連載企画「ゲームの壺」第2回は、ナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)により幕が開けられた「THE IDOLM@STER」の歴史。今年2015年は10周年記念なので、アーケード版の稼働していたあの時代と、当時のプロデューサー業務を、年の瀬とともに振り返ってみました。

思えばあの頃、若かった…。そんな言葉がポロっと出てきてしまうほど、あらゆるコンテンツが目まぐるしく移り変わってきた激動の2000年代。そんな中にあって、今なお最前線の最先端をひた走る「アイドルマスター」が今年2015年に10周年を迎えたのだ。10年ですよ、10年。

事の始まりは、プラボ中野店(現namco中野店)のロケテストで口火が切られ、2005年7月26日に全国で稼働を開始したアーケード向けアイドルプロデュースゲーム「THE IDOLM@STER(アイドルマスター/以下「アイマス」)」こと、通称「アケマス」に遡る。

プレイヤーは芸能事務所765プロダクションの新人プロデューサーとなり、9人(10人)のアイドル候補生の中からプロデュースするアイドルを選ぶ。彼女たちとコミュニケーションを取りながら、ともに実力を磨くレッスンに励み、オーディションに挑戦してTV出演を勝ち取り、トップアイドルプロデュースを通じて“アイドルマスター”の称号を目指していく。

大型筐体を用いたアーケードゲーム環境の隆盛もあって、全面タッチパネル式のディスプレイ、ネットワークを介しての全国規模のランキング/コミュニティの形成、手塩にかけたアイドルたちのPVお披露目などなど、当時の新機軸のサービスが盛り盛り。ゲームの遊び方も新鮮な広がりを見せていた。

 
あえて特筆するのならば、飛び抜けて最先端であったと思えるのは“他人のいるオープンな環境の中でアイドルたちとコミュニケーションする”という挑戦的なプレイ環境にある。

昨今では形骸化したきらいを見せる「萌え」という言葉も、当時は最盛期。最近は街並みに溶け込みつつある「メイド喫茶」ですら、その目新しさに湧いていた時代。しかし、そんな「萌え」や「メイド喫茶」などが多少認知されつつあった時代背景と、ゲームというメディアに親身な人々が集うゲームセンターという場を考慮しても、外部から見た当時の「アイマス」というコンテンツは、それはそれは計り知れないものであった。

かくいう筆者も、アケマス稼働最初期から参加してきたプロデューサーではない。その頃は同時期に稼働を開始していたアーケードゲーム「機動戦士ガンダムSEED 連合vs.Z.A.F.T」で「ドラグーンつええー!」などと言いながら、横目でチラチラ見ていた程度である。

 
それがどうして、いつの間にやらこんな記事を書くようになったのか。まあ、よくあることだ。ちょっとした気の迷いで「アイドルって(笑)なにこれ(笑)ちょっとやってやっか(笑)」くらいの上から目線でフラッと立ち寄ったら、タッチパネルに反射する真夏の太陽に当てられてしまった。つまりはお察しのところである。

というわけで今回は、10年という長い時間で少しづつ溶け出してきた思い出をなるべく取りこぼさないよう、「アイマス」に心惹かれてしまった人たちと当時の思い出を共有すべく、筆者が駆け抜けた「アケマス」の時代を、「アケマス」というオンリーなゲームを、今一度振り返ってみることにしてみた。

結構なボリューム感ではあるが、時間と興味と郷愁の許す限り、お付き合い頂ければ幸いだ。

「アケマス」ってこんなゲームだった

アーケード版「アイドルマスター」のプレイは、200円で1週(ゲーム内単位)、500円で3週が導入時の一般的な設定。まずはコインを投入したのち、自身がプロデュースするアイドルを選択して、そのユニット名を考える。最初のチュートリアルで担当アイドルとの顔合わせを済ませたら、3週にわたるチュートリアルを終え次第、本格的なプロデュース/アイドル活動がスタートだ。

プロデューサーはその週の活動を左右する選択問題「朝の挨拶」を済ませ、昨今の「流行情報」をじっくりチェックしたのち、能力を鍛える「レッスン&コミュニケーション」か、アイドルの決戦場「オーディション」を選択する。いずれかを済ませるとゲーム内時間は夜となり、その週の成果とファンからの贈り物を確認したら、これで1週が終わり。厳密には時間は細かいタイマーで刻まれているのだが、先は長いので割愛。

