スクウェア・エニックスが2014年10月2日に発売を予定しているPS3用ソフト「キングダム ハーツ -HD 2.5 リミックス-」、そして現在開発が進んでいるPS4/Xbox One用ソフト「キングダム ハーツ III」のCoディレクター・安江泰氏へのインタビューをお届けする。
「キングダム ハーツ -HD 2.5 リミックス-」は、シリーズを語る上で欠かせない「キングダム ハーツ II」や、その後を描いた「キングダム ハーツ Re:コーデッド」の映像作品、そしてシリーズの起源が描かれた「キングダム ハーツ バース バイ スリープ」の3タイトルをまとめた、HDリマスター作品だ。
今回、6月6日に発売日が10月2日であることが明かされたが、E3のタイミングで本作のCoディレクター・安江泰氏にインタビューする機会が得られたので、その内容をお伝えしよう。本作の魅力はもちろん、世界中のファンが待ち望む最新作「キングダム ハーツ III」についてもわずかながら聞くことができたので、ぜひ読み進めて欲しい。
――「キングダム ハーツ -HD 2.5 リミックス-」の発表から発売までかなり時間がかかった印象ですが、HD化ならではの苦労もあったのでしょうか?
安江氏:今回のリマスターに関しては、全編的に描き換えているところが多いです。UIからキャラクター、背景、テクスチャーと、チーム全体を使ってクオリティアップを図りました。プログラマーが全てのグラフィックアセットをアップコンバート(HD向けに高解像度にデータを変換)しましたが、それだけだと描ききれないところが出てくるので、手間はかかるものの、人の手でしっかりと作っていきました。
――昨年発売した「キングダム ハーツ -HD 1.5 リミックス-」の反響はいかがでしたか?
安江氏:国内、海外ともに非常に好評で、そのおかげもあって本作の開発も快調でした。本作に収録される「キングダム ハーツ II」「キングダム ハーツ バース バイ スリープ」は元々多くの方に楽しんでいただいた作品ですので、当時の良さを崩さないよう開発に臨んでいます。
――開発には、オリジナル版を開発したスタッフも関わっているのでしょうか?
安江氏:そうですね。1作目のときからずっと携わっているスタッフもいますし、その後入ってきたスタッフもいますし、各作品に関わった人が上手く融合した形です。
――「キングダム ハーツ II」はPS2、「バース バイ スリープ」はPSPと、それぞれ違うハードの作品でしたが、HD化の作業に違いはあるのですか?
安江氏:「キングダム ハーツ II」は画面のアスペクト比が違うので、アクションシーンはもちろん、メニュー画面も左右を描き足さなければいけないので、そこは大変な箇所でした。「バース バイ スリープ」に関しては、アスペクト比は問題ない代わりに操作性をPS3向けに変える必要がありました。
――操作性を変えるというと、デュアルショック3でも違和感なく動かせるように調整されているのですね。
安江氏:右スティックでカメラを動かせるなど、ユーザーさんが自然な形で操作できるように仕上がっています。あまりに自然なので、プレイしていても操作性が変わったことに気付かないかもしれません(笑)。
――操作性以外で、細かい調整や変更点はありますか?
安江氏:前作「キングダム ハーツ -HD 1.5 リミックス-」と同じく、ゲームクリア後にPS3のカスタムテーマが手に入ったり、トロフィー機能に対応したりといった追加要素があります。
――トロフィー機能といえば、前作には取得に時間が掛かるものもいくつかありましたよね。
安江氏:今回もいろいろと準備していますよ(笑)。「バース バイ スリープ」には元々ゲーム内にトロフィー機能が入っていたのですが、今回は元のトロフィー機能を残しつつ、PS3のシステムのトロフィーを大量に追加しています。取得条件は現在調整中ですが、簡単なものと難しいものに二分して、多くの方が楽しめるようにするつもりです。
――演出面でもHD化の恩恵があるのではないでしょうか。
安江氏:例えばKHBBSの魔法のエフェクトは、ほぼすべて描きなおしているので、大画面で見ると、とてもゴージャスに見えます。あとは、演出で大きく手を加えたのはワールドにはじめて入ったときのタイトル表示ですね。元のデータをそのままHDにするのでは美しくなかったので、新しく作り起こしました。
――ハードはPS3のみですが、PS Vitaなどで展開する可能性はなかったのでしょうか?
安江氏:HD化の計画は「キングダム ハーツ III」の計画が立ち上がったときからあったのですが、そのときの考えが「別々のハードで発売していた作品をひとつのハードでプレイできるようにしよう」でした。この考えを実現するうえでは、PS3が最もやりやすいハードだったのです。
――元が携帯ハードの作品を、いつかは据え置きで出したいと考えていたのですか?
