2013年8月21日~23日の3日間にわたり、パシフィコ横浜にて開催されたゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2013」。ここでは、カプコンの「インタラクティブサウンド演出対比 ~ゲームが変わればアプローチが変わる~」についてお届けする。
本講義には、大阪開発部サウンド開発室のサウンドディレクター・山東善樹氏、コンポーザー・北川保昌氏と成田暁彦氏が登壇。カプコンの人気タイトル「バイオハザード6」「エクストルーパーズ」におけるインタラクティブサウンドの演出手法について解説した。
全世界でシリーズ累計5700万本を販売し、荘厳なオーケストラがストーリーを盛り上げたホラーアクションアドベンチャーゲーム「バイオハザード6」。一方、ポップでスタイリッシュなクラブミュージックが特徴的である、“マンガチック爽快アクション”の新規タイトル「エクストルーパーズ」。今回は、コンセプトが大きく異なるこの2タイトルに注目。さまざまなテーマにおいてサウンドを比較しながら、手法や狙いの違い、社内だからこそ実現できた過程について分かりやすく紹介する。
タイトルコール対決
「バイオハザード6」
初代「バイオハザード」からのイメージを受け継ぎ、歴史ある高品質なタイトルとしての貫禄を強調。ゲーム内で迫りくる「恐怖」、待ち受ける「何か」を予感させる重厚感あるコールとなっている。
「エクストルーパーズ」
ポップでスタイリッシュなゲーム性、世界観を表したコール。ボイスは社内スタッフのため、スピード感ある収録を可能とした。
規模感対決
「バイオハザード6」
世界各国で展開するワールドワイドな戦略を元に、各国の著名なアーティストとコラボレーション。BGMの担当者は社内外をふくめ、総勢8人にのぼったという。メインテーマの収録は、映画「Jumper」の作曲家であるジョン・パウエル氏が使用したオーストラリアのスタジオで行い、90名の規模をもつシドニースコアリングオーケストラが参加した。
SE担当者は社内に18名。L.A. Soundelux社/ワーナーブラザーズ社とのSE共同制作を実施した。L.A. Soundelux社による収録風景では、ゲーム中に登場するゴリラをモチーフにしたクリーチャー「ナパドゥ」の効果音を、水まくらやチューブで作成している様子を公開。1つ1つの動きに対し、丁寧な手作業で表情がつけられていくのだ。ちなみに、こうした効果音を生み出すスペシャリストは「フォーリー・アーティスト」と呼ばれている。
また、ゲーム中の舞台となった中国でもサラウンド素材を収集。スライドに登場したのはハンドメイド感あふれる機材で、地道な収録活動を感じさせた。収録場所は街中や水上など多岐におよんでいたが、ゲームをプレイしたユーザーなら「あのシーンの音か!」とピンときたのでは。
「エクストルーパーズ」
BGMはすべて北川氏が1人で担当しており、本作のキャラクターボイスを担当した声優の早見沙織さん、沢城みゆきさん、小林ゆうさんによる挿入歌の歌詞も手がけている。作詞の状況を映した動画では、徐々にテンションが上がり、歌いだす北川氏の様子が伺えた。
SEは山東氏が担当。ここではゲーム中の滑空シーンにおける効果音について、大阪の高速道路でロケを実施した収録時の様子を公開した。思いついたさまざまなアイデアに対し、すぐにロケを行えるスピードや身軽さは、小規模体制ならではのメリットだろう。高速道路上で窓を開けたり閉めたりしながら周波数の変化やスピード感を確認し、こうした実体験によるリアルな感覚をベースとしてゲームへ取り入れたようだ。
効果音演出対決
「バイオハザード6」
現実世界をシミュレートしたような音の表現、再現を追求。例えばヘリコプターのシーンでは、遠い/近い/内部の3段階で変化させていた。近づくと「キーン」といった高音が重なるなど、音の大小だけではなく、音の素材そのものを切り替えている。
室内/屋外でも、銃声や人物の声といった音が大きく変化。部屋の中では残響が強く、外では乾いたような音になる。閃光弾が発射された際にはBGMもすべてフィルターにかけ、耳鳴りのような音を挿入。水中ではより閉塞感ある雰囲気を演出し、さまざまな状況における没入感を重視している。
「エクストルーパーズ」
状況の伝達や遊び心を重視した、残響効果やEQ(イラコライザー)による演出を実行。屋内/屋外では風の音やキャラクターの音声が大きく変化するが、リアルなものではなくデフォルメのきいたものに。高速道路でロケを行った空中をターザーンロープで移動するシーンでは、低音が切れて風切りの音が重なり「地に足がつかない」いった、緊張感のある状態を伝えている。
キャラクターが戦闘不能に陥った場合は、ボイス以外にローパスフィルターをかけて「意識が遠のく」といった様子を表現。このように状況変化に応じて分かりやすくデフォルメした記号的なEQ処理により、ゲーム中の没入感を深めたのが本作だ。
