コーエーテクモゲームスより2017年12月21日に発売された「リディー&スールのアトリエ ~不思議な絵画の錬金術士~」。その発売に合わせて、本作をはじめ、「不思議」シリーズのキャラクターデザインを担当してきたイラストレーターのゆーげんさん、NOCOさんにインタビューを実施した。
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リディーとスールはそれぞれの個性が表れたデザインに
――まずは発売を直前に控えた(※インタビューは12月上旬)今の心境をお聞かせください。
ゆーげんさん:ざっくばらんに言うと、これまでは発売日の直前でもグッズ制作などの作業があったりしたのですが、今回はそれも一通り終わっているので、僕としては晴れ晴れとした気持ちです。
NOCOさん:この前にちょうどカウントダウンイラストの話を少ししていましたが、それはもう発売をイラストでも楽しんでいただけるようにできればいいなという段階ですね。
ゆーげんさん:仕事を直前まで抱えていると、発売日のことを考えるよりもそれまでに終わらせなければいけない仕事のことばかり考えてしまいますが、今回はそういう気持ちがない分、ユーザーさんに手にとって楽しんでもらえるようどれだけ2人でサポートできるかなというところですね。
NOCOさん:あとはゲームをプレイするのもユーザーさんと同じような心構えができて楽しみですね。
――これまでは主人公とそのパートナーというかたちでそれぞれが担当されていましたが、今作は双子の主人公ということで、最初にお話をいただいた時の印象はいかがでしたか?
NOCOさん:「アトリエ」シリーズは大体3部作で各シリーズが続けられていたので、2人でキャラクターデザインを担当していたら多分3作目はダブル主人公にはなるだろうという予感はありました。ユーザーさんも予想されていたと思いますし(笑)。「フィリスのアトリエ」をやっている段階で、次は双子にしたいという話をなんとなく聞いていましたし、早い段階から決まっていたようでした。
ゆーげんさん:今までの「アトリエ」シリーズと大きく違うことを何か一つ挙げるとすれば、やはり2人のイラストレーターがいて、どちらもメインを張らないといけないというところにあったと思っています。そういう意味で双子というのは納得ですし、2人で双子を描いたらどうなるんだろうというワクワク感はありました。
――リディーとスールのキャラクターデザインはそれぞれどのように進めていったのでしょうか?
NOCOさん:私に関しては、ある程度王道っぽさが欲しいというお話はいただいていました。「アトリエ」らしい王道のデザインってなんだろうと思いつつ、過去作の主人公デザインをいろいろと見た時に、トトリやエスカのパーツのシルエットがなんとなく「アトリエ」独自のスタイルだなと思って、そういった部分を持ってきつつまとめていった感じです。
ゆーげんさん:僕の場合は、細井さん(総合プロデューサーの細井順三氏)とプラフタの時から一緒に取り組んでいるんですけど、基本的に直感で物事をズバズバという方で、大体「ぶっ壊そうぜ」というんですよ(笑)。とりあえず双子のお姉さんをイメージしてデザインしてほしいということでしたが、おっとりしたお姉さんというのは後から聞いたような気がするので、あまり設定に囚われない状態からのスタートになりました。
「ソフィーのアトリエ」から3年続けてきているので、「アトリエ」でのNOCOさんと僕の役割は明確で、NOCOさんからは王道を踏襲した可愛いデザインが出てくるんじゃないかなと思い、ちょっと王道からは外れている、アクのあるキャラクターをデザインしていって誕生したのがリディーとスールでした。
――デザインが完成するまでにお互いにやり取りするタイミングはあったのでしょうか?
NOCOさん:8割ぐらい出来上がった段階でお互いに確認して、双子なので目や髪の色をまとめなおして仕上げました。途中までは全く見ていないですね。
ゆーげんさん:一人が双子をデザインするとどうしてもどちらかが沈んでしまうか、すごく均等になってしまってアクのないキャラクターが出来上がるのですが、今回は一緒にやってきた3年間を経て、それぞれにやりたいことがある2人のイラストレーターが双子をデザインした時にどうなるかということをアンサーとして出せればいいと思っていました。結果的に、一人がデザインするよりは面白いキャラクターデザインになったと思います。
NOCOさん:双子っぽくお揃いという感じだと主人公としても面白くないので、そういう部分で個性を出していこうというのは最初の時点で話しました。
ゆーげんさん:NOCOさんが仰ったように8割ぐらい出来上がった頃に目や髪の色を合わせて、最後にフリルが付いたカチューシャのようなものを頭につけて、ほかはあまり変えることなくデザインできたんじゃないかなと。
――リディーとスールのデザインカラーも当初から決められていたんですか?
