アルケミストが3月28日に発売したPSP用ソフト「学☆王 -THE ROYAL SEVEN STARS- +METEOR」。PC版を原作とする本作について、アルケミストの中川氏とLump of Sugarのしげた氏、そして原画を担当した梱枝りこ氏に話を伺った。
「学☆王 -THE ROYAL SEVEN STARS- +METEOR」は、2012年1月にPCゲームブランドのLump of Sugar(ランプオブシュガー)から発売されたPC用恋愛アドベンチャーゲーム「学☆王 -THE ROYAL SEVEN STARS-」の移植作。学園生活のありとあらゆる出来事にスポットを当て、通常の学園物ではあまり描かれない、日常の中に存在するさまざまな楽しみを味わえるのが特徴だ。
本作では、主人公・大陸たちが学園国家ジュネシスに立ち向かうべく、「マスター試験」なるテストを受けることとなる。マスター試験は、どれもこれも無理難題だが、学園生活に憧れていた主人公にとっては、ワクワクするようなイベントばかり。そんな「学☆王」ならではの楽しい学園イベントが豊富に用意されているぞ。
さらにPSP版では、原作・PC版で電話のボイスのみだった主人公・大陸の妹 「宙乃(そらの)」がヒロインとして追加されている。地球から遠く離れた小惑星ファーデンフルスに居る宙乃が、どのようにストーリーに絡んでくるのかも注目ポイントとなっている。
今回、本作の移植が決まるまでの経緯や作品としての見所など、PSP版プロデューサーであるアルケミストの中川滋氏、原作のディレクターを務めたランプオブシュガーのしげた氏、原画を担当した梱枝りこ氏に話を伺うことができた。前半は中川氏としげた氏、後半は梱枝氏へのインタビューと、二部構成でお届けしよう。
第一部:中川氏としげた氏にインタビュー
――移植を決めるまでの流れや、本作を選んだ理由を教えてください。
中川氏:弊社からご提案させていただきました。私は2012年の2月頃まで別のタイトルに関わっていたのですが、その仕事が一段落した後、また移植をさせていただく作品を探していたんです。2012年になってから発売された作品を中心に触らせていただき、その中で「学☆王」が1番面白いと思ったのがきっかけです。アルケミストは自分の好きな作品を推していいという自由度の高い会社なんですよ。
そしてゲームを全部プレイし、移植のご提案に伺ったのが2012年の3月です。移植の提案は原作が発売されてすぐお声掛けすることが多く、その時点で発売から2ヶ月経っていたので、正直なところ今回は無理だと思っていました。そんなタイミングだったにも関わらず、お話を受けていただけて感謝しております。
――移植提案を受けたときの心境はいかがでしたか?
しげた氏:実は梱枝さんが原画を担当する、新しい開発チームのラインが初めて制作したタイトルが「学☆王」でした。なので動きとしても様子見な部分はあったのですが、ようやく一本作ってみて「こんな風にやっていけばいいんだ」という感触が得られたところでした。
次はどうしようかと考えていた時、原画家が移植をやったことがないということを伺っていたので、コンシューマでも出せるといいよね、といった話がありました。それを話題にしてた頃、タイミングよくお声が掛かり、スケジュールなどの面でも折り合いがついたのでお受けいたしました。
本来ですと、どうしても次の企画が動き始めていることが多いんです。原作が携わらずに移植することも可能ではありますが、できれば弊社としても気合を入れてご協力させていただきたいので、スケジュールの都合上、本末転倒(新作の開発の遅れ)になってしまうのでお断りさせていただくこともあります。ただ、今回はタイミングがすごく良く、アルケミストさんからもいろいろとバックアップしていただけるお話だったので、それに乗っかる形で進めさせていただきました。
中川氏:僕は運が良かったです、最高に運がいいです(笑)。
――アルケミストさんとしては移植を提案することが多いんでしょうか?
中川氏:はい、弊社の場合は圧倒的にお願いすることが多いですね。今しげたさんが仰った通り、原作メーカーさんの動きが取れず、スケジュールの都合などでお断りされることもあります。何度も言いますが、今回僕はラッキーでした(笑)。
――今回のプロモーションで意識した部分はどこでしょうか?
