2013年8月21日~23日の3日間にわたり、パシフィコ横浜にて開催されたゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2013」。ここでは、サイバーコネクトツーの「キャラクター版権タイトルにおけるゲームデザイン論」についてお届けする。

目次
  1. 原作コミックなのかアニメ版権なのか?連載中なのか完結なのか?~作品ごとに異なる「各キャラクター要素の選別方法」
  2. 目にした時の感動が甦る!「あの名シーン」の再現方法
  3. ファン層に合わせた表現やキャラあたりの物量など「各タイトル固有の問題とその解決方法」
  4. キャラクター版権タイトルに必要なものは、誰にも負けない「世界一の愛」

この講演で登壇したのは代表取締役社長の松山洋氏と、「ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル」を担当した開発部/ディレクターの中舎健永氏。同社はこれまで、週刊少年ジャンプで連載中の人気コミック「NARUTO」の対戦アクションゲーム「ナルティメットストーム」シリーズを10年以上にわたりリリースしている。累計出荷本数は1200万本となり、2013年4月に発売した「ナルティメットストーム3」もすでに累計出荷本数140万本以上。日本のみならず、世界中で楽しまれるタイトルとなっている。

そんな同社の最新作として、「ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル」が8月29日に発売となる。すでに50万本の受注を発表しており、ファンからの期待と人気の高さが伺えるタイトルだ。本公演では、この2つのキャラクター版権タイトルにおけるゲームデザインの手法について語った。

松山洋氏 中舎健永氏

原作コミックなのかアニメ版権なのか?連載中なのか完結なのか?
作品ごとに異なる「各キャラクター要素の選別方法」

「ナルティメットストーム」シリーズの場合

本作は、キャラクター要素の選別までに「ストーリー(原作/アニメ)のどこまでをやるのか」「何で表現するかというコンセプト」「コンセプトをベースにしながらも自由な発想の絵コンテ」「3つのカテゴリによるディレクション」「原作/アニメ監督による監修」までの5つの工程を必要としている。

まず「NARUTO」が現在も連載中であること、テレビアニメも放送中であることから「ストーリーをどこまでやるのか」をきちんと決めなくてはならない。本作はテレビアニメ版権で制作しているため、ゲームが発売した時点で「テレビアニメで放送しているであろう内容から追い越して良いのは最大1ヶ月まで」というルールに沿う必要がある。

このように集英社には版権ごとに定めたルールが存在しているが、特例として「ナルティメットストーム3」では、テレビアニメの半年先までの先行が許可されている。

次に「NARUTO」に登場するさまざまな要素を、ゲームシステムとしてどのように落とし込むかを考える。現在は、アクション性を重視した「コンボ」、ゲーム性を重視した「忍術」、派手さやトドメ感を重視した「奥義」、キャラクター性を強調する「覚醒」といった4つの要素をベースに、プレイアブルキャラクターごとのコンセプトシートを作成。そしてコンセプトをもとに、各要素の担当者がコンセプトの範囲内で、自由なアイデアを盛り込んだ絵コンテおよび仕様書に取り掛かるのだ。

そして同社の場合、ゲームデザイナー・アートディレクター・バトルディレクターといった3人のディレクターがお互いにチェックや討論を重ねる。もちろん簡単にはいかないが、コミュニケーションにより解決を目指す、ごく基本的な手法で方向性を統一。最後の監修では、集英社および原作者である岸本斉史氏の場合は設定だけでなく「ゲームオリジナル要素に、これから原作にも登場する部分が入ってしまった」などにもNGが出るそうだ。

テレビアニメ側は伊達勇人監督が絵コンテを含めた演出面を全て監修しており、チェックが入った部分は必ず修正する。このような工程を12年きちんと実行してきたからこそ、ストーリーに特例が許されるほどの信頼関係を築けたのだろう。

「ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル」の場合

本作では、原作の1部~8部のキャラクターが一度に登場する。まずは7部までの登場キャラクターで「シンプル」「テクニカル」「遠距離」「近距離」といった項目の分布図を、その2ヶ月後に「おおよその仕様」を決定させる。すでに7部までは完結しているため、要素の抽出は比較的容易だったそうだ。

さらに、原作のマンガコマから基本挙動に対して抜き出しを行う。例えば、ジョナサン・ジョースターの場合は基本挙動1つにつき約7~15コマ、モーション全体では240~250コマほど抽出して再現する技や挙動を決定。また「どこかで使用するかもしれない」コマもストックしており、ゲーム全体ではおよそ1万2000~3000コマをピックアップしている。こうしてコマからモーションとして当て込み、原作のシチュエーションを再現するためのアニメーションを組み立てていく。ジョナサン・ジョースターの場合は、全挙動の約9割が原作コマの再現だ。

目にした時の感動が甦る!「あの名シーン」の再現方法

「ナルティメットストーム」シリーズの場合

こちらでは、原作再現について「遊び=プレイアブル」「演出=カットシーン」といった役割分担をしている。短い演出はプレイヤーの操作にゆだね、しっかり描く必要のあるシーンは奥義として派手な演出を入れ込むのだ。とはいえ、奥義中はプレイヤーに「見ているだけ」の時間が発生するため、一旦「1奥義6秒」のルールが設けられた。しかし、原作の派手さを追求していく過程で8~10秒、長いものは12秒と徐々に尺が延びている。また、格闘アクション中に原作に準拠した特定のアクションを入れると、特殊な演出の入るシークレットコマンドも用意した。

「ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル」の場合

原作「ジョジョの奇妙な冒険」の特徴である「名ポーズ」「名擬音」「名台詞」を、どうゲームに自然に落とし込むかがキーポイントに。登場や勝利演出だけでなく、プレイヤーの操作中にもニヤリとできるようなシチュエーション、例えば「ジョジョ立ち」などを入れたいという思いがあったそうだ。そこで、敵の攻撃をジャストガードできると発生する回避モーション「スタイリッシュムーブ」、相手の必殺技ゲージを削れる「挑発」に名シーンのカット演出を実装。ただ見せる要素としてではなく、ゲーム性との両立を可能としている。

このほか、ワムウのニュートラルポーズは「初登場時に柱の中に埋め込まれた状態のポージング」から、ジョルノ・ジョバァーナの必殺技中の待機ポーズは「単行本61巻の表紙」からといったように、各所に名シーン・名ポーズをちりばめた。こうした対応を行うため、基本を早急に決めて後々フレキシブルに変更するスタイルを採用。

また、挑発・勝利ポーズのカスタマイズ、プレイヤーカードにキャラクターの名言を自由に添付できるカスタマイズ要素も取り入れた。プレイヤーごとの思い入れをゲーム内に反映できる、自由度の高いシステムといえるだろう。

登場キャラクターの「特徴的な死にざま」を描いた戦闘不能演出「シチュエーションフィニッシュ」も実装。ステージやキャラクター、特定の技でKOするなどの条件を満たした上で発生するため、プレイヤーの腕前が要求されることとなる。例えば3部のカイロ市街、4部の社王町と聞けば、熱心なファンなら状況に察しがつくのでは。

これ以上に特殊でシステム化しにくいシーンは、専用で対応。例えば、1部ディオ・ブランドーとジョナサン・ジョースターとの対戦では原作同様のカットインが入るほか、シーザー・アントニオ・ツェペリが最終ラウンドで吹き飛ばない攻撃でKOになると「鮮血のシャボン」が画面内に再現されるといった形だ。

ファン層に合わせた表現やキャラあたりの物量など「各タイトル固有の問題とその解決方法」

「ナルティメットストーム」シリーズの場合

最も意識しなくてはならないのが、少年誌「週刊少年ジャンプ」の連載作品、ゴールデンタイムに放送中のアニメ作品という点だ。とくに日本は欧米に比べ「子ども向け作品」の意識が強いため、日本版と海外版ではレーディング表現を変更。日本向けは貫通・切断・流血表現は行わず、エフェクトやカットの繋がりでプレイヤーに状況を理解させる。一方、海外版ではファン層の年齢が高く、こうした表現をしっかりと見せるほうが高い満足度を得られるようだ。

「ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル」の場合

超能力「スタンド」のオン/オフなども含め、キャラクター固有の表現が非常に多い本作。一般的な格闘アクションに比べて3~3.5倍以上のモーションが必要となっており、1キャラクターあたりの物量が途方もない状態に。

さらに、わずか1年半の開発期間で完成させるべく「リアルタイムで作業優先度を管理」「初動三ヶ月でキャラクターの仕様書を大枠で固定」「最高1日3回の迅速なチェック体制」を実施。当然、頻発するチェックや実装作業により、開発チームは常に全力疾走しているような状態だったそうだ。

26年間も連載している作品だからこそ、原作には熱心なファンも多い。こうしたファンに満足してもらうため「“格ゲー”より“ジョジョゲー”」「体験試遊会を6回」「違和感があれば修正」という施策を行った。開発チームにもファンは多かったため「こうしたほうが良い」と作りたいように作った結果、工数にして約70人月オーバー。強い作品愛が招いた結果とはいえ、制作スタイルに問題があったと謝罪をしている。

現在連載中の8部に関しては、開発中に連載はまだ始まっておらず、当初はバトルシーンもなかなか登場しなかった。プレイキャラクターとしての実装は考えていたものの「いつまで待てるか」は大きな問題に。結果として2013年5月の段階まで入れ込まれているが、ストーリーに関してはオリジナルとなった。

常に開発をし、仕様を変更し、実装するスタイルだったため、これ以外にもさまざまな問題が発生。そんな時は「真の“覚悟”はここからだッ!てめーらも腹をくくれッ!!」と、原作への愛を注ぎ続ける覚悟を決めて乗り越えたと語る。

キャラクター版権タイトルに必要なものは、誰にも負けない「世界一の愛」

同じキャラクター版権タイトルとはいえ、ファン層の性質や「求められるもの」によりアプローチは大きく異なる。「これだ!」という作り方は存在しないため、最も重要なのはファンをしっかりと観察し、何を求めているのか調査を入念に行うわなくてはならない。「作り手として大事なものは、キャラクター版権を最大限に活かせるゲームデザインを世界で1番考え抜くこと」と松山氏。「預かった版権にあぐらをかいて、キャラクターさえ登場すれば子どもが買ってくれるといった安易な考えで商品を販売してはいけません。子どもが不幸になります」と、ファンを第一に思うがゆえの厳しい姿勢を見せる。現実問題として資金面で苦しい部分があったものの、自社の負担で補ったほどの松山氏だからこそ言える言葉なのだろう。

最後に松山氏は「キャラクター版権タイトルを扱うなら、愛情なしに作ってはいけない」と断言。ゲームを開発する前からファンがいることを自覚し、その作品に対して世界一の愛を持つことが必要なのだ。

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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