百合ゲームの魅力を伝えるインタビュー連載企画を全4回(予定)にわたって実施! 第1回は2019年3月7日に発売されたPS4用ソフト「FLOWERS 四季」にフィーチャーしてお届けする。
女性同士の恋愛を描く百合というジャンル。コミックやアニメで人気のこのジャンルは現在ゲームでもブームが来ており、2019年春~夏にかけて百合を題材としたタイトルが続々とリリースされる。
そこでGamerでは百合ゲームの魅力を伝えるインタビュー連載企画を実施! 第1回は2019年3月7日に発売されたPS4用ソフト「FLOWERS 四季」のインタビューをお届け。作品の総監督を務めるInnocent Greyの代表・スギナミキ氏とコンシューマ版の移植を手掛けたプロトタイプの代表・多部田俊雄氏に「FLOWERS」の開発秘話はもちろん、百合の魅力に関すること全般についてもお聞きした。
「FLOWERS」とは?
森に囲まれた全寮制のミッション系女学院を舞台に、少女たちの友情、成長、そして純愛を描く人気シリーズ。「春篇」「夏篇」「秋篇」「冬篇」の4部作からなり、現在はシリーズ全4篇をワンパッケージに収録した「FLOWERS 四季」が発売中。原画・スギナミキ氏の描く繊細で柔らかなビジュアルと、シナリオ・志水はつみ氏による少女たちの心の機微を丁寧に描いた物語で人気を博している。
「マリみて」に感化されて「FLOWERS」を制作
――「カルタグラ~ツキ狂イノ病~」などの凄惨なミステリー作品を発表してきたInnocent Greyさまが、それまでのイメージから一転して「FLOWERS」を発表したことは当時ユーザーを驚かせました。なぜ百合が題材の「FLOWERS」を作ろうと思ったのでしょうか?
スギナミキ:私が2004年ぐらいにスタッフから「マリア様がみてる」(以下、マリみて)の原作小説を勧められて読んだところ、一気に百合にハマッてしまったんです。それまで百合の世界はまったく通ってこなかったのですが、「こんなに美しい世界があるのか」と一気に惹き込まれて「FLOWERS」を作ったきっかけになりました。
――百合のどういうところに惹かれたのでしょうか?
スギナミキ:百合作品も多様化していていろいろな魅力があるのですが、自分は男女の関係では描くことができない精神的な繋がりに惹かれていました。そのため、「FLOWERS」でもそういう面を描きたいと思いました。
――女性同士の魅力というのはどこにあるのでしょうか?
スギナミキ:言葉で表すのは難しいですが、百合には特有の清楚さや美しさがあるんです。女性同士だからこそのえげつない部分もあって、そこもひとつの魅力ではあるのですが、自分は百合の清楚な部分が好きですね。
――多部田さんはいかがですか? 商業的な観点からみて百合というジャンルについてお聞かせ願えればと。
多部田:自分は20年以上、仕事でノベルゲームといわれるジャンルの動向を見てきましたが、2006年の「学園ヘヴン」などでBLが流行したときに主観ではなく客観的に物語を楽しむ構造が生まれたように思います。そして、そのときに主人公にもボイスが付くのが当たり前のようになり、百合もそのフォーマットに則ったのではないかと思います。
――BLがあって次に百合があったと。
多部田:ユーザーがシフトしたワケではありませんが、ゲームとしての登場は完全にBLが先行しましたね。百合をテーマにしたコンテンツは昔からありましたが、ゲームとして明確に百合を押し出して話題になったのは2011年の「白衣性恋愛症候群」ではないでしょうか。
――プレイヤーの視点の話が出ましたが、「FLOWERS」ではどのような視点でユーザーにプレイしてもらおうと思いましたか?
スギナミキ:第3者による客観的な視点を意識しています。実際にはキャラクターの視点で物語は展開していきますがプレイヤーは主人公ではなく、クラスメイトのひとりとしてキャラクターたちの生活を見守っているような立ち位置をイメージしながらプレイしていただけると佳いかと思います。
――なるほど。ユーザー層に関してはいかがでしょうか? 「FLOWERS」では男女のどちらが多いのでしょうか?
スギナミキ:7:3ぐらいの比率で男性が多いですね。
多部田:コンシューマ版は女性の比率が上がるので6:4ぐらいになるんじゃないかと思います。
スギナミキ:そうですね。女性ユーザーは増えています。Innocent Grey自体も「FLOWERS」を発表してから女性ユーザーさんの数が倍増しました。
多部田:殺人事件のミステリーを発表していたInnocent Greyさんが百合作品を発表したときは自分もすごく驚きましたよ(笑)。ただ、スギナミキさんの繊細なイラストは百合との親和性が高く、女性ファンが増えるのも納得ですね。
――スギナミキさんは百合作品を作るにあたり、イラストを意識して変化させたりしましたか?