安江氏:据え置きで出すことになったのは、「キングダム ハーツ III」のプロジェクトが立ち上がったときですね。「バース バイ スリープ」が完成した直後は、次の新しい作品に取り掛かりたいという思いが強かったので、据え置きのバージョンについては考えていませんでした。
――「バース バイ スリープ」は、安江さん個人としても思い入れの強い作品なのではないでしょうか。
安江氏:完全オリジナルの「キングダム ハーツ」作品として開発に携わったのは「バース バイ スリープ」が最初だったので、思い入れはたしかに強いです。今回再び作品に関わって、当時の楽しかった記憶も蘇ってきました。
――「バース バイ スリープ」は元がPSPということで、据え置きハードが強い海外のユーザーから「据え置きで出して欲しい」と要望をもらったこともあってのではないでしょうか。
安江氏:確かに、「バース バイ スリープ」は評判がとても良かったのですが、一方で「ハードを持っていないからプレイできない」という方もいました。そういう意味でも、今回のHD化は意味のある内容になっているかと思います。
――本作では3作品が収録されますが、改めて気に入ったシーンはありますか?
安江氏:「キングダム ハーツ II」で言えば、「パイレーツ・オブ・カリビアン」のステージであるポートロイヤルは「綺麗になったな」とすぐ実感できました。また、HD化したことでワイド画面になり、左右が開放されたことも大きいかと思います。バトルでは周囲の敵を広く見られますし、カットシーンも広がりを感じられて、もとの良さを残しつつ、さらに豪華になっています。
「バース バイ スリープ」はシーンというよりもキャラクターですね。プレイヤーが操作する3人のキャラクターは、キーブレードの太さなど細かい部分まで調整を加えたので印象深いです。アクアなどのプレイヤキャラは特にこだわって手を加えています。
また、「Re:コーデッド」には大幅にイベントが追加されていて、約3時間の映像のうち、2時間は新規の内容になっています。バトルシーンも新たにイベントとして作り起こしているので、DS版をプレイした人にも、改めて注目してもらいたい箇所です。バトルシーンは「キングダム ハーツ -HD 1.5 リミックス-」に収録した「358/2 Days」の映像作品のときから要望が多かった部分なので、野村(「キングダム ハーツ」シリーズのディレクター・野村哲也氏)の方から入れて欲しいというオーダーがありましたね。
――では、アクションという面では、それぞれどのような魅力があると考えていますか?
安江氏:総じて言えるのは、プレイ中に繰り出せるアクションがどんどん変わっていくところです。「バース バイ スリープ」ですと攻撃内容によって変化する「コマンドスタイル」は大きな例のひとつです。何も考えなくてもにぎやかに楽しめることがシリーズの特徴ですが、少し考えて行動すると狙った通りの派手な攻撃にどんどん切り替わる所が面白いですね。
「キングダム ハーツ II」に関しても幅広い選択がコマンドメニューの中に用意されていて、好みに応じた楽しみ方ができます。どのコマンドも丁寧に作ってあり、思い思いのプレイスタイルを実現できる点は本作ならではの特徴です。
「キングダム ハーツ」シリーズのユーザーは、、アクションや戦略にとことん凝る方と、主にストーリーを楽しむ方がいますが、どのようなプレイスタイルでも充分に楽しめることが大きな魅力だと思います。
――「Re:コーデッド」は「キングダム ハーツ II」のあとの物語で、今後「キングダム ハーツ III」をプレイするうえでも重要になるかと思います。やはりこだわりも強かったのでしょうか?
安江氏:「Re:コーデッド」を見ることで「キングダム ハーツ III」への伏線も分かりやすくなりますし、オリジナル版にはなかった、他の「キングダム ハーツ」タイトルの裏設定を垣間見ることができる追加のイベントも用意しました。
――「Re:コーデッド」は映像作品になっていますが、ゲームとしてフルリメイクしたい気持ちもあったのではないでしょうか?
安江氏:「Re:コーデッド」はゲームシステムやバトルの柱となる部分をいくつか企画したので、プレイアブルにしたいという気持ちはありますが、逆に直接企画したからこそ、HDにすることの大変さも良くわかっていて、ちょっと難しいなと(笑)。
例えば、下画面のゲーム性のアレンジの仕方だったり、DS用に作ったデータをHD化するハードルがかなり高いです。もしリメイクするとしたらゲームを一から作ることになってしまい、それだと「キングダム ハーツ III」の開発にも影響が及んでしまいます。なので、「Re:コーデッド」に関しては、あくまでもストーリーを理解してもらうことに徹しました。
――安江さんとしては、今回の3作品をどのような順番で遊んで欲しいですか?
安江氏:最終的にはユーザーさんが決めることですが、時系列としては「バース バイ スリープ」「キングダム ハーツ 2」「Re:コーデッド」になりますね。ただ、時系列通りにやらなければ内容がわからないものではないので、例えば「キングダム ハーツ II」の特定のワールドが好きな方は「キングダム ハーツ II」からはじめるのも一つの選択肢です。
――時系列からあえて離れてみると、シナリオに対する考え方が変わって面白いですよね。
安江氏:「キングダム ハーツ」は元々、事実を伝えるだけでなく、ユーザーさんが考える余地を与える作りになっています。見た順番が違えば解釈の仕方も変わってくると思いますし、そこから新たな議論が生まれてくるかもしれません。
ファンの方が作ったサイトを見ても、人それぞれの解釈が書かれていて面白いんですよ。プレイして想像が膨らむのも楽しいので、順番にはあまりこだわらず、思い思いにプレイしてもらいたいです。
――想像の余地を与えるシナリオというのは、初めから狙っていたのですか?
