ソニー・コンピュータエンタテインメントから発売となった、PSP専用ソフト「俺の屍を越えてゆけ」について、本作のシナリオ・ゲームデザインを手がけた桝田省治氏にさまざまな話を聞くことができたので紹介しよう。

目次
  1. プロフィール
  2. 新たなシステムの大部分は続編の布石
  3. 長く支持され続けるための仕掛けとは、そして気になる続編の内容は?
  4. 今どきのゲームについて、そしてリメイク版のプレイヤーに望むこと

11月10日、名作RPG「俺の屍を越えてゆけ」(以下「俺屍」)のリメイク版がついに発売された!本作のオリジナル版は1999年にソニー・コンピュータエンタテインメントからプレイステーション専用ソフトとして発売。キャラクターが世代交代していくシステムや平安時代の日本をベースにした世界観などの個性的な要素で、多くの熱狂的なファンの支持を集めてきた。

そんな「俺屍」リメイク版の発売を記念して、本作のシナリオ・ゲームデザインを手がけた桝田省治氏にインタビューを敢行。12年振りとなるリメイク版制作の意図や新要素・変更点の話から、誰もが気になっているであろう続編の話題まで、あますところなくお伝えしていこう。

プロフィール

桝田省治(ますだしょうじ)
1960年生。「天外魔境II 卍MARU」「リンダキューブ」「俺の屍を越えてゆけ」「我が竜を見よ」などの個性的なRPGを世に送り出したゲームデザイナー。近年は小説家としても活動しており、代表作は「透明の猫と年上の妹 3LDK-RPG」「傷だらけのビーナ」「ハルカ 天空の邪馬台国」など。

新たなシステムの大部分は続編の布石

――今回、12年経ってのリメイクとなったわけですが、このタイミングになったいきさつ、経緯から教えていただけますでしょうか。

桝田氏:実際には続編の企画が10年ぐらい前からあって、何度かSCEさんに出していたんですけど「もうすぐPSPのアーカイブスが出るから、PSPはないかも…。」とか、いろいろあって延び延びになっていたんです。

――難航していたんですね。オリジナル版はかなり評判が良かったと記憶していますが。

桝田氏:「一部」の評判は確かに良かった(笑)。初週が2万本で、3ヶ月で10万本ぐらいになって、おそらく1年ぐらいで18万本とか19万本くらいかな。だから、採算ベースには乗ったけど、大売れしたっていうほどでもない。バブルの時期は30万本、40万本売れてるゲームはいっぱいあったんで。でも、そこから廉価版、さらに、PS-oneブックスが出て。で、アーカイブスのダウンロード数がさらに10万とかいう形になって、数えてみたら12年間でのべ50万人くらいがやってて、それってすごくない?みたいな。

――息の長いソフトですよね。

桝田氏:だから、続編出してもいけそうっていう感触はあったんだけれども、やっぱり「12年前のソフトが売れるの?」っていうのが上の人たちの不安なところなわけです。ならば、続編を作ることを視野に、今一番市場で活気のあるハードのPSPで、みたいなことになって。

――続編はこの作品の売上にかかってくるみたいなところがあったわけですか?

桝田氏:当初はこれの売り上げで、やるかやらないか判断しましょうっていうことだったんですけど、限定版が出たらあっという間に売り切れちゃったんです。それでゲームショウで続編作りますと発表したわけです。

――なるほど。それでは今回のリメイクするにあたって特にこだわったという部分は何でしょう。

桝田氏:ざっと50万人位がプレイしているので、当然「ここは使いにくい」とか「この術があるためにバランスがゆるすぎる」とかいう意見が何千ときているわけです。なので、この12年間を支えてくれたお客さまにお返しするっていう意味で、開発費とスケジュールが許す限りは、それらにできるだけ対応するっていうのがまず一番ですね。二番目は続編を作るにあたっての市場調査ですね。続編のコンセプトはすでにいくつかあるんですが、その中の分かりやすい部分を入れてみてユーザーはどう反応するだろうとか、どんな使い方をするだろうとかいうのを探りたいと。今回追加された新要素っていうのはだいたいそれです。

