カプコンより、2013年7月25日に発売となったシリーズ最新作「逆転裁判5」。大阪研究開発ビルにて実施した開発陣のインタビュー【前編】をお届け!
2013年7月25日についに発売となったシリーズ最新作「逆転裁判5」。プラットフォームをニンテンドー3DSに移し、約6年ぶりに進化を遂げた本作の開発陣に、当時を振り返りながら、システムやキャラクター、シナリオも含めたっぷりとお話を伺ってきたので紹介しよう。
前編では、「逆転裁判5」プロデューサー「江城 元秀」氏とシナリオディレクター「山﨑 剛」氏にゲーム全体とシナリオについて聞いてきたので、じっくりと読んでもらいたい。
6年ぶりに発売となったシリーズ最新作への思い
――まずは「逆転裁判5」が開発決定となった経緯を教えて下さい。
江城氏:「逆転検事」「逆転検事2」を制作、発売した際のユーザーさんからの意見・要望の中に、必ずと言っていいほど「ナンバリングタイトル待ってます!」の声が挙がるんです。ユーザーさんが長い間期待しているようなタイトルを「このまま、ほっといていいのか?」と、誰かが作らなければならないタイミングだな、とは思っていたんです。
「逆転検事3」を作るという選択肢もありましたが、ここまで反響のあるタイトルの続編は、やはりカプコンとして何かしらの動きはしなければとは思い、上層部を含めて「逆転裁判5」を作りますと話し、山﨑(ディレクター)に声をかけました。基本的にチームはガラッと変えて新しく開発を始めたのが、経緯です。
――山﨑さんに開発の話が決まったときは「お、来たな!」という感じでした?
山﨑氏:(逆転裁判の続編を)ユーザーさんが求めていることは知っていましたし、社内的にも「山﨑、そろそろやるんちゃうか?」と、直接言われませんが暗黙の了解のような空気になっていました(笑)。僕はもともと「逆転裁判4」のスタッフでもあり、開発が終わった際に「逆転検事」シリーズの制作が決まったので、いつかは「逆転裁判5」は作られるべきタイトルでもあるし、自分自身も次があってほしいと思っていました。今作らないともう作られないかもしれない!とのことで快諾しました。
江城氏:(巧は)「レイトン教授VS逆転裁判」でデザインの塗(塗和也氏)とともに開発に参加しており、今回のチームは一新しようと考えていました。自分たちの思うナンバリングとして、気持ちの入れ方や腹の括りで作ろうと、いろいろな面でパワーアップし、かつ6年ぶりに「逆転裁判」を生まれ変わらせるために制作をスタートしました。
――2012年1月にメルパルクホールで開催された「逆転裁判10周年 特別法廷」で制作決定がアナウンスされたときの会場の反応を見てどう感じましたか?
江城氏:予想の斜め上の、斜め上の、さらに斜め上をいった感じですね(笑)。もともと開発が決定した際に「逆転裁判10周年 特別法廷」で発表はしようと決めていたので、シナリオのプロットを作ってもらいながら真っ先にロゴを作ったんです。実はロゴの「5」の部分のカラーには、オドロキくんの登場のヒントなども隠れているんですよ。会場で新映像と制作発表をすれば「良かった!嬉しい!」というような盛り上がりはしてくれる、と想定していたんですが、会場のあの歓声は悲鳴に近く、同時に「これはマズイ、失敗したら死ぬな」と自分を追い込んだり、スタッフ全員も腹を括ったというか、雰囲気は変わりましたね。
山﨑氏:あの会場の悲鳴によって、チームのテンションも変わり、背中を押された感じがしました。あれだけのファンが待ってくれているんだと実感しましたね。まさにあれが「本当のスタート」だったのかもしれません。
江城氏:それまでは「頑張って作れればいいかな」みたいな、どこか他人ごとのようなところもあったんですが、会場のあの反応をみたときに「自分たちの120%のチカラ」をすべて出し切らないとダメだと意識が変わりました。
――開発年数はどのくらいですか?