NOCOさん:全然相談していなかったんですが、キレイにバランスが取れたんですよね(笑)。
ゆーげんさん:これも3年間一緒にやってきて、こういう色でやるんじゃないか、自分はこういう色が好きだというのをお互い無意識下にあったのが大きいですね。NOCOさんのデザインを上げた時もNOCOさんらしいなと感じましたし、僕がデザインを上げた時もNOCOさんとは少し違う感じの色合いになって、語らずとも出来上がったデザインでした。
それぞれの絵画へのアプローチから生まれたキービジュアル
――8月にタイトルを正式発表された際のキービジュアルを見た時、お二人それぞれがデザインしたキャラクターがいるはずなのに、違和感なく1枚のビジュアルになっているなと思いました。そうした点も含めて、今作では絵画がテーマということで色合いがより鮮やかになっていますが、ビジュアルとしての見せ方への意識はありましたか?
ゆーげんさん:キャラクターデザインは映えるものを作らないといけないので、絵画というテーマや、絵の中に入っていくというところとは距離を置いて考えました。でもキービジュアルなどを制作する際はまた違ったアプローチをしています。
NOCOさん:私の考え方としては、絵画と聞くとカラフルでいろんなものが描かれているイメージを持たれるだろうと。それを共通のイメージとして一緒に認識できればと思い、最初に発表された、虹の絵の具みたいなものが散らばっているビジュアルは私がリードで描かせていただきました。主人公も「不思議」シリーズの中で一番幼くて二人とも元気なイメージなので、ハツラツとした感じも表現するよう意識しています。それと比べると、ゆーげんさんがリードとして描かれたビジュアルはもう少しアナログな絵画っぽいイメージですね。
ゆーげんさん:絵画というワードは、表面を撫でると一言で終わるんですが、掘り下げていくと結構深いじゃないですか。僕らがやっているようなイラストも、先人たちが描いてきたイラストも絵画といえば絵画なので、そこをなんとなく繋げたいなというイメージが強かったです。
NOCOさんがリードしてくれたキービジュアルでユーザーの方にわかりやすくキャラクターを見せた上で絵画の世界であるということを説明してくれていたので、僕はそこから掘り下げたイラストを描きたいなと。昔の絵画風なイメージを取り入れつつ、キャラクターも立たせつつという一枚として収まるような、作品を押していくようなイラストにできればいいかなという想いがありました。
――キービジュアルの制作過程にもお互いへの認識が現れているように思います。
ゆーげんさん:「ソフィーのアトリエ」の時は話し合わないと分からない部分がどうしてもあって、試行錯誤の連続でした。
NOCOさん:お互いを知るのに時間を使っていましたね。
ゆーげんさん:ソフィーの時にお互いに話をしたことが、後の2作品に良い影響があったと思っていて。僕だったらNOCOさんがこういう風に仕上げたり、こういう色合いでデザインしてくるだろうというのが分かりましたし、NOCOさんだったら僕がこういう風にしたいというのを汲み取ってくれたりというのがありました。今回は特に3作目ということもあり、どちらかがリードして仕上げまでやるという流れを組んでいるのですが、出来上がったものに文句がない、僕がやりたかったことも組み入れてくれた上で完成させてくれたことが分かる作品になったんじゃないかなと思います。
NOCOさん:自分の絵にゆーげんさんの絵を突っ込んで仕上げようとなった時には、調整するために細々としたことをやらなければいけないイメージがあったのですが、(今回は)そういう小手先のことをせずに、ゆーげんさんだったらこういう仕上げ方をするだろうな、こういう色が似合うだろうなということを感じて、歩み寄るように仕上げることでまとまっていきました。
ゆーげんさん:言葉に出して言うと、「ああ、そうだったんだ」と思うのですが、それまでは基本的に無意識下のうちにやっている作業なので、キャラクターデザインが完成してみたら似たようなラインで出来上がっていたというのも驚きはありました。
NOCOさん:やってて面白かったですし、結果良いものになったと思います。
――お話を伺っているとデザインはスムーズに進んでいった印象を受けますが、いかがでしょうか?