――リサーチ的な部分もあるわけですね。

桝田氏:単純にリメイクするだけであれば、先に言ったユーザーが不満に思っているところをできるだけ潰してお終いでいいと思うんですけど、ぼくらが考えているのは次なんで。多少バランスが読みきれない部分もあるけれど、続編の確度を上げるために入れてみたんです。例えば、神様の成長と刀が世代を越えて引き継がれて強くなっていくというふたつに関して言うと、「俺屍」世界のいろいろな要素に対して、プレーヤーがもっと干渉できるようにしたいと。自由にパラメーターを動かすという部分で、存在感を主張できるというか。本当はもっと大きなことを考えているんですけど、その中でも分かりやすい部分を試しに入れてみたわけです。

「結魂(けっこん)」は通信の要素を入れるためですね。本来「俺屍」っていうのはひとりで心ゆくまで好きなように一族をいじくりまわしてっていう自己満足の極みみたいなゲームなんです。他人のやったゲームのデータが入ってくるっていうのは本来相性はよくないんですね。だから作ってはみたけど結局は削るかもって思ってたんですけど、やってみたら妙に面白かったんですよ。スタッフはみんな「俺屍」をやり込んでいる連中で、多少のことが起きたって「ああ、そんなこともありますよね」って感じなんだけど、そんな皆がとても盛り上がっている。

――普通のユーザー間でもありえるような盛り上がり方だったわけですか。

桝田氏:お互いにやり込んでいる者同士だから、どういう経緯でこの一族になったか、その人がどういう戦術を使っているかまで、キャラのデータを見せっこするだけでだいたい分かるんですよ。「あー、彼はこうやってるんだ。俺はこうだけどね」って。で、彼のキャラクターとウチのと交ぜるとどうなるんだろうっていう、ワクワク感みたいなのがでてきたわけです。それは「俺屍」の本来的な楽しみ方とは違うんだけど明らかに面白いので、じゃあ試しに入れてみるかっていうことになったんですよ。

――そうだったんですか。ちなみに「結魂」や「合魂の宴」のネーミングのアイディアはどこから?

桝田氏:最初は普通に「結婚」だったんだけど、倫理的な問題で使えなかったんです。よくは覚えていないんだけど、キャラクターに拒否権がないとか、親に押し付けられる制度はマズいとか。確か、そういう理由でダメになったんじゃないかな? だけど「結婚」という言葉は分かりやすいから使いたくて、もうなかば冗談で「婚」を「魂」に変えたらどうですかと。それで、肉体の接触とかはありません、気持ちだけですとか言って。

――魂の結びつきというわけですか。それで大丈夫だったんですか?

桝田氏:ええ、大丈夫だったんです。「これで通るの? じゃあ、まあいいか」っていう(笑)。で、「合魂の宴(ごうこんのうたげ)」のほうは開発機を並べて通信のテストをやったとき、誰かが「なんかこの雰囲気って合コンみたいですよねー」って言ったんですよ。システムメッセージを書くときに、そのことをふと思い出して、「コン」がまたあるんで、引っ掛けてみようと。そうすると、言葉としても面白いじゃないですか、覚えやすいし。

――初めて見たときは笑ってしまいました。

桝田氏:もう忘れないでしょ? まあ、これらをプレイヤーがどんな風に受け止めるかは実のところ分かんない。もしかしたら「いらん!」という人もいるかもしれないし、僕らの思っている以上の使い方とか楽しみ方を見つけるかもしれない。もしも、そうであるならば、プレーヤー間でのデータのやり取りで生まれる面白さっていうのを続編ではもっと追求してみたいですね。