江城氏:だいたい2年くらいですね。「逆転検事」よりも長くなりました。ハードが変わったことにより研究する期間も必要で、グラフィックやエフェクトの表現方法、カメラの制御など演出まわりをしっかりと研究しつつ、シナリオを組み込んでいきました。
――開発に携わった人数はどのくらいですか?
江城氏:外部の会社にも協力してもらいましたが、コアメンバーで30~40名くらい、瞬間的に50名くらいになることもありました。
――「逆転検事」の開発の際の人数はどのくらいでしたか?
江城氏:だいたい30~40名くらいですかね。「逆転検事2」はボリュームも多かったので本作と同じくらいの人数が参加していました。
――プラットフォームをニンテンドー3DSに決定した経緯を教えて下さい。
江城氏:そもそも「逆転裁判5」を作るならニンテンドー3DSだと考えていました。これからどんどん3DSが普及していくと感じていましたし、発売時(2013年)の市場も考え、プロデュースサイドで決定しました。
――ニンテンドー3DSならではのUIのデザインや、操作方法を生かすために苦労した点を教えて下さい。
江城氏:グラフィックに関してはまず「究極の2Dを目指す」か「3Dに進化する」かと考えたとき、(2Dで作る際には)キレイに見せるには、アニメーションのパターンを物理的に増やすしかないんです。ですが、それをやろうとすると膨大な時間とコストがかかるため、3Dでいこうと決めました。ですが「逆転裁判」らしさを残したいので「見た感じは2Dで構成は3Dで」とムジュンしたオーダーを現場に出し、アニメーションに関しても「すごくなめらかに、でもテンポよく」とこれまたムジュンしたオーダーを出したのを覚えています。
山﨑氏:ベースとしたシステムは変えずに、今までのシリーズで使ってきたUIや操作性はなるべく変えずにすることで、これまで遊んでいたユーザーさんにすんなり遊んでもらえるようなコンセプトを大事にしました。ただ本作では、今の時代に合わせたリニューアルも必要だと思い、バックログや2箇所のセーブができるなど、便利な機能をできるだけ詰め込みました。
UIについても直感的な操作を目指すため、UI担当者が工夫をしながらテストプレイを繰り返し、使いづらい箇所を逐一チェックし、ユーザーフレンドリーなUIに仕上げました。
――法廷記録や人物ファイルなど頻繁に使う項目もスムーズに使えるようになりましたね。
江城氏:サムネイルをタッチして全部内容を確認できるのは便利ですね。もともと「逆転裁判」はバックログを見なくても「一気に遊びたくなる」「物語を覚えておける」ようなシンプルなストーリーを目指す「自分縛り」をしているようなタイトルだったんです。ですが、ずっとユーザーさんから「バックログ機能」を入れてほしいと要望は来ており、10年経てばユーザーさんのプレイスタイルも変わり、開発側が強制する必要もないので、今回実装しました。
――探偵メモもちょっとゲームを遊んでいなかったユーザーに向けた機能だということですね?
山﨑氏:「逆転裁判」シリーズは長い歴史の中でユーザーさんの層がだいぶ広がってきており、普段はあまりゲームをしない人もプレイしていただいているタイトルになっています。忙しくてしばらくゲームをやっていなかった人が遊ぶときにも、スッと入り込んで楽しめるようにと考えています。
――「逆転裁判5」になってシナリオを含めゲームのボリュームも増えたのでしょうか?
