東京ゲームショウ2014の会期中、ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオでプレジデントを務める吉田修平氏に、メディア合同でのインタビューを行った。ゲームショウで大々的に出展された「Project Morpheus」、PlayStation 4発売後の反響、PS4を国内で普及させるためのアプローチなど、さまざまな方面について語って頂いたので紹介しよう。
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東京ゲームショウ2014で「Project Morpheus」が大々的にアピール
――今回のゲームショウで「Project Morpheus」(以下、Morpheus)が出展されましたが、手応えはいかがですか。
SCEワールドワイド・スタジオ プレジデント 吉田修平氏(以下、吉田氏):ヘッドマウント型のVRは、ものすごく大きな可能性を感じています。ぜひ自分達の手で広めていきたいと考えており、今回のゲームショウで大々的にお披露目できて嬉しく思います。
あれだけのVR(仮想現実)映像をリアルタイムで動かすには、PlayStation 4(以下、PS4)というパワフルなコンピュータが必要不可欠です。現在はPS4の売上が好調で、これはMorpheusとっても追い風だと思います。「もしPS4を買っておけば、将来こういったことが遊べるんだ」と思って頂けるようになれば、今後のPS4の売上にも貢献できるのではないでしょうか。
――MorpheusのVR体験は凄いですが、それとは別に装着するのが大変だったり、広い場所が必要だったりと、使い勝手が悪そうな印象も受けます。
吉田氏:Morpheusのヘッドセット部分は頭全体で支える構造になっていて、他社さんのハードウェアと比べて重さを感じにくくなっています。こういった使い勝手に対する工夫や改善は、今後も続けていきますよ。
――今後、このハードウェアを、マス向けにどうやってアピールしていきますか。
吉田氏:それは商品化に向けての今後の課題の一つで、マーケティングチームと共に検討することになるでしょう。例えば「究極の没入感!」や「ゲームの中に入った気がする!」といった表現がよく使われますが、それって昔から使い古された常套句なんですよね。Morpheusの凄さは、実際に体験してみないと伝わらないため、まずは多くの人に体験して頂いて、それを語ってもらうことが大切だと思っています。
海外でのPS4の売上は好調。日本で普及させるためには?
――海外でのPS4の売上が好調です。近年はゲーム専用機とスマートフォンが比較されることが多いですが、PS4がこのような結果を出し続けていることは、例えばアナリストのような人にとって予想外だったのではないでしょうか。
吉田氏:だいたい2008年頃からゲーム専用機の売上が落ち込んでおり、アナリストの方達は「もう、ゲーム専用機の時代は終わった」といった論調でしたね。しかし実際にはPS4もそうですが、Xbox OneもXbox 360より早いペースで売上を伸ばしています。この結果を受ける形で、アナリストの論調もガラっと変わってきています。
彼等は過去のデータを見て将来の予測を立てるので、こういったことも起こりうるわけです。つまり、我々がどのような結果を出すかで、彼等の意見も変わってくるわけで、やはり自分たちの手で業界を盛り上げていかねばならないと思いました。
――ただ、PS4は海外では好調な一方、日本では今のところ、それほどでもないといったイメージが漠然とあります。どの辺りに原因があるのでしょうか。
吉田氏:それはもう、日本のコンテンツですね。海外ではWindows PCを含めマルチプラットフォームの環境を整えているメーカーさんが多いです。PS4の発売前は、彼等から「早くリリースしてくれ!」と催促される程でした。日本では携帯ゲーム機やモバイルの人気が高く、こういった状態でいきなりPS4向けにゲーム開発を行うのは、メーカーさんにとっても現実的ではないでしょう。
――では、今後日本でPS4を盛り上げていくために、どういったアプローチが必要なのでしょうか。
吉田氏:繰り返しになりますが、日本のゲームコンテンツを地道に増やしていくしかないですね。その意味では、9月1日に開催した「SCEJA Press Conference 2014」で、沢山のメーカーさんが“PS4とPS3”、“PS4とPS Vita”といった風に複数のプラットフォームでのタイトル展開を表明してくれたことが、すごく嬉しいんですよ。
こういった形で複数のプラットフォームで遊べると、ユーザー様は両方を見比べたうえで、解像度や処理速度などといったPS4の進化を実感してもらいやすいです。そのようにして多くの方にPS4を手にとって頂ければ、メーカーさんも「じゃあPS4の方に軸足を移していこうか」と考えてもらえるはずです。2011年12月にPS Vitaを発売した時も、PSPからのシフトはゆっくりと進みました。今回のPS4も同様で、ゆっくりではありますが、着実にシフトしていくと信じています。
海外のタイトルも日本のタイトルも盛り上げていく
――近年のゲームタイトルは、カジュアル向けとコア向けの2極化が顕著ですが、このことに対しどのように思われますか。
吉田氏:PS3からPS4にシフトすることでタイトルの開発費が高くなっているのと、Free to Playのゲームが盛況という現状があります。その結果ユーザー様にとって「折角お金を払うなら、それなりのモノでないと」といった意識が表れてきています。ゲームの2極化が進み、中間層のタイトルが減っている側面もありますね。