中川氏:ランプオブシュガーさんはPCゲーム業界で長い会社ですし、我々コンシューマとも近い位置にいるんですが、お互いが持っている活動領域は違うんです。通常、プロモーションも含めてアルケミストの領域で終わってしまうのですが、今回はしげたさんを窓口に、営業さんなどを含め、総出でバックアップをいただきました。
こちらから「こういった展開を仕掛けていきたいんですが」と提案すると「もっとこうしたほうがいいですよ」とか、アイディアを返していただけたりと、すごくありがたくて、常にランプオブシュガーさんへ情報をお伝えすることに徹した感じはあります。
しげた氏:中川さんの言うように、業界的に近い部分はあるんですが、実は広報的な面では全然違うんです。後日になってそこに気付き、僕も勉強不足だなと感じました。我々としては、普段情報を掲載していただいている成人向け媒体とのコネクションで後方支援ができればと働きかけていたのですが、それとは全然違う方向、コンシューマ向けの媒体を回ってご協力いただきました。この部分に関しては本当にありがたくて、それこそラッキーというか(笑)。
一同:(笑)。
しげた氏:運で済ますなという話なんですが(笑)、ラッキーが続いたおかげでコミックもトントン拍子で進みました。こちらは出版社さんの方からのご提案ですが、「発売日がこの時期だと思うので、この日に最終回を迎えられるようにしましょう」といった感じで展開を考えていただきました。そうしたことが重なったこともあって、発売日はTwitterで「学☆王」のタイムラインが追えなかったぐらい情報量が多かったです。
――ウェブラジオの展開をされていますが、実施のきっかけは何でしょうか?
中川氏:初期の打ち合わせの頃に、しげたさんがすごく希望されていた気がします。「ゲームの内容よりもまずウェブラジオだ!」ぐらいの勢いで(笑)。
しげた氏:マジですか!? そんなこと言うのやめてくださいよ~。でもそれ嘘じゃないです(笑)。
一同:(笑)。
中川氏:弊社も自社でやっていますが、作品にフィーチャーしたものはほとんどなかったので、これは面白そうだと思い、しげたさんの案に乗っかった感じです。
――ランプオブシュガーさんでも自社でラジオをやられていますが、新しく始めようと思ったのはなぜでしょうか?
しげた氏:今回はPSP版となりますので、アルケミストさんから発売されることを印象付けたかったですし、コンシューマの展開をするにあたって、作品と出演役者さんにスポットを当てたウェブラジオをどうしてもやってみたかったというのが理由です。
――PCゲームの開発とコンシューマ移植、作業的な部分で違いを感じられたことはありますか?
しげた氏:僕はシナリオも兼任しているので、身近なところで言うと、やはり倫理的な問題ですね。PC版で書いていいもの、コンシューマで書いてはいけないものは当然わかっていましたが、ギリギリを狙おうとして、いい意味で揉めたこともあります(笑)。倫理的な問題は文章だけでなく、絵などを含めた全てのことに関わってきますので、僕自身だけでなくほかのスタッフも把握している必要があります。そのため、今までのやり方ではダメなんだ、というところで戸惑ってしまった瞬間は何度かありました。
――今回の移植作業で苦労された点はどこでしょうか?
しげた氏:原作をあまり改変せず、ひとりのキャラクターを増やすというのはどうしても難解な作業ですね。元々宙乃ちゃんの設定自体はすごく考えてあったのですが、原作版ではそこを拾い切るよりも、4キャラクターに注力した部分があります。
設定はすでにあったため、そこにドッキングさせるのはそこまで大変ではありませんでしたが、宙乃ちゃんも出せたらと思っていたので、こうして形にできたのはすごく嬉しいです。
――確かに原作では電話口で登場し、ビジュアルファンブックにもラフ画だけありましたが、攻略キャラクターにしようと提案したのはどちらからになるのでしょうか?