江城氏:想定ボリュームとしては「逆転裁判5」だから大きくした、ということはないです。「逆転裁判3」とほとんど同じです。ただ本作はナルホドくんが弁護士バッジを取り戻して復活したり、オドロキくんや新キャラクターも登場し、「法の暗黒時代」を語る…など「逆転裁判4」からの流れの中で語らなければならないことも多かったんです。プレイバリュー的にはあまり変わらないんですが、密度的にはものすごく濃く感じると思います。
――先日テストプレイさせてもらったんですが、没入感が序盤からスゴイですよね。
江城氏:実際のプレイ時間はそんなではないのに、かなり遊んだように感じるはずです。特に手応えがあるように心がけて作りました。
――ゲーム中のキャラクターもかなり生き生きと動きますしね。
江城氏:没入感や臨場感を感じてもらうためのストレスのない3Dモデルの動きや、カメラの動き方、奥行きの調整などを、開発チームでかなり細かく調整しています。3Dボリュームを最大にして遊んでもらうとかなりゲームに没入することができますよ。本作は立体視にすごく向いているタイトルだと思いますね。
――アニメーションシーンを制作する際に苦労した点を教えて下さい。
江城氏:アニメーションの導入については、「レイトン教授VS逆転裁判」でナルホドくんたちがはじめてアニメで表現されたこともあり、後発の「逆転裁判5」でもユーザーさんの期待は当然あると考え、決めてはいました。ただ「レイトン教授VS逆転裁判」とは「違う導入の仕方」を考えており、各エピソードの冒頭や最後に入れるのはもちろん、状況説明やドラマチックな部分をアニメで表現しようと決め、それぞれ尺はバラバラで組み込みました。
制作に関しては、かなりクオリティーの高いアニメを作れる会社でないとダメだと思い、「レイトン教授VS逆転裁判」のアニメを手がけたBONESさんにお願いしました。BONESさんにはモノづくりの姿勢がストイックな職人さんが多く、「このタイミングでこのリテイクや修正はキツイだろうな」と思うようなオーダーでもかなりのクオリティーで納品してくれるので、本当にBONESさんと仕事ができて良かったなと感じています。
――オープニングだけじゃなく、さまざまな場所でアニメーションが挿入されますよね?
江城氏:各エピソードのさまざまなところで挿入されます。それもゲームのジャマにならないところで山﨑がこだわって挿入しているので、ゲームに没入しているときに、突然アニメが入って長々と見せられてしまうと気持ちが離れていってしまうことも考え、「これから盛り上がってくるで!」という箇所で挿入することによって、さらにテンションを上げてゲームが盛り上がるというような効果を狙っています。
――今までの2Dグラフィックから一新された3Dグラフィックで苦労した点を教えて下さい。
江城氏:本作を3DSで開発すると決めたときに、先行で作っていた「レイトン教授VS逆転裁判」でのナルホドくんのモデルを見せてもらった際「ああ、こういう表現もあるんだ」と感じました。ですが「逆転裁判5」はそれを踏襲するわけではなく、違う表現方法を模索しました。
見た感じは今までのシリーズらしく、角度やパースの付けかたはそのまま3Dポリゴンで再現して、かつ動きはなめらかにというムチャなオーダーを開発に出しました。ツルッとした質感や立体的なモデルはいらないと。僕はお題目を出してその答えを結果を見せてくれと開発とやり取りしていたので現場はかなり苦労したはずですよ。
山﨑氏:ビジュアルを決めるのには約半年はかかっていますね。どういう見た目で行くのか、という基礎が決まるまで、ナルホドくんのモデルを使って試行錯誤していました。どうしても3Dでそのまま表現してしまうと2Dの良さが出ないので、あえてライトは無くしてテクスチャーに影などを描き込んだり、動きに関しても、2Dのキレのいい動きを表現するために3Dモデルの中割をあえてなくしてパッと動くように…とモデル面、モーション面の両方からアプローチしたので、半年かかってしまいました。それ以降もいろいろな人に見てもらいながら、ギリギリまで修正を重ねました。
――6月のE3では海外メディアの反応はいかがでしたか?
江城氏:海外の熱心なファンやメディアから、これはまさに「逆転裁判」だ!という評価をもらいました。「アニメーションはなめらかで、3Dなのに2Dに見える不思議なグラフィックや表現になっているのはなぜですか?」といった質問を多く頂きましたね。一部の海外Webメディアさんから、携帯ゲーム機部門の「Best of E3」にノミネートされたことも嬉しかったですし、海外のファンにもきっちりアピールできたのは良かったです。
――海外のタイトルで法廷を扱った作品はあまりないですよね?