ゆーげんさん:合作などについてぶつかって難しかったといったことはなかったですし、面白い3年目だなという発見がありました。ガストさんは「2人でやってみてください」という感じのスタイルなのですが、NOCOさんと一緒だからこそできた要素、NOCOさんから刺激を受けたリスペクトできる部分がたくさんあって、凹みもするのですが、一緒にやってくれて良かったなというのが今作の実感としてありますね。
ソフィーやフィリスなど、そのほかのキャラクターデザインの見どころは?
――リディーとスール以外にもさまざまなキャラクターをデザインされていますが、その中でデザインの気に入っているキャラクターはいますか?
NOCOさん:私はリディーとスールのお父さん、ロジェを描いたのがすごく楽しかったですね。ソフィーはお父さんがいなかったし、フィリスはゆーげんさんの担当だったので、主人公のお父さんを書くという体験は初めてでした。
ゆーげんさん:絵描きが絵描きを描くというね。
NOCOさん:そうですね。遊べるキャラクターで楽しかったですね。
ゆーげんさん:あとでボイスが子安武人さんだというのを聞いて、2人して「やったぜ!」と(笑)。
NOCOさん:体験会で最初の方を触らせてもらったんですけど、子安さんの演技、面白くてとても最高でした! そういった意味では今回はハゲルさん(※ボイスは立木文彦さんが担当)を描かせていただけたのも嬉しかったです。
――ロジェのデザインは錬金術士と絵描きという両面が上手くブレンドされていますよね。
NOCOさん:マッドサイエンティストでダメ親父という設定を最初にいただいていたので、カッコよくてまとまりのあるデザインにはあまりせず、ちょっとダサい感じで描こうと思いました。あと、お母さんがいないので、お父さん一人だけで家族と向き合ってきたらちょっとお母さんぽくなるんじゃないかなと思い、顔の印象や髪型を若干女性ぽくなるようにこだわっています。腰に布を巻いていたりしつつ、フラスコを持っていたり、画家としての部分もある程度分かりやすくなるよう、カラフルに盛り込んでいます。
――ゆーげんさんはいかがでしょうか?
ゆーげんさん:デザイン変更が初めてされたということもあり、プラフタは苦労しましたね。「ソフィーのアトリエ」の時は人形らしいデザインに、人形好きであれば意識するであろうフリルやドレープなどを多用して作ったのですが、今作では生を感じさせるようなデザインに昇華させたいという点で頑張りました。
NOCOさん:作りものっぽくない印象になりましたよね。
ゆーげんさん:まさに作りものではないキャラクターを意識して作れたので、そのあたりが実際のゲームでどう見えるのかが楽しみです。恐らく声優さん(プラフタ役の井口裕香さん)も今までとは少し違う演技の仕方をされていると思うので、そこも1ユーザーとして待ち遠しいです。
――先ほどお話にもあったように、NOCOさんは先日の体験会(※10月29日に行われたクローズド体験会)にも来られていましたが、実際にゲームを触ってみて気になる点があればお聞かせください。
NOCOさん:街中やフィールドのグラフィックのクオリティが上がっていて、すごく入り込んでいる感じがあったのは嬉しかったです。
ゆーげんさん:絵画の中に入り込むと一言で言っても、表現の仕方が難しいじゃないですか。現実と絵画の中に入り込んだ後の違いをユーザーさんにはメリハリをつけて分かってもらえないとしょうがないと思うのですが、ゲーム中の絵画世界ではまるで夢の中にいるかのような感覚になっていますよね。
NOCOさん:ファンタジックではあるんですけど、それが意外と「アトリエ」っぽい感じがするのが良かったです。
ゆーげんさん:現実世界と絵画世界がきっちりと分けられていて、ユーザーさんも絵の中に没入していくという気持ちが味わえるようなグラフィックになっていてすごいなと思いました。
――最初に入っていく絵画世界は、彩り豊かな画面効果もあって印象的でしたね。
ゆーげんさん:多分あれを作った人は相当苦労しているんじゃないかと思いますね(笑)。
――3作にわたって「不思議」シリーズに携わっていく中で、これだけ共通の世界観をもった作品群のキャラクターたちをデザインする機会はあまりないことだと思いますが、シリーズを振り返ってみていかがでしょうか? 例えばフィリスも今作でその姿が変わっていますが。
ゆーげんさん:フィリスに関しては、「フィリスのアトリエ」でキャラクターの髪型も含めて、フィリスを失わない上での衣装替えを何十パターンも出していたので、「リディー&スールのアトリエ」に移ってから、そことはブッキングしないレベルでフィリスを変えなければいけないだろうと。
ただ、デザインは段々と枯渇していくので、新しいデザインを生み出さなければいけないという点ですごく苦労しました。ユーザーさんに変化を感じてもらうためには大きくデザインを変えなければいけなかったので、結果的に大分大きくなったなあと(笑)。
――成長するというのは最初の時点から設定としてあったのでしょうか?