レッスンで鍛えて、オーディションに勝利し、さらなる高みを目指していく。このサイクルを繰り返しつつ、ゲーム内の1年間でどれだけファンを獲得できるかがゲームの基本目的だ。ちなみに、さまざまな家庭用版では「レッスン」と「コミュニケーション(営業・プロモーションとも)」は別々のコマンドとして機能しているが、アーケード版では一つの選択で二つを実行できたので、何となく今でもお得感が強い。

 
基本的な攻略指針は、レッスンで上昇させられる3つのパラメータ【ボーカル】【ダンス】【ビジュアル】と、仕事やオフでのコミュニケーションを通して溜めていく【思い出】の数を計算しつつ、タイミングを見計らってオーディンションに挑み、ランクアップを目指していくこと。

各パラメータの総合値で算出される「イメージレベル」はそのまま“アイドルの強さ”となるし、思い出はオーディション中の奥の手となるので、「じゃあ、じっくり育てていけば安心じゃん!」という結論に達したくなる。しかし、アイドルの世界はどこまでいっても現実的だ。

アイドル活動は成果がすべて。ゲーム中は設定週までにファンの人数を増やし、アイドルとしての格を上げなければいけないゲーム進行の制限「ランクアップリミット」が課せられるため、ぬくぬくと実力だけを磨くことは即ち、引退への一歩を踏みしめることと同義である。

突如として訪れるあんまりな結末(バッドエンド)は、ゲームであると分かっていても、プロデューサーたちにある種の使命感を覚えさせる。「これからは、彼女たちの人生を預かる身として、どこまでも尽力します!」……こんな心構えに思い当たる節があれば、そいつはプロデューサーだ。

 
しかし、オーディションはオーディションで、勝利を得るにはさまざまな要素が絡み合う。能力を十分に活かせるかはアイドルの気分「テンション」でコロコロと変動してしまうので、挨拶や会話の成否によっては「朝まではあんなに元気だったのにー!?」が起きうる。とても悲しい。

また、レッスンではボーカル特化で育てていたのにオーディションではダンスブームが訪れてしまったり、絶対受けなきゃいけない特別オーディションの参加資格を満たせていなかったり、持ち歌が流行から廃れて見向きもされなくなったりと、プロデューサーには次々と難題がのしかかってくる。プロデュース業務を円滑に進めるためには“短期的な目標/長期的な見通し”が求められるのだ。

もちろん、ゲームとしての目標とは別に「誰々とひたすらコミュニケーションしたい!」「このユニットで頂点を目指したい!」「(プレイヤー同士のコミュニティである)事務所を一流へと伸し上げたい!」「ボナレ2、即13週」など、プロデューサーの数だけプレイスタイルがあるので、漫然とルールに従って遊ぶだけが能じゃない。

人それぞれの楽しみ方で「目指せ!トップアイドル!」である。

合言葉は「ありがとう、ゆめりあ…」

3Dモデルで形作られたアイドルたちは、アニメ調な2次元と、写実的な3次元の旨味だけを集めて作られたかのように、新時代の到来を予感させる仕上がりであった。そんな彼女たちが歌って踊るライブシーンは実に華やかで、ダンスの動きは大変ダイナミック! “3Dの固さ”にしょっぱさを感じていた時分には、衝撃的な存在であったのだ。

そして何より、日常的な少女たちの仕草がピカイチ。表情の細やかさ、ちょっとした手癖の動作さなどは、もはや「筐体に、人が入っているんじゃないのか?」と疑惑を問いただすレベルだ。まあ、ビジュアル面についてはXbox 360版が巻き起こした驚天動地のトゥーンレンダリングから急速に進化したため、今となってはアケマスのモデリングでは若干分が悪い。目が肥えたか。

とはいっても、実際にタッチパネルで触れ合ってみるとビックリするほど可愛いので、アケマスを体験したことのない人ほど、外見で語るべきではない。聖地と呼ばれるnamco中野店では、いまだに店内2階のほぼ正面にアケマス筐体が並べられているので、実際にプレイしてみるのが一番早い。Here we go!!