江城氏:そうですね。アニメ的な雰囲気は持ちつつ、本格的なミステリーとユーモアまで入っている作品は少ないですね。ローカライズに関してもシナリオを作りながら随時英語化しており、担当のスタッフは「逆転裁判2」から携わってくれています。「逆転裁判」って日本の笑いやダジャレのエッセンスが入っているんですが、それをそのまま訳してもうまく伝わらないんです。それを海外の人に伝わるような意訳をしてくれたり、キャラクターの独特なネーミングも「逆転裁判」らしさがしっかり伝わる名前に訳してくれています。
――担当者さんが「逆転裁判」を大好きなんですね。
江城氏:そうなんです。ニュアンスを本当に理解してくれていて「究極の意訳」をしてくれるんです。
山﨑氏:単純に「ダイイング・メッセージ」のトリックなどは日本語ベースで作っているんですが、それもしっかり訳してくれますし、そのままでは伝わらない「とのさまんじゅう」は北米版では「とのさまホットドッグ」になっており、その国の文化を含めて意訳してくれているんです。
――WEB体験版、3DS体験版の評判はどうでしたか?
江城氏:今までのシリーズでもWEB体験版は配信してきたんですが、今回3DSの雰囲気をWEBでそのまま表現したいと、制作チームにムチャなオーダーをしました。実際の制作は協力会社に依頼したのですが、間のとり方、データの読み込み方、目パチや口パクなどの細かい方針を開発がガッチリ監修して完成しました。
また、当時は完成したものをなるべく早く出したかったんです。ユーザーさんが一番気になっている「3D表現」の部分をまず体験してもらい、その感想や意見をツイッターなどで募集したところ、ネガティブな意見がほとんどなく「安心した」「アニメーションが生き生きしている」などユーザーさんのリアクションをもらえたので、この方向で良かったんだと改めて感じました。また、体験版をクリアすると見れるムービーには今後の展開がちょっと知ることができるのでユーザーさんの期待感も大きくなったはずです。
WEB体験版から1ヶ月後くらいに配信した3DS版の体験版では、内容をまったく同じでは面白くないので、オープニングムービーをまるっと入れました。リアクションとしては本当に好評で安心しました。
――体験版が終わると流れるムービーではさまざまな憶測がユーザーの中で飛び交っていましたね。
江城氏:本来ネタバレにつながるのでアドベンチャーゲームでやるとマイナスプロモーションになってしまうのですが、「こんなキャラクターが出る!」と感じると期待感も膨らみますよね。映画の予告と同じです。実はWEB体験版のPVはちょっとずつ差し替えているんです。うまくユーザーさんが想像して盛り上がってくれて、そのタイミングで公式の情報が公開されると、発売まで話題が広がり認知度も上がるので、情報の投下に関しては特に意識して実施しましたね。
――社内での反応はいかがでしたか?
山﨑氏:特に体験版の完成時には世の中に出す前に、いろいろな人にチェックプレイをしてもらいました。また自分たち「作り手」サイドだと見えなくなってしまうような要素に関しても、開発に携わっていない人からの意見はとても重要でした。カプコンには品質管理部でチューニングのような作業もしてもらいましたね。
江城氏:うちの品質管理部、厳しいですからね(笑)。特に熱心なファンがいるんですよ。実際にチェックをするユーザーと、チューニングするスタッフは別なんです。チューニングに参加したスタッフからは結構ガツンとした意見がくるんです。もちろんそのスタッフがユーザーさんの代表ではなく、その先のユーザーさんに向けて作っているので、すべての意見・要望を参考にしつつ制作しました。「こういう風に感じる人もいるんだ」という意見は大切でしたね。
――今までの「逆転裁判」シリーズを遊んでいない人も楽しめますか?
