コーエーテクモゲームスが2023年9月28日に発売予定のPS5/PS4/Nintendo Switch/PC(Steam)用ソフト「Fate/Samurai Remnant」。本作のプロデューサー・庄知彦氏、ディレクター・松下竜太氏へのインタビューをお届けする。
本作は、江戸時代を舞台に繰り広げられる、TYPE-MOON監修の「Fate」完全新作アクションRPG。江戸時代を舞台に繰り広げられる盈月(えいげつ)を巡る戦い“盈月の儀”の様を、二天一流を修めた剣士「宮本伊織」と、突如伊織の前に現れた謎の人物「セイバー」の視点から濃密に描かれる。
インタビューでは、「Fate/Samurai Remnant」の開発経緯からマスターとサーヴァントの選出理由、9月21日から開催されている「東京ゲームショウ2023」出展に関する注目ポイントも伺うことができた。
――初めに「Fate/Samurai Remnant」の開発経緯をお聞かせください。
庄:当社のシブサワ・コウが4・5年くらい前に、社内の会議の場で「『Fate/Grand Order』がすごく面白い!」、「『Fate』のゲームをTYPE-MOONさんと一緒に作りたい」と話したことから始まりました。
その流れで、アニプレックスの岩上社長(岩上敦宏氏)を通じ、TYPE-MOONさんと食事を一緒にさせていただき、その場でシブサワが熱意を伝えました。その時点で作りたいゲームの構想はありましたが、改めてシブサワと私で企画書を携えてTYPE-MOONさんに伺い、武内さんと奈須さんからも、やりましょうというお返事をいただけました。
以降は、より具体的にどういうゲームにしていくか、世界観やゲーム内容の細かい部分、登場するサーヴァントなどをお互いキャッチボールしながら作り上げていった形です。
――初期段階だと今の「Fate/Samurai Remnant」とは違った内容になっていたのでしょうか?
庄:違う部分もありますが、聖杯戦争を体験できるゲームという軸は変わっていないです。ただ、聖杯戦争における戦術的な要素の描き方については、初期段階では当社の得意とするシミュレーション要素が強い内容でした。そこはアクションとのバランスを見つつ、より物語は没入しやすいようにシンプルな形に変わっていきましたね。ただ、ここは本当に苦労したところで、「Fate」の世界を最適な形で体験できるように作り上げるのは、スタッフが頑張ってくれました。
松下:我々としては、一から聖杯戦争をゲームにしたらどうなるのか、ゲームジャンル=聖杯戦争のような形のアプローチを目指しました。
――シブサワさんが「Fate/Grand Order」、特に「英霊剣豪七番勝負」と宮本武蔵が好きという話を伺ったのですが、最初の段階から江戸が舞台の話で進んでいたのでしょうか?
庄:そこに関しては色々な意見が出た部分でした。確かにシブサワは「英霊剣豪七番勝負」がお気に入りで、武蔵が好きなので、最初は下総を舞台にした案も上がっていました。
また、当社の強みを生かした形で「Fate」の新しい作品を作ろうとした時に、戦国時代が良いのではないかという案もありました。ただ、戦乱の戦国時代よりも泰平の世になっている江戸時代の方が、色々な陣営の動きなどが描きやすいこともあり、江戸時代を舞台にすることになりました。
松下:「英霊剣豪七番勝負」のコミカライズを手掛けられた渡れいさんにはキャラクターデザイン、キャラクターの表情スチル、キービジュアルなどを手掛けていただきました。渡さんの絵をいただいてから作品のトーンであったり、どう描いていくかが加速度的に形になり、共通認識が固まっていきました。ビジュアルだけではなく、作品としての色に影響を与えて頂いたと思っています。
――渡さんに加えて、主題歌を担当する六花さんも「英霊剣豪七番勝負」に関わりのある人物ですが、「絶対にこの2人が良い!」という思いがあったのでしょうか?