――ほかにも雨とか雪とか天候変化があって、それが戦術と関わってきたりとかしてますよね。

桝田氏:あれはオリジナル版のときにあったアイディアなんですよ。京都なのに四季がないねって。ただ、見た目っていうのは所詮1回か2回見たら慣れちゃう。それじゃあグラフィックデータを作るコストに見合わないんで、飽きないようにする工夫はないかって考えたわけです。けっこう面白いですよ。序盤だと雨が降ったりすると火力が下がるわけですが、後半になると敵も味方も火力アップみたいなのが出てくるんですよ。今までは当たっても「あ、ダメージ20ね」っていうのが、いきなり40になって、それが3人分くると「うわ」っていう感じです。しかも、さらに倍っていうのも出てくるんですよ。そうすると、ホントに何でもない火の術が致命傷になるんです。

――それで併せとかやったら、またスゴイことに

桝田氏:そうそうそう!判断が遅れると死にますね、そこは。それと、前はボスキャラの復活サイクルは1年だったんですけど、今回は半年に変えてます。そうすると、うまくスケジュールを組めば2ヶ月に1回くらいの割合でボスと戦えるんですよ。で、ボスと戦えればザコの相手をしなくても十分経験値を稼げます。

――なんで短くしようと考えたんですか?

桝田氏:神様を全員解放しないとラスボスには挑まないとか、そういうやり方の人がいるじゃないですか。それに、戦闘では強かったのに遺伝パラメーターは大したことねえやという不満もあったりしたんです。で、ボスの神様の遺伝パラメータを高く変えたんですけど、それ以前に1年1回しか戦えないから解放するのに時間がかかるんだということに、ハタと気づいて、だったら短くすりゃいいじゃんって。

――かなり戦い方の幅が広くなっているんですね。

桝田氏:そうですね。奥義の併せとか術の併せの倍率もオリジナルより上げています。今までだったら、ボスと戦うときには敵の攻撃を当たらなくする「陽炎」とか、自分の防御力を上げる「石猿」とかの術を何回もかけておくのが定番の戦術だったんですけど、そうすると10何ターンとかかかるんですよ。でも、今回は敵の弱点とかにピタっとハマる術とかを1ターン目で4人で併せるとか…もちろん敵の攻撃をバカバカ受けるんですけど、2ターン目で4人が生き残っていて成功すれば、もうその次のターンで勝てるとか。それぐらいのバランスなんですね。

――ずいぶん思い切った変更ですね。ヘタすると物足りないとか言われそうですが。

桝田氏:ただしですよ。それをやるためには4人が同じ術を使えなければいけないとか。奥義であれば4人のうちのふたりが親子で同じ職業でなければいけないとかいう制約が出ますよね。しかも、その戦術を一族代々常時使えるようにするためには、交神のスケジュールを調整したり、神様のパラメーターを見て次の世代にはこれがこうきてとか、かなり考えなきゃいけないんですよ。ボクはそういう詰め将棋みたいなストイックなプレイの仕方が好きなんだけど、正直ちょっとやりすぎたかなあともチラリと思ったりして。

――オリジナル版のファンにはそういったディープにやりこむという人が多かったですから大丈夫なのでは?

桝田氏:いや、そうですよ。そういう遊び方が大好きっていう人は確実にいるんです。だけど、一方で計算とか戦術とかをまったく考えていない人たちもいるんですよ。「この顔なら壊し屋だよね」とか、その場の直感でもって楽しんでいるというか、「カッコいい顔の子が生まれればオッケー」みたいな人たちが(笑)。

――能力は関係ないみたいな。

桝田氏:そうそう。自分の好きなキャラには、お気に入りの名前をつけてっていう。特に廉価版が出てから女性層がクチコミで入ってきて、自分の一族の同人誌とかいうのを山のように出し始めたんですよ。そういう人たちってパラメータなんかどうだっていいんですよね。「なんか長いほうがいいんでしょ?」くらいな感じなので、そのあたりの人たちにとってはどうなのかなあと。そこがあんまり自信がないんです。