江城氏:そこは今回かなり意識しました。「逆転裁判」ってここ数年でコミカライズ、映画、舞台などさまざまなメディアミックスが展開され、タイトル名は聞いたことがあるけど、ゲームは遊んだことがない、という人が多くなっています。そのような人向けに「逆転裁判5」から始めても大丈夫だというメッセージを発信しました。
まずはチュートリアルをしっかりと作ることに関してはかなり気を使い、「逆転裁判」シリーズは10年前のゲームシステムを頑なに守っていたんですが、それも今回壊し、今どきのゲームユーザーさんに向けた機能は必須だと思い、複数のセーブデータや捜査メモ、バックログなどを実装しました。一日ちょっとずつプレイしてもストレスを感じないデザインにしてもらいました。
――クリア後のお楽しみ要素はありますか?
江城氏:はい、あります。第一話をクリアしたときに、後日DLCとして配信する「Quiz逆転推理」の序章が遊べます。また、ギャラリーモードでアニメーションやイベントを見れたり、細かくチャプター分けされた好きなシーンを選んで楽しむこともできます。
――「Quiz逆転推理」を収録した経緯を教えて下さい。
江城氏:「逆転裁判5」の開発を決めた際、コンテンツを購入できるニンテンドーe-shopを利用して、シリーズ初のDLCを作りたいと考えていました。コスチュームだけではつまらないので「違う遊び」として、親和性の高そうな推理クイズを「逆転裁判」っぽく作ってもらいました。初期の案では本作のキャラクターがあるシナリオに沿って進んでいき、事件に巻き込まれて推理クイズを解くことで先に進むというアイデアだったんですが、ただクイズを答えるだけだとつまらない!ということでどんどん中身がゴージャスになり、キャラクターの会話は入るわ、クイズ自体のグラフィックが付くわ、難易度も幅広く用意して、外部の作家さんの書いたクイズをカプコンが監修して…とかなり大掛かりになりました(笑)。
山﨑氏:本当に監修が大変でした…(笑)。
江城氏:有料のDLCということで「この値段でこの内容はラッキー!」と得した気分になってもらいたいと思いました。しかも全編購入してクリアするとレアなナルホドくんのコスチュームがもらえる特典も付いています。
――DLCとして追加シナリオを配信決定した経緯を教えて下さい。
江城氏:ユーザーさんは、クイズだけでなく追加シナリオもプレイしたくなるだろうと思い、現在絶賛制作中の特別編「逆転の帰還」を配信する予定です。ナルホドくんが弁護士バッジを取り戻した直後の物語で、キャラクターが濃かったり、被告人がシャチだったりと、本編の1話分くらいのしっかりとしたボリュームがあります。
衝撃的な「法廷の崩壊」、重いテーマの中にも「逆転裁判」らしさを
――舞台を「逆転裁判4」の1年後とした理由を教えて下さい。
山﨑氏:今までのシリーズではそれぞれ1年後の物語を描いていますし、あくまで「逆転裁判5」は「逆転裁判4」の続きということで、決めました。
――冒頭で法廷が爆破されるという衝撃的なシーンが登場しますが、テーマを「法廷崩壊」としたのはなぜですか?
山﨑氏:「逆転裁判5」を立ち上げるに際して、どういう切り口で見せるかというのは僕や江城をはじめ、いろんなスタッフがアイデアを出し、決めるのが一番大変だったところです。タイトルとして6年ぶりの作品なので、ただナルホドくんやオドロキくんが登場して普通に事件を解決するのではなく、新鮮味を持たせて「おっ、今回はこれできたか?」と思ってもらえるような何かが必要だと考えていました。最初自分が出したアイデアは地味でNG食らったんですが…(笑)。その後自分が出した「法の暗黒時代ということで法廷が爆破される」というアイデアが採用されたのがはじまりですね。
実は自分が携わっていた「逆転裁判4」では、すでに法の暗黒時代というキーワードは出ていたんです。それを生かしつつ、法の暗黒時代を物理的に表現するために「爆破」となりました。
――主人公として成歩堂 龍一が復活するのはすでに決まっていたんですね。
山﨑氏:そうですね。「逆転裁判4」のエンディングでナルホドくんが「弁護士バッジを取り戻そうかな」と話していますしね。ただ復活するだけではなく「彼が何と戦っていくのか?」というテーマで「法の暗黒時代」という設定が生きてくるんです。
――シリアスなテーマの中にも「逆転裁判」シリーズらしいコメディなども盛り込まれているんですよね?
