元日本一ソフトウェア社長の新川宗平氏がコンテンツプロデューサー、「異世界居酒屋『のぶ』」で知られる蝉川夏哉氏が初代編集長を務める「キマイラ文庫」の作家陣へのインタビュー企画。第1回は蝉川氏へのインタビューをお届けする。
小説家が好きなように作品を楽しく書ける“遊園地”をテーマにした電子小説レーベル「キマイラ文庫」。スタートアップメンバーは蝉川夏哉氏、ヤマモトユウスケ氏、横田純氏、そして発起人でもある喜多山浪漫氏。初代編集長は蝉川氏が務め、コンテンツプロデューサーには元・日本一ソフトウェア社長で、現・スーパーニッチ代表の新川宗平氏が就任している。

サイトでオリジナル小説を無料公開しつつ、ゲーム化率100%、コミカライズ率100%を目指しており、商品化の題材を探す企業に向けたショーケースの役割も果たしている。
弊サイトでは、このキマイラ文庫とのコラボ企画を実施。蝉川夏哉氏、ヤマモトユウスケ氏、横田純氏へのインタビューをお届け。各作家陣がエンタメの世界に足を踏み入れた理由や、キマイラ文庫で手がける小説の魅力を聞くとともに、作品がゲーム化をするならどのような内容にしたいのかをお聞きした。なお、インタビューには発起人の喜多山氏とプロデューサーの新川氏にも同席いただいた。記事を読んで作品のゲーム化に興味が生まれたメーカーはぜひ弊サイトや新川氏に連絡して欲しい。
さて、今回の連載第1回は「異世界居酒屋『のぶ』」の作者として知られ、本作では「まものグルメ」を手がける蝉川夏哉氏のインタビューをお届けする。
制作協力:キマイラ文庫
まものグルメ
料理の好きな女子高生、小早川まもりが目を覚ますと、そこは天空に無数の<世界>が浮かぶ不思議な場所だった!
豹人や獺人など様々な種族の暮らすこの場所でまもりは小さな食堂「マモのグルメ」を開店するのだが、魔物を食材とする料理には不思議な力が籠っていて……。
<世界>を蝕むヤドリギ災害によって発生した迷宮によって滅びに瀕したこの場所で、まもりの料理が人々を救う!! ……かもしれない。
異世界×グルメ×冒険ライトノベル、開幕!

蝉川夏哉
「異世界居酒屋『のぶ』」「異世界居酒屋『げん』」を執筆。「異世界居酒屋『のぶ』」は電子版を含めたシリーズ累計発行部数670万部を誇り、コミック・アニメ・実写ドラマも展開。
「ドラゴンクエストIV」の“第三章 武器屋トルネコ”や「だんじょん商店会」にハマっていた過去
――まずは蝉川先生がプロになる前、思春期にハマっていたエンタメ作品からお聞かせください。わたしが1981年生まれで、1983年生まれの蝉川先生とは同じ道を通っていたのかなと思います。わたしはゲームでいうと、スーパーファミコン直撃世代で、アニメは中学生のときにリアルタイムで「新世紀エヴァンゲリオン」を観て、エンタメの世界にハマっていったのですが、蝉川先生はいかがでしょうか?
蝉川:わたしがオタクとして目覚めたのは「新世紀エヴァンゲリオン」よりも前の「ふしぎの海のナディア」からですね。ゲームの世代としてはおっしゃる通りスーパーファミコン世代で、ファミコンからゲームに触れはじめ、その後にスーパーファミコン、そしてプレイステーションとセガサターンという王道の流れを通ってきました。
――おぉ、プレイステーションとセガサターンの両方を持っていたんですね。「ファイナルファンタジーVII」が遊びたくてプレイステーションを買ってもらったタイプですか?
