「泣ける」の一点突破でファンの心を揺さぶったインディーゲーム「メグとばけもの」の完成までの道のりと成功の理由を開発者が語る【CEDEC2023】

発表会・イベント取材
0コメント 仁志睦

8月23日から25日にわたってパシフィコ横浜にて開催された「CEDEC2023」。本稿では8月25日に行われたセッション「『メグとばけもの』のつくりかた - 心を揺さぶるゲームの技術」をリポートする。

「メグとばけもの」は無敵の魔物ロイと魔界に迷い込んだ人間の少女メグの出会いと冒険を描いたアドベンチャーRPG。特筆すべきはメグが泣くと世界が終わる(ゲームオーバーになる)ことで、メグが泣かないようにあれこれ工夫しながら冒険を繰り広げていくことになる。

オーソドックスなコマンドゲームで、短い時間でクリアできるなど、いたってシンプルな本作だが、リリース直後から高い評価を獲得。Steamでは8月25日の時点でレビュー数631件、評価は「圧倒的に好評」となっており、さらにメタスコア85点とゲーム系メディアのレビューなどでも好評を得ている。

このように多くのプレイヤーを感動させ、絶大な評価を得た「メグとばけもの」はどのようにして制作されたのか。本作を開発したOdencatのDAIGOこと佐藤大悟氏が、2年にわたる開発過程を振り返りつつ、「心を揺さぶるゲームづくり」について解説を行った。

なお、本セッションは「メグとばけもの」をクリアした人に向けたものとなっている。極力ネタバレは排除しているが、スライドの画像などで予想できてしまう部分もあるため、できれば本編をクリアしてから読むことをおすすめする。

Odencatの代表取締役社長で、本作のプロデューサーの佐藤大悟(DAIGO)氏。

「泣ける」と評判の国産インディーゲーム「メグとばけもの」

DAIGO氏はドイツの生まれでActivision BlizzardのiPhone版「ギターヒーローDS」やスクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジーXIV」、DeNAの「忍者ロワイヤル」などの開発に従事。米DeNAの解散後にインディーゲームの開発を始め、「くまのレストラン」のヒットをきっかけに日本に帰国し、Odencatを設立した。

Odencatはおもにドット絵を使ったストーリーゲームを制作しており、「くまのレストラン」や「フィッシング・パラダイス」などが有名。全ゲーム合計で500万ダウンロードを突破しており、Google Game Indie Festivalで3年連続入賞を果たしている。

「メグとばけもの」はOdencatがPC、据え置き機向けゲームとして初めて開発した作品で、前述のとおり絶大な評価を得ている。パッと見は「某映画っぽくて、ありきたりの設定」、「古臭い地味なコマンドバトル」、「数時間で終わってしまう」などの要素が目につき、さほど面白そうには見えないとDAIGO氏も語るが、本作は「泣ける」という一点突破で高い評価を得ることができたという。

ここで、DAIGO氏は本作のとあるシーンを提示(ネタバレになるため画像は割愛)。「このシーンのために作った」と感じられるゲームは名作が多いが、「まさにそういうゲームができてハッピーです」と述べ、本作もこのシーンが出発点にあったことを明かした。

開発のコアメンバーはプロデューサーのDAIGO氏のほか、ディレクター兼シナリオのRYOTA氏、アートのTOMAS氏、プログラミングのHAJIME氏、ミュージックのREO(裏谷玲央)氏、ローカライズのEVAN氏。このうちフルで関わったのはRYOTA氏とTOMAS氏のふたりだけで、そのほかのメンバーは別タイトルと並行しながらの参加だったそうだ。

制作期間は2.5年ほど。その約半分が「仕上げ」の部分にあてられており、「これも本作の特徴のひとつ」とDAGO氏は語った。

ゲームが成功するかはコンセプトで決まる

まずは、コンセプトの重要性に言及。「企画やコンセプトでゲームが成功するかどうか半分以上決まる」、「ココで外してしまうとリカバリーは難しい」と、強調した。

では、本作ではどのようにしてコンセプトを固めていったのか。始まりはDiscordに開設している自社のストーリーアイディアチャンネルへの投稿で、本作のシナリオを担当したRYOTA氏が出したアイディアの中に「子連れモンスター」なるものがあった。それは「少女と魔物が出会い、四苦八苦しながら成長していく」というもので、ちょっと不気味なモンスターが純真そうな子供をあやすというコンセプト画も最初からあったという。つまり、この段階で出されたものが最後までブレなく貫き通されたわけだ。