山﨑氏:はい。最初は法廷が崩壊するといったインパクトのある展開ですが、あくまで「逆転裁判」らしいコメディタッチのドラマも描いています。
――シナリオに関しては山﨑さん一人で書き起こしているのですか?
山﨑氏:僕がメインのシナリオを書き、その他に4名のチーム全体で書いています。ブレストをやりつつ、情報を整理しながら一番良い方向性を決め、各話を作り始めます。彼らが書いたものを僕がチェックし、「逆転裁判」らしいテキスト、プロットや話の展開などを組み立てていきます。もちろん僕が直接書いていることも多いです。
――逆転裁判らしいカタカナの使い方やSEなどの演出の設定も大変そうですよね?
山﨑氏:テキストに演出を付けるスタッフから上がってきたものは、すべてチェックしています。演出だけでなくキャラクターの動きも合わせなければならないので、決まった演出に合わせてセリフを変える場合もあるんです。
新旧のシステム、法廷バトルと「心理」の融合
――ココロスコープはどのような経緯で導入されたのですか?
江城氏:最初は「新作だから新システムが欲しい!」というシンプルなオーダーからですね(笑)。
――江城さんから「ペンダント的なもの」というオーダーはあったんですか?
江城氏:ないですないです(笑)。新規で考えたシステムが新キャラクターに関連してるといいよね!後はいいように考えて!という感じで依頼しました。
山﨑氏:(江城さんが)新しいタイトルとして買ってもらうには絶対新システム!って言ってくるだろうな、と思っていたので(笑)。
江城氏:バレてるバレてる(笑)。
山﨑氏:「逆転裁判」の法廷バトルは、かなり完成されているシステムなので、新しいシステムを入れ込むのは結構難しいんです。シリーズを通して「法廷で証拠と証言のムジュンを指摘する」ことが目的だったんですが、本当の法廷だったら「心理」という要素を使った推理も成り立つんじゃないか、と考えました。
「逆転裁判」では「証拠が全て」とずっと言われてきましたが、それだけではなく「心理」も重要なんじゃないか?という切り口にしてみたら面白いんじゃないかと考えたのが最初です。どう使うかまでは当初は考えていませんでしたが…。
さらにもう一つ理由があって、「法の暗黒時代」を迎えた法廷では、「証拠はネツゾウされている」かもしれなく、証拠が全てという今までの戦い方では通用しない!と考え、「心理」が新たな武器になり得るんじゃないかと。ただ心理というあいまいな要素をゲームに落としこむのはなかなか苦労しました。僕の最初のアイデアでは、4つの感情だけでなくもっと多くの感情を細かく分析することも考えたんですが、あまりしっくりきませんでした。「逆転裁判」はシンプルなシステムで面白いというのが大切なので、法廷の流れを阻害しないシステムを作らなければならなかったんです。
僕の考えでは、確立された「尋問」システムで「証拠と証言」のムジュンを指摘し、ココロスコープは「感情と証言」のムジュンを見つけることができるので、プレイ感は似ており、すんなり法廷バトルに入れ込むことができました。そして、基本を作った際に江城に見てもらったんですが、これだけではちょっと深みがないと言われたんです。
江城氏:UIデザインも含めて、触った感じは完成していると感じました。テキストしかなかった証言をビジュアル化し、そこに感情を絡めてムジュン指摘すると新しい試みをしていたので、最初は面白かったんですが、3回くらい繰り返したら飽きるんじゃないかって。
各エピソードのキャラクターによって、いろいろなバリエーションを考えていたと思うんですが、結局4つの感情のムジュンを指摘するだけの遊びになっていたんですね。イレギュラーな事態が起きたり「何かもうひとひねり」欲しい、と提案して作ってもらったのが「感情の暴走」でした。一つの感情が暴走して他の感情を見ることができず、ココロスコープが使えなくなるという状況で、まず初めに感情を正常に戻す遊びが入り、ひとつ遊び方が深くなったなと感じました。
ただ、暴走がしょっちゅう起きると物語が煩雑になるので、ここ一番や物語の転換の場面で使用すれば、よりシナリオの説得力が増し、没入感も上がるように調整しました。
――かなりドラマティックに物語が展開していくんですね。
山﨑氏:暴走する=感情があふれ出るということなので、かなりドラマティックですし、各キャラクターがどういう状況で、どんな感情が出るのかというが描けるようになりました。シナリオで描きたいキャラクター性や物語の起伏と、システムの面白さが合致したことが相乗効果をもたらしてくれましたね。
――ココロスコープのアイデア確立とともにココネちゃんのデザインも決まっていったんですか?
