7月22日~24日にかけて、パシフィコ横浜ノースにて開催のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2026」。ここでは、22日に行われた「文化盗用リスクの管理を考える~想定外のトラブルを避けるためにできること」のレポートをお届けする。
近年、コスチューム、アイテムなどのデザインや名称に他国の伝統文化の要素を取り入れたりしたことで「文化盗用」とされるといった問題が起こりがちだ。海外のコスプレイヤーが日本人のキャラクターのコスプレをして炎上したといったことが、たびたびネットニュースなどで話題になっているため、ご存じの方も多いだろう。
本講演ではシティユーワ法律事務所の弁護士である野本新氏が、こうした文化盗用の具体的事例や問題視される背景、文化盗用の法的・社会的リスク、そうしたリスクの管理の方法についてセッションを行った。本稿では文化盗用の定義と法的・社会的リスクをメインにセッションの内容を紹介していこう。

文化盗用とはなにか――他文化の利用がイコール悪ではない
文化盗用に関する事例といえば、アメリカの有名なシンガーであるケイティ・ペリーが和風のステージ衣装を着用して批判された件や、キム・カーダシアンというアメリカのセレブが自身の補正下着ブランドに「KIMONO(着物)」と名付けて炎上、名称変更を余儀なくされた件などが有名だ。
アニメやゲームに関するものでは、人気アニメ「鬼滅の刃」のサントラがイスラム教の礼拝を呼び掛ける「アザーン」に聞こえる音声があるということで出荷停止・回収となっている。元寇を題材にしたアクションゲーム「Ghost of Tsushima」も、2018年に行われた発表イベントで白人系のアメリカ人が日本の伝統楽器である尺八を演奏したことが文化盗用ではないかと論争になった。また、アトラスの人気RPG「真・女神転生V」でヒンドゥー教の神々が悪のキャラクターとして描写されているということで、ヒンドゥー教のコミュニティから問題視されたという出来事も起きている。


これらの事例からわかるように、マイノリティの文化や社会集団の言語などを、多数派であるマジョリティに属する者が使用した際に、「文化盗用」として問題になることが多い。とくに少数派と多数派の間に権力の不均衡や社会的・経済的格差があったり、多数派から少数派への偏見や差別に基づいていたりすると炎上などの大問題に発展しがちである。
とはいえ、他文化の利用がイコール悪というわけでは決してない。どの国でも文化は他者の表現や着想にインスパイアされ、それらを摸倣することで発展してきたという歴史があり、法律においても表現の自由のもと一定の保護がなされている。無論、自由だからといって何でも許されるわけではなく、一定の限界や踏むべき手順はあるが、「文化盗用」の何が問題なのかということについてもさまざまな見解があり、まだはっきりと定義されていない状態であるという。


ただ、「文化盗用」が問題になるとき、その根底には社会的・経済的に優位な立場にある人々が、少数派や先住民族の文化をあたかも自己のものとして利用することで、「少数派の文化の独自性が失われる」「他文化を利用した側だけが経済的な利益を得る」「誤った表現があったり侮辱や差別が含まれていたりする」といった反発があると野本氏は言う。
「文化盗用」という言葉は、これらの異なる問題を表現する便利なキーワードとして使われてしまっている側面があることはいなめない。だが、そこには他文化を利用する側が他の国や民族の文化・宗教に由来する表現をどう扱ってもいいという、他者を軽視する姿勢がうかがえることに、すべての問題は由来しているのではないかと野本氏は指摘していた。



「文化盗用」のリスクとは――法律上の問題だけではない社会的・経済的な損失
では、「文化盗用」にはどのようなリスクがあるのか。国内法では著作権法など知的財産法によるリスクはあるものの、伝統文化を表現として摸倣することを直接禁止する一般法は今のところないという。
もちろん、日本にもアイヌという先住民族の文化があり、「アイヌ施策推進法」という法律も存在する。だが、アイヌ文化の表現利用に関する定めはなく、裁判例でも私人の文化利用に対する差し止めや損害賠償が認められた事例はないとのこと。従って、日本国内において文化の利用に対する法的リスクは現状でほとんどないと考えてよさそうだ。



一方、海外においてはメキシコ、パナマ、ケニア、ガーナ、インドネシア、台湾、オーストラリア、アメリカ合衆国など、伝統文化や先住民の文化表現に関する特別法や制度が整備されている国がいくつもあり、コンテンツを海外に展開する際は法的な面においてかなりの注意が必要と言えるだろう。
また、たとえ法律上の問題はなくとも、文化盗用問題が持ち上がった際の社会的リスク、事業リスクは小さくはなく、事業者の社会的評判や作品・タイトルの評価の低下を招く恐れがある。顧客からの信頼喪失や経済的損失につながるリスクもあるため、国内外のどちらの場合でも文化盗用に関する問題は適切に管理する必要があるのだ。



最後に、文化盗用リスクを管理するための方法について。まず、何かにインスピレーションを得ているのであれば、その参照元の表現が何に由来しているのか確認しておくことが必要。それが現代文化や、伝統文化にもとづく現代の創作であれば知的財産法など。伝統文化であれば国ごとの特別法や規定に目配りしていくことが重要になる。
そのほか、自己点検や第三者による監修・考証の必要性といった、さまざまな社会的リスクへの対応についても説明がなされた。かなり具体的な方法が紹介されているので、詳細が気になる人はタイムシフト配信をチェックしてほしい。




「文化盗用」は、さまざまな立場や考え方がある問題で、何が正解で何が間違いなのかは現時点では断言できないと野本氏は語った。今回のセッションも、特定の見解を擁護したり否定したりするものではなく、いろいろな考え方がある中でどうやってリスクをコントロールしていくのか、という部分にフォーカスした内容になっていた。
それだけセンシティブな問題であり、だからこそどういったリスクがあるのか踏まえ、トラブルを招かないように、しっかりリスク管理しておくことが求められるだろう。
本セッションは8月3日午前10時までCEDEC2026公式サイトにてタイムシフト配信中だ。
CEDEC2026公式サイト
https://cedec.cesa.or.jp/2026/
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