RYOTA氏はIT系の技術者だったが、ツイッター(現エックス)での交流をきっかけにDAIGO氏が勧誘。「スノーマン・スト―リー」と「ねずみバスターズ!」を一緒に完成させたという。DAIGO氏は「ねずみバスターズ!」を非常に気に入っていて、「メグとばけもの」にもヒケを取らないと思っているというが、「コンセプトが弱かった」とも感じており、「コンセプトで半分以上が決まる」という先ほどの言葉はここでの反省からきたものだと語った。

それだけに、RYOTA氏のコンセプトには「心が動く予感がした」というDAIGO氏。コンセプトに合うゲームシステムを考案する段階でも、「バケモノが子供を泣かすまいと焦りながらあやしている」というRYOTA氏のコンセプト画をもとに、「泣いたらどうなる?」→「ゲーム的にはゲームオーバーになるべき」となり、せっかくだから壮大な感じにしようということで「ゲームオーバー=世界が終わる」ということに。

かくして「少女が泣くと世界が終わる」というキャッチーなフレーズが完成。ここが決まるとバトルシステムなども自然にできていったそうで、初期の企画の時点で、すでに最終版にあるような「モンスターが少女を守る」、「オモチャで少女をあやす」といった基本要素は出来上がっていたとのことだ。

ゲームならではの体験も重要視したとDAIGO氏は言う。原体験にあるのが名作RPG「ファイナルファンタジーV」のとあるイベントバトルで、「普通はHPがゼロになったら死ぬのにそうならない」ことに感情を動かされ、これはゲームならではの体験だと強く感じたそうだ。これにインスパイアされたのが、99999というロイのHPで、この数値を見るだけで彼の凄さがわかるわけだ。

また、メグにはメンタルゲージというHPに近いパラメータがあり、ゼロになると泣いてしまってゲームオーバー=世界の終わりとなるわけだが、このシステムを利用したある仕掛けがクライマックスに用意されている。これも先述の「FFV」のイベントから着想を得たものので、プレイを通じて「泣いたらゲームオーバー」を体験してきているだけに、ここで感動せずにはいられないだろうという読みがあったとDAIGO氏は明かした。

こうしたことができたのは、ゲームデザインとシナリオを同じ人が担当したためで、非常にやりやすかったとDAIGO氏は振り返る。かくしてコンセプトが固まったわけだが、この時点ですでに「いけるな」という勝利の予感があったそうで、そうした状態で開発に入るのがいいと語っていた。

コンセプトに沿ったビジュアルを作ってイメージを共有

次のテーマは開発準備について。インディーだとコンセプトが固まった段階で、すぐに制作を開始しがちだが、そうやって失敗してきた経験が過去にあったため、本作では事前にしっかりとした準備期間を設けたそうだ。

まずはスコープ(制作の対象範囲)の決定だが、その際に問題になったことのひとつがバトルシステムを入れるかで、「ウチのような弱小にはそれだけでチャレンジ」と吐露。バトルシステムを入れると必然的に成長要素がセットになり、そうなるとショップシステム、スキルツリー、ダンジョンへの宝箱の設置、バランス調整などさまざまな要素を入れなければならず、それだけで工数が肥大化してしまう。「ストーリーを語る」という本来の目的の足カセになることから成長要素は極力入れないことにしたそうだ。

プロットに関しては、まずRYOTA氏が初期企画をまとめ、それをもとにDAIGO氏が編集役となって、ふたりで全体の構成を話し合っていったそうだ。このときDAIGO氏が重視したのがOdencatならではの部分で、たとえRYOTA氏がやりたいことでもOdencatのコンセプトから外れないように「こちらでハンドルした」という。

しかし、言い争いが増えてきたので、プロフェクトに関わっていない第三者をご意見番として投入。中立的な立場で、ふたりの議論に一石を投じてもらいながらプロットをまとめていったそうだ。ちなみに、裁定役となる3人目もシナリオに関する経験と知見を持っていたとのことで、そうした経験を持たない素人だと破綻していただろうと語っていた。

今回のプロット作りでは、有名な編集者である鳥嶋和彦氏が語ったという「クロノ・トリガー」(旧スクウェアで発売された名作RPG)の誕生秘話も参考にしたとのこと。それはキーアートを先に作って、それに合わせてゲームを作り込んでいったというもので「これはいいな」と思ったそうだ。

