ガストより2013年6月27日に発売されたPS3用ソフト「エスカ&ロジーのアトリエ ~黄昏の空の錬金術士~」を総力特集!第5回は発売を迎えた本作の制作秘話やダウンロードコンテンツ展開などについて、ディレクターの岡村佳人氏にインタビュー!
目次
「エスカ&ロジーのアトリエ ~黄昏の空の錬金術士~(以下、エスカ&ロジ―のアトリエ)」の発売から1ヶ月を迎えた今回は、ディレクターの岡村佳人氏にインタビューを敢行!
前作「アーシャのアトリエ ~黄昏の大地の錬金術士~(以下、アーシャのアトリエ)」から今作に至るまでの制作秘話や、7月30日より配信がスタートしたダウンロードコンテンツ、そしてアトリエシリーズやガストの今後の展望についてたっぷりと話を聞いたので紹介しよう。
黄昏シリーズ独特の世界観とアトリエらしさを両立させた2人の主人公
――前作「アーシャのアトリエ」の発売後、今作「エスカ&ロジーのアトリエ」のイメージが固まるまでの過程をお聞かせください。
岡村氏:「アーシャのアトリエ」は黄昏シリーズ最初の作品ということで、それまでのアーランドシリーズから方向性を変えるという方向で進めていたのですが、方向性を真っ直ぐに用意できなかったこともあり、アトリエらしい部分と新しく黄昏の世界を表現するという部分がうまくバランスがとれていなかったと思います。
ユーザーさんからも「黄昏シリーズ独特の世界観を出してほしい」「アトリエらしい部分を出してほしい」という双方の意見をいただいていたので、そちらを両立させるにはどうすればいいかを考えた際に、いっそのこと主人公を2人にして、それぞれで求められるニーズに応えられないかなと思い、2人の主人公としました。
2人の主人公としつつも、ゲーム進行自体はメインストーリーに違いはないので、どちらもプレイしても同じ物語を楽しんでもらえるようになっています。その中で世界観を見せるようなイベントと、従来のアトリエらしい楽しいイベントを、それぞれロジーとエスカに担当してもらうことで、それぞれのユーザーさんが求めるかたちでアトリエを楽しんでもらえないかと思っての今回の試みとなります。
最初は久々の男主人公であるロジーがいることで、変化に対する不安を持たれたかと思うのですが、遊んでいただいたユーザーさんからは概ねご好評をいただいている状態なので、その点については一定の成功を収めていると思います。
――2人の主人公、それぞれのイメージコンセプトはあったのでしょうか?
岡村氏:最初の頃はこちらも悩んでいたところがあって、男主人公だけでいってもいいのではないかという意見もありました。それはさすがに冒険し過ぎだろうということでエスカを足して、2人の主人公としました。
エスカに関してはいつものアトリエらしい主人公に寄せていくということで、前作のアーシャがフワフワしたお姉さんらしい主人公だったのに対し、今回は元気なやる気のある主人公というところに持っていったので、大きく悩むということはありませんでした。
一方で、ロジーに関しては最初の企画の段階ではもっとクールで影のある、トラウマを抱えているというところを出していくというイメージもありました。ですがいろいろと詰めていくうちに、アトリエの主人公はユーザーさんの好みが分かれるようなクセのあるタイプではなく、なるべく多くのプレイしたユーザーさんが好きになってくれるキャラクターとしたいということで、好青年なキャラクターに落ち着きました。
ユーザーさんからの反応も想像していたよりもよかったので、2人の主人公を選ぶという選択肢は、アトリエである以上は外さなくてよかったと思っています。
――前作に続き、今作でも左さんがキャラクターデザインを担当されていますが、エスカとロジーのデザインについてはどういった流れで決まっていったのでしょうか?