安江氏:ストーリーは完全に野村の領域で、私はあくまでもストーリーの一ファンとして話していますが、そういう所を狙っていたとしてもおかしくないと思いますよ。
――「キングダム ハーツ III」を語るうえでは、3DSで発売した「キングダム ハーツ 3D [ドリーム ドロップ ディスタンス]」も欠かせないかと思います。こちらを別の形でユーザーに見せる可能性はあるのでしょうか?
安江氏:私としても重要な作品だと考えていますし、ユーザーさんからの声があるのも事実です。現段階では何も決まっていませんが、ひとつの選択肢として可能性はあると思います。
気になる「キングダム ハーツ III」の展開は?
――今回のHD化の計画は、やはり「キングダム ハーツ III」があったからこそ実現したのでしょうか?
安江氏:「キングダム ハーツ III」でこれまでのシリーズで展開されてきた「ダークシーカー編」が完結しますので、その前にシリーズをおさらいできるようにするためにHD版を開発しています。
「キングダム ハーツ」は1作目が発売されてから既に12年も経っているんですよ。当時子供だった人も大人になり、物語を忘れてしまうこともあるので、記憶をリフレッシュさせるには絶好の機会だと思います。
加えて、新しいユーザーさんに入ってもらうにも、最適のタイミングなのではないでしょうか。私自身、娘にはぜひプレイしてもらいたいと思っています。
――先日公開されたPVでも、「キングダム ハーツ III」に触れられていましたが、開発は順調に進んでいますか?
安江氏:「キングダム ハーツ III」は、今回のHD版と並行して開発しています。着々と企画も進んでいますし、順調ですね。開発者としても、HDリマスターを作る中で「キングダム ハーツ」が持つ良さをもう一度消化した上で作ることができています。改めて感じた良さ残しておきながら、新作でどう進化させるかを考えているところです。
――良いタイミングで振り返ることができたのですね。
安江氏:ええ。逆に「キングダム ハーツ」のファンとして育ってきた若いスタッフが「1.5」「2.5」の開発に携われたことも、新作の開発に臨むうえでは良かったことです。
――若いスタッフから刺激を受けることもありそうですね。
安江氏:若いスタッフは持っているアイディアが面白いですし、ファン目線の素直な気持ちを教えてくれるのはありがたいですね。一つの企画に集中し過ぎると、その良さがわからなくなることがあるので、そういう時は若いスタッフから意見を聞くことで、原点に立ち戻ることができます。
――なるほど。ちなみに新しいPVで、注目してもらいたい箇所はありますか?
安江氏:PVの絵コンテは野村が作成したもので、ちょっとミステリアスな雰囲気になっており、「キングダム ハーツ III」の冒頭部分が描かれています。物語全体の軸になる部分でもあるので、じっくり見て想像を膨らまし、熱い議論を交わしてほしいです(笑)。
――安江さんは「キングダム ハーツ」シリーズに長く関わっていますが、ご自身の中でどのような作品に育っているのでしょうか?
安江氏:もうライフワークになっていますね(笑)。歴史もあるのですが、新しいことに挑戦しやすい作品で、まだまだやりたいことがたくさんある、可能性に満ちた作品です。
リアル路線のワールドもあれば、クラシックアニメのワールドもあり、ディズニーらしさとスクエニらしさが共演していて、貴重なシリーズですね。クリエーターとして、かみ合わせるのが難しい別々のベクトルの要素の魅力をしっかり残しつつ、一つにまとめていく所に難しさとやりがいを感じています。
――ディズニーらしさという話ですが、最近のディズニー作品から開発のヒントを得ることもあるのですか?
安江氏:もちろんありますよ。ディズニー作品は常に見るように心がけています。ファンタジーの世界観を作るためにも、大切な作業だと考えています。最近ではやはり「アナと雪の女王」ですね。氷の表現ひとつを見ても、アイデアがたくさん詰まっていて、凄く刺激を受けました。あと、大人も子供も、幅広い方が楽しめる作品に仕上がっていて、KHを作る上ではとても参考になりますね。
――分かりました。それでは最後に、今後の「キングダム ハーツ」シリーズに期待しているファンへ、メッセージをお願いします。
安江氏:「キングダム ハーツ -HD 2.5 リミックス-」は総数70名以上のデザイナーやプランナー、プログラマー、サウンドスタッフが協力して素材の段階から丁寧に丁寧に仕上げた作品になっています。過去のキングダムハーツの良さを残しつつ、全ての要素のクオリティーを最高水準まで高めているので、すでにプレイしている方も、そうでない方も感動できる内容になっています。「キングダム ハーツ III」にも続いていきますので、是非手に取ってみて、壮大なKHの世界を体験してみてください!
――ありがとうございました。