2019年6月27日、東京都のシアター1010にて、「舞台『囚われのパルマ -失われた記憶-』」の幕が上がる。本レポートでは、6月26日に先立って行われたゲネプロの模様と出演者からのメッセージをお届けしよう。
キャスト陣・スタッフからのコメントをお届け!
ゲネプロ前には、ハルト役の太田基裕さん、篠木文乃役の前島亜美さん、狩谷役の悠未ひろさん、久保田祐役の村上幸平さん、小林祥子役の頼経明子さん、山辺航役の清水一希さん、島本拓海役の瑛さん、義人役の青地洋さん、涼子役の愛純もえりさん、八木沼剛志役の間慎太郎さん、郷田修一役の山岸拓生さん、政木役の石橋徹郎さんら、全キャストがステージに登壇した。
全員を代表して、前島さんからは「原作の持つ美しく繊細な世界観を大事にするためにたくさん稽古をしてきました。こんなに原作に寄りそう舞台はなかなかないのではないかと思います。製薬会社のお話でもあるので、薬の実験や開発のシーンなどもあるのですが、小道具も全部本物を使っていますので、細かいところまで注目してください」と、そして主役のハルトを演じる太田さんからは「ゲームが原作ですが、ゲームの中では描かれなかったお話をビハインドストーリーということで描いています。この舞台は既に大阪での3公演が終わっていますが、お客様と非常に良い空間の共有ができたと自負しています。大阪公演でお客様からもらったパワーを持って東京公演でも怪我がないよう精進してまいりますので、千秋楽までどうぞよろしくお願いいたします」と、ファンに向けてメッセージが寄せられた。
ストーリー
閑静な場所にある大手製薬メーカー「シーハイブ製薬」の開発研究所。
そこで日々研究に勤しむ研究員、ハルト。
研究所には先輩の久保田や郷田、同僚の山辺、後輩の島本など数名の研究員が働いているが、ある日海外の製薬会社から女性研究員、篠木が派遣されてくる。新たなメンバーが加わった数日後、研究所所長である政木から新薬プロジェクトを立ち上げることが発表されたが……。
ハルトの周辺に突然現れる謎の男をはじめ、新薬プロジェクトをきっかけに、ハルトを待ち受ける運命の歯車が、少しずつ動き始める……。
ハルトが「あなた」に出会うまでを描いたビハインドストーリー。※公式サイトより
“あなた”のハルトが舞台で観れる
本作では、「囚われのパルマ」のハルト編の過去が描かれる。最新作の「囚われのパルマ Refrain」でも話の主軸にあった”黄金の蜂”、そしてハルト編の主軸になっていた“ベアトリーチェ”に焦点があてられているが、基本的にはあくまで“前日譚”なので、原作を知らなくても舞台上でそれらの謎は自然と明かされる。
もちろん原作を知っている人は、この舞台を観ることでより一層深くハルトや、ハルトを取り巻く周囲のことを知ることができる内容になっている。
恐らく「パルマ」ファンならば、ストーリー上でもう少し知りたかったな、というような看守の狩谷や政木といったキャラクターたちも本作に登場する。そして気になるのは、派遣されてきたという篠木文乃の存在だろう。もちろん、ハルトの相談員として接しきた”あなた”の分身ではない。あなたがハルトと出会うのは、ハルトが記憶を失ってからなのだから。
篠木についてはあえてここで明言することを避けたいが、“あなた”と触れ合ったハルトは確かに“あなた”ひとりだけの、この世でひとりきりのハルトである、ということだけは忘れずにいてほしい。
そして本作の舞台で特徴的なのは、最近の舞台に多い”派手さ”が、まるでない、という点だろうか。舞台装置は、一切転換がない。舞台の左手には、いかにも薬の開発室らしい研究設備が。舞台の右手には、時には会議室に、時には食堂になるテーブルと椅子が。そして舞台の奥には政木の部屋があり、これらは最初から最後まで基本的に動くことなく進んでいく。
