる場所を調べれば“加護”を得られる場合があり、これもまたプレイヤーキャラクターであるニニの能力の底上げに繋がる。
やはり醍醐味は、魅力的なNPCたちとの関係構築だ。ひとつ屋根の下で暮らすことになり、何かとニニの世話を焼いてくる女の子や、ケガイを倒すために育てられた世間知らずな少女、主人公のことを「お父さん」と呼んでくる年上の男子生徒や、(外見からそうとは見えない)機械少女など……。クセが強いキャラクターたちが徐々に心を開き、最初は見せてくれない一面を見せてくれたり、放課後はいっしょに勉強やデートができるようになったり、その過程で変化した人間関係がAIの行動に影響を及ぼし、予想外の出来事に繋がるのはおもしろい。
1日の終わりには就寝。このときケガイの脅威が近づいている場合は就寝中に特殊なイベントが挿入される。これが続くとやがて神社にある鳥居から“黄泉比良坂”と呼ばれる異界へと足を運べるようになり、ケガイを討伐する“非日常パート”へと移行する。ケガイとの戦いは3人パーティーによるターンベースで行われ、日常パートで培ってきたパーティーメンバーとの関係性や、ひとりひとりのステータスが攻略のカギとなる。
そして前述のとおり「LOOP8」はタイムループ、すなわち“周回プレイ”を前提としたゲームだ。
ゲームオーバーになると、ニニはその時点までのプレイで得たステータスの一部を引き継いで、8月1日の葦原中つ町にやってきたところからやり直すことに。このステータスの引き継ぎにより、周回を重ねることで少しずつ強くなっていくのだ。また、NPCとの関係値も前回のプレイで高めたところまではすぐ上がるようになっているので、こちらも徐々により多くのキャラクターたちと友好な関係を築きやすくなっていく。
これらを駆使して期間内にボスとして登場するケガイをすべて倒せばエンディングに到達できる。ステータスはもちろん、NPCとの関係もケガイと戦うパーティーメンバーの能力や使用できる戦闘行動に影響するので、ゲームプレイの多くをNPCとのコミュニケーションが占めることになるだろう。
目に見えて蓄積する数値以外に、プレイヤー自身が本作ならではのゲーム性を理解するに従ってゲームが円滑に進んでいく手応えもあり、この“手探り感”が楽しめるプレイヤーは、本作との相性が良好であると言えそうだ。
こうしたゲームデザインから、初見となる1週目のプレイでエンディングにたどり着くのは、おそらくほぼ不可能であると思われる。プレイのたびに変化するNPCたちとの関係性と、ループで得た経験が、より良いゲームプレイに繋がる手応え。これらが「LOOP8」のゲームデザインがもたらす体験のおもしろさの根幹にある。
本来のポテンシャルを削ぐゲームデザインと、コミュニケーションにまつわるままならなさ
根っこの部分では「ガンパレード・マーチ」などのゲームデザインを踏襲した魅力を有する「LOOP8」。しかし、いくつかのシステムは相互に悪い影響を与え合うような形になってしまっているように感じる。
とくにそれを感じたのは、非日常パートの攻略を考慮すればするほど、日常パートの行動の自由が狭まっていくように感じられた点だ。
コミュニケーションを取れるNPCの中で戦闘に参加できるキャラクターは限られており、その中でも気力回復系の能力がかなり役立つため、パーティーメンバーにはこうした能力を覚えるキャラクターを選ぶのが攻略には有効となっている。ニニ以外のNPCは戦闘時も自分で判断し、行動するため、彼らが状況的に最適な行動を取るかどうかは運次第。よって、プレイヤーの戦闘中の選択でカバーできる部分が少ないことも、単に“所持スキルが便利なキャラクターを選んだほうが良い”という印象を強めている。
また、ネタバレになるため詳細は省くが、よりよいエンディングを目指すには“特定のNPCの好感度を上げておく”ことが求められ、この点でも“より効率的に好感度を上げる”という画一的なゲームプレイに収束してしまいがちだ。
せっかくNPCへの接し方を変えることで、彼らとの関係のありかたに変化を加えられるのに、それが“多様な戦闘スタイルの探求”や“戦闘能力を上げる以外の攻略法の模索”といった、創発的なゲームプレイには繋がっていない。このあたりは“ゲームシステム同士の掛け合わせ”が上手く行っていないように思った。
ある程度仲が良くなったキャラクターには「戦いに行くから来ないか」という提案が出来るものの、戦闘に参加できないキャラクターはケガイが待つ黄泉比良坂へと足を踏み入れる寸前で帰ってしまうという拍子抜けな行動を取るあたりも、上記のような問題点が解消されないままでのリリースとなった証左のように感じられてしまった。
周回プレイを億劫に感じてしまうことが少なくないのも、いっそう“効率的な(遊びの少ない)ゲームプレイ”を目指しがちになってしまう要因だろう。前述したように「周回するとステータスや好感度が上げやすくなる」といった工夫は凝らされている。一方で、わざわざ歩き回らなければいけない距離の長さやロードの頻繁さは、多少の個人差はあれど、誰がプレイしても周回を重ねれば重ねるほど、ストレスの種になるだろう。