ゆーげんさん:最初の時点ではあまり無くて、デザインをしていく過程でどういう方向性に持っていくかをプロデューサーと話しているうちに、大きく成長したフィリスをユーザーさんに見てもらいましょうとなりました。
――「アトリエ」シリーズでは、ひとつのシリーズを通じてキャラクターが成長していく姿を見ることはできますが、身体的な成長をすることはあまりなかったので、当時はビックリしました。
ゆーげんさん:それもソフィーという安定したそこにいてくれる存在がいたので、フィリスに関しては冒険できましたし、ユーザーさんも今の成長したフィリスも受け入れてもらえるんじゃないかという環境はありますね。
――杖じゃなくて弓を使っているところも含めて、旅を経て成長した感じがありますよね。
NOCOさん:そういった意味では、ソフィーはシリーズの軸としてあまり大きな差異はつけずにまとめました。変えちゃいけない気がすごくしていて、結果的にどこも触れなかったんですよね。ソフィーが変わるとすごく不安になる感じが自分の中にあって、こうあってほしいという姿を描くとあまり変わらなかったりします。
ゆーげんさん:フィリスの場合はストーリーのラインとして街から出たくて、好奇心旺盛にいろんなものを見てみたいという少女から4年経った時にどうなるのかというのを考えると、身長は置いておいてもいろんな面で成長しているだろうというところはありました。
コートを羽織っているのも師匠のソフィーのデザインを意識していて、服装もリアーネの衣装に寄せています。僕の頭の中ではリアーネから受け継いだものでして、自分が旅をする中で無駄なものを省いたり、便利なものを追加していったりと工夫を重ねていった結果の姿を表現できたのではないかと思います。
NOCOさん:取り入れられていることによって、フィリスはもう(リアーネに)頼らなくても大丈夫なんだなという感じはしますね。
ゆーげんさん:NOCOさんにそう言ってもらえると嬉しいです。
NOCOさん:ソフィーは最初から自立した女の子だったので、そういう意味では成長を表現するのは違う気がしていて。2作目ですでに師匠となっているとなると、大きな変化はなく、そこにいてくれるだけで嬉しい存在になればいいなと思いました。
――ソフィーは衣装のデザインで意識的に変えた部分はあるのでしょうか?
NOCOさん:ソフィーは大きいコートを大体着ているのですが、ガストさん側の指定もお互いに相談することもなく、ソフィーと言えばこのコートだよねと出して、そのまま通った感じになっています。ちょっと博士っぽい白いコートで、錬金術士として大成した感じは出していますね。
ゆーげんさん:話の中でどうしても過去にデザインしたキャラクターの昇華に行きがちなのですが、今回の「リディー&スールのアトリエ」という作品単体で見ても、ユーザーさんはすごく楽しめると思いますし、ソフィーやフィリスを知らなくても入っていけるようになっていると思います。
――実際に序盤をプレイしていると、あまりこれまでのシリーズのキャラクターには寄っていない感じはしますね。リディーとスールがすごく活動的でもあるので。
ゆーげんさん:ワチャワチャやっているなと(笑)。
NOCOさん:ユーザーとしてもそこに巻き込まれているような気持ちにになって楽しいですよね。
3年間取り組んできたキャラクターデザインを通じて学んだこととは?
――「不思議」シリーズはタイトルごとにその印象も変わると思いますが、シリーズを通じての印象などはありますか?