庄:今回のタイトルでビジュアルに関して誰か軸になる人がいた方が良いと武内さんがお話しされていて、誰が良いのかを話し合っていく中で、舞台は江戸で宮本武蔵が出ることも踏まえて、「英霊剣豪七番勝負」のコミカライズで素晴らしい絵を描かれている渡さんが良いという結論にたどり着きました。
六花さんに関しても、そもそも歌を入れる、入れないからスタートして、歌を入れるとなったら誰が良いのかを話す中で、「やっぱり六花さんがしっくりくる!」となりました。ありきではなく必然ですね。
――初期段階では戦国時代を舞台にする話があったようですが、最終的に江戸時代になった決め手はありますか?
庄:先ほど話させていただいた通り、一番の決め手は、聖杯戦争を描くにあたり、泰平の世である江戸時代の方が本作の魅力を描けると考えたことです。武内さんと検討していた時に、サムライは国内だけでなく世界中でも魅力が伝わりやすいよね、という話もあり、それも江戸時代を選んだ理由の一つですね。
松下:聖杯戦争での戦いは、魔術が秘匿されているので、大っぴらに戦っちゃいけないルールやストーリーが、江戸時代の平和に見える中に潜む不穏さと上手くかみ合っていると思います。
――江戸の街並みを作る際は何か参考にされたりしたのでしょうか?
松下:江戸時代の街、いわゆる東京の下町は背景チームでロケハンしたり、江戸東京博物館に行ったり、各文献を参考にしてデザインしました。リアルな部分はもちろん、時代劇のフィクションをうまく合わせて設定していきました。
――ゲーム中では「Fate/stay night」「Fate/Zero」「Fate/Grand Order」など、シリーズ作品を思わせる演出をいくつか確認できましたが、狙った演出なのでしょうか?
松下:まったくの偶然です。
庄:嘘つけ!(笑)
松下:もちろんファンの方に盛り上がってほしい気持ちで入れていますが、知らない方を置いていかないようバランスには気を付けました。
たとえば聖杯戦争のルールをとうとうと説明するシーンで、「Fate/Zero」を思わせる演出を入れています。初見の方は自然に受け止めてもらい、知っている方は「あっ!」と思っていただけるようにしています。
――物語が進んでいくとそのようなシーンも増えてくるのですか?
松下:そうですね。ニヤッとしていただけるものや、人によってはある種攻略のヒントにもなると思います。
――「Fate」シリーズのファンはもちろん、あまり馴染みがない人でも“聖杯”というワードには聞き馴染みがあるかもしれませんが、本作の盈月=聖杯、盈月の儀=聖杯戦争という認識で大丈夫でしょうか?
庄:概ねその認識でいただければ良いかと。詳しい部分は「Fate」としての設定もありますので、我々がここで語るよりは実際に遊んで体験していただければと思います。
――万物の願望機たる盈月ということは、参加するマスターにもそれぞれ叶えたい願いがあるということでしょうか?
庄:根柢の部分は聖杯戦争と同じです。第1次から第5次まである聖杯戦争ですが、本作はどれにも当てはまらない。なのに何故、聖杯戦争のようなことが行われているのかも含めて、ぜひ楽しんでいただきたいです。
――2ndトレーラーでは伊織が「盈月によって無辜の人々が傷つく、故に壊す。壊してこの儀に幕を引く」と語っていましたが、あれが彼の願いになるのでしょうか?
松下:あのセリフは盈月の儀に巻き込まれた冒頭でのセリフで、普通の人ならパニックになる場面ですが、伊織はその状況を受け入れていて、自分のやるべきことを模索していきます。「Fate」の主人公である資格、常人ではないと思うところがあります。
伊織が願いを設定したことが、今後どんなドラマを起こすのか楽しみにしていただきたいです。
――「Fate」シリーズでありながらも新しいこと(アクションRPGで描く聖杯戦争)にチャレンジしていると思いますが、苦労した点などがあれば教えてください。
庄:アクションRPGで「Fate」を描く点に関しては、私の中でおおよそのイメージはあったのですが、実際に形にする際の苦労は山ほどありました。特に現場のスタッフたちはものすごい試行錯誤をしてくれていましたね。
松下:一番はマスターとサーヴァントのバディで聖杯戦争を戦うというアクションです。アクションゲームだと主人公が華麗なアクションを決めて活躍できるのが正当な面白さだと思います。
伊織は剣術家なので常人と比べたら強い存在ですが、サーヴァントや聖杯戦争の脅威には歯が立ちません。そこにセイバーが頼りになる存在として登場する。この構図をアクションゲームに落とし込むのは一番力をかけました。
庄:チーム内でも相当試行錯誤してましたね。出来上がったものを社内の人にプレイしてもらった機会もあったのですが、そこでも「ああでもない、こうでもない」と意見があって。そこが一番苦労したところかと思います。
――盈月の儀には剣士から異国の少女まで多種多様なマスターが参加しますが、どのような構想、選定があったのでしょうか?