蝉川:……「サクラ大戦」が遊びたくてセガサターンを買いました(笑)。
――あぁ、なるほど。そちらの誘惑も分かります(笑)。
蝉川:ファミコンやスーパーファミコンの時代から「ドラゴンクエスト」をはじめとするJRPGや「シムシティ」のようなシミュレーションゲームが好きでプレイして、今も「シヴィライゼーション」などのチマチマしたゲームをプレイしています。とくにむかしから「ドラゴンクエストIV」の“第三章 武器屋トルネコ”や「だんじょん商店会」といった、ファンタジー世界のなかでお店を開くゲームが好きでした。大人になったあともずっとその体験が心の中に残っており、「異世界居酒屋『のぶ』」の執筆につながりました
――勇者が魔王を倒すストーリーよりもその勇者の冒険をフォローしている側のことに興味があったんですね。それにしても「だんじょん商店会」の名前が出てきたことに驚きました。マイナーゲームだと思うのですが、こんなタイトルまでプレイしていたんですね。
蝉川:当時は情報源であったゲーム雑誌をパラパラとめくっておもしろそうなゲームがあったら購入するということをしていました。この「だんじょん商店会」を見つけたときは「これはひょっとして自分のためのゲームじゃないか?」と興奮したことを覚えています(笑)。
――ここに新川さんも同席していらっしゃいますが、日本一ソフトウェアのゲームはプレイしていましたか?(笑)
新川:ふふ(笑)。
蝉川:はい(笑)。「タクティクスオウガ」のようなシミュレーションRPGも大好きだったので、その流れで「ファントム・ブレイブ」をプレイしてみて「これはおもしろいゲームだぞ」と、夢中になってプレイしてました。
新川:ありがとうございます(笑)。
――日本一ソフトウェアさんの作品はとんでもないやり込みができるものが多いですが、ガッツリと遊んでいたんですね。
蝉川:そうです。この前、弟と会ったとき、「兄貴と会うと、頭のなかでゲーム音楽がよみがえる」と言われて、なんでだろうと不思議だったのですが、自分が高校生のころは朝の5時ぐらいからゲームをやって脳をバキバキの状態にしてから登校していたことを思い出しました。きっと弟は睡眠教育のように自分のプレイするゲームの音楽を聞かされいたのでしょうね(笑)。
――朝の5時からゲームは気合いが入っていますね。やはり帰ってきたあともゲームをしていたのでしょうか?
蝉川:もちろんです(笑)。
2ちゃんねるで出会った仲間たち
――それでは、そんな蝉川さんが作家になったきっかけを教えてください。もともとは兼業で、その後に専業になられたとか?
蝉川:はい、もともとは総合スーパーで、野菜売り場などを担当していました。ただ、激務に追われるなか、なにか趣味を見つけなければ心が死んでしまうなと思い、「小説家になろう」に投稿をはじめたんです。そんな生活のなかで、同じく小説を投稿していた友だちが出版申請に応募すると言い始めて、それならば……と、わたしも応募をすることにしました。しかし、その結果として友だちが落ちてしまい、わたしだけが受かってしまうことに。
――なんと。
蝉川:アイドルのオーディションでよく聞く話みたいな話ですよね(笑)。そのときの作品がデビュー作の「邪神に転生したら配下の魔王軍がさっそく滅亡しそうなんだが、どうすればいいんだろうか」になります。
――2012年ですね。
蝉川:そうですね。ウェブ小説家のくくりとしては1.5世代ぐらいになります。それより前の第1世代は「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」の柳内たくみさんや「レイン」の吉野匠さんのような個人サイトで連載していた作品が書籍化された作家さんになります。
――そんな時代ですか。
蝉川:今でこそ小説のタイトルが長いのは普通ですが、「邪神に転生したら」を作ったときはタイトルが長すぎると編集に怒られましたし、Amazonなどのサイトにもタイトルを短く縮められて登録されたりしてしまいました(苦笑)。
――当時ならではの苦労があったんですね。
蝉川:ただ、先駆的な位置に運よく入ることができたかなとは思っています。その後の流れとしては「なろうコン大賞」という現在の「ネット小説大賞」の前身にあたるコンテストに応募して、そこで「異世界居酒屋『のぶ』」が受賞し、ありがたいことにこの作品がヒットして現在に至る……という形です。
――最初は友だちと一緒に賞に応募されたということですが、学生時代の知り合いだったのでしょうか?
