セガゲームスが12月13日に発売するPS4用ソフト「JUDGE EYES:死神の遺言」のプロデューサー・細川一毅氏とディレクター・吉田幸司氏へのインタビューをお届けする。
「JUDGE EYES:死神の遺言(以下「JUDGE EYES」)」は、現代の東京を舞台に連続猟奇殺人の謎を追う、リーガルサスペンスアクション。龍が如くスタジオの最新作であると同時に、主演に木村拓哉さんを据えたことでも大きな話題になっている。
主人公は木村さんが演じる探偵・八神隆之。プレイヤーは八神となって尾行や聞き込みといった調査を駆使し、事件の真相に迫る。「龍が如く」らしさも残しつつ、新たなチャレンジにも踏み込んだ作品だ。
今回、本作の開発の中心人物であるプロデューサー・細川一毅氏とディレクター・吉田幸司氏に話を聞く機会が得られた。木村拓哉さんという日本を代表する俳優をキャスティングした経緯、スタジオがこれまでに作ってきたゲームとの違いなど、さまざまな質問をぶつけてみた。
ドローンの名付け親は木村さんだった
――「JUDGE EYES」は龍が如くスタジオにとっても新しいチャレンジだと思いますが、この企画が始まったときを振り返ってもらえますか。
細川氏:龍が如くスタジオは読んで字のごとく「龍が如く」を作っているスタジオですが、これまでも「バイナリードメイン」など、新たなIPへの挑戦も繰り返してきました。そして「また新しいタイトルを作りたい」という気持ちは数年前から持っていて、「龍が如く0 誓いの場所」が終わったタイミングで私が概案を作ったのが始まりでした。
吉田氏:そのころ僕は「龍が如く 極」に携わっていて、最初は細川からの相談を聞く程度でした。「龍が如く 極」の開発が終わり、「JUDGE EYES」へ本格的に参加するときには雛形が完成していましたね。
――今回のリーガルサスペンスというジャンルも、その当時から決まっていたのですか?
細川氏:名越(名越稔洋総合監督)と概案をすり合わせている初期の段階からそこは決まっていましたね。主人公の八神隆之が元弁護士で、今は探偵で、しかし実際は何でも屋のように生活しているのはそのころからボンヤリと固まっていました。
――吉田さんはディレクターとして、本作を作る中で意識したことはありますか?
吉田氏:「JUDGE EYES」はどうしても木村拓哉さんを起用した話が先行しがちですが、当時はキャスティングの話題はまったくありませんでした。そんな中で、まずは「龍が如く」ではない、もっと言えば桐生一馬ではない物語を作ろうと考えました。今までも「クロヒョウ」などのスピンオフタイトルを展開してきましたが、桐生一馬の存在感がすごすぎて、そこまでのタイトルに育てられませんでした。新しいIPを作るのであれば、桐生一馬の存在はどうしても乗り越えなければいけない壁だったんです。主人公に対する不安というのは最初からつきまとっていて、だけど結果的にはすごく良い方向にまとまりましたね。
――しかし、神室町という舞台は「龍が如く」から引き継いでいますよね。
細川氏:「龍が如く」は長いシリーズを重ねる中で、興味はあるけど入りづらいと感じる方も多くなってきたと思うんです。そんな方でも楽しめるよう、「龍が如く」の世界で、「龍が如く」ではない物語を楽しんでもらおうと考えました。私たちのゲームを知らない方、知っている方の両方に満足できる形にしたかったんです。
――世界観自体は「龍が如く」と繋がっているのですか?
細川氏:そう考えてもらって大丈夫です。しかし描きたい物語が違うので、「龍が如く」のキャラクターは基本的に出てきません。この世界のどこかに、桐生一馬や真島吾朗がいるはず、ということになっています。
――本作の大きなトピックというと、やはり木村拓哉さんの起用だと思います。木村さんにオファーを出した経緯について教えてもらえますか。
細川氏:新しいシリーズを立ち上げる以上、新しい主人公にも生まれた意義を持たせなければいけません。私はひとつの回答として、「龍が如く」ではやってこなかった主人公のキャスティングを考えました。もちろんキャストは誰でもいいわけではなく、絶対的な知名度と人気、演技力を兼ね備えた方でなければ難しいです。現実的にオファーを受けてくれるかも分かりませんし、上手く行かなかったときのためにオリジナルキャラクターも用意していたくらいなんです。そう考えていたときに、名越が木村さんとお会いする機会があって、話を持ちかけてくれて。それから先はトントン拍子で話が進んでいったのです。
――チームとしてもキャスティングする方向で制作が進んでいったと。
細川氏:そうです。セリフも木村さんが言いそうな内容に直して、当然モデルも木村さんをモチーフにしていきました。
――ゲーム内で木村さんを描く際に注意した点はありますか?