中川氏:たぶん最初からしげたさんの中で案ができていましたよね?(笑)
しげた氏:移植の提案をいただいて、実際にどんなコンテンツにしていこうかと打ち合わせをしていた時に、「実はこういう設定がありまして…」と、恐る恐る宙乃ちゃんのことを話してみたんです。その時は「それ(キャラ追加)をすると大変じゃないですか?」と言われると思ってビクビクしていたんですが、「いいっすね!」という感じで(笑)、まさかの二つ返事でOKをいただきました。
中川氏:しげたさんとお会いして1、2回目の打ち合わせの時に、もう宙乃ちゃんのラフが用意されていて、後はまさに今お話があった通りなんですよ。僕も「いいっすね!」とお返事して(笑)、それで決まった感じですね。
――PC版ではミニファンディスクも発売されましたが、それとの兼ね合いはいかがでしたか?
しげた氏:ミニファンディスクは原作の後日談をまとめ、オムニバス形式で楽しめるものになっています。PC版を購入いただいたユーザーさんに満足していただいて、でももう少しヒロインとの後日談を楽しみたいという要望が強くあったので、それに応えるために制作しようとなりました。移植の提案がある前にやろうとしていたのですが、同時期に移植の話をいただいて、社内で「並行してできる?」「うーん…」「やってみますか」みたいな話をして動き出しました。
――その内容を盛り込むという提案はあったのでしょうか?
中川氏:まさに同じことを考えていて、一度どんな内容か知りたいですとお伝えしたんです。
しげた氏:なので完パケ(完全パッケージ)を送らせていただいたんですが、残念ながらコンシューマで表現できる内容がほとんどなかったんですよ。本当はプラスアルファできればと思ったのですが、そのつもりで作っていたものではなかったので、純粋にPC版のファンの方に向けたものとなっています。
――ほかに実現されなかった新要素の提案というのはありますか?
しげた氏:後は最初から「これで!」と、一直線でした。始めの頃の打ち合わせで「こんなことをしましょう」と話をして、それを100%叶えていただいた感じです。
中川氏:ここは難しい部分で、新要素が多ければ多いほど面白くなるかもしれませんが、作業に着手する時間が遅れてしまいます。別の要素があったとしたら、このタイミングでは発売できていなかったですね。
――予約特典や限定版の特典内容はどちらから提案をされたんでしょうか?
中川氏:私からのご提案が多かったですね。特に予約特典の色紙については、原作の時にも各ヒロイン1枚ずつ特典としてありましたので、すんなり決まりました。全部揃えることを楽しみにしているファンの方もいると思いましたし、ランプオブシュガーさんで色紙バインダーを発売されていましたので、「ここはもう宙乃ちゃんしかない!」と思いました。
限定版の特典は決まるまでちょっと引っ張ってしまいました。グッズを付けようと考えたのですが、「学☆王」らしさを出せるグッズって何だろう…と悩み、最終的にドラマCDに落ち着きました。ドラマCDのシナリオも全部しげたさんに書いていただいているのですが、しげたさんが忙しくて別の方に書いてもらうことになったら、ドラマCDとは違うものになっていたかもしれません。
しげた氏:休日返上で書きましたよ(笑)。僕自身がデジタルコンテンツの特典が好きなので、ドラマCDをプッシュさせていただきましたし、「学☆王」ではドラマCDがひとつも出ていなかったので、どこかの機会でやってみたいと思っていたんです。
実は原作もコンシューマも同じ音響監督の方が担当してくれているんですが、その方はドラマCDなどの編集が得意なので「(ドラマCDを)作んないの? 作んないの?」ってプレッシャーを掛けられたこともあります(笑)。そこで今回、特典で出そうとなって提案してみたところ、上手く話が通ったのでドラマCDが実現しました。
――そのドラマCDの聴きどころはどこでしょうか?
しげた氏:僕がいつもドラマCDの脚本を書くときは、原作では絶対にありえない状況を作りたいと考えています。今回も原作とは違うストーリー、テンションで、はっちゃけた内容になっています。原作をプレイされていない方でも楽しめますし、原作をプレイしていると、なおのこと楽しめるドラマCDになっています。
聴きどころとしては、いろんなキャラクターが痴態をさらす瞬間だらけというところでしょうか(笑)。台本を見た役者さんに、「なんでこんな恥ずかしいことさせるの?」という感じで、ジト目で見られるというのが僕のいつものパターンです。
一同:(笑)。
――ドラマCD以外に特典の候補は何かあったのでしょうか?