蝉川:いえ、短編小説を「小説家になろう」に投稿しているとき、2ちゃんねるに“作家共作スレ”“競い合いながら作るスレ”といったものがあり、そこでお互いの作品を評価しながら作品を投稿する仲間ができたんです。一緒に応募した友人はデビューできずに消えてしまいましたが、そのときの知り合いにはプロデビューした人たちもいて、いまだに交流がありますね。
――2ちゃんねるのスレでのつながりというのが時代を感じますね。
蝉川:そうですね。「小説家になろう」からデビューした大御所の人たちのなかには2次小説を投稿していた方も何人かいらっしゃって、自分も存在はなんとなく認知していたりはしました。「隣のゲーセンにめちゃ強いヤツがいるぞ」と聞いて認識しているみたいな感じですね。そういった方々の作品がアニメ化や映画化がされたと聞くと、「彼は今、EVOの舞台でがんばっているんだな」と勝手に感慨深くなります(笑)。そういう意味では授賞式で入賞していた時代の人たちと自分たちとでは感覚が違うのだと思います。
――顔は知らないけど手がけている作品は知っているということも多そうですね。
蝉川:そうですね。実際にパーティなどでお会いして、「こんな方だったんだ」と知ることも多いです。
誰かが新しいものを作らなければ縮小再生産になってしまう
――なるほど。そのような形で作家の道を歩んでいる蝉川さんですが、どのようにキマイラ文庫に参加するようになったのか教えてください。
蝉川:先ほども少しお話しましたが、従来のデビューは公募に受賞したあと、パーティに参加をして作家のつながりできるという形でした。ただ、ウェブからのデビューは基本的に一本釣りだったり、五月雨式のデビューだったりするので縦のつながりや横のつながりが非常に希薄です。そのため、自分で積極的に友だち関係を作らなければ生き残れない側面があるんです。その弱点を補うために関西は関西、関東は関東でWeb出身の作家による飲み会を開催しているのですが……ある日、わたしの参加している関西の飲み会に喜多山浪漫という新人作家がやってきたんです。
喜多山:私も前の会社を辞めて小説家としてデビューしたなかで、小説家の仲間が欲しいと思っていました。そこで交流のあった方にぜひ飲み会に参加させてくださいとお願いしたんです。蝉川先生とはそのときにご挨拶をさせていただいたのがはじまりでしたね。
蝉川:そうでしたね。そのとき喜多山先生は「せっかくライトノベル作家はおもしろいことを考える能力があるのに、そのアイデアや才能がスピーディに表に出ないのは勿体ない」と仰られていました。従来の出版社の価値は認めつつ、せっかくWebという形で作家のアイデアがそのまま世に出せるような時代になったのに、これはもったいないと。出版社の役割も昔とは変わってきていますよね……という話のなかで「新しい形でなにか自分たちだけで出来るのではないか」という話になりました。自分もそのときに「なにかできたらおもしろいですね」と答えましたが、それが確か一昨年か去年ぐらいの話ですね。
喜多山:ちょうど1年ぐらいですね。
蝉川:次の次ぐらいの飲み会のときにはキマイラ文庫の形が出来ていて「蝉川さんも参加しますか?」と伝えられました。自分もおもしろいなと思って「ぜひ!」と返答したら、その後(コンテンツプロデューサーの)新川さんにお会いしたときに「蝉川さん、編集長を務めてくれませんか?」と。ものすごいスピード感でした。「こういうのは早く始めないとダメなんで。アイデアとスピードは勝負ですから」と言われて。
――最初は編集長ではなく、作家として参加予定だったのでしょうか?