岡村氏:その部分に関しては並行作業といいますか、左さんにデザインをお願いする際にはある程度のお題は出すのですが、あまりそこに縛られすぎるとどこかで見たようなキャラクターになってしまうので、最初は自由に描いていただきました。
ただやはりそうすると、今回は公開していないのですが、中二っぽいライバルキャラみたいなデザインだったり、元気な感じの主人公らしいデザインも上がってきたのですが、その中でこちらのロジーのイメージも固まっていき、少しクールな感じのオシャレな主人公というところでロジーが生まれたという感じですね。
――それまでに左さんが描いたデザインの数も多そうですね(笑)。
岡村氏:それはいつも通りですね(笑)。アーシャの時も第10数稿まで左さんにはデザインしていただいていますので、ロジーもそれに近いぐらいの回数はデザインしてもらっています。その中でも今のデザインは、最近のアトリエシリーズでもなかなか無い、カッコいいキャラクターが出来たと思いますので、それについては満足していますね。
――その他のキャラクターについても、全体的に前作よりも華やかさが増しているかなという印象があるのですが、その点は意識されたのでしょうか?
岡村氏:左さん自身が前作で初めてRPGタイトルのキャラクターデザインを担当し、今作ではアトリエシリーズとして2回目のキャラクターデザインだったことで、ユーザーさんに求められているものを取り入れていただいているという感じはしました。
ただ、左さんご自身も我々としても、さらに左さんの持ち味を活かした上で、それをアトリエらしく表現していただくことはできると思いますので、そういったところはこれからもまた考えていきたいと思います。
新たなゲームエンジンで再現した、アトリエシリーズの表現力
――今作ではコーエーテクモ謹製のゲームエンジンを採用しているということですが、それによってどういった変化があったのか、お聞かせください。
岡村氏:これまではソニーさん内製の「PhyreEngine」を使っていたのですが、今回から「KTGL」というコーエーテクモグループの自社エンジンを使っての開発にシフトしました。
最初はRPGを作る上での土台が無かったのでその部分を再構築するというところと、アトリエで今まで積み上げてきた表現力の部分を再現するというところで苦労しました。プログラマーとデザイナーが今回は非常に大変だったと思います。
――「KTGL」への移行は早い段階から動いていたのでしょうか?
岡村氏:「アーシャのアトリエ」の時に可能であれば対応するという会社の方針はあったのですが、すでに開発が進んでいたこともあり、なおかつ対応するには時間がかかるということもあり、今回の「エスカ&ロジーのアトリエ」から本格的に運用するという前提で開発を進めていました。
とはいえ毎年1本発売するというアトリエのサイクルを変えることはできないので、その中でどこまで表現するかというところで、グラフィックに関してはフライトユニットの松本浩幸さんと相談して、方針としては今までのアトリエシリーズとしての表現を、違うエンジンで最低限同じ表現を目指すというところで力を貸していただきました。
それ自体は今回実際に達成できたと思いますし、「KTGL」の持つさまざまなポテンシャルという部分で、今までできなかったことがアトリエでできるようになったというのは大きかったと思います。
――フライトユニットさんの3Dモデルに関しては、今作でどのような表現を目指したのでしょうか?
岡村氏:フライトユニットさんのモデリングに関しては、イラストレーターさんのイラストを3Dに忠実に再現するという点では業界の中でもトッププラスのクオリティで、これまで以上のものにしようとしてもコアなユーザーさんにしかわからないような変化でしかないと思っていますので、今回は同じ表現を目指すということを第一としています。
また、モーションやイベント演出といったところの技術はガストとしては弱い部分なので、その点をできるだけリッチにしていこうということで、「アーシャのアトリエ」からはキャラクターイラストのバストアップによるイベントを完全に撤廃して、3Dの演出というところを中心に展開しているので、その部分を今作でもよりうまく実装できるようにいくつか工夫を凝らしているという感じです。
その部分をきちんと作れるようになっていけば、イベントシーンというところでもユーザーさんにより楽しんでもらえるものができるのではないかと思いますので、今後も改善していきたいと思っています。
――「KTGL」で開発した上でメリットとして大きかった点はどこでしょうか?