曲切り替え対決 その1
「バイオハザード6」
基本的には曲をまるごと入れ替える、いわゆる「ホリゾンタル形式」を機軸に。レオンがパスワードを間違えてゾンビが出現する“じわじわと迫る静かな恐怖”を例にとり、曲が変化しているにも関わらず、まるでパートが増えたような印象を受ける演出を紹介した。コード感やテンポ感、使用楽器などの系統を揃える、クロスフェードタイムを長くすることで曲が変化しても違和感がないのだ。なお、ここではプログラマに負担をかけないよう、スクリプトにより曲の切り替えを自動化している。
「エクストルーパーズ」
ゲームサウンドの限界に挑戦したという「KORGフィルターサウンド」を解説。例えばあるキャラクターを守るミッションでは、該当キャラクターがダメージを受けてピンチに陥るとBGMが変化。その際、通常のBGMと同期しているため拍が崩れずに繋がるのだ。緊迫した脱出シーンでは「曲が変わった!敵が来た!やばい!」と感じるよう、2小節のドラムフィルインを挿入する切り替えを採用。なお、1小節だとやや短いそうだ。
曲切り替え対決 その2
「バイオハザード6」
本作ではシナリオへ非常に力を入れているため、流れにそって細かく遷移するスムーズなサウンド、ボイステンションの呼応を重視。「潜入」「警戒」「必死」「決死」といったパラメータにより、ボイスの語調やSEのバランス、BGMのAメロ/Bメロ/大サビといった部分がシーンに合わせて変化していく。
こうしてプレイヤーが感じる緊張やパニック感、ほっとした感覚をより強めていく。ロードの間にもBGMを途切れさせずテンションを維持させ、セリフをポイントとしてBGMを切り替えるといった映画のような演出など、“プレイヤーの没入感”を最も大切にしている。
「エクストルーパーズ」
カウントダウンのあるミッションでは、制限時間の30秒前/10秒前/5秒前にピッチが大きく変化。「時間がない!大変だ!」と焦る気持ちをより高めている。また、状態異常「雪だるま」ではキャラクターが行動不能になる。「何もできない!」と、もどかしくなる気持ちをより強くするため、ピッチを大幅ダウン。オーケストラなどにはできない、クラブミュージックだからこそ可能とした、大胆なピッチ変化による演出だ。このようにゲームの状況に応じて激しく変化するBGMが、プレイヤーのドキドキ・ワクワク感をさらに助長するのだろう。
曲切り替え対決 その3
「バイオハザード6」
本作ではさまざまな作曲家を起用しているため、バリエーション豊かな曲が数多く登場する。なかには変拍子を好む作曲家もおり、こうしたBGMをいかにゲーム中で表現するかが1つのポイントとなった。そこで、波形の1つ1つに対してストラクチャーと呼ばれるリソースを用意。そのリソースに「拍子トラック情報」を含め、波形を切り分けず1波形内で変拍子に対応した。ジェイクとシェリーがバイクに乗って移動するシーンでは、4/4から9/8、9/8から4/4への複雑な変化でも正確に遷移している。
テンポチェンジでは、同じテンポの曲をシンクさせる「シンクマーカー」とは別に「カウントスタートマーカー」を用意。「ここまではカウントしない」となる仕組みにより、ループ前ならカウントスタートマーカーの前とシンクマーカーの間のテンポをフリーに描けたという。コンポーザーの表現を損なわず、どのようにシステムへ組み込んでいくか試行錯誤した、プログラマとのコラボレーションで生み出されたといえるだろう。この演出はシェリーがヘリに掴まり、ジェイクが一旦バイクを止めるシーンで体感可能だ。
「エクストルーパーズ」
ギャラリー内にあるミュージックプレイヤーでは、ただ聞くだけでなくハイパス/ローパスフィルターやSE&ボイス挿入などが可能。さらにミュージックプレイヤーで再生したBGMを、シームレスにゲームの施設内で流すことができる。ゲーム性には直接関係ない、説明書にも載っていないオマケ要素とはいえ、開発陣の遊び心あふれるこだわりが感じられた。
音楽や効果音じゃない!創っているのは「ゲーム」なんだ!
ゲームの魅力を最大限に引き出し、高い付加価値を提供するのが「サウンド」の持つ力だ。とはいえ、こうした演出もプログラマをはじめとした制作チームとの強固な信頼関係なしには実現できない。また、60名ほどのサウンドチームはワンフロアに集結しており、周囲からは「異義あり!」「お館様ァー!!」「上手に焼けました」といったサウンドが飛び交っているそうだ。これにより、タイトル間での技術交流や意見交換といったコミュニケーションが活発に行われている。
ゲーム制作はチームプレイのため、コミュニケーションなしに良いアイデアは生まれない。さまざまなアーティストがぶつかり合い、せめぎ合った結果に完成する「総合芸術」こそ「ゲーム」なのだと強調し、音楽や効果音ではなく「ゲーム」を創っているのだと講義を締めくくった。