※2015年11月までは引き続き設置されていることを確認。

「ざわざわ…」「おい、なんだよあのゲーム…」「やべぇ…」

昨今ではもはや様式美とも捉えられる“アイドル×プロデューサー(プレイヤー)”の構図だが、当時は怯えるほどに斬新な関係性であった。また、実際にアケマスをプレイしたことがある人とない人では、本作に対する印象もかなり違うはず。

アケマスは冒頭で記したとおりオープンな環境の中でプレイする。その姿を傍目から見ていると、エッジが鋭いというか、剣山が尖ったというか、身も蓋もなくいうと「人前でゲーム内の女性キャラクターと楽しげにコミュニケーションしている」ような強烈なイメージではなかったろうか? 強く否定はできないが。

全面タッチパネルという体感的インターフェースは、当時のゲーム業界における技術的特異点をいとも容易く突破していたが、それを女性キャラクターと融合させる所業はもはやビッグバン。この組み合わせから導き出されるイメージ像が未経験者にどのように映って見えるのかは、火を見るより明らかだ。あずささんとか分かりやすい。

しかし、アケマスは意外なことに“洗練されたアーケードゲーム”の様相を保っていた。本シリーズはビジュアルからして、アイドルの女の子たちがゲームの印象を全面的に引き受けてしまうのだが、その実は雲中白鶴とでもいうか、アーケードライクな無機質さとでもいうか、すごくサラっとしたゲームに仕上げられている。

 
アケマスのゲーム的要素を突き詰めると、ファンの獲得人数(スコア)を「俺が全国一位だ!」と競い合う性質が浮き彫りになってくるのだが、その受け皿となるプレイングの戦略は幅広く、奥深い。全編通してランダム要素に左右されることもあってか、不定形の環境の中でストイックにスコアを追求するプレイングも人気を博していた。

しかし、そこで問題となるのが「スコアとアイドル、どっちが大事なのよ!!」のジレンマ。ゲーム内でアイドルとじっくり対話できるのはそれこそ「コミュニケーション」くらいなので、ストイックの本流となる「オーディション」に傾倒しながらプレイしていると、彼女たちとの接点が挨拶だけになりがちで、彼女たちと触れ合えるコミュニケーションの回数が圧倒的に足りなくなる。

アケマスのプロデューサーは無理矢理二極化してしまうと「コミュ派」か「スコアラー」かに分かれるが、コミュニケーションを多く取っているとスコアが出し辛く、オーディションにばかり出ているとアイドルとの会話もままならない。プレイが洗練されるほどに無駄がなくなるのはゲームの常であるが……殺生なことだ。

もちろん、これはゲームバランスや良し悪しの問題ではなく、結局のところプレイスタイルに帰結するポイントなので多くは言えない。だが、スコアラーとして身を立てる決意をしたばかりに、アイドルと触れ合う暇もなかった人がいるということも知っておいてほしい。プレイスタイルは人それぞれとはいえ、ゲームとの付き合い方を改めなければ中々気付けない難問であった。

 
また、ゲーム中は「朝」「活動」「夜」の各セクションがしっかりと区切られているが、場面転換もサバサバとしたものである。“アイドルたちとの何気ないふれ合い”も当時はそれほど備わっていなかったので(ドラマCD除く)、「アイドルマスター ワンフォーオール」で日常的な空気感をようやくにして感じ取れた人は、この上なく嬉しいポイントであっただろう。

まあ、アケマスはそもそも元祖なので、構想にはあったのだろうが導入には至っていない、というのが正しいところか。しかし、アイドルたちとのタッチコミュニケーションが鮮烈な印象として残るばかりに、相対的に細かなポイントで日常感の物足りなさを感じ取ってしまう。そのため、アケマス単体でプレイした際は、意外と機械的なゲームに感じる人もいたはず。

とはいっても、わざわざ“単体でプレイすると”と記したように、大抵のプロデューサーは公式携帯サイト「アイドルマスター」の月額会員登録を済ませていたと信じておきたい。ここで提供された公式コンテンツの数々は、アケマスに足りない部分にピッタリと当てはまっていった。アケマスは携帯サイトと連携することで真価を発揮する――未知のサービス形態を水面下で推し進めていたのだ。

 
ここから提供されるサービスは便利機能も含めてどれも濃い目で、脇の立ち位置にいたはずなのに、気付けば圧倒的な存在感を醸し出しているサブヒロインのようであった。コンテンツはいずれも筆舌を尽くして語りたいのはやまやまだが、その中でも特筆すべきはやはり、筆者の周囲ではキャバメ(通称)と恐れられていた革新的サービス「メール☆プリーズ」であろう。