岡村氏:単純なところでいえばやはり処理速度の部分ですし、今まで戦闘でキャラクターを3人しか出せなかった部分が、効率的に管理できるようになったことで交代制の戦闘が実現できたりと、ゲームシステムに対する恩恵がありました。
また、ビジュアルの表現に関しても、限られた期間での開発だったにもかかわらず、「アーシャのアトリエ」と比べても明確に変化している部分というのは見ていただけると思います。来年以降のタイトルに対してはそれを土台にして、さらにいろいろな機能に対応していきたいと思っているので、アトリエシリーズとして進化する余地が残せたのが非常に大きいですね。
――今作に関しても、非常になめらかなゲームプレイが楽しめた印象があります。
岡村氏:ビジュアル的な部分もそうですし、ゲームプレイに関しても非常に処理速度が大きく上がっているので、戦闘だったり、イベントのローディングやマップ移動に際しても、ローディングの時間が短縮されています。
アトリエがゲームループで遊んでいただくゲームということで、そのあたりの快適性がすごく重要だと感じていて、シリーズ2作目として新しい試みもしたのですが、前作を受けてユーザーさんの意見を取り入れたところや、自分たちで改善するべきだった部分は一定のかたちで改善できたと思います。一定のクオリティのものをまた今年も提供できたと思いますので、少し安堵しています。
――前作以上に、今作ではアーティストの楽曲参加が目立ちましたが、それによって岡村さん自身が手応えを感じた部分があればお聞かせください。
岡村氏:前作からアーティストの方が作られた歌曲を使わせていただくかたちをとっているのですが、今作に関してはボリュームが増えたというところと、今までに使ったことのない場面で歌曲を使うというような新しい試みもしています。
その中で統一感を出すというのも難しい部分なので、今作に関してはバラエティに富んだいろいろなタイプの歌曲があって、その場面でどういう風になるのかというところをユーザーさんには見ていただこうと思っていました。やはりオープニング、エンディングを含めて大分攻めたかたちになったので、その点については当然ながら賛否両論があったのかなと思っています。
ただ「エスカ&ロジーのアトリエ」に関しては、2作目として普通のことをしていたら埋もれてしまう、これまでと同じようなかたちでアトリエシリーズが広がっていかないという危機感を常に持っていたので、男女2人の主人公というところを始めとして、意識して新しい挑戦をしてみました。
結果的にはほぼ前作と同じくらいの推移でユーザーさんには遊んでいただいているかたちなのですが、その一方でユーザーさんの入れ替わりというのも非常に感じています。
アーランドシリーズとは遊んでいただいているメインのユーザーさんが入れ替わっているという気もするので、今後はその入れ替わったユーザーさんをどれだけ維持しつつ、逆に言えばトレードオフになってしまった、これまで遊んでいただいたユーザーさんにもまた戻ってきてもらえるように考えていきたいと思っています。
歌曲をたくさん用意して、ゲームの中で使わせていただいたというのは新しい試みのひとつでしかないので、ユーザーさんからの評判がよければ今後も継続していきますし、そうでない場合は、その部分をよりよいかたちにするにはどうしたらいいかを考えて、それを次回に反映させていきたいと思っています。
そうしたところは開発としてこだわりがないわけではありませんが、ガストとしてはアトリエシリーズは開発者のものというよりは、ユーザーさんのものとして展開していきたいと思っています。そういった意味で毎年アトリエを出すという前提のもとではあるのですが、その中でも遊んでいるユーザーさんと新しいユーザーさんにどういったことを発信できるかを常に考えています。
そうしたところで歌曲のほうも今後盛り上げていきたいと思いますし、5月に「アトリエプレミアムライブ」というアトリエ楽曲中心のライブも初めて開催し、ユーザーさんからの反響を受けて2回目の開催も決定するなど、ゲームだけにとどまらない展開というのもさまざまな分野で広げていければいいと思います。
――歌曲が流れるシーンは、要所ではあるもののこれまでのイメージになかった場面もあったので、プレイしていて驚きました。
岡村氏:歌曲だけで改めて聴いていただくとまた違ったイメージで聴いていただけると思いますし、シーンとしてもその歌曲がないと普通のイベントシーンになってしまう場面もあるので、それぞれ一番適した場面に用意できたと思います。より上手くシーンを作れるように、今後はイベント担当にも頑張ってもらいたいと思っています。