庄:最初は我々から「Fate」ファンとして「こうだよな!」という部分とゲーム性世界観を踏まえて意見を出しました。それも考慮していただきつつ、最終的にはTYPE-MOONさんで検討、選定していただきました。本作のことを考えた最高の選定をしていただけたと思っています。
――伊織と地右衛門の戦闘シーンは確認できましたが、土御門泰広、ドロテア・コイエット、高尾太夫などあまり戦闘をこなすイメージが湧かないマスターに関しても、それぞれが特徴的な動きになるのでしょうか?
松下:そうですね。マスターとサーヴァントごとにカラーがあり、アクションにも落とし込まれています。全員が前線に出て戦うわけではないのですが、関係性も陣営ごとに異なり、登場の仕方や、物語にどう関わってくるかに繋がっていきます。
――各陣営のサーヴァントについても選定理由などがあればお聞かせください。
松下:TYPE-MOONさん主導でサーヴァントの選定をしていただきました。他の「Fate」関連の展開もあるのでバランスよく選んでもらっています。
庄:逸れのサーヴァントと呼ばれているものに関しては、エンタメ性というか、「Fate」ファン含めて楽しんでほしい思いが強く、決めていきました。我々も「これ足したい、これほしい!」「いやー、こいつだけは絶対に出しましょうよ!」みたいな(笑)。
松下:一番盛り上がるところですよね(笑)。
――現状、ライダーのみCVが公開されていませんが、何か仕掛けや意味があるのでしょうか?
庄:何でだっけ?(笑)
松下:何でですかね?(笑)
一同:(笑)
松下:真名を想像するのが一番楽しいかと思いまして。それを我々としては隠し通したいわけではなく、より盛り上がっていただけるタイミングで開示していこうと思っています。
庄:物語の核心、重要なところにも繋がる部分なので。本当に「Fate」ファンの方々の考察はすごいじゃないですか。物語は本来ゲームで楽しんでいただきたいので、TYPE-MOONさんと話してここは伏せておくことになりました。
――ファンの方々の考察もご覧になっているのでしょうか?
庄:それは気になるので見てますよ(笑)。大晦日のティザーを出したタイミングからまずセイバーが誰なのかっていう意見が飛び交っていて。それ以降も継続的に見ていますね。
松下:すごい細かいところまで見て頂いていますね。キャラの設定や歴史的なモチーフといったソフトなところはもちろん、CVや絵師さんといったメタな側面からも考察されているので、盛り上がっていただいているなと。
庄:我々的には盛り上がっていただいてありがたいなと思う反面、ここまで考察されるならもう少し出す情報を絞った方が良いのかなと思うこともあります。
――本作に登場するサーヴァントは、他では見られないような名前付きの技が“共鳴絶技”や“協力技”として実装されていますが、これは一から考えられたものなのでしょうか?
松下:そうですね。まずはインターフェースとして技名が出ていないと分かりにくかったので。「Fate」らしいかっこ良いものにするため、当社から打診をして、TYPE-MOONさんにも監修していただきました。
――宝具演出に関しても監修を綿密に重ねていったのでしょうか?