本サービスは、リアルの携帯電話のメールアドレスにアイドルたちからのメールが届くという文面通りのもので、ふとした日常生活を垣間見せてくれるメール、オーディションの合格を一緒に喜ぶメール、ある時はプロデュースしていないアイドルから届く間違いメールなど、彼女たちがこちらの生活に浸食してくる。発想からして天才すぎる、秀逸なサービスであった。

中には「何月10日~13日に事務所で待ってます」という文章が添えられており、その時間帯にプレイすると、結果が有利になりやすいテンションMAX状態“ワクテカ(通称)”で待っていてくれる「ブーストメール」も存在するため、我々は「まあ、せっかくプレイするならその時間帯にしておくか…」と思わず出勤してしまう。伊織なんかは時間の指定幅が短すぎるため、担当していた人は無理矢理時間を作って足を運んでいたことだろう。その人にとっては義務だったのだ。

ちなみに、皆さんの携帯に彼女たちからのメールは残っているだろうか? 私はスマートフォン世代に入ってもなんとなく消すことができず、いまだにデータの一部分を引き継いでしまっている。こういう人がまだ残っていると嬉しい。流石に恥ずかしいし。とまあ、ゲーム外でのふくらみを持たせていたこともアケマスを語る上では欠かせないポイントの一つ。

 
それと、ゲームに対して「無機質さ」という言葉を使ったが、筆者にとってこれは褒め言葉としている。女の子、アイドル、可愛い、ビジュアル通りのコンセプトをバカ正直に振りかざして「萌え萌え~」させるのも時勢の手であったものを、アケマスはゲーム作品として“ゲームセンターにあるべきアーケードゲーム”という姿勢をキッチリ守り抜いて作られていた。

彩り豊かな装飾を身に付けながらも媚びないゲーム性は、往年のアーケードゲーム「源平討魔伝」「スプラッターハウス」「ワンダーモモ」のような、一目でインパクトを与えつつも歯ごたえ抜群なタイトル群に近しく思える。こういうキリっとした上品な設計で練られている作品というのは、プレイする側であってもちょっとだけ誇らしい。

そして結局、どれだけ意識髙くプレイしていようが、後ろで見ているギャラリーに“それ”を伝えるのがとても難しいという話に帰納する。仕方のないことだ。とはいえ、今のご時世ではこういう味付けのゲームも広がりつつあるし、過剰な偏見もなさそうだし、そもそも気にしないスタイルを培っていれば、やる側もみる側もさほど気にしないだろう。唯一、プレイ中の表情だけは引き締めておくのが身のためだが。

レレオオオレオオオレ(※ここ中減衰)

さて、アケマスについては“その難易度の高さ”にハッキリと言及しておかなければならない。曰く「アケマスは何も知らない人がプレイしたら、即刻バッドエンド以外の結末を見られる方が珍しい」と、誰もが同じように語り継ぐ有様だ。

アケマスは“チュートリアルで3を教わり、プレイで10を実践”しなくてはならない都合上、プレイヤーへの要求スキルが非常に高い。反射神経や記憶力がモノをいうミニゲーム式のレッスンは、理詰めにしたい育成計画を大きく揺るがしてしまう。オーディションの仕組みと戦術を理解するにもそれなりの経験が必要となるし、リアルでのスケジュール管理がほぼ必須な点もチャレンジブルだ。

各要因はアップデートと共にさまざまな形で緩和されていったとはいえ、後にリリースされていった後続タイトルたちと比べれば、いまだアケマスは四隅の角をほんの少し丸めた程度の本格派アーケードゲーム。レッスンとオーディションのバランスはもちろん、ランクアップリミットに向けた短期目標、曲減衰のタイミング次第では、いとも容易く引退へと追いやられてしまう。

その日のプレイで活動記録を取っておくこともかなり重要で、最後のプレイでランクアップしてしまった際は「次:ランクアップコミュ」の一言でも記しておかなければ、次回プレイで確実に忘れて阿鼻叫喚を迎える。これはゲーム全体が説明不足ということでもなく、手放しにプレイしていては必ず何かしらの落とし穴にはまってしまうほど、単にゲーム中の情報量が多いということである。