試行錯誤から得られたゲームシステムの確かな進歩
――6人参加のバトルシステムが採用されていますが、そちらを導入しようとした理由と、実装する際に意識した点があればお聞かせください。
岡村氏:もともとパーティキャラクターをたくさん出すというのは、これまでのシリーズでもたくさんのパーティキャラクターがいるのに、戦闘に連れていけるのは実質主人公とほかの2人だけということでユーザーさんからの要望が強かったというのがあります。
ガストとしても以前のアトリエシリーズの中で交代制のゲームシステムを採用していた時期があって、アーランドシリーズでもその流れでサポート攻撃が入っています。本当はサポート攻撃を後衛のキャラクターとやりたいという意図があったのですが、3Dモデルのキャラクターで6人分のデータを保持しておくというのが当時の技術としては難しく断念していました。
それが今回「KTGL」に対応したことで実現できるようになって今回採用に踏み切ったということなので、特に今までのかたちを大きく変えようという意図で今回のシステムを実装したわけではないんです。もともと今のサポートシステムを中心としたゲームシステムとしては、最終形のひとつとしてすでに成功例があったものなので、それを再現するための一歩を踏み出したという感じですね。
――バトル自体のテンポも前作に比べるとスピーディになった印象があります。
岡村氏:ただやはりいろいろと反省点はあります。率直に言いますと、今回は後継を育てようという気持ちもあり、初期の頃は私自身がシステム的な部分に関して口を出さないようにしていたのですが、最終的には私のほうで戦闘や調合の調整やデータの設定をやり直しました。
そういったところもあり、こちらの思い描くような、前衛と後衛が入り乱れて戦うという戦闘システムとしてはまだまだ足りない部分が非常に多いなという印象で、申し訳ないのですが物足りない部分が残ってしまったので、次回以降ではそういうところをさらにブラッシュアップしていきたい感じです。
テンポに関しても最大6人で連携するという部分で、実際の戦闘では6人連携をなるべく少なく回したほうがゲーム的には有利になったりとチグハグなところもあり、連携の演出も最適化されているとは言い難い部分もありましたので、よりテンポよく、さらに爽快に遊べるものというのを改善したいと思います。
次回作に関しては私がいちからもう一回仕組みを考えなおして、さらにいいものにしたいと思っています。社内でもいろいろなプロジェクトを見るようにはなってきているのですが、アトリエに関しては安定したタイトルとしてユーザーさんに提供していきたいと思いますので、もう一段楽しめるものを目指したいと思います。
――今作の調合システムについては前作をベースとしつつも、さまざまな要素が追加されていますが、その狙いについてお聞かせください。
岡村氏:前作まではコストを消費してスキルを使っていたのですが、今回は材料を入れることでスキルを使えるようになっています。実際に今回の仕組みについてはマスターの2週間前ぐらいに変更が入って実装された要素なのですが、今後に可能性を残す仕組みとして、提示できたかなと思います。
前作に関しては、仕組みがわかれば非常にやりこみ甲斐のある調合システムだったという評価はいただいていたのですが、そこに至るまでは非常に難解で、何をすればいいかわからないという意見もあったので、今作についてはレベルを上げることで段階的にできることが増えていくという仕組みを入れたので、それによってユーザーさんは徐々に仕組みを理解するという土台を作ることができました。
そしてそれだけではなく、材料を選択する際にどの材料を入れたらどのスキルを使えるかという、よりユーザーさんの行動に反映されるかたちでできることが増えるいくという仕組みになったので、非常にわかりやすくなったという点で今回の変更はよかったと思います。
今回はそれをよりライト向けにして、ひと通りのルールを理解して調合すればどのアイテムでも作れるようになったのですが、一方でこれまで遊んできたコアユーザーさんにとっては、若干物足りない部分も残ってしまったと思うので、今後は今の要素としてわかりやすさを残しつつも、もっとコアユーザーさんが楽しめる要素なスキルの使い方を突き詰めていきたいという感じですね。
――素材アイテムの採取数や、調合に必要なアイテム数が減ったことで調合のハードルが下がったかなとも思います。