蝉川:そうです。ただ。ほかの作家さんにもアドバイスをして欲しいとお願いされて、編集長を引き受けることになりました。
――キマイラ文庫は各作家さんが好きなように思いっきり楽しく遊べる「小説家たちの遊園地」をテーマにしているそうですが、蝉川さんはそのなかで各作家さんとはどのようなやり取りをされているのでしょうか?
蝉川:アドバイスというよりは、ライ麦畑で子どもが落ちないように見ている係といったほうが分かりやすいかもしれません(笑)。出版社の編集というのは作品が売り出せるパッケージに整えるの仕事だと思いますが、作家が自由に作品を書くことができるキマイラ文庫の場合は作家が暴れすぎて落ちないように見守るような立場が編集長です。従来の編集者のような重責は無いので楽しくやらせてもらっていますし、キャラクターの描写などについて相談されたときにはしっかりアドバイスをさせていただいています。
――ほかの作家さんの原稿は毎話チェックされているのでしょうか?
蝉川:5話ずつぐらい送ってもらい、キマイラ文庫の作家のみんなで共有して気になるところがあればアドバイスをする形ですね。各作家さんごとに、すでに12月ぐらいまでのストックはあります。〆切に追われながら書くのは不健全なので、余裕を持ったスケジュールで、次の展開をじっくり考えながら作ってもらっています。
――小説の投稿サイトは大手の「小説家になろう」や「カクヨム」、「エブリスタ」などもありますが、「キマイラ文庫」ならではの強みはどこにあると思いますか?
蝉川:「小説家になろう」にしろ「カクヨム」にしろ、作家が新作を書いて、その新作で商業化やマネタイズを目指すことになったとき、なにが起こるかというと、“今の流行りを見てしまう”ということです。流行りを狙って編集者に釣り上げられやすいものを作ることはマーケティングとしては非常に正しくはあるのですが、一方で誰かが新しいものを作らなければ縮小再生産になってしまう危険性があります。その状況に一石を投じるには、お金が先に支払われて、ある程度の安定が先にある状態を作ることで、その状況であれば作家が本当に書きたい作品も書けると思います。そして、その後押しができるのがキマイラ文庫の強いところであると思っています。
――キマイラ文庫では先に作家さんに報酬をお支払いしてから作品を書いてもらっているんですね。
蝉川:そうです。県大会の予選ではなく最初からシードで戦えるような土壌がキマイラ文庫にはあります。そして読者や関係者からのフィードバックも反映させやすいところも魅力であると考えています。読者の方には新しいものを提案できる場であり、作者としては自分自身で新しいものに挑戦しやすい場になっており、クリエイティブなものを非常に生みやすいです。また、作家はキマイラ文庫で書いていることで、ある程度のお金が確実に手に入るので、ほかのところでも挑戦しやすくなります。商業的な要請に応じて書かなければならなかったことに対して、ちょっとだけ冒険できるのは、大きなメリットであると考えます
――確かに新しいモデルですね。
蝉川:ありがとうございます。また、新川さんという素晴らしいプロデューサーがいるからこそですが、キマイラ文庫は本という形で利益を出すことはあまり考えていません。本で利益を出さなくていいということは、商業的な書き方にこだわらなくてもいいということになります。たとえば、電子書籍であれば序盤のところに大きな盛り上がりは絶対に必要になりますが、そういうことに縛られずに執筆できる自由もあります。
――出版という形に縛られずにさまざまな形でIPを生かせる方向を模索すると。
蝉川:そうですね。企業さんと組んでIPを生かすことができれば、キマイラ文庫にとって、今後いい道が出来ていくのではないかと思います。