 
また、“オーディションは常勝不敗であれ”を旨としておかなければ、栄光への道が一瞬で崩れ去る点も見逃せない。オーディションでは勝つたびにパラメータに上昇補正が加算されていくのだが、これが実に甘美で頼りがいがある。最大効果にもなると楽曲や衣装のボーナス値(悪魔シリーズなど例外あり)に匹敵し、ステータスの一部として欠かせないものとなる。

しかし、(一定ランクを超えて)連勝中に一度でも不合格を宣告されれば、全ての補正は一瞬で剥ぎ取られ、素のままの自分をさらけ出してしまう諸刃の剣。「え、なんでこんなにレベルが下がってるの…?」と進むべき目標と本来の能力のギャップに直面し、アイドル活動は一時的に平行線をたどってしまう。頂点を目指せば目指すほど、勝利という魔法をかけ続けなければいけないのだ。

ちなみに、筆者の3世代前の携帯電話に残されていた最後の記録は、

ある日の筆者の携帯メモの記録

14中・27中・大(楽曲変更週の意、だと思われる)

18:レ(ッスンの意)
19:オ(-ディションの意)
20:オ(-ディションの意)
21:オ(-ディションの意)
22:オ(-ディションの意)
23:オ(-ディションの意)

滅茶苦茶適当に見えるかもしれないが、プロデューサーカードとユニットカード(アケマスは2枚1組)の入った財布を数年前の旅行中に紛失してしまった今でさえ、白と黒をコンセプトに活動させていた雪歩と真のデュオであったことが克明に思い出せる。失くした当時はいの一番に頭の中で流れると思ってた「ポジティブ!」も、現実は「蒼い鳥」であったのがいい思い出。いや全然よくない。

九州にお住いのプロデューサーさん。両カード以外はお礼にしますので、なにとぞ、なにとぞ、それっぽい革の財布を見つけた際はご一報ください…。目印は春香ソロのユニットカードのファン人数が1,765,600で“765”となっているやつです! 分かりやすい! 吉報お待ちしております!

巣鴨プレイシティキャロットで選ぶ4人目のアイドルは、苦い

「最初に選んだアイドル、誰ですか?」

筆者が一番最初に選んだのは、なんとなく「高槻やよい」であった。素直で可愛らしい所作に頬肉をやられつつ、意外にも頑固で意固地な性格に“定型なキャラクター像”から外れた新鮮なギャップを覚えさせられた。作中関係で携帯を持っていないのを逆手に取った「メール☆プリーズ」演出には感無量の一言。

次に選んだのは「天海春香」。今でこそアイマス界の名誉センターとでも称すべき彼女だが、最初の頃はなんというか影が薄かった。明るく前向きな頑張り屋さんの一面がグイグイと心にくる彼女は、(個人的には)陰日向なメインヒロインとして親しみ深い。

しかし、アイマス界きっての衝撃的かつ現実的な結末が描かれるエンディングホルダーの地位は未だ動かず。「春香を幸せにしたい」と心に決めてしまったプロデューサーたちの背負う業は、筆者には今となっても計り知れない。

ところ変わっての3人目は、ソロかデュオかで悩んだものの、大変そうだったのでソロで「秋月律子」を選択。前の2人とは違い、考え方やコミュニケーションの取り方が一転して難しくなったが、それゆえ気合の入れ方も一味違うものに。いつまでたっても自信を持てない彼女の姿には、可愛さを感じる神経を全て染められてしまった気がする。

 
可愛らしい彼女たちとタッチパネルを通じて触れ合うのは“2000年代の未来像の到来”そのままであった。皆いい子でウマが合う、安心と信頼に足るべき女の子たちであった。しかし、それと同時にプレイもコミュニケーションも安定感を増し、若干飽きを感じてしまっていたことは否めない。

そんな心の停滞を感じ始めていた時の4人目――ここが私のターニングポイントとなった。そろそろデュオでもいいかなーと思っていたのだが、またまた運用にビビってしまい結局選んだのは1人。彼女の名前は「如月千早」。765プロの誇る歌姫だ

筆者はどちらかというとスコア重視に傾倒していったので、千早といえばご存じ、伊織、律子を要する当時の環境最強トリオ“無敵艦隊(通称)”の一角として逃す手はなかった。それにメディア展開もまだまだ薄いあの時期に、千早という少女を取り巻くセンセーショナルな環境などは、興味津々の猿(筆者)にはクリーンヒットである。