スギナミキ:これまでの作品よりも体の線が細くなるように意識しました。FLOWERSでは少女たちの未成熟な身体のラインを美しく魅せる為に、衣装とのバランスや衣装の上からでも身体の線をイメージできるように描いています。特に脚のラインは拘って作画しました。細すぎず、美しく。
多部田:とにかく繊細ですよね。横1024の解像度では本来の線は伝わらなかったと思うので、最初からHDの解像度だったのが功を奏したのではないかと。コンシューマ版も最新作のPS4になってようやく完全に納得のいく解像度になりました。
――「春篇」と「夏篇」はPSPでも発売されていましたが、このとき移植は大変でしたか?
多部田:そうですね。PSP版はキャラクターをアップにして表示させたりとアレンジさせていただいていました。スギナミキさんのイラストもラストの「冬篇」に比べると「春篇」や「夏篇」は線がまだ太めだったので、なんとか移植できたという感じですね。
スギナミキ:4作通して1つの完成された作品になるので、最初は4作すべてを発表してからコンシューマに移植してもらおうと思っていました(苦笑)。
多部田:そうでしたね。さすがにそんなに待つのは無理だったので、1作ずつ移植させていただきました(笑)。
スギナミキ:でも移植を相談したときに、すぐにPS Vitaで動くバージョンを見せてくださったりして、とても多部田さんの熱意を感じて、これなら安心してプロトタイプさんに移植をおまかせできるなと思いました。
多部田:ありがとうございます。「FLOWERS」はずっとファンがいてくれるタイトルで、最初に発売した「春篇」以降も売上を落とすことがなかったです。シリーズものは最初がいちばん売れるものですが「FLOWERS」に関してはファンが買い続けてくれた印象です。
――最初から4部作であることや、物語の結末などは決まっていたのでしょうか?
スギナミキ:そうですね。物語のプロットは最初に完成させていて、だいたい流れは決まっていたのですが「秋篇」は主人公や主人公を取り巻く関係性が大きく変わりました。「春篇」と「夏篇」を経て八代 譲葉(やつしろ ゆずりは)の人気が予想以上に出たので、彼女を主人公にしました。
多部田:全体の緩急が付きましたよね。野球に例えると、「春篇」がストレートで「夏篇」は豪速球、「秋篇」は超変化球になり、そして「冬篇」はストレートに戻って見事に三振を取られてしまうみたいな(笑)。
スギナミキ:「秋篇」は女の子の黒い部分も見える作品になっています。
多部田:それでも綺麗な世界になっているのがすごいと思います。スギナミキさんのビジュアルの力があってこそだと思います。
――百合の世界を描くことで、出来ることと出来ないことはどんなことがあるのでしょうか?
スギナミキ:「FLOWERS」では物語のなかで男性の名前が出ることはあってもビジュアルとしては出さないようにしています。あとは、百合というジャンルはカップリングがとても重要なので、物語の展開に必要な要素を除き、そこにストレスを与えるような展開にしないように心掛けました。だからこそ、そのタブーを崩した「秋篇」は異質なんです。
――百合にとってカップリングは絶対なんですね。
スギナミキ:そうですね、人気キャラクターだからといって安易に組み合わせたりしません。また、ユーザー感で人気のカップリングであってもオフィシャルのカップリングでなければ本編では組ませないようにしています。たとえば白羽 蘇芳(しらはね すおう)と八重垣 えりか(やえがき えりか)は共に読書が趣味でユーザーからの人気もすごく高いカップリングですが、お互いに相思相愛の相手がほかにいるので、オフィシャルではあくまで友人関係として描いています。もちろんユーザーさんたちの想いは尊重しますので大いに妄想したりして頂いて大丈夫です(笑)。
――「FLOWERS」ではユーザーが作ったアンオフィシャルのカップリングは多いのでしょうか?
スギナミキ:たくさんありますね。なかには公式のカップリングよりも人気のものもありますし、「そうくるのか!」と思うような脇役同士のカップリングもあったりします。オフィシャルに人気投票はしていないのですが、展示会で販売した版画では、蘇芳とえりかのふたりのイラストがいちばん人気でした。
多部田:「クダンノフォークロア」という百合ゲームとのコラボイラストをお願いしたのですが、そのイラストも蘇芳とえりかでしたね。
――公式カップリングで人気なコンビは?
スギナミキ:王道でいえば蘇芳とマユリの人気は高いですが、ストレートな人気さという意味では「夏篇」のえりかと千鳥ですかね。あとは「秋篇」の譲葉とネリネも人気です。キャストさん同士が仲が良いと相乗効果でキャラクターにも影響するので、そう言う意味でも「えりちど」「ユズネリ」は強いです。
多部田:えりかは事故で足が不自由になって車いすを使っていますが、とてもエネルギーにあふれている女の子です。千鳥も前向きでポジティブなので、「夏篇」はふたりのエネルギーがぶつかり合う情熱的なストーリーになっていますね。
――公式のカップリングはどのように決めるのでしょうか?