喜多山:強みという部分に関して言うならば、喜多山浪漫に“作家としての常識が無かった”ところもあると思います。わたしはもともと小説家ではなかったので、出版の世界の常識が無かったんです。蝉川先生ご自身は小説家として成功されていますが、それ以外の優秀な方々のなかにはアルバイトをしながら副業で作家業をしている方もたくさんいます。2年かけて頑張って作品を投稿し続けて、ようやく編集さんの目に留まって、さらにその1年後、ようやくコミカライズされて、印税が50万円入ったというようなお話もお聞きしました。3年の時間と労力をかけて50万円という話はわたしにとってはすごく衝撃的な話で、だったら、わたしが50万円を払うのでおもしろいものを書いて世に欲しいと考えたのがキマイラ文庫の出発点でした。
新川:プロデューサーとしてキマイラ文庫をきちんとした形にしようと思ったとき、そのほかの出版社やレーベルとの明確な差別化は必要だと思いました。そして、喜多山先生からは「100パーセントのコミック化および100パーセントのゲーム化」という案を提示され、彼に対して「無茶を言いやがる」と思いつつも、これができたときにはすごい強みになるとも思いました。ラノベ作家さんのなかにはゲームで育った人も多いので、そういう人たちからキマイラ文庫で書いてみたいと言ってもらえるようになるのではないかなと。
そして、これを夢物語ではなく、きっちり公約を守るのがプロデューサーのわたしの腕の見せどころだと思っています。今のところ実現しているのは「エトランジュ オーヴァーロード」だけですが、すぐにいくつかの会社さんからはお声はかかっている状態なので、手応えは感じています。
――100%のコミック化、ゲーム化という事業計画には驚きましたが、実現に向けてしっかり動いているんですね。
新川:言っているだけでは詐欺ですから(笑)。実現することが重要だと思っています。
ゲームの一部を切り取ったような「まものグルメ」
――なるほど。各作品のメディア化を楽しみにしています。ここからはキマイラ文庫で蝉川先生が手がけている「まものグルメ」について教えてください。
蝉川:喜多山さんや新川社長とどのような話を書くか相談していくなかで、ゲーム化しやすいかどうかは最初は考えなくていいと仰っていただきました。ただ、自分自身が「だんじょん商店街」や「ドラゴンクエストIV」の第3章が好きなので、そういった勇者ではない主人公が活躍することによって世界が変わっていくストーリーを書いてみたいと考えました。
前作の「異世界居酒屋『のぶ』」は居酒屋から世界が見えてくる構造のストーリーにしたのですが、今回の作品は美味しいものを食べるで、キャラクターたちがデバフを打ち消すことができ、そのことによってダンジョンが攻略しやすくなったり、または人生の困難に打ち勝ったりするような小説にしました。わたしのなかでは、先に頭のなかに漠然とした空想のゲーム作品があり、そのゲームの一部を無理やり拡張してノベライズしたような作品になっています。
――架空のゲームを小説にしたようなイメージなのですね。もしも本当にゲーム化することになったらどんな内容になって欲しいですか?
蝉川:この「まものグルメ」自体が世界の一部を切り取ったような内容の作品になっているので、自由な発想でゲームにして欲しいです。
――とくに制限は設けずに。
蝉川:それこそ有名な映画の「バトルシップ」は、潜水艦のボードゲームがベースになっているものの、ぜんぜん別物です。「まものグルメ」の原作とゲームもそれぐらいの距離感でいいと思っています。ゲームのダンジョン攻略中にデバフ効果が料理から出ていて、その元ネタが「まものグルメ」であると気付いてもらえるぐらいの内容でもぜんぜん構いません。
――原作はまもりの作るハンバーガーや塩焼きそばがとても美味しそうで、飯テロ小説として楽しませていただいています。そんななか、第8話で明かされるまもりの過去には衝撃を受けました。今後はこういうハードな面も描かれていくのでしょうか。
蝉川:作品としての深みも必要なので描いたシーンではありますが、今後ストーリーが重くなっていくということはないですね。「暗くなってしまうのではないか」と不安に思っている方は安心して欲しいです。
――「まものグルメ」はファンタジー作品らしく多彩な種族が登場することも見どころですが、今後もいろいろなキャラクターが登場するのでしょうか?
