PCや家庭用ハード向けにリリースされ、高評価を獲得したノベルゲーム「WILL:素晴らしき世界」のスマホ版をレビュー。その内容は高評価にも頷ける、意欲的な魅力に溢れていた。
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「WILL:素晴らしき世界」は、WMY Studioが配信するノベルゲーム。Steamで配信されるPC版をはじめ、PlayStation 4やNintendo Switchといった家庭用ハード向けにも配信され、高い評価を得ている本作。今回、iOS版も配信されることになったので、早速プレイしてみた。
神として人間たちの運命を組み替えるノベルゲーム
本作の主人公は、「願(ユアン)」という名の神様。外見こそどこにでもいるような少女の風貌だが、人々の運命を組みかえるという、特殊な力を持っている。
願の元には、多くの人間から、「神様、願いを叶えてください」という願望の書かれた手紙が送られてくる。この手紙を読み、願の持つ特殊能力を使って願いを叶えてあげることがゲームのメイン。つまり、運命を組みかえて、人間たちの願いが叶うような結果にしてあげるわけだ。なので、物語的な主人公は手紙を送ってくる人間たち。複数の主人公が存在する群像劇スタイルとなっている。
ちなみに神様とはいっても、自由自在に運命を組みかえられるわけじゃない。願にできるのは、手紙の文面を変更すること。手紙の文面が変化すると、文面に合わせて現実も変化する。これが願の持つ力だ。ただ、既に書かれた文章を消したり、新たな文章を追加したりといったことはできない。できるのは、既に書かれている文章を入れ替えることだけだ。
ただし、文面の入れ替えは同じ手紙の中でだけとは限らない。おおむね、2人の人間の手紙の文面を入れ替えることになる。たとえば、人間Aの手紙に存在する「銃声がした」という文章を、人間Bの手紙へと移す。すると、人間Aの現実では銃が撃たれなかったことになる。これによって、助かる人間が出てきたり、新たに窮地に陥る人間が出てきたりするわけだ。
「街」「428」の進化系!ロジックパズルのような楽しさ
複数の主人公の物語を入れ替え、それぞれの主人公の物語を正しい方向へ導く…。このコンセプトを見ると、チュンソフト(現スパイク・チュンソフト)の「街 ~運命の交差点~」や「428 ~封鎖された渋谷で~」といったタイトルを思い浮かべる人もいるだろう。実際、本作のプレイ感は「街」や「428」に近い。いや、近いというより、「街」や「428」のシステムを進化・発展させたものと感じる。
本作のどこが「街」や「428」のシステムの発展形といえるのか?それは、物語の組み替え部分だ。「街」や「428」では、選択肢を選ぶことで登場人物の行動を変え、物語を組み替えていた。これに対し本作は、バラバラにされた文面の組み合わせを変更する。この時プレイヤーは、「誰にどんな出来事が発生するか」という点と、「出来事の発生順」を、同時に考えなければならない。ロジックを組み替えて真相を探り出す…この興奮は、「街」や「428」よりもむしろ、「逆転裁判」シリーズの裁判パートにおける矛盾の指摘に近いものがある。この部分だけで、ロジックパズルとして楽しいのだ。
そして、「逆転裁判」と異なるのは、「誰にどんな出来事が発生するか」「出来事の発生順」を組み替えた結果が、きちんと物語化される点。組み替えた結果が誤りであっても、物語がどんな展開を迎えるのかが明示される。これが楽しい! 本当に神として人の運命を操っているかのように感じられる。
新たな「メタ」へのアプローチとなる物語が楽しい
ゲームシステムではなく、物語の描き方に目を向けた場合も、本作はノベルゲームの新たな視点を見せてくれる。それは、「メタ」へのアプローチという視点だ。