そこで、本作でもイメージを具体化してチームで共有し、そこからインスピレーションを得るため、プロット上で重要になるいくつかのシーンのキービジュアルを先に作ったという。その中にはメグ、ロイ、ゴランの3人が焚き火を囲んでマシュマロを焼くシーンも。プロット用としてはとくに必要なかったのだが、ゲームも含めたDAIGO氏の過去の体験から思い入れがあり、独断で入れたことを明かした。

こうしたビジュアルは自分の中にあるもの、ひねり出すのではなく自然と浮かんでくるもので、それらをゲームの素材にするのは良いアイディアだったとDAIGO氏は言う。このフェイズはすごく楽しかったそうで、「ここは苦しんでやるものではない」とも話していた。

次はプロトタイプの作成だが、まずオープニングとエンディングを作ったそうだ。もちろん、アタマから順に作っていくやり方もあるが、エンディングが決まっていないと可能性が無限すぎて、完成が難しくなる場合があるとのことで、自分たちにはゴールが明確で、そこに向かって走っていくほうが合っていると語った。

ゲームデザインの改善も同時に進めていった。当初はバフや回復魔法などの導入もアイディアとしてあったそうだが、シンプルに遊んでもらいたいという考えから廃止。オモチャをガチャ的なもので入手するなどの要素も、このフェイズで削っていったという。バトル画面も当初は見下ろし視点だったそうで、もっと魅力的な構図にしたいということで現在の形になったと明かした。

仮グラフィックで完成させ、モチベーションアップ

このようにして作ってきたプロットやプロトタイプをもとに実際の開発が始まる。この段階でDAIGO氏は「できたも同然」と思っていたそうだが、そこから完成までさらに1年半を要することとなった。

開発段階で良かったことのひとつは、仮グラフィックでほぼ完成まで作り切ってしまったことだという。かなりシンプルな絵だが、それでも最後まで遊んで感動できたとのことで、仮の絵で感動できるなら本物でもっと感動できるとモチベーションが高まったそうだ。こうした手法はストーリー主体のゲームでは珍しいそうだが、DAIGO氏はかなり手応えがあったようで受講者にも推奨していた。

ここからアート担当のTOMAS氏が合流。RYOTA氏のコンセプトアートをもとにキャラクターデザインを進めていった。その際、こだわったのが主人公となるモンスターの見た目の気持ち悪さだ。DAIGO氏は「寄生獣」のミギーや「メイドインアビス」のミーティーを例に挙げ、これらのキャラクターは気持ちが悪いからこそ魅力があるという。

とはいえ、見た目だけではなかなか内面まで伝えることはできない。マーケティング面からもバランスを見て、もう少し落ち着いたデザインにしたそうだが、「何か足りない」とDAIGO氏は感じ、肩の大きな目とカニのような腕を追加。この変更によってかわいいが、気持ち悪さもあるデザインになったと振り返った。

そして、アートが完成するが、ここで「UNDERTALE」や「ポケモン」っぽいのが気になったと告白。だが、モバイルでの経験を経ていることもあって、まったく新しいものよりも少し知っているもののほうが受け入れられやすいという実感があり、「○○っぽい」というのは必ずしも悪いことではない自分を説得して先に進めたとのことだ。

ここから音楽担当のREOこと裏谷玲夫氏が参加。メグのきれいな心は弦楽器、混沌とした魔界はごみ箱やおなべのフタといったガラクタで表現するなど、本作にコンセプトに沿って音楽作りが進められていった。DAIGO氏もガラクタでの音楽制作を現場で見て、裏谷氏のプロの仕事に心を打たれたそうで、「音楽を聞くときは、これらのきたないガラクタの音に思いをはせてほしい」と語った。

仕上げの段階で妥協せずこだわり抜く

もっとも時間のかかったのが仕上げの部分だが、それは無限ともいうべきフィードバックをこなしていったからだ。最初から大人数でやればと考えがちだが、それでは同じ箇所を指摘されるだけでムダが多く、ストーリー主体のゲームはネタバレが致命的なのでβテストを実施しても意味がない。そのため、最初は数人のコアメンバーでゲームへのフィードバックを出していったそうだ。

次に、コア以外のチームメンバーが参加。ローカライズ担当、音楽担当、プログラミング担当が、それぞれの立場や視点から意見を出していった。ただ、万全を期すなら、もっと叩いてもらったほうがよいと考え、DAIGO氏の回りにいる「めんどうくさそうなオタク」にもフィードバックしてもらったそうだ。