蝉川:そうですね。ゲーム化は考えなくてもいいいと仰っていただいたのですが、もしもドットなどでキャラクターを描くことになったとき、耳や尻尾があったほうが差別化しやすいのではないかという狙いもありました。今後コミカライズなどがあったときも賑やかで楽しいではないかと。
――蝉川さんのなかではキャラクターや料理のビジュアルはすでに頭のなかにあるんですね。
蝉川:料理のビジュアルは浮かんでいますが、キャラクターに関しては別ですね。「異世界居酒屋『のぶ』」のころからデザイナーさんやイラストレーターさんへのヒントになるようなものをたくさん作っておいて、あとの調理はお任せする形を取っています。そのため、わたしのなかでキャラクターの外見をガッチリ作ってしまうことはないですね。
――「まものグルメ」は読んでいてとてもお腹が空く描写が多いですが、蝉川先生自体もグルメでいろいろなものを食べ歩いているのでしょうか?
蝉川:食べるのは本当に好きですが、お酒を飲むことを禁止されるぐらい体にガタは来ています(苦笑)。「異世界居酒屋『のぶ』」を書くためにいろいろなお酒を試していて肝臓を潰してしまいました。昔からモテる男の3高は高学歴、高収入、高身長と言われていますが、わたしは5高の高血圧、高血糖、高尿酸、高コレステロール、高白血球です!
――それは危ないです(笑)。
蝉川:お医者さんやナースさんにモテモテで、よく「今日、泊まっていく?」とお誘いを受けます(笑)。ただ、美味しいものを食べることは好きなので、節制しながら食べるようにしています。また、新川社長が美味しいところに連れて行ってくれるので、新しいお店の開拓もできています。
――蝉川さんは関西で活動されていますが、関西のお店が多いのでしょうか?
蝉川:そうですね。キマイラ文庫には関東の作家さんもいるので、関東でも食事会も開催したいですが、今のところは関西のお店を回っています。有名どころよりは隠れ家的なお店に行っていますね。
――関西というと、やはり揚げ物や粉ものが美味しいんですかね。
蝉川:戦後にアメリカから神戸港に小麦粉がたくさん入ったという歴史があり、粉ものがすごく多いです。たこ焼きやお好み焼きなど、小麦粉料理は非常に美味しいところが多いです。逆に不味いお店はすぐに潰れてしまうので、商売をするのはは大変そうですが。
――新川さんは、プロデューサーとして「まものグルメ」のどのようなところに魅力を感じていますか。
新川:蝉川さんとの最初の打ち合わせでは自由に好きなものを書いてもらいたいとお伝えした一方、売るという視点で考えたとき周囲が期待しているものを載せなければならないなとは考えていました。そこで、蝉川さんには「グルメものは外せないのではないでしょうか」とお伝えしました。もともとわたしは「異世界居酒屋『のぶ』」の大ファンで漫画もドラマもすべて観ているのですが、「まものグルメ」は「異世界居酒屋『のぶ』」のような人情ものとはまたちょっと違った魅力のある作品になっていると感じています。「まものグルメ」は世界自体が追い詰められた状態で、食べ物によって未来を切り拓いていくという方向性が新鮮ですし、いろいろな登場人物が出てくるので群像劇としてもおもしろいです。すでにファンになっていますよ(笑)。
――新川さんは、本作をゲーム化するならどんな作品にしたいですか?
