パシフィコ横浜にて9月4日~6日にわたって開催の「CEDEC 2019」。ここでは、9月6日に行われたセッション「サービス終了寸前だったタイトルが、CMを使わずにDAUを増やして九死に一生を得たSNSプロモーション術」の内容をお届けする。

登壇者はDeNAにて「天華百剣 -斬-」プロデューサーを務めているナカムラケンタロウ氏。「天華百剣 -斬-」は、乙女の姿を持って生まれてきた刀剣「巫剣」とともに、世を乱す邪悪な敵との戦いに挑む、横スクロールアクション型のRPGだ。「電撃G'sマガジン」原作のKADOKAWA×DeNAの協業案件で、コミカライズやノベライズ、音楽などの各種メディア展開も実施中。

「天華百剣 -斬-」は、2017年4月にリリース。翌月の5月までは順調だったが、そのあと急転直下で売り上げは暴落。ナカムラ氏は2017年11月から「天華百剣 -斬-」チームに参加し、2018年1月半ばにプロデューサー交代の打診があった。

2018年2~3月は超低迷期。この時点で、2018年8月末の状況でサービス終了かどうかのジャッジが入ることが、ナカムラ氏にのみ内々に告げられたという。

元々「天華百剣 -斬-」を遊んでいたナカムラ氏は、その時に「このタイトルを絶対に終わらせたくない」と強く思い、そして終わらせないために、使える予算は限られているものの、必ず最大以上の成果を出して、絶対にサービスを終わらせないことを強く誓ったのだそう。

だが、多くの人に「天華百剣 -斬-」を知ってもらおうにも、TVCMはとてもお金がかかる。いわゆるラッピング電車などの交通広告もTVCMほどではないがお金がかかる上にTVCMほど大きな効果は得られない。理想の状態はあくまで「自分たちが届けたいと思っている層にピンポイントで効率よくこのゲームを知ってもらうこと」だったとナカムラ氏は語った。その中で一番理想的なツールがTwitterだった。

Twitterは、趣味嗜好が似た人同士で繋がっていることが多い。例えば、「このアカウントは●●の話題専用」という風に複数のアカウントを使い分けているユーザーも多く、そこから同じような趣向の人に情報が伝播しやすく、「あの人が興味のある話題ならば」と、いった風に情報が次々と横に広がっていきやすいのだ。

だがここで注意したいのは、ナカムラ氏はいわゆる「バズマーケティング」を目指したわけではないという点だ。確かに「バズマーケティング」…一般的に「バズる」と表現される現象は一時的なプロモーション効果は高いものの、一定時間が経つとすぐに収束してしまい、長期的な効果はない。よってナカムラ氏が目指したのは、長期間に渡って「天華百剣 -斬-」の話題が常にツイートされ続ける状態だった。

それにはどのような効果があるかというと、

  • 知っている人(フォロワー)が注目している情報は、自分も気になってしまう
  • 自分が気になっている情報は、「最近、●●の話題をよく見る気がする」という気持ちになる
  • 自分の周りで最近よく見かけるコンテンツは、今流行っているコンテンツに見える

例えば、「A」のゲームをやっている人たちばかりを100人程度フォローしているアカウントを持っていたとする。その100人の中の数人が、「B」というゲームを遊び始めた。そうすると、自分のTL上に「B」の話題が増え、実は100人の中の2~3人しかプレイしていなかったとしても、「B、最近流行っているな…」という気持ちにさせることが出来る。さらに、自身と仲の良いフォロワーが「B、はじめました」とツイートをしていると、「なら、自分も遊んでみるか」と背中を押されたことがある人は、少なからずいるのではないだろうか。

ナカムラ氏が狙ったのもそういう状況であり、つまりは「天華百剣 -斬-」の話題を同時多発的にツイートしてもらい続けることで、既に「天華百剣 -斬-」を遊んでいるプレイヤーからまだ遊んでいないプレイヤーに向かって、「今、天華百剣が熱い」と思わせることを目指したのだ。

そこで重要になるのは、いかにして「天華百剣 -斬-」の情報がツイートされ続ける状況を作るか、だ。実際、「天華百剣 -斬-」の話題をツイートしてもらいたい、と思いつくまでは良いが、どうしたらその状況を作れるのかがわかっていれば、サービス終了寸前まで追い込まれていないだろう。