――そういうファン向けにキャラクターを美形にするとか、今風に変えるという考え方もあったと思うんですけれども、そこは基本変わってないですよね。

桝田氏:要望はすごくあったんですよ。一族のキャラクターを増やしてくれとか、神様を全部描き直してくれっていうのが。けど、キャラクターデザインは佐嶋さんという方がひとりでやっているんですよ。で、神様のデザインをひとり仕上げるのに最短で4日間だとしますよね。そうすると、神様だけで百何人もいるんで、もうそれだけで2年以上かかっちゃう。制作予算もスケジュールもカチっと決まっているんで、そこに2年もかけてたら出せるものも出せなくなります。だから、さっき言ったとおり、ユーザーの要望とか不平にはできるだけ応えるっていうのが基本方針ですけど、できんもんはできんと(笑)。そこはちょっと次にしてって。

――ただ、イツ花の顔とかけっこう可愛くなったという評判を見たりしますね。

桝田氏:いや、特に指示は出していないですよ。けど、そういう声があるっていうことは、きっと佐嶋さんがパソコンで絵を描くのに慣れたんですよ(笑)。12年前はまだ鉛筆で描いてFAXで送ってきてたからね。

――移動が方向キーからアナログパッドになりましたが、これもやはり要望があったんですか?

桝田氏:そうですね。「なんでこんな使いにくい方向キーに移動付けてんだよ」とか「アナログスティックのほうがずっと楽なのに」ってずっと言われてたんです。だけど、オリジナル版の規格とか決めてた時期は、アナログスティックのないコントローラーを使っている人のほうが多かったんですよ。買ってみたけど動かせないってことになったらシャレになんないから、方向キーにしましょうっていうのが12年前の判断だったわけです。でも、今では普通にみんな付いているようになったんで、今回はそっちを使いましょうと。ところが、方向キーの移動に慣れてる連中からはブーブーもんでね。

――オリジナル版をやり込んでいるから、手が覚えちゃってるんですね。

桝田氏:やってりゃそっち(アナログスティック)のほうが楽だって気づくんですよ? でも、「2ちゃんねる」あたりの濃いみなさんが(笑)。

――「2ちゃんねる」とか見られるんですか!?

桝田氏:体験版が出たんで、どんな評判かなってツイッターとかブログとかネットをだーっとね。まあそう言うわなって思いましたよ。僕も最初はそうだったから。でも、2時間もプレイすりゃ、こっちのほうが良かったってなるんだから。

――ちなみに、今回は据え置き機から携帯機になったわけですが、特に意識して変えた部分は?

桝田氏:フォントかな?「俺屍」のユーザーって、普通のゲームよりも年齢層が高いんですよ。そうすると、僕もそうですけど、近くのちっちゃい字が見えなくなってくる。なんで、これよりもちっちゃい字は使わないよとか、背景と文字との明度差は必ずこれ以上つけるようにとか。あとは、字幕。オリジナル版も「交神の儀」以外はちゃんと字幕対応してたんですけど、「交神の儀」の部分は対応していなくて、難聴の方から何言ってるか分かんないとご意見を頂いたので。そりゃそうだよな、すみませんと思って直しました。

――やっぱり字が小さいと見えないんですかね。

桝田氏:いや、見えなくはないんですけど、長くプレイしていると肩こってくるでしょ(笑)。それで、フォントを普通のゲームよりちょっと大きめにして。毛筆で書いたような字のほうが雰囲気がいいとかいう人がよくいるんですけど、そんな字にしたら読めないって!だから、いくつかフォントを取り寄せて、雰囲気なんかどーでもいいから、暗がりとか電車の中とか、かなり無茶な環境でもちゃんと読める文字っていうのを選びました

――逆にこれは入れたかったんだけど、容量とかの関係でボツになったネタとかはありますか?

