令和になって初のゲームマーケットである「ゲームマーケット2019春」をレポート。あっと驚くようなルールのゲームのみならず、全体的に完成度の高いゲームと出会えたイベントだった。
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日本最大規模のアナログゲームイベント「ゲームマーケット」。その元号が令和に代わって初となるイベント「2019春」が、5月25日・5月26日に東京ビッグサイトで開催された。一般のアナログゲームクリエイターから、企業のアナログゲームクリエイターまで幅広く参加するこのイベントでは、毎回「こんなゲームがあるのか!」と驚くようなゲームとの出会いが体験できる。
とはいえ筆者が取材をするのはこれで3回目。さすがに3回目ともなると、そこまで驚くようなゲームと出会うことはないかな…なんて思っていた。だが、まったくそんなことはない。「マジか!」と思う驚きのゲームに出会うことができた上、これまでのイベントに増して、出展されているゲームも完成度が高いこと高いこと。その中でも筆者が「これは紹介したい!」と思った6作のゲームを、本記事で紹介したい。
昭和の「メンコ」が令和時代に超進化!
まず最初に紹介したいのは、ブース名「ヒッティングバトルカード」の、「H.B.C(ヒッティングバトルカード)」。名前だけ見るとカードゲームのように思えるが、これはなんと昔懐かしの「メンコ」を進化させたゲームだ。「メンコ」をご存知ない方のために説明しておくと、「メンコ」というゲームは、イラストの描かれた厚紙=メンコを使う遊び。メンコを思い切り地面に叩きつけ、その風圧で相手のメンコを吹き飛ばし、裏返らせれば勝利というのが「メンコ」のルール。「メンコ」の勝負に負けると、相手に自分のメンコを渡さなきゃならないという現代のTCGに繋がる要素も持っていた。「H.B.C」はこの「メンコ」をどう進化させたのかというと、メンコそのものが物理的に進化している!
見た目は昔のメンコのイメージと違い、TCGのカードのよう。そして、カードに触ると感触がおもしろい。カードの表面にエンボス加工が施されていたり、厚みが異なっていたりと、カードによって全く感触が異なるのだ。こうしたカードの特徴を活かして、従来のメンコのようにひっくり返したり(=カエシ)、自分のカードを滑らせて相手のカードを場外へ落としたり(=オトシ)、自分のカードを相手カードの下に滑り込ませ、すくい上げたり(スクイ)といった勝利条件が設定されていることがユニーク。あまりにユニークな発想なので詳しく聞いたところ、作っているのは有限会社大国印刷所という印刷会社さん。自社の技術を最大限活かしたゲームというワケだ。
世界観の作り込まれた非対称型対戦ボードゲーム
続いては、一見正統派のボードゲーム見えつつ、ルールに工夫を凝らしたボードゲームを紹介したい。ブース名「堀場工房」の「東京Resistance」だ。
このゲームは、デジタルゲームの人気タイトル「Dead By Daylight」に代表される称型対戦ゲームをボードゲームに落とし込んだもの。ゲームの目的はレジスタンス陣営と特甲陣営で異なっており、レジスタンス陣営は敵の拠点を5個破壊することが目的。一方、特甲陣営はリーダー駒およびアジト駒を除去することが目的となっている。ゲームは基本的にカードを引き、カードに書かれたアクションを行うという形で進行。レジンスタンス陣営のカードには移動やかく乱といったアクションが多く、特甲陣営のカードには敵の発見や、攻撃といったアクションが多く用意されており、ゲームに非対称性をもたらしている。
ちなみに本作、オリジナルのコミックを配布するほど世界観を作り込んでいた。本作の舞台は2048年の東京、C国に占領され傀儡政府が発足した日本だ。傀儡政府に反発するレジスタンスと、レジスタンスを取り締まるべく内務省により編成された「特甲(特殊機甲部隊)」との戦いを描いたゲームとなっている。
怪しくエロティックな大人のアナログゲーム
次に紹介したいのは、コミュニケーション系のユニークな作品。ブース名「Under Heart Look Look」の「密談」だ。セクシーでアダルティなムードの漂うこのゲームは、女性を口説くという妄想をテーマにした作品。
ゲームの目的は、女の子を口説いた手順を当てるというもの。プレイヤーは親と子に分かれ、親プレイヤーは女の子カード1枚とアクションカード5枚を引き、女の子の設定と、アクションカードに基づいてどう口説いたかを妄想する。子プレイヤーは、親プレイヤーに質問することで、5枚のアクションカードの内容と順番を当てることができれば勝利。
「女性を口説いたに興味を持っている!」なんて言うのははばかられるけど、でも興味は惹かれる…。だからこそ「密談」というタイトルなのだろう。怪しくエロティックな雰囲気を、ゲームルールによって絶妙に再現しているところが素晴らしい。お酒を飲みながらプレイしたら、めちゃくちゃ盛り上がりそうだ。