ナカムラ氏はプロモーション効果を高めるため、まず前提条件として「プレイヤーと運営間のコミュニケーションの認識を変える」ことが重要だとした。

プレイヤーと運営間のコミュニケーションと聞いて、比較的すぐ思い浮かぶものは「ゲーム内のお知らせ」「公式Twitter」「生放送」「アンケートや人気投票」「プロデューサーレター」「リアルイベント」などが挙げられるが、ナカムラ氏は【何かしらインタラクティブな要素】があれば、それらは全て広義にコミュニケーションと捉えていいのではないだろうか、というところに至った。

そうして、「ゲームに実装している全ての要素はプレイヤーと運営間のコミュニケーションである」と認識を変えることによって、Twitterのプロモーション効果をより高めることが可能になったという。

それでは、そのための具体的な施策を追っていこう。

具体案その1:ゲームの人格を意識する

恐らく、なんのことだかピンとこない人が大半だろう。だが、これを自分がプレイしているゲームに置き換えてみてほしい。例えば最近では自分のプレイしているゲームに「~~ちゃん」「~~くん」といった敬称をつけることが多い。例えば、同じDeNAから配信されている「メギド72」は、プレイヤーから「メギド先輩」と呼ばれていたりする。それと同じように「天華百剣 -斬-」も、「天華百剣ちゃん」などと呼んでもらうことが多いという。

こういった現象は、ユーザーが意識的あるいは無意識的に、運営も含めたゲーム全体に「人格」があるかのように捉えているのでは、とナカムラ氏は思った。そういったプレイヤーが感じている「人格」を意識して、運営としてゲームがより良い人格を持っている状態を目指そうと考えたのだ。

そのために、まずは2018年4月に1回目のプロデューサーレターを公開。プロデューサーの交代や、プレイヤーに不安を与えてしまったことに対する謝罪、今後の予定の紹介、制作上の都合の説明や、寄せられた意見への返答などを真摯に行い、プレイヤーと運営間のコミュニケーションを具体的に進めていった。

また、ちょうど4月という時期だったこともあり、エイプリルフール企画も行った。当時プレイヤーから嫌われていた敵キャラクターを主人公にしたネタシナリオのイベントを実装。その敵キャラは匿名掲示板で金棒先輩という愛称で呼ばれていたのを、ゲーム側に逆輸入した。さらに「天華百剣 -斬-」のプレイヤーの多くがプレイしている他タイトルのパロディなども入れ込んだ。

これによって、運営は「天華百剣 -斬-」に関するツイートや各種意見や感想などは運営が見ているということをユーザーに証明し、ユーザー側がSNSや匿名掲示板などで「天華百剣 -斬-」に関する話題を発信する価値や意味を高め、これによりツイートの活性化に成功した。

また、「人格」を維持するため、公式アカウントは「七香(ななか)」というキャラクターにやってもらい、キャラクターを崩すことは絶対にやらないことにしているという。ゲーム内に不具合があった時などに急に中の人が出てくるアカウントが多いが、「天華百剣 -斬-」ではそれも絶対にやらないことにしている、という徹底ぶり。

だからこそ、プロデューサーレターでは、あえてナカムラ氏個人の人格を前面に出すような文章にしており、不具合が出た時には運営の責任を逃れるような言い回しはしないことや、どうしても大人の都合で語れない事情以外は出来る限りきちんと誤魔化さずに説明をすることを心掛けているのだそう。

具体案その2:ゲーム内にネタを仕込みまくる

ネタを増やす、というのも、言うだけならば簡単だ。具体的には「ツイート数を増やすためにゲーム内でとれる効果的な手段」として【ゲーム内にスクショを撮りたくなるポイントを増やす】ことを意識したという。

思わずスクショを撮りたくなるようなポイントは大きく二つあると、ナカムラ氏。

ひとつは、「エモいポイント」。例えば、1周年イベントのシナリオのエンディングでは、シナリオに登場したキャラクター全員がプレイヤー名を呼んで祝ってくれるという仕込みを入れた。他にも「エモいポイント」として、シナリオの内容や演出、バトルキャラクターの表現、キャラクター同士の組み合わせ、史実をなぞるような演出や史実のオマージュ、キャラ設定の上手い表現や伏線の回収などを行った。そうすることでユーザーはスクショを撮って、それをツイートしてくれるというわけだ。