桝田氏:初期の段階で出たアイディアの中で取捨選択したのはあります。例えば、対戦機能をつけるっていうアイディアもあったんですけど、ちょっと特殊なブログラムなんで制作時間とかコストとか計算してあきらめました。ただ、それはもう本当に初期の初期です。そのあとはブレてないですね。

――いろいろ新しい要素が入ったわけですが、基本的な部分はほとんど一緒ですよね。

桝田氏:そうですね。ただ、内部の細かいパラメータは、もうほとんど触ってないところがないっていうくらい触りまくってるんですよ。32分の3だった数値を32分の2に変えてみたいな、細かいことはけっこうやってます。なんで、実際にはいじりまくってるんですけど、12年前にプレイしたお客さんがやってみたら「あ、変わってないね」と言われたいですね。

――ところで、オリジナル版はジャケットが子供の写真でしたよね。今回、限定版でも使われていますが、なぜこのようなデザインになったんでしょうか。当時の経緯を聞かせて下さい。

桝田氏:これは正直に言うと、イラストが間に合うかどうか分からなかったんですよ。で、どうしようっていうことになって。ロゴだけとか、いろいろ案があったんだけど、当時の店頭で一番目を引くのは何かっていう基準で選んだ結果、子供の顔のアップっていうことになったわけです。

――すごくインパクトがあったと記憶しています。

桝田氏:インパクトは確かにあるんだけど、ゲームの内容が分かんない(笑)。だから、お客さんと店員さんが「すみません、“俺の屍を越えてゆけ”ってゲームが欲しいんですけど」、「ああ~なんかそれ、どっかにあったなあ」とか言って、目の前にあるのにふたりで探してる、なんていうのを当時よく見ました。だから、ホントは剣士とかが描いてあるヤツのほうが分かりやすくて良かったんでしょうね。ただ、限定版を買う人たちにはこちらのほうが面白いだろうと。

――それで、今回は通常版のほうがオーソドックスな形になっているわけですか。

桝田氏:そうですね。

――CMのほうはオリジナル版と同じ岸部一徳さんが出演されていますよね。

桝田氏:あれはSCEのマーケティング部の人がけっこうこだわってて。「こういうの考えたんですけど、どうですか?」って言うから、「面白いと思うよ。でもいくらかかんの? 岸部さん、この12年でギャラ上がってんぞー」って言ったんだけど「いや、やりますよ」と。そっかー、じゃあ止めなーいと(笑)

長く支持され続けるための仕掛けとは、そして気になる続編の内容は?

――12年もの間、多くの人に支持されてきたのってすごいことだと思うんですけど、一番の理由はどこにあるとお考えですか?

桝田氏:一個だけ上げるならば、やるたびに違うことですよね。シナリオがない…とは言わないけど、シナリオに頼ってない。どこまでいっても消費され尽くさない。そこはやっぱりゲームデザインのときから意識してて。麻雀とかトランプって、配牌とか最初のカードによって、けっこうヘタクソでも勝つチャンスがあったりするじゃないですか。あれくらいのランダムっていうか、運の要素を入れようと。

――確かにそのあたりは当時のオーソドックスなRPGとはまったく違いますよね。

桝田氏:普通のRPGだとシナリオやイベントがあって、だいたいその順番にいきますからね。ランダムな部分ももちろんあるけど、AさんがやってもBさんがやってもCさんがやっても、だいたい同じようなプレイになる。キャラクターやストーリーを楽しんでも、まあ、せいぜいやって2回でしょう。1回クリアして、見落としたとことか、こんなイベントあるらしいとか、そういうのをチェックして回るくらいですよね。でも「俺屍」って、やってもやっても前とは同じにならない。だから、「いやー、僕は3回しかやってないですから」っていう人たちがいっぱいいます。ひとつだけだったらそこかな。