事前知識のない人からのフィードバックが貴重であるのは確か。しかし、かなりストレートな意見もあったようで、それらをそのまま見せてしまったためRYOTA氏の精神が削られてしまい、しばらく稼働できなくなってしまったこともあったという。この経験から「たとえ正論でも、そのまま投げるのは気を付けなくてはいけない」と、感じたそうだ。

さらに、女性や感受性の強い人にも依頼。その中にはフィードバック時に問題点や改善点だけでなく、良いと思う点もたくさん書いてくれた方もいたそうだ。おかげでRYOTA氏の精神が回復できたとのことで、DAIGO氏は物事を見るときには問題だけを指摘するのではなく、褒めることも大事だと反省したそうだ。

かくしてフィードバックが出切ったが、起票されたものだけで840個。バグによる不具合のほかシナリオの矛盾、表記のゆれなど多岐にわたっており、これらの問題の解消に1年半かかったとのことだ。

具体的な改善例も紹介された。たとえば「ロイは最初から欠落している部分がなく、成長の必要がない」という指摘に対応するため、あるシーンを追加したそうだ。また、DAIGO氏も自身の判断でバトルエフェクトや全キャラのユニークな声色などを追加。RYOTA氏もただフィードバックを修正するだけでなく、新たな演出を追加するなど「ゼロをプラスにする修正」を加えていったという。

メタスコアを獲得、そして大きかったアーティスト陣の協力

最後のテーマはマーケティングについて。国内向けにはさほど独自なことはやっていないが、Steamではウィッシュリストが重要になるので、そのための研究をして秘策を打ったりしたそうだ。この点でスライド内に入っているURLのサイトはかなり参考になったそうで、英語サイトだが「かなりいいですよ」と受講者にも勧めていた。

海外向けでは「PR Hound」という会社に依頼。結果、日本のインディーでは珍しくメタスコアを獲得できたという。メタスコアは海外メディアのスコアレビューを4個以上もらうと掲載されるという仕組みになっているが、ほとんどの日本のメディアはMetacriticにスコアを出していないため、日本で流行ってもスコアがつかないことが多いそうだ。

こちらのURLがSteamのウィッシュリストを積むのに役に立つとのこと。

アーティスト陣のマーケティング面での協力も大きかったとDAIGO氏は語る。主題歌を担当した鴨原ローラさんはゲーム制作者でもあり、「RAKUEN」というゲームのSwitch版を出すための移植技術を探していたことから、Odencatが使っているオープンソースの自作エンジンを使ってもらえるようサポート。一方、「メグとばけもの」を海外で売りたいDAIGO氏は、多数の海外のフォロワーを持つローラさんの配信に出演して、本作をPRするという相互協力ができたそうだ。

鴨原ローラさんに主題歌を担当してもらった経緯はこちら。

裏谷氏も非常にアグレッシブで素材を欲しいと言ってきたと思ったら、それをもとにキャラクターがアニメーションするサントラ紹介動画を自作。さらに「メグとばけもの音楽の世界」という公式と見まがうサイトも立ち上げており、これを見るだけで本作のサウンドと世界観が分かるようになっている。サウンドトラックの各曲の頭の文字を繋げるとメッセージになるという仕掛けも裏谷氏によるものだったようだ。

また、ゲームクリア後に公式サイトなどへの誘導が入っているのだが、これも裏谷氏の意見を取り入れたもので、かなりマーケティングに繋がったという。本作のミュージックビデオも100万再生を達成しており、「広告で初めて泣いた」という感想ももらえたとDAIGO氏は語った。

裏谷氏との出会いとサウンドを担当してもらった経緯。

最後にまとめとして、「コンセプトが明確だったこと」、「プロットを練ってコンセプトとずれないよう調整できたこと」、「仕上げに妥協しなかったこと」、「マーケティングも後悔しない程度にやれることをやったこと」が本作の成功した理由と総括。ただ、マーケティングに関してはやればキリがなく、ゲームを作っているのにマーケティングにかかりきりになってしまうため、ある程度のところで切り上げたとも語っていた。

そして、DAIGO氏は会社員時代に「いつかインディーゲームを作りたい」と、ずっと思っていて、同じような人に今回の自分の話が参考になればとメッセージ。「自分は会社員のときプログラマーだったが、今評価されているのは技術ではなくストーリーなんです」と語り、会社で評価されている才能は一部分でしかなく、自分でゲームを作ってみることで想定していないことができるかもしれないので「いろいろチャレンジしてみてほしい」と、エールを送った。

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