7月22日~24日にかけて、パシフィコ横浜 ノースにて開催のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2026」。本稿では22日に行われた講演「『スペルトナエル』ヒット作の“文字盤”という原点は面白かったのか?」のレポートをお届けする。
ユニークなおもしろさを求めるインディーゲームファンを中心に口コミでその魅力が広まった「スペルトナエル」。主人公は、多彩な魔法を操る少女・ツー。弾幕を避けながら50音表を使って呪文の文字列を入力して敵を蹴散らしていくことで、新たな魔法を入手。その威力やツーのステータスを爆発的にインフレさせていくことで、どんどん強大になっていく敵に対処していく、「謎解き×高難易度デッキ構築×50音表ローグライクのインフレ弾幕アクション(Steamページより引用)」である。


「星のカービィ」や「大乱闘スマッシュブラザーズ」を手掛けた桜井政博氏を中心に、独創的なゲームを手掛けたゲームデザイナーたちが選考する“ゲームデザイナーズ大賞”にて最終選考作品にも選ばれるなど、そのゲームプレイ体験はプロをも唸らせる評価を得ている。
そんな本作の開発者・おまど氏はCEDEC2026会場に“怒りに来た”という。この講演は、おまど氏が「なぜ怒っているのか?」を考えてもらうものであると前置きした上で、セッションはスタートした。

「スペルトナエル」は◯◯だった。←「果たして本当にそうでしょうか?」
改めて「スペルトナエル」という作品の概要と、開発状況、現在の売上・評価について解説するおまど氏。とくに驚くべきは開発状況で、友人が制作した画像やBGMアセット以外は、ほぼおまど氏1人で開発しており、開発期間は5ヵ月(ゲーム開発の期間としてはかなり短い)、そして開発コストは自身の人件費を除くと数万円程度だという。


それでいて現時点での売上は、個人開発のインディーゲームとしてはかなりのヒットと言える3万本、Steamレビューは97%が好評と、ゲームの規模を踏まえれば大成功と言ってよい結果となっている。ゲームの専門学校に通ったこともなく、ゲーム開発を仕事にしているわけでもない、本人いわく“素人”であるにも関わらず、第一線で活躍するプロをも唸らせたこともあわせて考えると、本作は製品としての成功に加え、批評面でも異例の高評価を獲得したタイトルと言えるだろう。
そんな「スペルトナエル」について、おまど氏は「文字盤というアイデアが良かった」という言葉をよく耳にするという。これに対して「果たして本当にそうでしょうか?」と切り返す。


「スペルトナエル」の原点となった“文字盤”というアイデアについて考えるとき、“後知恵(あとぢえ)バイアス”という言葉がキーワードになるとおまど氏は語る。それは、“物事が起きたあとになって「最初からこうなると分かっていた」と思い込んでしまう心理現象”のこと。
いわく、「スペルトナエル」というゲームを知ったあとだと、“文字盤”というアイデアからは「スペルトナエル」のようなゲームが生まれて当然だと思い込んでしまいそうになるが、実際のところ、本作のゲームデザインは「当然の進化ではない」という。そしておまど氏自身もまた、この後知恵バイアスの影響を強烈に受けている人間のひとりであると語った。


その後、セッションは「スペルトナエル」のメインゲーム画面とまったく同じ50音表を用いている“名前入力画面”との比較が行われていった。名前入力にはゲームっぽいインタラクティブ性があるのに、面倒くさくて、おもしろくはない。おまど氏は、原点である文字盤を“夢中になれるおもしろいゲーム=「スペルトナエル」”に変えた要素を、「感触・意味・緊張・報酬・習熟・選択・挑戦」の7つの要素に分けて一つひとつ詳しく解説していった。
これらの工夫によって、話題のインディーゲーム「スペルトナエル」は完成した――果たして本当にそうでしょうか? 再び切り返すおまど氏。ここまで仔細に解説してきた7つの工夫自体が、“後知恵のカタマリ”だというのだ。


たしかにこれらの要素に対する分析は重要であるとしつつも、こうした分類自体が後付けで“ラベルを貼っただけ”かもしれないと、おまど氏は言う。
本作には呪文によって召喚した動物で文字盤が隠れてしまうとか、画面が反転してしまうとか、そもそも永続成長で無限にステータスが上がっていくとか、常識で考えたら無茶な仕様が多い。言われてみれば、これらがすべて「理詰めで実装された」とは考えにくい。単に“7つに分類”しただけでは取りこぼすものが多そうだ。


実は、これら7つの要素自体は、本作の開発をはじめた2週間後にはほぼ出揃っていたという。では、リリースまでの残り約4ヵ月半のあいだ、おまど氏がなにをしていたかというと、ひたすら体験の調整を繰り返していたというのだ。この細部にわたる調整があったからこそ、無茶な仕様の数々も特有の“味わい”に昇華された、「スペルトナエル」という唯一無二のゲーム体験は完成したと言えるのだろう。

おまど氏が“怒っていた”理由(「怒っていた」という表現は少し誇張していたと前置きしつつ)、それは成功したタイトルを見て「アイデアがよかった」で話を終わらせてほしくはないということだった。
もちろんアイデアも大事だが、そのゲームがより良いものになるために本当に重要なのはその先の調整であり、「スペルトナエル」をより良いゲームにするためにおまど氏自身がいちばん時間を要したのもまた、“アイデアを伸ばす”ための試行錯誤だったということだ。“神は細部に宿る”とは、まさにこのことを言うのだろう。


そんなおまど氏もまた、いままさにメガヒットを記録している某“爬虫類のかくれんぼ”のゲームなどを見ると、つい「そりゃ売れるわ」などと思ってしまうという。
後知恵バイアスや“アイデアの独自性”に引っ張られすぎた評価をしてしまうと、「このゲームはなぜおもしろいのか?」について考えるとき、クリエイターが本当に心血を注いだ部分を見誤ってしまうのかもしれない。これは、完成したゲームをレビュー・批評する立場においても、非常に重要な視点だと感じた。


本講演では、“7つの要素”やその後の試行錯誤についても示唆に富んだ解説がなされている。フルで視聴することで見えてくることもあると思うので、気になった人は8月3日10時まで行われているタイムシフト配信をチェックしてほしい。
CEDEC2026公式サイト
https://cedec.cesa.or.jp/2026/
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