個人的にそれらよりも気になったのは、NPCとの会話にまつわるままならなさだ。
プレイヤーはNPCたちに初めて話しかけたときや、その後の会話で、周回のたびに同じセリフを何度も聞かされることになる。基本的にNPCたちにループ前の記憶はないのだから、これ自体は設定から考えても妥当と言える。そして、あらゆるテキストはスキップ(早送り)ができるので、周回をくり返しているプレイヤーは、自然とこのスキップを活用することになるはず。
問題はこうした既出のセリフの中に、ときおり初めて見かけるセリフも混じってくるので、これをいつものクセで読み飛ばしてしまいやすい点だ。「LOOP8」でNPCから発せられるセリフには、彼らの“裏設定”に関わる興味深いものも多く、これらによって謎めいた世界設定が少しずつ垣間見えていくのも、本作の魅力のひとつと言える。これがインターフェース的に読み飛ばしてしまいやすく、「さっきのセリフに初めて知る情報が含まれていた気がする!」と感じても、何を言っていたのか確認する術がないのだ。
「既読テキストのみスキップ」の設定が可能で、初めて読むセリフはスキップしない設定に変更できたり、あるいは読み飛ばしてしまったテキストを読み返すテキストログが備わっていればよかったのだが、本作にそうした機能はない。“気になる情報があったけど確認できなかった”という状況が何度も続くと、徐々に世界設定への関心も薄れていってしまったというのが正直なところだ。
まとめると、突き詰めるほどに画一的なゲームプレイへと収束してしまいがちである点と、周回プレイが前提であるにも関わらず、周回するほど細部の気掛かりがフラストレーションとなり、「いろいろ興味を持ったり試してみるよりも、さっさと本筋のストーリーを進めてしまおう」という気持ちが増していく点。これらが、カレルシステムの本来持つポテンシャルを削いでしまっている印象を受けた。
それでも独特のプレイフィールが“刺さる”プレイヤーはきっといるはず
また過去作の話をするのは少々気が引けるのだが、「ガンパレード・マーチ」にはまさに“深淵を覗く”ような底知れない魅力があった。それは謎めいた世界設定のみからもたらされたものではなく、NPCたちのAIがもたらすブラックボックス的な“理解しがたさ”や、プレイヤーに用意された無駄と思えることさえある膨大な選択肢や意思決定の影響が、戦闘パートも含めたあらゆる要素へと神経のように行き渡り、異形と言えるゲームデザインが渾然一体となってもたらされたものだったように思う。
「LOOP8」はAIとのコミュニケーションというシステムこそ正当に継承したタイトルではあるものの、このシステムによって意志を与えられたNPCが、その個性を発揮するに足るほどの各システムの相互作用が、上手く生じていなかったと感じざるを得ない。プレイしていて体験できた“素晴らしい瞬間”は何度もあったものの、ほぼすべてが過去作でも味わえたものだったと言えるほどに保守的な作りだったのも、残念であった。
それでもあえて美点を挙げるのであれば、本作の欠点のうちいくつかはそのまま“(過去作と比較した場合の)間口の広さ”と表裏一体であると言うことはできるだろう。単一の正解などない高い自由度を誇るタイトルと異なり、遊び続ければ定められた攻略の糸口が掴める構造や、戦闘パートのシンプルな駆け引きは、カレルシステムが持つ独自性の“一端”を、手軽に体験するには向いている。
「ガンパレード・マーチ」の流れを汲む一連の作品群がいまなお伝説的なゲームとして語り継がれているのは、その魅力を継ぎ、発展させたタイトルが、他のクリエイターからはついぞ生まれなかったことも要因として大きい。それはゲームハードのスペックが飛躍的に向上した2023年時点でも揺るぎない事実であり、現行プラットフォームにおいて「LOOP8」に近いプレイフィールを持ったゲームを筆者は知らない。
ゲームデザイン的に全容の把握が容易で、かつ多くの現行プラットフォームでプレイできる本作に、こうした作品群の入門タイトルとして触れてみるのは大いにアリではないだろうか。いくつもの“勿体なさ”があれど、ここまでに書いてきた本作独特のプレイフィールが“刺さる”プレイヤーはきっといるはずだ。
「LOOP8」をプレイして天啓のようなものを得られた人には、PS(1)、PS2、PSP……これらのハードでプレイできる一連の作品群を手に取る環境を整え、是非とも多くの先人を魅了した“深淵”を覗いてほしい。そして現在進行系でAI技術が発展しているいま、過去作を超える体験を目指し、より進化した「LOOP8」の精神的続編が生まれることにも、いちゲームファンとして心から期待したい。
(C)2023 Marvelous Inc.
コメントを投稿する
この記事に関する意見や疑問などコメントを投稿してください。コメントポリシー