NOCOさん:「ソフィーのアトリエ」の時は今までの「アトリエ」シリーズを受け継ぐ気持ちだけだったので、ただ目の前のことに精一杯でした。ただ、当時はゆーげんさんがスパイス的な立ち位置だったので、自分は王道の道をいかなきゃいけないと思ってやっていたのですが、今回は2人で主人公を担当することになって、立場が変わったかなと思います。タイトルごとに心持ちが違っていたので、通して何かというものは持っていなかったように思います。
ゆーげんさん:個々のタイトルに対するイメージが強くて、3つまとめて「不思議」シリーズだと言われると、「そうかー」という感覚です。
――ゲームとしての遊びもタイトルごとにガラッと変わるイメージですね。
ゆーげんさん:それはもうガストさん側も試行錯誤でしたね。3Dモデリングも「ソフィーのアトリエ」ではNOCOさんのキャラクターのモデルはフライトユニットで、僕のキャラクターのモデルはコーエーテクモゲームスのCG部の方がやってくださったんですけど、そこから「フィリスのアトリエ」になって全てコーエーテクモゲームス側でやるようになるなど、タイトルごとにやっている中身が違っていました。
「フィリスのアトリエ」の時は「アトリエ」で一番広大なフィールドを用意して、難題も多かったと思うのですが、その中で開発として処理できるもの、受け入れられるものが変わってきて、「リディー&スールのアトリエ」ではいいところをまとめられたという。まさに僕らだけでなく、開発陣一同が常にチャレンジしなければいけない3タイトルだったのではないかなと思います。怒涛の3年間だったのではないかなと(笑)。
NOCOさん:私は「アトリエ」に関わるまでキャリア的にも目立った感じではなかったので、そういう意味でもどんどん転がっていくようなイメージですよね。
――それこそ、発表会やイベントに出演されるという経験もありましたしね(笑)。
ゆーげんさん:それまでは顔を出すのはどうなのかなという意識が強かったのですが、改めて感じたのは印刷物でイラストレーターとしてやるのと、グループとしてゲームを作っていく人間としての絵描きというのは立場が違うんだなということでした。
NOCOさん:自分だけのものじゃないという思いはありますね。
ゆーげんさん:発表の場でデザインについて語った上で、ユーザーさんに理解してもらえることも大事だと思えたし、そういう場所を用意してもらったのも経験になりました。
――ゲームのキャラクターデザインはイラストレーターとして描かれるものとそのアプローチも変わってくると思いますが、その過程で学んだことや新鮮に思ったことはありますか?
ゆーげんさん:イラストという言葉は外の人から見ると割と一括りに捉えられると思うのですが、キャラクターデザインやパッケージデザイン、小説の挿絵など全てに違うスキルが必要になってきます。キャラクターデザインに関して言うと、パッと見た時にシルエットとしてデザインが完成されていないといけないなという意識は僕の中にありました。ただ、それだけを優先すると、今度は3D化できないという問題も出てきて。
NOCOさん:そこは私も一番苦労したところですね。
ゆーげんさん:個人的には僕らはイラストレーターとしてボリュームを持たせたいので、横に広がるようなデザインをしたいんですが、そうすると、「3Dにした時に腕が被るからそれは止めてください」と言われることもあり。3Dのことを考えながら、ボリュームをつけながら、シルエットとしてのキャラクターデザインはどうかというのを考えると…。
NOCOさん:全く同じ話をしようと思っていました(笑)。立体で見て映えるものって、動いた時に揺れたりするなど、いろいろと考えることがあって、平面だけしかやっていなかったこともあって想像力を働かせないといけなかったですね。
ゆーげんさん:例えば歩いて翻った時のソフィーのマントなどの楽しさは立体ならではですよね。僕の場合はフィリスのリュックサックがそうだったのですが、楽しげに歩いていて、下げているランタンや後ろにくっついている地図とかが揺れていたら、ユーザーさんも面白いと思うんですよね。そういうものって2Dの世界では考えはしても、3Dの世界では揺れていたり風に吹かれていたりといった要素があるので、その違いをキャラクターデザインにする時に意識することは増えました。
NOCOさん:挿絵やソーシャルゲームでのカードデザインは、いかにその設定を反映できているかが大事なんですが、ゲームのキャラクターデザインとなると、そういうところよりも優先するものがたくさんありましたし、最初は全然想像がつかなかったですね。
ゆーげんさん:3Dになった時の喜びはひとしおでしたね。こういう風になるんだなというのが、2Dのゲームのデザインとは全然違うものだったので。
NOCOさん:あとデザイン面で言うと、生地の感じや密度感をもう少しリアルに近づけて、ゲームのHD画面で見た時に耐えられるデザインを考えるというのも、これまではシンプルなものを描いていたので、ゆーげんさんから勉強させていただきました。