細川氏:みんなが知っている人だからこそ、イメージ通りのモデルで、イメージ通りの動きじゃないと違和感が出てくるんです。いかに木村さんがこれまでに演じてきた数々の役と遜色のないレベルに持っていくかはすごく気を使いました。
吉田氏:僕はかなり自由にやらせてもらいました。というのも、木村さんは以前からバラエティ番組でコスプレしたり、はっちゃけたことをしてるじゃないですか。映画だけで切り取ってみると格好いいイメージが先行するけど、実際はユーモアもあるんですよね。だからゲームでもファンのみなさんが楽しいと思えることをどんどん取り入れていこうと考えました。例えば変装だと、キャスティングが決まる前は存在しなかったアイディアが、木村さんに決まったことで新しく生まれてきたこともありました。
――ちなみに、ゲーム内の八神隆之が起こす行動やセリフで、木村さん側からNGが入るケースはなかったんですか?
吉田氏:ほとんどなかったですね。ゲームの中で八神の行動に説得力があればなにをやってもいいという考えだったみたいで、変装についてもちゃんとした理由があれば、抵抗感はなかったようです。
――逆に、木村さんのほうからセリフの提案などはあったのでしょうか。
細川氏:収録中や収録の合間は度々話をさせていただいて、こちらから提案することもあれば、木村さんから「こんなセリフはどう?」とアイディアを出してくれることもありましたね。代表的なのは、調査のために使うドローンに「ハト」というニックネームを付けているんですけど、これは木村さんのアイディアなんです。「仕事道具にニックネームを付けたほうが愛着が湧かないですか」と言われて、その場で急遽台本を書き直して収録したりもしました。
――セリフの中にも木村さんのエッセンスが入っているんですね。
細川氏:実はドローンをよく見ると、鳩の頭が付いているんですよ。これは八神の相棒の海藤が付けたという設定なんですけど、もちろんセリフが変わってから急いで付け足したものです。
――ドラマや映画の収録とゲームの収録では質がまったく異なりますが、実際の演技を見ての印象はいかがでしたか?
吉田氏:声優の経験もある方なので、トラブルもなく終わった印象が強いです。
細川氏:とにかく勘のいい人で、こちらが要求したいことをすぐに感じ取ってくれて、一発で求めている演技を見せてくれるんです。高い演技力だけでなく、器用さも感じた収録でしたね。
――「JUDGE EYES」には木村さん以外にもたくさんの俳優が出演していますが、お二人にとって思い入れの強い人物はいますか?
細川氏:これ以上ないくらい実力と話題性を伴った方々が出演してくれましたよね。その中でも特に、という意味では、私自身電気グルーヴが大好きなので、ピエール瀧さんが出演してくれたのは嬉しかったです(笑)。
吉田氏:僕の場合は声優の方々のキャスティングに深く関わっていて、イメージする声で候補を出して、名越ともすり合わせたところ9割以上の方が一発でOKでした。チーム内で声に対するイメージが共有できていたことは嬉しかったですね。
――先日体験版も配信されましたが、1章をすべて入れるという思い切ったやり方でしたよね。
細川氏:製品版にセーブデータを引き継げる仕様にするのは最初から決めていて、あとはどこまで体験させるかが焦点でした。やはり製品版を買ってもらうための体験版ですから、続きが気になるところで終わらせなければいけない。そうなると、1章をまるまる入れるのが最適だと考えたのです。サービス精神というより、「JUDGE EYES」の魅力を伝えるための結果です。プレイした方の反響も「一晩かけても終わらなかった」といったボリュームに関することと、あとは「続きが気になった」と私たちが欲しかった感想も頂くことができました。
――確かに、1章からあのボリュームは驚かされました。他の章も同じくらいのボリューム感なんですか?