怪しくエロティックな大人のアナログゲーム
続いても、怪しくエロティックな世界観を持った作品。ブース名「ハッピーゲームズ」の「幻影探偵団」だ。このゲームは推理型の対戦ゲームなのだが、世界観が江戸川乱歩の小説の雰囲気を再現したものとなっている。江戸川乱歩というと、テレビドラマの影響か、少年探偵団や名探偵・明智小五郎、怪人二十面相といったヒロイックな探偵もののイメージが強いかもしれない。確かに江戸川乱歩は名探偵・明智小五郎が少年探偵団とともに活躍する作品を書いていたが、それは子ども向けの小説作品。江戸川乱歩の多くは、狂気やエロティック、グロテスクといったテーマを描いた猟奇的な世界観を持っている。
本作の舞台は大正末期、連続猟奇殺人事件が発生している東京。プレイヤーはこの事件の犯人、「髑髏王」を追う探偵団を担当する。探偵団はひとつではなく、「朧」「叶」「義死」「帝都」の4つが存在し、それぞれが正体を隠して事件を追っているという設定だ。
ゲームの目的はもちろん「髑髏王」の正体を暴くことだが、他探偵団メンバーの正体を暴くことでも点数になる。ゲーム終了時に一番ポイントの多いプレイヤーが勝利だ。ゲームは尋問を繰り返すことで進んでいく。自分以外のプレイヤーから対象者を指定、容疑者を並べたマップ上でエリアを指定し、そのエリア内の容疑者チップに対象者の探偵団メンバーがいるかどうかを質問。聞かれた側は正直に答えるか、アクションカードを使って防御するかしなければならない。これを繰り返して、容疑者チップの中から「髑髏王」の目星をつけていくという形だ。
江戸川乱歩の世界観をこの上なく再現した怪しくエロティックなビジュアルはもちろんのこと、用語設定やストーリーまで作り込まれていて完成度の高い本作。それだけに、数年前に筆者が個人的にゲームマーケットを訪れた際には、即売り切れしまい購入することができず、悲しい思いをした。それが今回のゲームマーケットで新装改訂版として再販された格好だ。
ゲームブック魂が燃える!クオリティの高いゲームブック
ゲームマーケットでは、ゲームブックも出展されている。そしてこのゲームブックも、クオリティの高いものが多かった。中でも目についたのが、ブース名「ビギナー向けクイズ問題集」の「旅立つ冒険者に贈る書」。とりあえずこの画像を見ていただけば、気づく人は即座に内気づくだろう。そう、ゲームブックの元祖である「ファイティング・ファンタジー」の情報を扱っていた往年の雑誌「ウォーロック」を思い起こさせるデザインなのだ。
こちらでは他にもアドベンチャーゲームブックを頒布していたが、そちらも「ファイティング・ファンタジー」や「ソーサリー」をイメージさせる装丁。もちろん想定だけじゃなく、中身もかつてのファンへしっかり訴えかけるものになっているとのこと。単にゲームとして楽しいのみならず「持っている満足感」も刺激してくれる胸アツアイテムだと感じた。
完全無料!身の回りのものでゲーム
最後に紹介したいのがブース名「ブングーファイブ」の「ブングーファイブ」、ならびに「ブングースリー」。「ブングーファイブ」と「ブングースリー」は身の回りの文具とトランプを使ってプレイする対戦型ゲームだ。
ルールのベースはそれぞれ「ブングーファイブ」が五目並べ、「ブングースリー」が〇×ゲーム。ただし、トランプを引くことで、トランプに応じた文具のスキル的を使うことができる。ここがユニークな点で、ハサミで実際にボードを切って繋がりを断ってしまったり、セロテープで切られた場所を補修したり、そもそもハサミに切られないようホチキスを打ってボードの防御力を高めたりといったことが可能。
身の回りの文具を使う要素といい、実際にボードを文具で加工してしまう大胆さといい、小学校時代の休み時間を思い出す、楽しさと遊び心に満ちたゲームだ。さらに面白いことに本ブース、このため、ゲームマーケットで特に頒布はしていなかった。
ゲームマーケットに参加したのは、ゲームのシステム自体を色んな人に知ってほしいという理由からということ。文具好きだから文具をつい買っちゃうけど、いつの間にか使わなくなってしまう。そんな文具たちをゲームという形で活躍させて上げられれば…という思いが高じて作られた、とてもアツい作品だ。
回を追うごとに熱気が増している!次回も注目したいイベント
今回取材をして感じたのは、出展されているゲームに込められた制作者の熱い思い。これまでのゲームマーケットで出展されたゲーム達からももちろん強烈な熱気を感じたけど、今回のイベントでは、これまでを超える強い熱気を感じた。誰もが「より面白いものを!」「より盛り上がるものを!」と考えて新作を作っているためだろう。ということは恐らく次回のイベントは、今回よりさらに熱気の籠もったゲームと出会えそうだ。今回参加できなかった人も、是非次回のゲームマーケットに参加してみてほしい。