中川氏:いえ、特になかったですね。今お話ししたように、「学☆王」らしいアイテムってなんだろうって考えたんですが、鉛筆セットでもないし、筆箱もちょっと違うな…と思って、らしさが出るものが思い浮かばなかったんです。もしアイディアが出たら、それが一緒にくっ付いてきたかもしれないですね。弊社はそういうところも自由な会社です。
――パッケージに描くキャラクターはどのように決めたのでしょうか。
中川氏:最初から限定版は作ろうと思っていたので、通常版と限定版の2枚をお願いしたいです、というところから話が始まりました。どちらに誰を描こうとなった時、通常版の方が広く世に出ますので、「じゃあこっちに5人入れましょう」となりました。真ん中に宙乃ちゃんがいることで、PSP版ですよというアピールにもなっています。ここは結構すんなり決まりましたが、悩んだのは限定版ですよね。
しげた氏:そうですね。通常版と同じように5人揃えると、せっかく限定版なのに似たような感じになってしまうので、いっそ割り切ってひとりだけにしてみようかなと思ったんです。ただ、宙乃ちゃんだけだと違うゲームに見えてしまう可能性があって(笑)、最終的には二人で仲良くしている感じにする構図で落ち着きました。一緒に描くキャラについては、光莉ちゃんが“テーマオブ「学☆王」”なキャラクターでもあるので、そこは譲れないだろうとなりました。
――学園がテーマの作品ですが、その点で意識したことや苦労されたことはありますか?
しげた氏:制服を着た女の子と過ごすゲームは学園モノというイメージが強いですけれども、普通の学園モノとは一線を画したものにしたいという想いがありました。授業中のシーンがすぐに終わってしまうので、ここにスポットを当ててみたらどうかなと思ったんです。これは原作からあったテーマですが、遊ぶのと同じぐらい勉強しているゲームにしようと考えていました。先生側にもキャラクター性や個性を強く持たせているのもそれが理由ですね。
それから、今回なぜコンシューマに移植したかというと、リアルな学生に遊んでほしかったんです。原作はプレイできるのが18歳以上に限られてしまうため、高校生などにリアルタイムでプレイしていただけたら嬉しいなと思って作った部分があります。
――ではPSP版の発売で楽しみにしていること、期待していることはどこでしょうか?
しげた氏:まさに今お話ししたことが結果として出てくれていることですね。PC版のパブリッシングでは載らないところにも作品の名前がたくさん出て、層の違うお客さんに気付いてもらえたことが実感できています。新作と新作の間は話題がないと静かになってしまうのですが、そういった時期に自分たちが手掛けた作品の名前が大きく、広く浸透していくのを見ると、やっぱり嬉しいですね。実は発売日も別件の収録中だったのですが、ついついTwitterのタイムラインをチェックしてしまいました(笑)。
――PSP版のシナリオの見所はどこでしょうか?
しげた氏:コンシューマに限ってではなく「学☆王」全般としてですが、ジャンルに“学校に行きたくなるアドベンチャー”とある通り、学校生活を楽しくさせたいというのがメインテーマとしてあります。学校に行くとみんな成長して大きくなっていくので、作中でもヒロインの成長をそれぞれ描いています。
原作の4人はもちろん、PSP版では宙乃ちゃんの成長も大きく描かれていますので、彼女たちと初めて出会った時とゲームが終わる頃をキチンと見比べていただくと、「学校に行くとこんなに大きくなれるんだ!」ということを体感していただけると思っています。
PSP版だけに限って言えば、原作では語られなかった大陸くんの祖国の話が濃厚に描かれています。大陸くんの複雑な家族関係とか、いろんな謎が明らかになってきます。
――PSP版を購入された方のうち、感触として原作ユーザーと新規ユーザーの割合はどれくらいでしょうか?