「パルマ」は元々派手さがあるゲームではない。ハルトとひたすらガラス越しの面会を重ねつつ、”あなた”がハルトに代わりに島を歩いてハルトの記憶を取り戻すきっかけを探していく物語で、ハルトは物語の終盤まで、ほぼ自室の中で日常を過ごす以外の“動”がない。そういった原作が持つ“静”のたたずまいを舞台で再現しており、むしろシーンによっては息をすることすらためらわれるほど、凛とした静かな空気を意識した舞台であった。
だが、見た目の派手さがないからこそ、ストーリーの面白さと、役者の演技に引きずり込まれる。筆者は最初、「ハルトらしいハルトとはなんなのだろう」と考えていた。我々のハルトは、我々が何回も面会やメールを積み重ねてきて最終話を迎えたハルトのことで、もちろんハルトの元々の性格はあれど、例えばやたらにオレ様だったり、オラオラだったり、お金持ちだったり…といったような個性を持たされた男性キャラクターとは違う。
ハルトは確かにイケメンだが、逆に言うと特徴として尖った部分が一切ない。
どこにでもいそうなくらい特徴がないのに、どこにもいないくらいのイケメンであり、では「ハルトらしさ」とは、と考えると、そのイメージは誰もが微妙に違っており、そして言葉にしにくいのではないだろうか。そういったプレイヤーがハルトに対して抱いている感情の違いを、ハルト役の太田さんは素晴らしい演技力で応えてくれた。
“あなた”のハルトであり、“他のあなた”のハルトでもあり、決してそのイメージを崩さない、“静”の演技。あえて個性を強調させないことで、誰のハルトにでも成り得る。それでいて、ゲーム中でも時折ハルトが見せていた優しさや、一度決めたことは覆さない強情なところを見せるシーンもあり、やはりハルトなんだなと感じさせる。
もちろん、我々が出会うのは記憶を失った後のハルトであり、そのハルトは最初はぶっきらぼうもいいところで会話すらまともに成立しなかったのに対して、過去のハルトはもっと普通に日常を送って、人とだってそれなりに当たり前に会話をしている。そんな姿は自分の知っているハルトとは少し違って見えたりもするのだが、実際に記憶を失う前と後とでは根底は変わらない同じハルトなのだと感じ取れることが重要な役柄なだけに、本当に大変さがうかがい知れる。
ある意味で”無個性”ともとれるハルトを取り巻く研究員の仲間たちは全員が舞台で初登場となるオリジナルキャラクターだが、こちらは逆に個性の溢れるユニークなキャラクターたちが多かった。
役柄として「おとなしい」という立ち位置でもどこか目立つキャラクターだったり、チャラ男だったり、争いを好まなさそうに見えつつ出世欲は覗かせていたり、裏表に驚かされたり、そして政木はこちらが思っていた以上にハルトコンプレックスをこじらせていたり、狩谷については元宝塚歌劇団の男役だった悠未ひろさんを起用しているのも注目のポイントだ。
筆者はこの舞台を観て、「ハルトを見にきたのではなく、ハルトが過ごした風景を見てきたのだ」と、そう感じた。
なので、純粋に「2.5次元で動くハルトが見たい!」というようなファンにとっては、もしかしたら少し物足りなく映る内容かもしれない。ただ、見終わった後に改めて振り返り、そうして「パルマ」を起動してみてほしい。そこにいるハルトは、きっとこの舞台を観る前と少し違って見えるのではないだろうか。
公演概要
舞台「囚われのパルマ -失われた記憶-」
スケジュール
大阪公演:2019年6月22日~23日 ※公演終了
東京公演:2019年6月27日~6月30日 シアター1010
チケット
SS席(特典付):11,800円
S席(特典付):10,800円
SS席:9,800円
S席:8,800円
A席:6,800円
主催
舞台「囚われのパルマ」製作委員会
足立区シアター1010 指定管理者(東京公演)
制作
キョードーファクトリー
制作協力
SANETTY Produce
協力
キョードー大阪(大阪公演)
サンケイホールブリーゼ(大阪公演)
公式サイト
https://palm-stage.com/