そしてもうひとつは「ツッコミポイント」。前述のエイプリルフール施策もそうだが、そのエイプリルフールイベントにとあるキャラクターの必殺技が某IPの演出と似ているという匿名掲示板のネタを使用。他にも、ツッコミポイントを仕込める要素として、シナリオの愛用や演出、イベントタイトル、各種デザイン、バトルの演出、アイテム名やその説明文などをナカムラ氏は例に挙げた。

ツッコミポイントを増やせば、これまたスクショを撮ってくれるユーザーが増え、スクショが増えればツイートをしてくれるユーザーが増える。

このようなポイントは無限に作れるため、シナリオチームや開発会社にも協力してもらい、可能な限りゲーム内にスクショポイントを作っていくことが重要だとナカムラ氏は語った。

例えばナカムラ氏は自身のプロフィールに何故か「2014年から金髪になる」という一言を入れているのだが、これもいわゆる「ツッコミポイント」の仕込みなのだという。とにかく隙あらばツッコミポイントを入れていくことが重要なのだ。

これらの「エモいポイント」「ツッコミポイント」については、【面白いことを考えれば採用する】というスタイルで、あまりにタイトルからかけ離れた内容で渋られたりした場合はさらなる説明や説得も必要だったりするというが、大事なのはとにかく提案し続けることだと述べた。

もちろん、こういった試行錯誤は、成功ばかりではない。絶対に面白いと思ったことが滑ってしまうこともあり、それはSNSでの反応を見ればすぐにわかるので、すぐに次に仕込んだネタを精査するという。

具体案その3:ゲーム外の施策とゲーム内の施策を連動させる

ゲーム外施策といえば、わかりやすいのはコラボカフェだろう。「天華百剣 -斬-」でもコラボカフェを行ったが、メニューや特典はもちろんのこと、オリジナルの割り箸袋や紙ナプキンの制作、店内ボイスドラマなど、来店した人が思わずTwitterにつぶやきたくなるような「ネタ」を数多く仕込んだ。

またゲーム連動施策で、コラボカフェ店内を「背景」としてゲーム内で配布。そのことにより、実際にコラボカフェに行ったプレイヤーが、ゲーム内の背景をコラボカフェに設定してテーブルで自分の前にスマホを置き、画面をタップしながらご飯を食べると、画面の中のキャラクターと一緒にご飯を食べている気持ちになれる、という運営側も想定していなかった使い方を提示するツイートもあり、より一層盛り上がったという。そういったユーザーの発想力にも助けられた、とナカムラ氏はしみじみと語った。

また、コラボカフェ店内にはオリジナルのボイスドラマを流していたが、そのボイスドラマをゲーム内にも実装。そうすることで、コラボカフェに訪れたプレイヤーが「あの時のボイスドラマが、ゲームの中でも聞けるようになった」ということをツイートしてくれたり、次のボイスドラマへの希望が流れたりと、連動させればさせるほど「天華百剣 -斬-」に関するツイート数を増やすことが出来た。

具体案の1と2だけでもツイート数が増えるし、1と3だけでもツイート数は増えるのだが、1~3の全てを行うことによって劇的にツイート数を増やし、その結果、RTや「いいね」も増やすことに成功。そして最初にナカムラ氏が述べた【同時多発的に「天華百剣 -斬-」の様々な情報がツイートされ続けることで、今このゲームがアツいという空気を作る】ことが出来た。

2018年4月20日の1周年のタイミングではイラストレーターやキャスト、シナリオライターなどの関係者はもちろんのこと、プレイヤーからもたくさんのお祝いツイートがされ、そこから更に多くの人に「天華百剣 -斬-」のことを知ってもらい、新規ユーザーの獲得にもつながったという。

こういったさまざまな施策によって、無事にタイトルの継続も決定。まだまだ順風満帆とは言えないものの、なんとか続けていける状態にはなったとナカムラ氏。2019年10月からはショートアニメがTV放送開始になるほか、2020年以降にむけた準備も既にスタートしているという。

ナカムラ氏は最後に、オリジナルIPのゲームを続けていくことへの難しさ、それでも運営を任されている以上、プレイヤーが愛してくれたキャラクターたちを奪わないようにずっと続けていくという覚悟と責任について語った。資金が潤沢にあるIPでなくとも、プレイヤーに喜んでもらえるところを今後も増やしていきたい、と語った。

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