中川氏:半々ぐらいだったら嬉しいな、という感じです。やっぱり新しい層ですとか、原作をプレイできない若い世代の方にも手に取ってほしいですし、我々の存在意義もそこにあると思っています。
――今年アルケミストさんが発売される移植作は全てPSPですが、ほかのプラットフォームにするという案はあったのでしょうか?
しげた氏:あっ、思い出した!最初「PS Vitaでお願いします」って言ったんですよ(笑)。
中川氏:最終的にはPSPになったんですが(笑)、しげたさんのその想いは、カスタムテーマや壁紙などに表れています。PSP用のものは我々も作ろうと思っていたんですが、PS3やPS Vita用にも作るというのは、しげたさんのご提案なんです。
しげた氏:アルケミストさんがPS3のカスタムテーマ配信をやっているのを見たので、過去にやってるならワガママいっても大丈夫かなと(笑)。初めてやることだったら複数作って欲しいと提案するのは躊躇ったと思いますが、ちょうどPS Vitaの値下げもありましたし。
中川氏:タイミング的にもそうでしたね。実はメーカーがオフィシャルで出しているPS Vita用の壁紙って意外と少なく、設定の変え方もあまり知られていなんですよ。割りとマイナーな存在だったので、これは面白いなと思ったんですが、まずは壁紙の変え方から調べました(笑)。
――やっぱりPS Vitaは画面が綺麗なので、あの有機ELのディスプレイで楽しめないかなと期待してしまいます。
しげた氏:特に美少女ゲームはPS Vitaの方がいいと思います。弊社の場合は最近のタイトルは1280×720で開発していますが、PS Vitaの解像度が960×544なので、画像が引き延ばされることもなく、高解像度できれいなグラフィックを楽しむことができると思います。
――なるほど。今回PSPでの発売となりましたが、ダウンロード版の配信もされていますよね。
中川氏:そうですね。ダウンロード版をご購入いただければPS Vitaでも遊べますので、そういったフォローはできていると思います。
――移植作がPSPで発売されるとタイトルに「Portable」と付くのが定番ですが、今回は「+METEOR」とありますが、この由来を教えてください。
中川氏:原作の「学☆王 -THE ROYAL SEVEN STARS-」に「Portable」を付けたらどうなるのかということも考えましたが、すでに宙乃ちゃんの存在が見えていた頃でもあるので、すんなり決まりました。というのも「+METEOR」はまさに宙乃ちゃんのことを表していて、ロゴにも星が一個追加されているんですよ。
しげた氏:通らなかったらどうしようかなと思いつつ、実は宙乃ちゃんを提案した段階から、タイトルまで決まっていました。図々しいですよね(笑)。
一同:(笑)。
しげた氏:ただ、僕の中で7人っていうのが重要なキーワードとしてありました。「THE ROYAL EIGHT STARS」というのも考えましたが、「7」という数字にこだわりがあったので、そこはずらしたくなかったんです。でも宙乃ちゃんを含めないのはどうかと思ったので、「じゃあ隕石を落とそう!」ということで「+METEOR」になりました。
――ボタンを押すアトラクションシステムの発想はどのようにして生まれたのでしょうか?
しげた氏:僕が過去に関わっていたタイトルの影響があり、普通のアドベンチャーゲームだと落ち着かなくなってしまいまして(笑)。やれることに限界はあるのですが、何か新しい遊び要素を入れたいという想いが自分の中にあり、それを落とし込んだのがアトラクションシステムになります。あまり複雑化してしまうとユーザーさんが戸惑うかなと思ったので、ボタンを押すとそれに合わせて画面に変化が起きるという、シンプルな形にしています。
――PSPは普段からボタンの上に指を置くポジションで持ちますので、ゲームをプレイする流れで押せるようになっていますよね。
しげた氏:実はそのために、アトラクションシステム以外で△ボタンを使わないでくださいというワガママを聞いていただきました。
中川氏:ほかの弊社のタイトルをプレイしていただくと分かりますが、キーコンフィグが今までと変わっているんですよ。
しげた氏:PC版ではスペースキーを押していましたが、それに代わる専用のボタンが欲しかったんです。なぜ△ボタンにしたかというと、△の方向そのものが前を向いているというのと、なおかつボタン配置が上にあるので、さらに前向きなイメージを感じられるんですよ。アトラクションシステムは前向きな行動を起こすためのきっかけですので、それを踏まえて△ボタンにしてもらいました。
――全部ちゃんと考えられているですね。
中川氏:僕も初めて聞きました!「とりあえず△ボタンにしようぜ!」みたいな感じかと思ったら(笑)。
しげた氏:いや~、まさか僕も30分前に思いついたとは言えないですね(笑)。
一同:(笑)。
――このシステムをきっかけにカットインが挿入されますが、カットインを入れ込むタイミングで意識されたことはありますか?