ふたつめを上げるとすると、大人に向けて作ったってことかな。最初からけっこう上の年齢層を狙ってたので。で、大人ってゲーム誌を読まないから、出たことに気づくのは1年後、2年後かもしれないですよね。そうすると、最先端のビジュアルとか、流行りのキャラクターとか使っちゃうと、最先端であればあるほど陳腐化する可能性を持ってる。だから、絵とか音楽とかコマンド周りとか、ある意味ちょっと古いっていうぐらいにして。普遍性が高いっていう言い方をしてもいいんですけど。

――12年前の頃はグラフィックを追いかけるのが主流だったじゃないですか。そこであえて逆をいくのはけっこう難しいというか大変だったと思うんですけど。

桝田氏:いや、大変っていうか。グラフィック追いかけたところで3Dでグリグリ動いている作品とはかけられる予算が違いますから、そりゃあムリでしょ。だから、そこで勝負はしません。そっちの土俵には絶対上がらないっていうのを決めて、じゃあ商品として成立するのは何ですかっていう考え方ですよね。だから、100万本売るつもりなんか全然ないし、もっと言っちゃえば初週で10万本出るとも思えない。それでもしっぽはずーっと長くありますから、なんとか予算付けてってお願いして通したんですよ。

――大売れはしないけれど長く売れる、いわゆるロングテールってやつですね。

桝田氏:それと、大人って忙しいから、RPGの雰囲気だけ20時間楽しめますとか、タップリ100時間遊べますとか、そういうクリア時間の目安のモードを作ったり。あるいは30分で一区切りつくようにして、帰ってきてお風呂入って寝る前にちょっとだけ遊んでくださいねっていうような。そういう形を意識してゲームをデザインしましたね。そんなところかなあ。だからまあ、PSPでアーカイブスが出たわけですけど、結果的には携帯機に相性が良かったんですよね。通勤電車の中の30分だけがゲームタイムみたいな人たちにはパチっとハマったんです。

――でも、当時はまだ大人のプレイヤーが出始めた頃で、まだ子供が中心だった時代ですよね。

桝田氏:そうですね。ただ、10年たったら子供より大人のほうが多いだろうっていうのはデータとしてはすでにあったんで。それと、たとえ「俺屍」が…採算ベースを割るのはマズイけれども…思ったほど売れなかったとしても、桝田さんは大人向けのゲームっていうか、やり始めたパイオニアだよっていう看板が付けば僕的にはおいしいなあって。個人営業の人はそういうことも考えなきゃいけないじゃないですか。

――こうやってお話をうかがっていると、いろいろ読みなり計算なりがすごいなあと感心してしまうんですが

桝田氏:あざといよねえ(笑)。いやでも、個人で生き残ろうと思ったら、それなりに考えますよね。だってそれこそパン屋さんやってて、隣に大スーパーが建っちゃったみたいな。そういうところと戦っていかなきゃならないわけだから。相手は量産できるところから仕入れているから、当然パン屋さんのパンのほうが価格が高くなりますよね。そうすると高い理由を作んないと、生き残れない。

――おいしいとか、そこでしか食べられないものとかですか?

桝田氏:あるいは予算かけないところは思いっきりかけないとか。品目をメチャメチャ減らして3つしかないけど、その3つはすっごいウマイぞとかいうような。そういうことをやらないとメジャーとは戦えない。「俺屍」でいうと、このゲームは大人でも楽しいよとかいうような評判が立てば横に広がっていくじゃないですか。大人のゲーマーって今でこそそれなりに認められてますけど、当時は「えー、30歳になってもゲームやってんの?」っていうのが主流だったでしょ? そんな中で「いや、実はゲームが趣味でさ」、「いや、俺も今でもやってんのよ」っていう会話はすごく濃いんですよ。その会話が成り立てば「お前が面白いっていうんだったらやるよ」となる。そこ頼りですよね。

あと、今ニコニコ動画とかブログとかをタダでいくらでも立ち上げられるじゃないですか。そうすると、「こーんな風にウチの一族はなっちゃったのよー」とかいうのを動画や文章で見られるのがいっぱい出てきて。雑誌とかの記事だと、まあ面白いところだけピンポイントで紹介するわけですが、こっちは面白くないところも、その人だけにしか起こっていないようなことも、半分その人の妄想みたいなものも、ぜ~んぶひっくるめている。そんな情報がウジャウジャ出てきたら、やっぱり興味を引くわけですよ。