…しかし、この千早との出会いが、筆者と「アイドルマスター」の関係を大きく変えてしまったのだ。

 
大仰に言ってみたものの、残念なことに「ちーちゃん可愛い!」とかそういう部類の話には繋がらないのがミソ。当時はどっこいどっこいの年齢であったが、筆者はただただ千早という少女に驚嘆したのだ。“歌は歌いますが、アイドル活動に興味ありません”という、ゲームのコンセプトを根っこから否定してくるその姿勢に。発言があまりにもロックだが、そんなことを伝えようものなら冷然と無視されるのが想像に難くない。

そんな姿勢にブレはなく、研ぎ澄まされた彼女の出で立ちはまるで日本刀。圧倒的に恵まれた才能(パラメータ)の代償は、恐ろしく繊細なテンション事情。夜の事務所で「今日はブースト状態でオーディションも楽々合格。明日も元気に頑張ろうな千早!」と心の中で声をかけた次の朝、画面に映し出されるのは当然といわんばかりの黄緑マーク。テンション中だ。

お顔はキリっとしているご様子だが、どうしてそんなテンションになっているのか、こっちには何が何やら分からない。特別オーディションに臨もうと画策していた時などは、混乱した心がもどかしいばかり。「千早の気持ちが知りたいの…」、目の前の少女の代わりにそんな乙女心を抱いてしまう。9時2分状態といっていいだろう。

 
極めつけは類稀にみるコミュニケーション力。春香とやよいは“こう言えば喜んでくれる”と思う台詞を選択するだけでも、8割から9割に近いほどのパーフェクトコミュニケーション(大成功)を与えられた。律子は個人的に難しい方ではあったものの、考え過ぎるくらいに気を配れば笑顔を見せてくれた。

しかし、千早は違う。一筋縄ではいかないとかそういう問題ではない。もはやどの台詞を選べばいいのか、どういう反応を見せるのか、どういう結果が訪れるのか、最初から最後まで会話の脈絡が何一つ想像できない。分からないのだ、筆者には。加えてこの頃のプレイヤー扮するプロデューサーはアグレッシブな姿勢で物事を解釈するため、持ち前の選択肢の発想すらもサッパリ分からない。

千早にはいわゆる“ギャルゲー的なお約束の選択肢”が全くといっていいほど通用しない。それならば……と安易に逆説に従おうものなら、図ったように不機嫌そうな結果にたどり着く。思考のドツボが招くのは、完璧と思っていたらグッドコミュニケーション、積み重なるノーマルコミュニケーション、初めて出会ったバッドコミュニケーション、そして君がいない事務所(ドタキャン)。韻を踏めば秀逸なリリックを奏でてしまいそう。

千早の初プロデュースの結果は、10年経った今でも覚えている。2、6、14、2だ。活動終了時(クリア時)の結果報告で表示される、プロデュースを通してのコミュニケーション結果の分布。パーフェクト2回、グッド6回、ノーマル14回、バッド2回を指している。

パーフェクトは当たり前、バッドなんぞ見たこともないほかのアイドルたちに比べ、全てが悪循環を巡る、惨憺たる結果。完璧プレイをなぞりたいタイプの筆者は、驚愕のままに念仏のような4拍子でこれを唱えすぎたがため、今でも頭にこびりついて離れない。これが如月千早との出会いであり、アケマスに焼かれた最初の焦げ付きとなった。

 
ともかく、千早はコミュニケーションの成功でテンションを維持していかなければ、オーディションで能力を発揮することが難しくなるので、ほかの子と比べると挨拶一つが命取りだ。生きるコミュ字引となるためにプレイ体験だけでALLパーフェクトコミュニケーションを目指したこともあったが、叶ったことは一度もあらず。攻略環境が洗練されていくたび、煌びやかなライブタワーへの道は遠ざかっていった。

ハイスペックだけど手におえない千早のアンバランス感は、うまく物事が進まないイライラ感を筆者に与える。もちろん、単純にプレイングが悪い時もあれば、彼女のテンションの急落下のせいもある。オーディションでは、万全を期したい「IDOL VISION」を蹴って、1つ下の「LOVE LOVE LIVE」で我慢することもザラだ。しかし、荒波のように予期せぬ展開をもたらす千早との活動は、不思議なことにつまらなくない。