山﨑氏:もともとココネちゃんの能力でココロスコープを使おうというのはシナリオ設定で決まっていたんですが、デザインをしていく流れで、キャラクターのデザインの中に、ココロスコープのシステムと関連のあるものは何かしら入ってくるだろうし、ビジュアルでどう表現するのか、というのをリンクさせながら考えていきました。キャラクターデザインとココロスコープの設定、UIのデザインは同時進行で固まっていきましたね。
――3Dになった探偵パートを制作する上で大変だったことは?
江城氏:逆転裁判の探偵パートって、いわゆる「作業的要素」が強いなって考えていたんです。それがイヤで「逆転検事」シリーズでは自分でキャラクターを動かして現場を操作し、会話劇なども展開し、操作していることが楽しいものにしました。
今回3DSで開発することになって、自分がもっと捜査している、調べている感を強くしてほしいとオーダーして考えてくれたのが「事件現場」をそのまま作ってしまおうということになりました。ただ全部調べることができると、どこを調べていいか迷うし、終わりも見えなくてツラいので探偵パートの調べる場所はある程度決め、調べた場所にカメラが寄ったり、調べた先の状態が変化したりと、より自分が何かを操作している感覚を持たせています。
探偵パートも楽しみ、その探偵パートで集めた証拠で戦う法廷バトルも楽しみ、とゲームとしての流れもダレる場所がなく没入感もスゴイものになっています。
――舞台も法廷だけでなく、学園や妖怪村などさまざまなバリエーションがありますよね。
山﨑氏:背景やアニメーションを作る人は本当に大変だったと思います。本作って舞台がバラバラなんで絵の使い回しができないんです(笑)。
――「サイコ・ロック」など今までのシリーズのギミックを収録した理由を教えて下さい。
山﨑氏:ナルホドくんが主人公で、オドロキくんがキーパーソンというのは決まっていて、それぞれプレイヤーキャラクターのパートがあり、ナルホドくんは「サイコ・ロック」、オドロキくんは「みぬく」という武器をそれぞれ使えるようにすればバランスよく遊べるということを考え、探偵パートにも遊びの要素を入れているので合わせて楽しめると思います。
――金属探知器は出ないですよね??
山﨑氏:ないですね…(笑)。
――ユガミ検事との法廷バトルでオドロキくんの腕輪の機能「みぬく」を使えないようにした理由は?
山﨑氏:法廷では使えないので、探偵パートで存分に使ってください!
――「異議あり!」などのかけ声は新たに収録したものですか?
江城氏:はい、完全新規です。
山﨑氏:でも、森澄しのぶの「ケホっ」という声は実はカプコンスタッフなんですよ(笑)。
――ありがとうございました。
「逆転裁判5」開発チームインタビュー【後編】では、キャラクターデザインを手がけた「布施 拓郎」氏が登場!