ゆーげんさん:僕は逆にシンプルさを意識するNOCOさんから勉強させてもらったことがありました。
NOCOさん:そこはお互いにないものを取り入れながらできた気がします。
ゆーげんさん:NOCOさんが言うようにフルハイビジョン、4K、さらには8Kと高解像度になっていった時に、2Dのデザインと3Dのデザインは根本的に異なる部分があるので、同じ白色でもトップスとボトムス、どういう風に違いを見せたりといった違いがたくさんありますね。
――そういったデザイン側のアプローチがあって、実際の3Dモデルも完成されていくということですね。今作ではそうしたグラフィック全般がひとつの括りとして印象的でした。
ゆーげんさん:そう言っていただけるとすごくありがたいですし、3Dに取り組んでくれたCGのみなさんの理解度があってこそだなと。僕らが描くような2Dのキャラクターを再現するのって、正面以外の構造はどうなっているのかなど、リアルな人間を3Dで作るのとはまた別の感覚が必要になってきますので、ここまで3Dモデルとして落とし込んでくださったのは進化の一つなんじゃないかなと思います。
NOCOさん:今回は開発の方に意見させていただく場も設けていただいて、お互いに研究できることもありました。
ゆーげんさん:「フィリスのアトリエ」までは出来上がった3Dモデルに対して僕らがどうこう言うことは無かったのですが、今回から細井プロデューサーの発案で意見交換会という機会をいただきました。3Dを作ってくださっているみなさんが集まって、僕らが想像しているものの伝えきれていないデザインについての解釈などを意見交換できました。
――そういう場も含めてですが、今回はいろいろお話を伺う限り、開発としても良い意味で余裕のある、充実した環境の中で発売を迎えられるんだなと。
ゆーげんさん:本当におっしゃる通りですね。
NOCOさん:制作期間としては一番短かったんですが、我々が慣れた分、時間を短縮できたのも良かったことだと思います。
ゆーげんさん:僕とNOCOさんは作っている人たちとディスカッションできたことで視野が広がった部分と、短時間でも気持ちが入っていれば完成させられる部分があったりするので、モチベーションという意味で長く高く保てることができたというのはあるかもしれませんね。僕はギリギリでしたけど(笑)。
NOCOさん:フリーランスとして呼ばれている立場なので、あくまでも下請けみたいな感覚でお仕事することが多いのですが、チームとしての感覚を持てたのは貴重な経験でした。
ゆーげんさん:ゲームはチームワークで作るものですが、外部から呼ばれていると出来上がったものを後から見て、というようなこともありますが、そこを今回は一歩中に入れさせてもらい、ディスカッションの場を設けてもらったのは充実した開発環境だったんじゃないかなと思います。
――最後に、お互いが描かれるイラストの魅力についてお聞かせください。
ゆーげんさん:僕もそれは聞いてみたいですね。どうですか、塩対応のNOCOさん?(笑)
NOCOさん:確かにゆーげんさんに対して、直接そういうことを言ったことがないですね(笑)。そもそも、私は一緒にお仕事をする前からゆーげんさんの絵をすごく見ていたので、あえていまさら言うこともないだろうと思っていたんですけど、一緒にやってみて影響された部分は、デザインの仕方や勢いですね。ゆーげんさんはすごくロマンチストで情熱家なところがあって、それがすごく絵に表れているなと。
私はドライなタイプなので、自分の絵に対してあまり感情を持たないようにしているのですが、ゆーげんさんはこみ上げたものを表現されますし、自分らしくやることに対して戸惑いがないという部分はすごく尊敬しているので、それが魅力につながっていると思いますし、自分の中でも取り入れられたらいいなと。
ゆーげんさん:めちゃくちゃ恥ずかしいですね(笑)。僕は、言葉はそのタイミングで言わないともったいないと思っているのでNOCOさんには言うのですが、NOCOさんはそういう気分で聞いていたんだなと。でもありがたいですし、嬉しいです。
基本的に絵描きさんってライバルでもあったりするので、深く読み解こうと思ったりはしないのですが、3年間一緒に取り組む中では必要だと思ったので、一緒にやっているうちに技術力の高さはすごいなと思いました。
経験値としては僕のほうが少し長くやっている分あるのですが、僕が描けない構図を描いてきたり、きちんとミュシャやミケランジェロなど昔のイラストを描いていた方たちの知識があった上で、現代のCGに対する意識をきちんと持っている。そしてどういう風に向上したらいいのかを考えてやっているのが刺激を受けました。
それと立体物を2次元の線として表現するのが抜群にうまいと思っています。それはキャラクターだけでなく、背景で布がたなびいているような表現を見ても、きちんと線として表現できているのはすごいなと思います。
NOCOさん:ありがとうございます!
ゆーげんさん:そういう意味でもこの3年間、ほかの人だとダメだったと思うんですけど、NOCOさんと一緒に組めたことは得られるものも多く、楽しくできました。