幾度となくプレイに臨み、どうしようもないテンションに嘆き、理不尽な選択肢に刺されつつ、メカご飯に神秘を感じ、安定剤(やよい&亜美/真美)をコンビに投入したりしながら、やがて世界に羽ばたいていくアイドル・如月千早。推しているアイドルかと言われれば「う~ん…」と首をひねるが、誰を選ぶかといわれれば迷いなく選べる。可愛いという感情はしっくりこないし、信愛ともかなり程遠いかもしれない。

だが、アイドルマスターの高みを目指す逸材としてこれ以上はいない。こちとら戦略を持って頂点に挑む役割なんだ、応援するだけのファンではいけない。理解の届かない、衣一枚の苦手感は未だに払拭できないものの、こういう張り合いがある存在で、ゲームライクな付き合い方ができるアイドルというのは、今となってもそれほど悪くない。

アケマス楽曲を振り返ろう!ちょっとだけ!

「アイドルマスター」には数多もの関連楽曲が存在し、新曲・アレンジ・カバー等々……その楽曲数は500、600、700と、あれよあれよという間に増え続けている。今回紹介しているアケマスには、各アイドル候補生たちの持ち歌をイメージした9曲と、シリーズ表題曲である「THE IDOLM@STER」を加えた全10曲が収録。数でいえば少ないが、ここの楽曲を通らずして、今日のプロデューサー業務を続けている人の方が少ないことだろう。

なお、ゲーム内ではこれらの楽曲をシステム的に、イメージレベル的に、気分的に、各々の戦略をもって計3曲まで随時選択していける。楽曲にはパラメータ補正とBPMが設定されており、オーディション時はリズムゲームの武器として、合格時はご褒美の祝勝ソングとして、選択した楽曲とそれぞれ付き合っていくのだ。

しかし、楽曲選択後は一定の活動週ごとに能力補正が弱まる「曲減衰」が、小・中・大と段階的に襲ってくるため、安易に変更することはできない……という知識をあらかじめ知っておかなければ、そもそも攻略が厳しい。危険な兆しを迎えると通知をしてくれるものの、ほかの選択肢との兼ね合いを考えると、これも逆算した減衰時期のメモ書きが必須となる。

また、選べる楽曲はどんなにも祈ろうとも、たったの3曲。「魔法をかけて!」は絶対選ぶし、「First Stage」は必ず選ぶし、「ポジティブ!」は欠かさず選ぶしと、誰もが残酷な選択肢を突き付けられる。キャラクターと同様だが、楽曲も一つ一つを書いていてはこれ自体が大盛りに膨れ上がってしまうので、今回は自分なりのテーマに沿った2つの楽曲を泣く泣くピックアップしてみた。

1曲目/「太陽のジェラシー」

ど真ん中直球アイドルソングなテイストが心地よい「太陽のジェラシー」。何故ここでこの曲かというと、それはアケマスにおいて最も“立体的な楽曲”であるからだ。それはメロディーの構成といった話ではなく、アケマス筐体においては最大の効用が引き出せるからにほかならない。アケマスは遊び方やキャラクターだけではなく、音源の演奏までもが立体的だったんだよ!

どういうことかというと、この太ジェラ(「太陽のジェラシー」の略称)。サビ入り前のパーカッションが効き過ぎている。筐体にモニター性能の高いヘッドホン(筐体付属物でも十分)を接続すると、アンプからの音圧が体の中で「ドォン!」と鳴り響く。まるで花火のように。ゲーム筐体で体験するには当時はあまりに鮮烈であったため、取り上げてみた次第である。

時間でいえば一瞬の出来事で、音響としても些細なものだが、これはほかの楽曲にはない、ふとジェラならではの持ち味だ。おそらく意図して作ってあるのだろうこのサウンドの遊び心は、数も大分少なくなってきた昨今であるものの、実機の筐体でもって体験してもらいたいポイントの一つ。もちろん、近々のCD収録音源では聴けないプレミアム音源仕様だ。物は言いようだが。

ついでに写真(※)を撮るタイミングとしてもベストポイントである。

※アケマスでは、アイドルの活動記録を保存するリライタブルカードの表面に、番組出演時に手動撮影できる彼女たちの写真が印字可能であった。ただし、取れる写真は“1枚だけ”。チェリーギンガム級の可愛さを狙うも、ランダム発生のアクシデントに全精力を注ぐも、お好きにどうぞ。