――勝手にコミュニティが育って広がっていったわけですね。

桝田氏:ニコニコ動画は特に大きかったんじゃないかな? ウチの一族はこんなやり方しちゃってんのよっていうのが山のようにありますからね。で、それを見て買う人たちっていうのは、絵がイマドキじゃないとか、すぐ死んじゃうとかいうのを全部知ったうえなんで、そこには不満が出ないんですよ。

――ところで、先ほど話されたとおり続編の制作が正式に発表がされたわけですが、もうスタートしているんですか?

桝田氏:何を持ってスタートというかによりますけど、アルファ・システム(※)とのやりとりはしてます。

※「俺屍」の制作会社。「高機動幻想ガンパレード・マーチ」などで有名

――続編の構想というのは、以前かからブログとかいろいろなところで出されていましたが…。

桝田氏:そうですね。6年とか7年前とかからお客さんの意見を聞きつつ。ただ、そのころ想定してたよりも、ハードの性能はもう格段に上がってるんで。今から続編を作るとなると、またイチからとは言わないけれど、ゲームデザインはけっこう根底から変えないとダメだなっていうのは思っています。

――過去にも前九年の役(※)のあたりを舞台にしたいとか、今度は主人公を反体制側にしたいなどのコンセプトを公開されていましたが、その辺の骨格は今でも変わっていないのでしょうか。

※平安時代末期に東北地方で勃発した戦乱

桝田氏:いくつかある案の中のひとつ、一案ですね。システムがまだ決まってないというか、その設定がいいのかどうか、判断がまだちょっと。前九年がどうしたとか言ってたころは、基本システムは変えずに違う見せ方をっていう風に考えていて、反体制側っていうのはその中の案として上がってきてたんですけど、今は…まあ世代交代するとかは当然「俺屍」に期待されるところだからやらなきゃいけないんだけど、それ以外のところはまだ。システムも見た目も全然イメージ的に変えちゃうかもしれませんね。

――世界観的なものも変わってくると?

桝田氏:僕自体はなーーんもこだわってないんで、可能性はあります。でも、12年間支えてくれたユーザーの、特に後半入ってきた女性の方々の中にはキャラクターに思い入れがある人が多いので、その方達を敵に回したいとは思わないですね(笑)。神様の中に人気のあるキャラクターとかいるんで、少なくともその辺は引き継がないと、「何考えてんの?」って言われちゃいますから。で、そのあたりを引き継ぐとなると時代設定とかは…室町とか鎌倉とか、その辺になるかもしれません。

――そのあたりの時代が舞台になって歴史上の人物が出てくると歴史好きなとか…歴女にもアピールできるかもしれませんね。

桝田氏:そうですね。歴女の皆さんもあなどりがたい勢力ですよね。

――ちなみに今、「俺屍」以外でしたいこととか、実際に動いているプロジェクトとかはありますか?

桝田氏:ゲームは特に無いです。いや、正確に言うと、なくはないんだけど…言えない。

――今度は「リンダキューブ」(以下「リンダ」)をリメイクしてみようとか。

桝田氏:「リンダ」のリメイクはないでしょう。あのゲームを出そうと思ったら倫理規定がね…。そうすると誰が買ってくれるのっていうか、あのゲーム今出せないでしょ?

――レーティングを一番上に上げてもダメでしょうか。

桝田氏:そしたら予算が付かないですよね。いや、業界にはいっぱいいるんですよ。僕の顔を見ると「リンダのリメイクをやらせてください」とか、「いくらでブランドを売ってくれますか?」とか。それこそ「自分で会社作って、お金が貯まったらリンダのブランドを買うのが夢でした」とまで言うアホタレが(笑)。いるんだけど、「いやちょっと待て、キミね。作っても出せないよ~」って。

今どきのゲームについて、そしてリメイク版のプレイヤーに望むこと

――これは個人的興味なんですけど、最近のゲームでこれはって思ったものはありましたか?