ノベルゲーム好きならご存知という人も多いとは思うが、改めて書いておくと、「メタ」というのは、「より高い次元の…」という意味。たとえば、アニメやゲームの登場人物たちは、自分たちがアニメやゲームの登場人物であることを知らない。彼らがアニメやゲームの登場人物であることを知っているのは、アニメやゲームの外側の次元…つまり彼らよりも高い次元に存在している視聴者やプレイヤーだけだ。なので、アニメやゲームの登場人物たちがもし「オレなんて所詮脇役だから出番少ないんだよな…」なんてことを言ったら、それは「高次元の発言」=「メタな発言」と言われる。
本作をはじめとするノベルゲームは、こうした「メタ」の課題と正面から向かい合い、ゲーム性に取り込んできた歴史がある。たとえばそのひとつが、周回プレイというテーマ。美少女系ノベルゲームでは、たいてい複数のヒロインが存在し、誰と付き合うかによって物語が分岐する。多くの場合、付き合うことができるのは1人だけ。なので、全ヒロインの物語を楽しみたければ周回プレイする必要がある。…一般的な美少女ゲームにおいてはごくごく普通の仕様だろう。だがこの時、ひとつ問題が発生する。それは、ゲーム内の主人公の物語と、プレイヤーの体験した物語が分かれてしまうこと。ゲーム内の主人公は(少なくとも各エピソードにおいて)一人の女性と純愛を貫くが、周回プレイを通してプレイヤーが行うことは二股どころか六股、八股の恋愛であって、純愛とは真逆のただれた物語になってしまう。
「いや、ゲームだから!ゲームってそういう媒体だから!」という反論は、大いに受け付けよう。筆者もその反論に同意だ。異なるエピソードの詰まったゲームという媒体なのだから、それぞれのエピソードで純愛が成立していればOK。筆者の書いたことは重箱の隅を突く屁理屈以外のなにものでもない。…しかし、こうした問題を物語上の課題と捉え、アンサーを出そうとしたノベルゲームも存在してる。たとえばそれは、エルフ「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」や、07th Expansion「ひぐらしのなく頃に」、5pb.「STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)」、ニトロプラス「君と彼女と彼女の恋。」といった作品だ。ネタバレは避けるが、こうした作品では物語上の主人公が「分岐」というゲーム的なシステムを認識し、それを活用したり、悩み苦しんだりする。
本作「WILL:素晴らしき世界」は、「人間の物語(=手紙)」を「願という神」が読み、それをさらに「プレイヤー」が読むという3次元の構造になっている。これは、プレイヤーが直接登場人物の物語を読んでいた「街」や「428」とは大きな違いだ。ゲームをプレイすると、プレイヤーは願となって「人間の物語(=手紙)」を読んでいるように錯覚するが、実際にはそうではない。願にもまた願の物語が存在している。これが複雑でとても面白い。誰が運命の選択肢をいじっているのか?登場人物か?願=神か?それともプレイヤーか?本作は物語においても知的好奇心をくすぐってくれる。
ノベルゲームの新たな一歩を感じさせてくれる作品!是非プレイを
ここまで書いた通り、本作はゲームシステム的にも、物語的にもノベルゲームの新たな一歩を感じさせてくれる作品だと思う。群像劇として描かれる物語は、学園ラブコメ的な展開アリ、犯罪モノあり、刑事モノあり…と、バラエティ豊富なので、各プレイヤーの好みに合った主人公がいるだろう。ただ、物語的に鬱展開やグロい演出が発生することもある。そうした展開・演出が「地雷」に当たるという人は、避けた方がいいかもしれない。
また、多数のハードで展開している作品なので、「スマホゲームとしてどうか?」という切り口にも触れておきたい。結論としては、スマホゲームとして非常にオススメだ。各エピソードが手紙毎に区切られているという点が大きい。手紙を読み、文面を組み替え、正しい結末を迎えると次の手紙が届く…というステージクリア型っぽい構成になっているので、短時間でも高い満足度を得られるのだ。スマホで通勤通学のちょっとした時間に楽しむ…という場合にもうってつけだ。
まとめると、本作はノベルゲーム好きなら「買い」の一作だと思う。鬱展開やグロい演出にことさら拒否反応を抱かないのであれば、是非ともプレイしてほしい。