2曲目/「THE IDOLM@STER」

こちらはゲームタイトルではなく、楽曲の方の「THE IDOLM@STER」。これを取り上げた理由は、その“衝撃的な歌詞”にある。本楽曲では、とあるアイドルの苦労話にまみれた、赤裸々で挑戦的な思いが綴られている。現代でこそ表現の幅も広がり、アイドルという職業のあり方や、社会的通念もさまざまに変化してきてはいるが、それでもなおこの曲で歌われている少女の想いは、あまりに正面突破である。

上から目線でしたたかな印象、恥じらいなんて邪魔といいながら、意外と女の子らしい。悪いことにはそれほど興味はないが、急に海に行きたくなった、優しくしろ、車を出せ。寝る間を惜しんで向かう学校には顔も分からないクラスメイトしかいない。そして彼氏ができないと苦労を吐露する。ちなみに向いてないから会社勤めもしたくないらしい…etc。

世が世であればイメージ問題で炎上不可避とも思える彼女だが、アイドルであることには芯の通ったプライドを垣間見せる。自身のあり方をしっかりと鑑み、そこに対する甘えや妥協は上辺でしか吐いていない。本来なら見せないはずの表情を思うがままに曝け出しながらも、決して欠かすことのない矜持をもって、己がアイドル道を突き進む。女の子は強いのだと。

 
論じる焦点が変化球すぎるかもしれないが、この強烈な小悪魔的エネルギーに満ち溢れた「THE IDOLM@STER」の少女はちょっとカッコいい。「天然」「可愛い」「自然」がばっこする業界にあって、“進もう毎日、夢に向かって漠然とじゃない意図的に”と目標高く磨いたフレーズを口にできるのだ。少し憧れを抱いてしまう。

しかも、ショッキングでストレートなこの楽曲は、夢や希望や友情に満ち溢れた「アイドルマスター」という枠組みの中にあって、表題曲として堂々とその人気/地位を築いてきたのだから驚きだ。これがアイマスだからなのか、表題曲だからなのか、表現者たちの力なのか、それともこの“彼女の力”なのか、いまだに求心の源は判別できない。

伏し目がちな昨日を捨てて、これから始まる自身の伝説の口火を切る。最後に現れた表題曲(※)はやはり伊達ではなかった。

※「THE IDOLM@STER MASTER BOOK」インタビュー部分より参考/著者:ゲーマガ編集 出版:ソフトバンククリエイティブ 発刊:2008年3月22日

記事後編ではオーディションに言及!

今回は記事前編として、アーケード版「アイドルマスター」の全体概要について振り返ってみました。しかし、だがしかし、筆者が最も熱狂したコンテンツについては一切触れていません。ということで明日12月27日には引き続き、連載記事【アケマス、10周年だって―アーケード版「アイドルマスター」ビックリするほど好き過ぎたオーディションの魅力に迫る】を掲載していきます! 記事リンクは下記参照!

Gamer連載企画「ゲームの壺」とは?

古い? 知らない子だ…
名作? 聞いたことがない…
面白い? それなんですよ!

面白いという感動を与えてくれたゲームタイトルを、ざっくばらんに紹介していく不定期連載企画「ゲームの壺」。ここでは新旧問わず、編集部スタッフがさまざまなタイトルを、さまざまな角度で斬り込んでいきます。“ちょっとした箸休めのつもりがガッツリしたものに出会ってしまった”。そんな読了の経験を味わいたいという人は、どうぞ一度目を通してみてください。

第1回:SS「シルエットミラージュ」を紹介!
第2回:AC「アイドルマスター(前編)」を紹介!
第3回:AC「アイドルマスター(後編)」を紹介!
第4回:DC「カルドセプト セカンド」を紹介!
「ゲームの壺」はこちらからチェック!

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(C)窪岡俊之 (C)2003 2007 NBGI
PROJECT IM@S

※画面は開発中のものです。

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Picross -LogiartGrimoire-
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SUNSOFT is Back! レトロゲームセレクション
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UFOロボ グレンダイザー:たとえ我が命つきるとも
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剣と魔法と学園モノ。2G Remaster Edition
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エルシャダイ・アセンション オブ ザ メタトロン