――リリースされるタイトルの数についてはどうでしょうか。
吉田氏:開発費の影響などにより、発売されるタイトルの数が減ってはいます。ただ、「Destiny」「ウォッチドッグス」「The Last of Us」「グランド・セフト・オートV」などのように、長い期間と開発費を投じて作られたAAAクラスのタイトルは、ガツンと結果を出しています。1タイトルあたりの売上は、むしろ伸びているんですよ。
――今挙げられたタイトルは、海外のメーカーが中心ですね。
吉田氏:海外のメーカーさんはすごく勉強していて、ノウハウの共有も盛んで、隙が無くなってきていると感じますね。日本でもCEDECを積極的に開催するなど、状況は次第に良くなってはいますが、欧米と比べるとまだまだだと思います。日本では発売されていないような欧米のインディーゲームも、素晴らしい発想のものが沢山あるんです。私はよく海外のメーカーさんを訪問するのですが、とても刺激を受けますね。
――吉田さんは以前から、海外のタイトルを日本でアピールすることの大切さを説いていますよね。
吉田氏:それは今でも思っています。先程挙げた「Destiny」「The Last of Us」「グランド・セフト・オートV」などの売れ行きを見ていても、日本でも少しずつ「海外のゲームも良いな」と受け入れられつつあると感じています。まぁ、今後も状況は良くなる一方でしょうね。
――海外のタイトルを重視する一方で、日本のスタジオのタイトルの数が減っているようにも感じますが。
吉田氏:海外向けを極端に重視したり、逆に日本を軽視しているわけではないです。先程言ったようにタイトル1本あたりの開発費が高くなっているため、数を絞ったうえで、集中的にリソースを注ぎ込んでいるんです。その結果、日本を含めた全世界的にタイトル数が減っているわけですね。
言うまでもないことですが、日本のスタジオの存在意義は大いにありますよ。「俺の屍を越えてゆけ2」「フリーダムウォーズ」といった日本向けのタイトルや、「龍が如く」シリーズのように日本でしか作れないタイトルもありますし。もちろん、「Bloodborne」のようにPS4じゃないと絶対に味わえないタイトルにも力を入れていきます。
――海外における「Destiny」の評価は今のところ賛否両論ですが、どのように受け止めていますか。
吉田氏:コンテンツ不足の指摘を受けることはありますが、これは長く続けていくことを前提で開発されているタイトルです。今後コンテンツが増えることで改善されていくでしょうし、少なくとも、基本的なゲームプレイに問題があると言われるよりは良いと思っています。個人的に「Destiny」は、だらだらと遊んでいても楽しいので、長い目で見てくれると嬉しいですね。
――AAAの対極に位置するインディーゲームへの取り組みについて、現状をお願いします。
吉田氏:これまでインディー向けの支援活動「ゲームやろうぜ!」「PlayStation C.A.M.P!」を行ってきました。今はもう、実力ある人は独立してパブリッシングできる環境が整いつつあります。そういった状況下、我々がパブリッシャーとして支援することは、早いか遅いという判断はともかく、役割を終えつつあると思っています。
Microsoftによる「Minecraft」開発会社の巨額買収について
――先日Microsoftが、「Minecraft」の開発元Mojangを買収しましたが、これに対してのコメントをお願いします。
吉田氏:Microsoftが買収することで、いきなり「PlayStation版は止めます」とか言われてしまうと大変ですけど、全然そうじゃないですよね。私は昨日、フィル・スペンサー(Microsoft Game Studios)とパーティーで会ったのですが、「おめでとう!」と言いましたよ(笑)
――今回の買収に伴い、Minecraft開発責任者のNotch氏がMojangから離脱しました。Minecraftが巨大になりすぎて、ユーザーとの距離が離れてしまったことが理由として推測されています。吉田さんもTwitterを通じてファンと直接やりとりしていますが、今の立場に重みを感じたりはしますか?
吉田氏:もちろん重責はありますよ。だって朝起きてTwitterを見たら、「何がPlayStationで良くないか?」というのを延々聞かされるわけですから。しかも、ものすごく強烈な言葉で(苦笑)。
でも、仕事のうえでは役に立っています。発表したことに対するフィードバックや、トラブル発生時は即座に情報が入ってきますからね。自分はそれらを社内で真っ先に把握しているので、問い合わせが多く来た件は関連部署に伝えていますし、向こうにとっても助かっているでしょう。精神的にキツいなと思うことはありますが、もちろん励みになるフィードバックも沢山来ますし、プラスの情報の方が今の自分にとって大きいですね。
――約25億ドルという買収額の妥当性について、どう思われますか。
吉田氏:Facebookによる「Oculus Rift」の買収もそうですが、最近は買収額がインフレ傾向にありますね。金額の評価の方法は色々とあると思うのですが、結局のところは、買った会社がどうやって活用するかに掛かってくるのではないでしょうか。今回の買収をきっかけに、たとえば新しい市場に入って行ったり、新しいユーザー様を獲得するなど、これまでに無い価値を創って企業のために活かせれば、買収の価値があったということだと思います。
――本日はありがとうございました。