松下:TYPE-MOONの武内さんにビジュアルなど監修していただきました。当社はもちろん、TYPE-MOONさん的にこだわりが詰まった演出になっており、表現的にも突き詰めて作っています。特にセイバーは開発当初と今ではかなり進化を遂げました。
――インターフェースの話で1つ気になることがあったのですが、伊織の使う5つの型は十字キーで変更できました。ただ、5つあると1個キーが足りないのでは? と思ってしまったのですが…。
庄:実際に5つの型は使えるのですが、UI的には凄く納得感のあるものになっています。
松下:5つの型が宮本武蔵の五輪書をモチーフにしていまして、そこから伊織が武蔵の教えを自分でアレンジして作り上げたものが5つの型になります。地と水の他は、火の型と風の型、空の型になります。
地と水でもゲームスピードが違ったかと思いますが、後半に開放されていく型は性能的にもピーキーであったり、トリッキーな遊びが楽しめるものになっています。最後の空の型がUIにハマったとき、伊織の剣は化けます。
――アクションRPGの作品でありながら、頭を使い戦略を立てて挑む新要素“霊地争奪”が登場しますが、こちらの導入の経緯などをお聞かせください。
松下:シミュレーション要素があると、聖杯戦争の戦略的な展開が楽しめるだろうというところでスタートしました。江戸時代の町は、強い霊脈が通っている点が「Fate」の冬木市と同じように設定としてあるので、それを取り合う魔術師同士の戦いを表現できればと思いました。
探索、アクション、ボスとの戦闘が基本の遊びですが、中盤以降で霊地争奪という趣の変わった体験もしていただいて、長時間のプレイでも新鮮味をもって遊んでいただけるかなと。
庄:全体のプレイ時間の中では比較的短めにまとまりましたが、霊地争奪も今の形になるまで相当苦労しましたね。
――その他にも、刀を手入れする“御刀手入”のようなミニゲーム的要素を確認できました。PVでは木を彫っているようなシーンも確認できましたが…。
松下:あれは仏を彫っていますね。宮本武蔵が仏を彫っていたという逸話があるので、それを伊織が「師匠がやってたし、久しぶりにやるか」みたいな感じで行っています。伊織の長屋での日常をミニゲームとして表現しました。
ミニゲームでもう1つあるのが“喧嘩の仲裁”です。火事と喧嘩は江戸の華ということで、気性の荒い江戸っ子たちが喧嘩しているのを伊織とセイバーでタイミングよく仲裁すると、2人の共鳴ゲージが回復します。江戸生活の一部として感じていただければと思います。
――TGS2023では国内初となる試遊台が出展されます。会場で試遊される人に注目してほしいポイントがあればお聞かせください。
庄:今回2種類のモードを用意させていただいていまして、そのうちの1つは世界初公開、初めてプレイしていただく形になるので一番の見どころになります。
松下:1つは序盤のストーリーの一部を体験できるもので、伊織とセイバーで吉原の町を探索したりクエストをこなしたりバトルを楽しめます。本作がどのようなゲームなのかを知っていただけるものになっています。
もう1つが、マスターとサーヴァントの2対2でバトルするものとなっており、「Fate」の映像作品で見たようなサーヴァント同士、陣営同士の戦いをゲームで体験できます。難易度は結構高いので、サーヴァントとの協力はもちろん、アイテムや魔術をしっかりと駆使してクリアを目指してほしいです。
――最後に発売を楽しみに待つ読者に向けたメッセージをお願いします。
松下:本作は「Fate」をマスターの視点からしっかりと体験できるというコンセプトで作ってきました。マスターとサーヴァントの協力に加えて、人間の身で聖杯戦争を生き抜く過酷さをゲームで実感できます。危険な聖杯戦争でスリリングな思いをしつつ、セイバーに癒され、助けられ、2人の関係を深めて頂けたらなと思います。
庄:私は元々「Fate」がすごい大好きだったので、「stay night」が出た時から、「Fate」のゲームを作りたいとずっと思っていました。今回ご縁があって作らせていただきましたが、作り手としては感無量です。
ただ作って満足ではなく、「Fate」のファン、聖杯戦争が好きな方がどういうものだったら最高のゲームになるかを考えて作ったものなので、まずはそういう方々にしっかり楽しんでいただきたいです。
一方でω-Forceはみんなが楽しめるアクションゲームを作ろうというのがブランドとしてのベースになっています。「Fate」のことを知らない方、アクションが苦手な方、みんなが楽しめるものを目指して丁寧に作ったので、ファンだけでなくそうでない方にも楽しんでいただければ嬉しいです。