しげた氏:シーンの盛り上がりと、ユーザーさんの手によって変わったことを実感してほしいというのがありました。ボタンを押さなければ話が進みませんので、ユーザーさん自身の行動によってその結果が生まれたということを楽しんでいただく、それがアトラクションシステムの根底にあるテーマです。
――最後にユーザーさんへメッセージをお願いします。
しげた氏:原画しかり、シナリオしかり、原作スタッフが追加要素などに関われたことと、それに対して快く応じてくれたアルケミストさんに感謝していますが、発売に漕ぎ着けられたのは原作から応援していただいた皆さんのおかげだと思っています。これからも楽しいゲームを作っていきますので、引き続き応援よろしくお願いいたします。
中川氏:「学☆王」はPSP版だけでなくコミックもありますし、カードゲームにも参戦されていて、すごく世界が広がっています。そういったコンテンツも楽しんでいただきつつ、年齢の問題がクリアされるのであれば、原作も楽しんでいただきたいです。後はどこかの偉い方がアニメ化をしてくれないかなと思っています(笑)。
第二部:中川氏同席のもと、梱枝氏にインタビュー
――まずPSPへの移植が決まった心境はいかがでしょうか?
梱枝氏:今までやったことがなかったので、すごい嬉しかったです。どうなるんだろう、何すればいいんだろう、いつもと描き方違うのかなと色々考えたんですが、いつも通り描けて楽しかったです。
――宙乃ちゃんに対する思い入れや、描くうえでのこだわりはありますか?
梱枝氏:黒髪で、ちょっとぱっつんしているのが自分の中でブームだったので、そんな子にしよう!と思って描きました。もともと黒髪の子を入れたかったんですが、4人の中にはいなかったので、PSPの話をいただいたときにはこの子を黒髪にして出そうと思っていました。PSP版がなければこのまま眠ってしまう感じだったので、無事に出せてよかったです(笑)。
――5人の中で1番苦労されたキャラクターは誰でしょうか?
梱枝氏:苦労したのは…髪型が複雑で、時間がかかるという意味で光莉ちゃんですね。でもみんな自由に描かせてもらったので、特に苦労は感じなかったです。
――パッケージデザインでキャラクターの配置はどのように考えたのでしょうか?
梱枝氏:全員がちゃんと目立つようにしようと思いましたが、結構自由に描いちゃいました(笑)。いつも感覚で描いていて、手を動かしてから形ができていくので、とりあえず描こう!ってなりました。
――店舗特典が多かったですが、この辺りの苦労はいかがでしょうか?
梱枝氏:そこは大変でした。PC版の「学☆王」と、その後のミニファンディスクが出たときも特典が多くて、「特典を描くの何回目だろう。まただ、まただ…」と思いながら描いていました(笑)。
――1番時間がかかった特典はどれでしょうか?
梱枝氏:メディオさんの特典ですね。裸エプロンで、いっぱい脱いであって、膝立ちで、目には涙を浮かべていて…っていつも通りのオーダーなんですけど(笑)、その内容なのに成人向けな表現はダメだったので難しかったですね。
――リテイクが出たり、オーダーがあったものはありますか?
梱枝氏:ほとんどなかったですね。本当は限定版のパッケージで下着を見せようかなと思ったんですが、それはダメだったみたいなので、ちょっと直しました。これなら隠れるかな?という感じに、足の角度を変えたぐらいです。
中川氏:パッケージはCEROの区分関係なく誰でも見る機会があるという理由で、非常に気を遣っております。今回は宙乃ちゃんの足の角度を変えて、絶妙な仕上がりにしていただきました。
――PSP向けにCGを修正したときの作業で何かエピソードはありましたか?