スギナミキ:プロットの段階でテーマを作っています。多部田さんも仰いましたが、えりかと千鳥の場合は意識の高いもの同士であえて組ませて、ふたりのケンカからはじまる成長物語を描こうと思いました。
多部田:「FLOWERS」はキャラクターが多いですけど、似たようなカップリングはありませんよね。あと、それぞれが王道のカップリングだなと思います。
スギナミキ:「FLOWERS」は奇をてらわないようにして、どのカップリングにもファンのみなさんが付いてきてくれるように意識しました。
――おふたりの好きなキャラクターは誰ですか?
スギナミキ:千鳥ですね。カップル含めて彼女が好きです。一貫してまっすぐなところが佳いです。良くも悪くも自分に正直なところが愛おしい。特にえりかに対して一途なところは可愛いです。蘇芳に対しての嫉妬とか。ビジュアル的にも気に入ってます。
多部田:私は花菱 立花(はなびし りっか)です。ヤキモチを焼いたり暗いことを考えたりとリアルなキャラクターで、そこに好感が持てますね。また、これまでたくさんのギャルゲーを作って見てきた人間として、小御門(こみかど) ネリネのキャラクターの作りはすごいなと関心させられます。
文学的な作品を目指した「FLOWERS」
――女の子同士の恋愛を描くにあたり、ラストの展開について迷うことはありますか?
スギナミキ:いえ。最初から心と心のつながりを描こうと思っていたのでゴール地点は決まっていました。悩んだのは「春篇」のラストですね。別れで終わるストーリーなので、どのように綺麗に着地させるか悩みました。
多部田:「春篇」から「夏篇」の発売まで1年あったので、ファンは次の展開が気になってやきもきしたでしょうね。
スギナミキ:「春篇」が失敗するとすべてが失敗なので、作っているほうも1年間ドキドキしていました(苦笑)。
多部田:Innocent Greyさんの作品だから、どこかで死体が出てくるんじゃないかと怯えていたユーザーも多かったのではないでしょうか?
――「FLOWERS」はこれまでのミステリー作品のようにショッキングなシーンで引きを作ることはできなかったと思うのですが、どういう部分を核にしてユーザーに注目してもらおうと思いましたか?
スギナミキ:当時は百合のゲーム自体が少なかったので、なにを武器に戦っていいのかは迷いましたね。そんななかで、自分にある武器はビジュアルだと思ったので、そのビジュアルとシナリオを手掛ける志水はつみさんの文章力で勝負しようと思いました。志水さんにはギャルゲーっぽいものではなく、文学的な文章にしてもらうようにオーダーしました。そのおかげで繊細な百合を描けたのではないかと思っています。
――逆に百合以外の部分で「FLOWERS」の魅力はどこにあると思いますか?
スギナミキ:ミステリィと音楽ですね。これまでのInnocent Grey作品を楽しんでくれたユーザーさんが引き続き楽しめるように謎解き要素を入れています。「春篇」ではミステリィというよりプレイヤーの知識を試されるようなクイズのような形になりましたが、しっかりと練り直しシリーズを重ねるごとにミステリィとしての質もどんどん上がっていきました。同様に音楽面でもイノグレではおなじみのMANYO氏にお願いしました。物語を彩る上で、音楽も外せない要素でしたので美しく繊細な旋律でアングレカムの柔らかな雰囲気を作り出して頂ました。おかげさまで音楽面の評価も非常に高いです。
――シリーズを続けていくなかでユーザー層の拡がりを感じたことはありますか?
多部田:コンシューマに移植をはじめた当時は店舗に百合のコーナーが無かったので、ギャルゲーコーナーに置かれていましたね(苦笑)。
スギナミキ:一般作品なのに18禁コーナーに置かれていたこともありました(笑)。
――そう考えると現在は百合も市民権を得られてきたのでしょうか。
スギナミキ:そうですね。ただ、ようやくという感じもします。
多部田:この春になって一気にブームが来た感じですね。もっと早くから盛り上がってもおかしくなかったのですが。
――海外人気のほうはいかがでしょうか?
スギナミキ:海外展開に関しては「夏篇」まではローカライズ済みで、現在は「秋篇」を進行しているのですが、アジア圏の方にはとくに人気ですね。イベントでも中国や台湾の方の熱量はとても高いです。
――これまで百合に触れて来なかった人がはじめて「FLOWERS」で百合に触れる場合、どのように楽しめばいいと思いますか?