岡村氏:そういった部分を変えないでいるとアーランドの時から何も変わらないという部分になってしまうので、それを「アーシャのアトリエ」の時に大きく変えようとして、今回はそれをさらにもう一段階進めたという感じです。
アトリエに関しては毎年発売されているということもあり、そのまま作っているとユーザーさんのハードルが上がってしまうという点も感じてはいるのですが、例え「前作のほうがよかった」というご意見をいただいたとしても、定期的に新しい方向性を提示させていただいて、最終的にその部分をシリーズの中で進化させていくことで、今までのアトリエシリーズはやってこれたと思っています。
その点については今後も大きく変えるつもりはありませんし、コーエーテクモグループの一員になったことでPlusシリーズなどの新しい展開も増えていくかと思いますので、コアユーザーさんに向けた要素はそういうところで回収できればいいなと思います。
今作の反省点から得られた今後のタイトルへ向けての展望
――今作を遊んでみて、戦闘や調合の部分などに初回封入特典としても付属していた「マナケミア2」のイメージが強く感じられたのですが、今作に影響している部分はあるのでしょうか。
岡村氏:アトリエのシリーズごとに新しさを出していかないと同じようなタイトルだとマンネリ化してしまうところもありますので、シリーズのファンの方はもちろん、まだ遊んだことのないユーザーさんも興味を持ってもらうというところで毎年タイトルの方向性を考えています。
その中でアーランドシリーズで従来のアトリエのイメージを持ったタイトルを作ってしまったところもあって、それを黄昏シリーズでは何とか変えたいというところからシフトしているので、まだ何も決まっていないのですが、次のタイトルに対して考えるのであれば時間制限の仕組みも大きく変えてしまいたいという気持ちもあります。
時間制限そのものを無くすというわけではありませんが、今の時間の仕組みは、ほとんどいい意味で動いてないと感じています。時間制限があることで効率化してプレイしなければいけないというユーザーさんが多いと思いますが、実は効率化して遊べば遊ぶほど、結果としてできることが無くなってしまって、ストレスの溜まるプレイになってしまうことがあります。
今回の「エスカ&ロジーのアトリエ」に関してもそうなのですが、むしろ適当にプレイして進めたほうが非常に気持ちよく遊べるバランスになっているので、その部分でコアユーザーさんとライトユーザーさんをどのように満足させられるかを今後は考えていかなければいけないと思っています。
そのためには、何かをすると日数が経過して時間制限に影響するという従来のアトリエとしての仕組みは足枷にしかなっていないのかなと思っているので、例えば「マナケミア」のように何かの評価基準になる行動を一定数行うことで時間が経過するといった簡略化したかたちで、ユーザーさんがやりたいことをしていたら時間が進んでいく仕組みを具体的に考えていきたいと思っています。
それによって、コアユーザーさんはより難易度の高いものを意図的にやっていくことでプレイ時間を短縮して遊べたり、コツコツ遊びたい人は繰り返しの作業をしていくことで、かけた時間に見合った見返りを受けた上で先に進めるといった、ユーザーさんのプレイスタイルに合った遊び方を提供したいというのが、今の私が考えるアトリエの理想ですね。
「エスカ&ロジーのアトリエ」に関してはその点が固定的になっていたと思うので、その部分を可変的にすることでより多くのユーザーさんに満足してもらえるアトリエの到達点だと思っています。
――アーランドになってからは今のシステムがユーザーの間でも定着していた気がします。
岡村氏:「アーシャのアトリエ」に関しては、そこを非常に曖昧にしたことで自由度が上がっていたようには見えていたのですが、そうすると何をしていいかわからないというユーザーさんも出てしまうということで、両方を内包するような仕組みを考えたいですね。
調合が肝のゲームというのは前提としてわかっていても、コアな要素で展開した過去のPS2時代のアトリエは完全に先細りになってしまっていました。私自身もコアゲーマーなので当然そういったゲーム性の高いものが面白いというのはわかってはいるので、そういったところとキャラクター、お話の魅力というのを両立させられるようにしていきたいです。
――エスカとロジー、それぞれで違う視点で楽しめるというだけでなく、軸のあるストーリーが展開する印象を持っているのですが、その点について意識した点はありますか?