梱枝氏:まるる(アンネマリー)ちゃんと廊下でぶつかった時のCGで、スカートの中をどうしようか相談していた時に、しげたさんが「アルパカさんで隠せばいいんじゃないですか?」と言っていたんですけど、本当にその通りになっていました(笑)。
――予約特典の色紙も描かれていますが、どのようなイラストにしようと考えたのでしょうか?
梱枝氏:やっぱり色紙なので顔がアップになりますし、できるだけ可愛く描こうと思いました。でも普通じゃちょっと面白くないなと思って、少し誘っている感じにしました。
中川氏:セリフが素晴らしいですね。この……はい。
梱枝氏:これは「色紙を優しく扱ってね」ということですよ?
中川氏:なるほど。それ以外ないですよね。
一同:(笑)。
――限定版に描かれるキャラが二人と決まった時、構図はどのように決めたのでしょうか?
梱枝氏:やっぱり感覚で描いちゃうんですよね。二人が仲良く絡んでいるようにしようとだけ考えて、とりあえず描いてみて、途中から構図を思いついて完成していく感じです。
――構図を一度思いついてからはブレないことが多いですか?
梱枝氏:迷う時は結構迷いますね。自分で微妙だなって思った時は、考え方を変えるために、時間をおいてまた見たりします。今回は顔を描き始めて、手を繋いているのがいいかなと思ってからは、そのまま描きました。
――美少女ゲームでは複数の原画家さんで描かれることもありますが、今回は単独です。そのことでのエピソードなどはありますか?
梱枝氏:PCのフルプライスを一人でやることって少ないので、すごく嬉しかったですね。やっぱり複数で描くと自分の担当したキャラクターを愛するんですよね(笑)。今回は全員愛していますので、どの子の人気が出ても嬉しいです。
――今回単独ですが、複数の方で担当される場合、合作することもあるのでしょうか?
梱枝氏:ありますよ。合作の場合、どちらかが描き始めて構図を決めて、あとで空白の部分に追加で描くという形になります。単独の場合、大変ですけどその分嬉しいですね。ただ、特典のイラストを描いている時は「複数だったら半分なのにな…」ってたまに思います(笑)。
――1枚のCGを作る上で1番時間がかかるところはどこでしょうか?
梱枝氏:髪の毛に時間がかかるかもしれないですね。長い髪型の子が多いですし、画面を広く使うため、髪の毛を広げて描いたりするので、その場合は時間がかかります。でも髪の毛を描くのは好きなので、すごく楽しいですよ。
――ぱっつん以外でブームな髪型はありますか?
梱枝氏:そうですね…今はまだぱっつんが好きです。ツインテールはずっと好きですが、その2つでしょうか。しばらくはぱっつんブームですね。
――原作とPSP版の作業量の割合の感触はいかがでしたか?
梱枝氏:PSP版が2~3ぐらいで、PC版が7~8ぐらい…でしょうか。PCと比べると新しく描く枚数が少ないですし、立ち絵もできているので気分は楽でした。
――宙乃ちゃんの立ち絵はPSP版で作られたのでしょうか?
梱枝氏:そうですね。斜めを向いたラフしかなくて、色も全然決まっていませんでした。ちょうどこの作品に黒髪がいなかったですし、しげたさんが「黒髪の子を入れればよかったなあ」と言っていて、じゃあ妹ちゃんを黒髪にしましょうという流れでしたね。
――ほかのキャラクターを含め、髪色の希望はどなたが主導で進めたのでしょうか?
梱枝氏:結構私が希望を出していました。特に修正もなくて、髪の毛の色や制服も、グラフィッカーさんにお願いした通り塗ってくれたので、最初の頃からあまり変わっていないと思います。
――最後に一言メッセージをお願いします。
梱枝氏:PSP版をプレイして、ぜひ妹ちゃんをクリアしてください!