吉田氏:いえ、ストーリーのきりのいいところで章を分けています。ストーリーの長さという意味ではそれぞれ多少のズレがありますし、あくまでもユーザーさんが感じるテンポを重視しています。1章のボリュームの多さは、テレビドラマの初回拡大版みたいなものです。本作には調査アクションも盛り込まれていて、その面白さが伝わるよう、脚本段階から見据えて作ってきました。ゲームシステムを前提にした脚本の作り方は「龍が如く」のときにはなかったケースです。
――脚本といえば、脚本を担当した古田さん(古田剛志氏)の存在も大きいと思います。
細川氏:「龍が如く」シリーズは、これまでは要所でビックリする展開が多かったと思います。ユーザーさんに驚きを与えて、そこからダイナミックに物語が動かしていくのが特徴でした。これはチーフプロデューサーの横山(横山昌義)のアイディアが色濃く反映されているんです。それに対して古田はストーリーの組み立てかたがすごく繊細で、読み物として面白い。大人も楽しめるリーガルサスペンスを目指していた「JUDGE EYES」にとって、古田は中心人物と言っていいと思います。
日本人の心を掴めるリーガルサスペンスに
――「JUDGE EYES」には調査アクションが入るのが大きな特徴ですが、みなさんにとってもチャレンジだったと思います。
細川氏:調査というものをどうゲームに落としていくかが大きな課題でした。例えばパズルゲームやリズムゲームに置き換えるなどいろいろな手法があると思うんですよ。パズルを解けば、調査が終わったとみなす、みたいな。それはそれで手軽ですけど、やっぱりプレイする人には神室町の探偵になってほしいんです。だから尾行も、手掛かりを探すのも、まるで自分が実際に調査を行っているような気分を味わってもらえる手触りを目指しました。
――調査アクションはいろいろ収録されていますが、「これは入れたい」と強く希望したものはありますか?
細川氏:どちらかというとシナリオが先に生まれて、シナリオを進めるためにはどんな調査が必要かを考えました。なので、私たちから「絶対入れたい」とお願いしたパートはそれほどなくて…。もしも無理やり入れてしまうと、それに合わせてシナリオを変える必要が出てきます。
吉田氏:どんなストーリー展開で、どんな情報が必要なのかが見えていることが第一です。先にストーリーを作って、それに合わせた調査を考えていこうという順番でした。
――この場面ではこの捜査をするべきだろう、というロジックで組み込んでいったと。
細川氏:そうです。浮気現場を押さえるのであれば尾行と写真撮影が自然と出てきますよね。ドローンも、「どこかで使いたいよね」くらいには思ってましたが、実際にどこで使うかはシナリオベースで決めていきました。
――ちなみに、調査の難易度はどのように調整しているのでしょうか。
細川氏:バトル以外でのゲームオーバーを持ち込むべきかという議論は最初からありました。まずは「龍が如く」と同じくバトル以外のゲームオーバーはない方向で考えたのですが、それだと不自然な部分が出てくるんです。尾行に失敗しても次の日に再チャレンジできると、リアリティがなくなるなと。歯ごたえはある程度持たせて、しかしリトライポイントを多めに設定しています。難易度自体は上げつつ、ストレスにならないよう調整する方針になりました。
吉田氏:「龍が如く」にもカーチェイスとか、スノーモービルで山下りとかのイベントもあったんですけど、あくまでも雰囲気を楽しむためのもので、失敗せずにクリアできた人が多かったと思います。今回はどちらかというと、「一度くらいは失敗してもいい」という感覚ですね。失敗しつつ「次は気をつけよう」と思ってもらえるよう作り込んでいます。また本作にはスキルを習得して調査を楽にする成長要素もあるので、より簡単にすることも可能です。
――一方のバトルシステムは「龍が如く」の流れを汲んでいますが、これはどのような狙いがあったのですか?
吉田氏:ひとつは単純に「龍が如く6 命の詩。」と同様のドラゴンエンジンを使っているからという理由があります。それともうひとつ、結局はリアルな町並みで、人間と人間の戦いを描く以上、大きな変化はないのが自然だと考えたからです。まったく違ったシステムを考えた時期もありましたけど、絵面が新しくなっても爽快感が失われたらダメじゃないですか。
細川氏:八神というキャラクターだったらこんな戦い方をするよね、といった戦い方やヒートアクションも入っていますので、見た目の新鮮さも充分あると思います。あとは「龍が如く」で完成されたモジュールを活かして、その分調査アクションをじっくりと作り込もうと判断しました。
――「JUDGE EYES」に期待している人に向けて、どんなところに注目してもらいたいか、一言お願いできますか。
吉田氏:「龍が如く」のファンや、かつて遊んでいた人はもちろんですけど、僕個人としてはこれまでまったく「龍が如く」に触れてこなかった人たちにプレイしてもらいたいです。コンシューマのゲームはここまでできることを知ってもらいたいですし、もう一度テレビの前に戻ってきてもらいたいです。あとは好きなように遊んでもらいたいです。広い街の中で木村さんを動かすだけでも楽しいですし、八神として自由に過ごしてください。
細川氏:リーガルサスペンスをモチーフにしたゲームって、今では珍しいと思うんです。特に日本人の心を掴める作品という意味では、独自の存在だと思います。ここに期待している人には必ず答えられる作品ですし、大人向けのストーリーと自由な遊びの融合は、触ってもらうと納得してもらえるはずです。「龍が如く」と同じく高い次元のゲームになっているので、今まで触ったことのない人にもチャレンジしてもらいたいです。
――ありがとうございました。