桝田氏:ウチの3人目が娘なんですけど、やっぱり全然違うゲームをやっているんですよね。着せ替えするのとか、花を育てるのとか、動物に服着せるのとか。な~にが面白いんだろうなって。で、話を聞くと、学校で面白いって聞いて買ってみたとか。○○ちゃんも××ちゃんもやってて、交換したりとか。あなどりがたい市場がそこにはあるなあと。

――確かに女の子ってそういうゲーム好きですよね。

桝田氏:1個1個分析していけば、ここの要素とここの要素で引っかかってるっていうのはデータとして分かるんだけど、コピーはできても自分の中で新しいものとして作れるかって言うと、いや僕にはこの感性はないわっていう。ああいうのを作っている人たちってスゲエなって。自分で作ろうとは思わないけど、この層の女の子たちにウケるウケないってどうやって判断しているんだろうというのは興味ありますね。

――やっぱり子供さんがプレイしているのを見ると意外な発見というのはあったりするんですか?

桝田氏:僕自身ゲームやらないんで、「今どきのゲームってどんなの?」っていうくらいですね。長男とかがやってる3Dのバリバリのヤツとかは「すっごいねえ、今のゲームは」で終わっちゃうんですけど。

――そちらのほうは目指していないからあまり気にはならない?

桝田氏:そうですね。まあ、どんなことが今できてるのかっていうのはチェックはしてますけど、ゲーム性はそんなに変わってないんで。あとお金がね。そこまでやっちゃうと世界中で売れないと絶対に採算取れないよなあっていう、アメリカとかヨーロッパのゲームがあるじゃないですか。そっちはねえ…いや、向こうの感性は分からない(笑)。一番はあれですよね。銃撃つのが何で面白いのかサッパリ分からない。いや、あちらもそうだとは思いますけどね。なんで日本人って、まだコマンド式のRPGみたいなつまんないヤツやってんだっていうのが向こうの感覚だと思います。

――それでは、最後にお約束ということになるんですけど、サイトを見られるファンの方にひとこといただければと思うんですけど。

桝田氏:ひとつは最初に言ったように、申し訳ないけど、面白いか面白くないか分かんない部品が何個か入っています。それに関しては罵倒するもよし、ほめてくれるもよし、こうやったほうが良かったんじゃないのって言ってくれるもよし。忌たんないご意見をお待ちしております。あとはもう本っ当に好き勝手に自分がいいと思うようにプレイして下さい。自分の美学を追及してもらえれば、それでいいかなと思います。

――もしかしたら、その意見が続編に反映されるかもしれない?

桝田氏:「ここをこう変えて」っていうのをそのまま使うことはほぼないけど、普通の人が「こう思った」っていうことの原因は追究します。なんでそれを不満に思うのか、説明が足らなかったのか、使い勝手がその人には合ってなかったのか。そうすることで、違う方法で解決できるかも分かんないし。全体のバランスもあるので、どこを良くすればいいかっていうのはこっちでいろいろ方法を考えますけども、「ここがイヤ」とか「ここが好き」とか「もっとこうして」とかいうのはどんどん投げてきてほしい。僕はツイッターもミクシーもまんま名前出してますから。

――直接意見を聞くと、ヘコんだりしませんか?

桝田氏:ないです、そんなもん(キッパリ)。いちいちヘコんでたらこんな商売やってられない。全然大丈夫ですよ。

――ありがとうございました。

表面にトロが描かれたカフェオレ。SCEの社員専用カフェテラスで売られているもので、桝田氏もお気に入りだとか。

「俺の屍を越えてゆけ」公式ホームページ
http://pscom.jp/oreshika

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※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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