新川:もともと蝉川先生には思うままに書いて欲しい、ゲーム化を意識して縛られないようにして欲しいとお伝えしていたので、この作品をどう料理するかはゲームクリエイターの腕の見せどころではないかと思います。できれば小説のなかに登場するキャラクターをそのまま登場させて、原作のストーリーを追うだけのゲームにはして欲しくないかな~と。主人公のまもりは登場するべきだと思いますが、必ずしもゲーム版の主人公である必要はないと思います。まだ小説のなかで登場していないキャラクターが活躍してもいいですし、ジャンルも料理というシステムを絡めつつ、世界のターゲットを狙えるRPGやアクションRPGにすることもできるのではないかと思います。
たとえば、主人公がモンスターの素材を集めてきて、それをまもりに料理をしてもらって、その料理を食べることでバフがかかったりデバフを打ち消したりして成長させていくゲームなども作れるかなと。あとはどこの会社が手を挙げて資金を出してくれるか次第だと思っています。この記事を読んで気になったメーカーさんはぜひ連絡をください。あ、ここは太字でお願いします(笑)。
――新川さんは本当にゲーム化を考えていますし、早いもの勝ちですね。
新川:はい、本当に早い者勝ちです。
蝉川:わたしとしては「世界樹の迷宮」タイプだったり「Slay the Spire」タイプだったり、どんなタイプのゲームでもゲーム大好きゲーム小僧としてありがたくプレイさせていただこうと思っています。
新川:原作者の方たちは当然ながらこだわりを持って作品を制作しているので、1ミリも変えるなと考えている先生もいらっしゃるでしょうし、逆に蝉川先生のように柔軟にやって欲しい、どう料理をしてくれるのか楽しみにしている先生もいらっしゃいます。キマイラ文庫としては、原作をリスペクトするという前提はありつつ、コミック化、ゲーム化の100%を謳っている以上はある程度の柔軟性がないといけないなと思っています。もしもゲーム化が達成できれば、最初はゲームの世界から入って小説に入るということもできるようになりますし、もちろんその逆もできるようになります。そのため、キマイラ文庫はそういった柔軟性のある先生方を集めてスタートを切りました。
――最初から柔軟性のある方々に執筆を頼んだので、ゲーム化も進行しやすいと。
蝉川:編集長のわたしとしても、声をかけるメンバーは人柄と柔軟性は重視しました。一緒にキマイラ文庫という遊園地を盛り上げていく以上は角を突き合わせるよりも楽しく会話ができる人のほうがいいよねということは喜多山浪漫先生とも話していました。
喜多山:新しいことをはじめるとき、既存のものと違うことをするのは当たり前なんです。そのため、「ここはあそこのやり方とは違う」というような否定をしない柔軟な方のほうがスタートが切りやすいと思いました。
蝉川:そうですね。とても付き合いやすい方たちばかりで編集長としてもすごく助かっています。
――キマイラ文庫での原作「まものグルメ」の第2章以降はどのような展開になっていくのでしょうか。
蝉川:「まものグルメ」の舞台となる世界はいろいろな島が浮かんでおり、その島を飛空艇で行き来するような形になっています。この世界では“歪み”という迷宮(ダンジョン)が広がってきており、そのダンジョンにいると感情がかき乱されてしまい、すごく怒りっぽくなったり悲しくなったりします。しかし、まもりの料理を食べるとデバフが解除される仕組みになっていて、ダンジョン攻略後に引きずっていたネガティブな感情を消ことができたり、あるいはダンジョン攻略前に料理を食べることで冒険者が本来の力を発揮できるようになったりします。それまで世界を覆っていた鬱屈した空気が食べ物によって明るく変わっていくというストーリーで、今後もいろいろなキャラクターや料理が登場するので楽しみにして欲しいです。
――最後に読者にひとことお願いします。
蝉川:基本的に小難しいことは考えずに、登場するご飯が美味しそうだなと思いながら読める小説になっています。私たちの世代はゲームと小説の両方が好きで楽しんできた世代で、自分が読みたいと思ったものを発表しているので、ゲーム好きのみなさんにも楽しんでいただけるではないかと考えています。いろいろな人に読んでいただけたらうれしいです。ぜひ腹ペコのときに読んでみてください。
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