スギナミキ:先ほどお話したとおり、主人公の視点ではなく、キャラクターたちを見守る視点で楽しんでほしいです。そこから少しずつ百合の良さをわかってもらえるとうれしいですね。最初から女の子同士の恋愛だと思うとハードルが上がってしまうと思うので、まずはそこを意識せずにプレイしてもいいと思います。
――「FLOWERS」で百合の良さを知った人におふたりがオススメする百合作品はなんですか?
スギナミキ:近年で凄いと思ったのは原百合子さんの「繭、纏う」という作品です。制服を髪で作るなど髪がキーワードの作品で、圧倒的な表現力、刹那的な美しさなど芸術性の高い作品です。物語、登場人物、舞台すべてが尊い。あとは志村貴子さんの「青い花」もキャラクターが生き生きしていて好きですね。生々しい部分や繊細な部分が丁寧に描かれていてとても大好きな作品です。アニメの出来も素晴らしいので是非。
多部田:私はコンテンツの研究のためにいろんなジャンルのコミックスをこの3、4年で1000冊ぐらいチェックしているのですが、なかでもオススメの百合コミックは西UKOさんの「となりのロボット」です。
スギナミキ:自分も大好きで、今日も持ってきました!(カバンからコミックスを取り出す)
多部田:この作品、いいですよね! アンドロイドの試作品と主人公の少女が出逢うというストーリーですが、変化球というよりは直球でコーナーを的確についてくる内容で、ずっとドキドキさせられます。
スギナミキ:本当にドキドキしますよね……。
多部田:はい(笑)。とても完成度の高い百合作品だと思います。
――では、百合の初心者にオススメするとしたらどんな百合作品がありますか?
スギナミキ:やはり「マリみて」から入るのがいちばんいいのではないかと思います。できれば原作の小説から入って、そのあとアニメを見てほしいです。そして、作品にハマったらどの薔薇派なのか仲間と語り合ってくれればと(笑)。
多部田:私は、それこそ「FLOWERS」が最初の百合作品で大丈夫だと思います。開口の広い作品ですので、PS4を持っているならぜひプレイしてみてほしいです。
――これから「FLOWERS 四季」で本シリーズをはじめる人も多いと思いますが、どんなところに注目してもらいたいですか?
スギナミキ:「四季」では「春篇」から「冬篇」までを一気にプレイできるモードが追加されています。まとめてひとつにしたいという構想は前からあったのですが、多部田さんが見事に叶えてくれました。
多部田:最初は普通に1本のパッケージに4本のソフトを入れようと思ったのですが(苦笑)。
スギナミキ:ダメ元でお願いしました(笑)。
多部田:シリーズを通してスギナミキさんとも長い付き合いになり、こだわる部分は引かない人ということはわかっていたので、こちらも覚悟を決めました(笑)。「秋篇」以降は周回プレイが前提でストーリーのフラグも複雑になっているのですが、そこは形を変えて作り直しました。本作にはそれぞれのストーリーを遊ぶオリジナルモードと通しでプレイする「四季」モードのふたつを収録していますが、違う感覚でプレイできると思います。
――オリジナルモードも収録しているんですね。
多部田:はい。ただ、ゲームをプレイしていて見れるビジュアルや所得可能なトロフィーは一緒なので、どちらかをプレイするだけですべてが楽しめる仕様になっています。
――「四季」で展開は一区切りだと思いますが、今後さらに「FLOWERS」でやってみたいことはありますか?
スギナミキ:いろいろなところでつぶやいているのですが、「FLOWERS 20」という彼女たちが20歳になったあとのストーリーをしっかり描いてみたいです。一昨年に「FLOWERS」が完結したときに開いた画展で、「FLOWERS 20」の原案となる小冊子を作りましたが、いつかきちんとした作品として発表できたらと思います。
多部田:純粋培養で育った彼女たちが外気に触れたときに、どのような生活をするのかは気になりますね。
――最後にゲームを通じてこれから百合の世界に触れる人にひとことお願いします。
多部田:いきなり百合作品をガッツリやるのはハードルが高いなと思う人はPS Vitaで「春篇」をプレイしてみてもらえるとうれしいです。ただ、「春篇」をプレイすると先が気になって結局は最後までプレイすることになってしまうので、たぶん、「四季」を購入するのがいちばんお得だと思います……(笑)。また、百合自体がどんなものか気になっている人は、開催中の百合展を覗いてみてもらいたいですね。東京と大阪は終わってしまいましたが、仙台、名古屋、福岡はまだ開催しているのでお近くにお住まいの方はぜひ足を運んでもらいたいです。
スギナミキ:百合の入門に「FLOWERS」を推したいところですが、まずは「マリみて」に触れてほしいです。そして、女の子同士の精神的なつながりの良さがわかったら「FLOWERS」もプレイして頂けたら嬉しいです。