岡村氏:前作が行方不明になった妹を探すという大きな目的があったものの、その目的に至るための流れが流動的だったのに対して、今回はその部分を定型にして、一定の期間での中目標が定期的に提示されて、それを進めていけば自然と先に進めていけるという構造を目指したので、そもそもゲーム自体のコンセプトが大きく異なるというのが理由としてあります。
ただ、この部分について臆病になってしまった部分として、2人の主人公がいることで両方プレイしなければいけないと思われるのを避けるために、今回はより親和性の高い主人公を選んで遊んでもらえるところを目指そうとしたので、意図的にメインの流れがどちらの主人公でもあまり変わらないように作りました。
ただ実際に蓋を開けてみると、ユーザーさんとしては2人ともに違うストーリーを見たいという意見が出てきてしまっていたので、今後同じように主人公選択式を入れるのであれば、できる限り、異なるストーリーを入れて行きたいと思います。
――私個人としては、よりユーザビリティに富んだメニュー画面での操作や探索装備の導入など、細かい仕様部分の変更がすごくよかったと思っているのですが、その点は開発の段階で意識はされていたのでしょうか。
岡村氏:その点については本来は前作でもやりたかった部分だったのですが、探索装備ですと「自動的に補充させたいけれど誰が補充しているのか」という設定等の兼ね合いが上手く解決できなかったんです。ですが、今回は解決するための設定を作ることができ、追加しました。
これまでのシリーズですとアイテムがもったいなくて使えないというユーザーさんが非常に多かったので、そこはぜひ解決したいと思っていまして、それを今回かたちにできたのが探索装備です。その部分は今後もできる限り、より遊びやすいかたちにするための便利なシステムを取り入れていきたいと思っています。
ただ、昔はアイテムが消耗品で、量販店や妖精さんに作ってもらうという部分がゲームループの効率化のために成立していた要素だったと思うのですが、探索装備が入ることであまり大きな意味を持たなくなってしまうというような、これまでのアトリエのお約束的な部分が崩れてくることにもなりますので、そういったところを見直すタイミングもそろそろ来ていると思います。
アトリエとしての守らないといけないところも当然ありますし、ゲーム性が変わることで変えていかなければいけないこともあると思っているので、毎回のタイトルでユーザーさんに面白いと思って遊んでいただけることを目標にして、今回のような新しいシステムというのは自分たちを含めて、それがより面白さに繋がっていくのであれば入れていきたいと思っています。
――その他、開発に関するエピソードがもしあればお聞かせください。
岡村氏:エンジンを変えたことで最初はメッセージを表示することもできないぐらいでした。PS3になってからは仕組みが変わったので起きていなかったのですが、我々が社内で“豆腐”と呼んでいる、フォントで登録されてない文字に関してはその度に出力しないと文字化けが起きてしまうというものがあるのですが、6、7年ぶりに見たのでちょっと懐かしい気持ちになりました(笑)。
新しいエンジンで作るところの苦労はあったとは思うのですが、私がいなくてもアトリエをきちんと作れる後継者を育てるというところで苦労したことが、個人的には一番大変でした。
ただその点については、30人足らずの社員の中で、当然その全員がアトリエの開発に携わっているわけではないので、限られた人数の中でできる人間がどんどんやっていくというのは今後も変わらないかなと思いますが、なんとかいいものを提供できるように頑張っていきたいです。
DLC展開やガスト20周年に向けた取り組みも
――発売後のユーザーからの反応はいかがでしょうか。
岡村氏:我々の望んでいたような、新しいユーザー層を獲得して、大きな広がりを見せるという部分までは達成できなかったのですが、一定のユーザーさんが入れ替わったとは感じていますし、その中で入れ替わって遊んでいただいたユーザーさんからは概ね好評をいただいているので、シリーズの続編としての役割は果たせたかなと思います。
その一方で離れてしまったユーザーさんも含めて、どうやってこれからユーザーさんを広げていくのかという点は常に考えて行かなければいけないと考えているので、やはりゲームのクオリティもそうですし、より多くのユーザーさんに遊んでいただくための要素に関しては、シリーズごとに見直しを行ってさらに改善していかなければと思っています。
この時期は反省しかしていない感じですが(笑)、もう次回に向けて動き出すタイミングなので、今回の結果を受けてさらに良いものを作るというところで考えたいです。
――今後展開されるダウンロードコンテンツについてもお聞かせください。
岡村氏:今作のダウンロードコンテンツに関しては急ピッチで開発を進めていますが、まずはその第1弾として、発売の直前から開発を進めていたウィルベルが参戦します。これに関してはユーザーさんからの反響があまりに大きく、今回は本当に申し訳ございませんでした(笑)。
「アーシャのアトリエ」ではマリオンとオディーリアがパーティキャラクターとして参戦しましたが、今回はウィルベルをはじめとして残り2名もパーティキャラクターとして参戦し、それぞれのキャラクターに追加エピソードも用意しています。
同時に無料で展開するやりこみダンジョンでは、現状登場している真のラスボスよりもはるかに強いボスと2連続で戦うというかたちになっています。そちらも含めてユーザーさんが楽しんでもらえるものと思っていますので、もしよろしければぜひこの機会にウィルベルもプレイしていただければと思います。
――正直、ウィルベルについてここまで反響があると思っていましたか?
岡村氏:そこはシリーズとしての反省点ですね。アーランドシリーズが継続キャラクターがすごく多くて、それもそれでユーザーさんが支持してくれた一因でもあったのですが、タイトルを重ねる毎に新しく遊ぶユーザーさんが入ってこられないようになっていたので、今回はその部分をある程度控えようというところもあって、前作のキャラクターで仲間になるのは1人としていました。
ただ、ウィルベルが登場することを紹介した時の反響を見ると、ウィルベルがかなり支持を集めているキャラクターなんだなと感じたので、シリーズとしての引継ぎも今回のやり方が黄昏シリーズのやり方だと守るのではなく、今回の反響を受けてもう一回見直しをしていきたいと思います。
そのあたりはいつも通りのアトリエと言いますか、ユーザーさんの反応を見て次回の方針を考えていきますので、今後始まるアンケートなどで率直な意見をぶつけていただきたいです。
――現状で、次回作の構想については考えていらっしゃるのでしょうか。
岡村氏:まだ方針も固まっていない段階ですが、ただひとつ言えるのが、今までのシリーズはたまたま3(ザールブルグ)、2(グラムナート)、3(イリス)、2(マナケミア)、3(アーランド)と来ていますけれども、黄昏シリーズが今回で終わるということは全くありません。
その部分に関しては、黄昏シリーズできちんとしたかたちでの結末をお見せできていないので、その部分はしっかりと今後提示できるようなものを考えていきたいと思います。それについては今後お待ちいただければ何かあるかもしれないですし、そして今年はガストもおかげさまで20周年を迎えるということで、それに関連した発表もあるかもしれないです(笑)。
――随分と抽象的な表現ですね(笑)。
岡村氏:20周年であっても開発している人数は変わりませんが、今後もガストの動きに注目していただければと思います。
――ガストさんでもアーランドシリーズ(「トトリのアトリエ」、「メルルのアトリエ」)をPS Vitaに移植して発売していますが、それにかぎらずゲーム業界全体としてPS3とPS Vitaといったマルチプラットフォームを意識した開発が進み始めていると思います。今後、そのような試みなどは考えていらっしゃいますか?
岡村氏:現状でも結構かつかつで開発しているので、マルチプラットフォームで同時開発というのは難しい状況ではありますが、plusシリーズを遊ばれているユーザーさんからは携帯機とアトリエの相性がいいというお声もいただいていて、もちろん据え置き機で遊びたいというユーザーさんもいらっしゃいますので、双方のニーズに応える必要があるなと感じています。
できる限りそういったことを考えていきたいと思っていますが、できるかできないかという部分で悩んでいる部分なので、そういったところも含めて、コーエーテクモグループに入ったことで今後は実現可能になってくる可能性も高いので、ユーザーさんに一番理想的なかたちでタイトルを提供できる体制にしていきたいと思います。
――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
岡村氏:「エスカ&ロジーのアトリエ」から1ヶ月が経って、アトリエシリーズを作り続けられるぐらいの結果にはつながったとは思っていますので、支えてくださっているユーザーさんには感謝しております。今後もウィルベルのダウンロードコンテンツをはじめ、追加コンテンツの展開をいくつか考えていますので、クリアされた方もまだ遊んでいないという方も楽しんでいただければと思います。
また、今年はガスト20周年ということでアトリエシリーズだけでなく、さらにいくつか記念的な計画も立てていますので、今後のガストの動きにご注目ください。
――ありがとうございました。