ナチス政権下を描くシリアスなストラテジー「Through the Darkest of Times」

プレイレビュー
0コメント 田中一広

HandyGamesのストラテジー「Through the Darkest of Times」をレビュー。ナチスに対抗するレジスタンスを描き、「ベストシリアスゲーム」を受賞した本作の内容を紹介する。

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「Through the Darkest of Times」は、HandyGamesから配信されているストラテジー。iOS版、Android版のほかSteamでPC版も配信されている。ゲームの舞台はナチス政権下のベルリン。プレイヤーはナチスに反抗するレジスタンスとして活動し、ナチスの支配に苦しむ人々を救うことを目指す…。ドイツで開催された「コンピュータゲーム大賞2020」で「ベストシリアスゲーム」を受賞したことでも話題となっている本作。その内容を本稿で詳しく紹介したい。

社会問題の解決を目指すゲーム「シリアスゲーム」

「ベストシリアスゲーム」を受賞したと書いた通り、本作はストラテジーである前に「シリアスゲーム」だ。「シリアスゲーム」とは、エンターテインメント…つまり、「楽しむこと」を第一目的としている一般的なゲームに対し、「社会問題の解決を目指すこと」を第一目的とするゲームのこと。「社会問題の解決」とはたとえば、「教育」や「医療」などがある。

たとえば有名なシリアスゲームのひとつ、「This War of Mine」は、サラエヴォ包囲下を一般人として生き抜くという作品だ。ゲームで「戦争」を描く場合、FPSのように一兵士の視点で描くか、RTSのように軍を率いる将の視点で描くことが多い。これに対し「This War of Mine」はの視点は一般人。兵士のように戦うことも、軍を率いて戦うこともできず、食料や体調の心配をしながら、ただ生き抜くことしかできない。…つまり、「This War of Mine」は「一般人としての戦争のリアル」とともに、サラエヴォ包囲と、その背景であるボスニア・ヘルツェゴビナ紛争について学べる作品なのだ。…こう書くと、学習教材のようなお堅いイメージを抱くかもしれない。けど、「シリアスゲーム」はゲームとしても面白いことが多い。本作、「Through the Darkest of Times」も、ストラテジーとしてちゃんとおもしろい。

レジスタンスとして仲間を集めてナチスに対抗せよ!

「Through the Darkest of Times」の目的はレジスタンスとしてナチスに対抗すること。…ここでフツーのゲームであれば、クエンティン・タランティーノの映画「イングロリアス・バスターズ」のようにナチスを倒して歴史を変えるラストが用意されることだろう。だが、本作は違う。本作でプレイヤーは歴史の流れを変えられない。そして、変えられないからこそ、プレイヤーはドイツが抱えるダークな歴史の一幕を体験することになる。まさしく「Through the Darkest of Times」というタイトルの通りに。

ではプレイヤーができることは何か?といえば、レジスタンス活動を通して一人でも多くの人間を救うこと。世界や国を巣食うことはできないかもしれないが、目の前で苦しむ一人の人間は救えるかもしれない…というわけだ。

さて、プレイヤーが具体的に何を行うのかというと、レジスタンスの「ミッション」に対してメンバーを割り振ること。本作はターン制となっており、毎ターン、メンバーの割り振りを行い、その結果を確認する形でゲームを進めていく。ゲーム進行上重要なパラメータが、モラルと支援者、そしてマルク。

モラルは3つのパラメータの中でも最も重要といえる。レジスタンスのメンバーのモラルを表す数値で、レジスタンス全体の結束を表すものといえる。なので、この数値がゼロになるとレジスタンスは解体…つまりゲームオーバーだ。モラルを維持するためにはメンバーの意見を取り入れたり、レクリエーションで気分転換をしたりする必要がある。

支援者は、レジスタンスを支援してくれる人間の数だ。支援者が多ければ多いほど、毎ターン入ってくる収入が増える。放っておくと少しずつ減っていってしまうので、増加させるために積極的な行動が必要だ。

マルクは、お金の単位。なので、レジスタンスの資金を示している。レジスタンスの活動を行うためには資金が必要だ。支援者による応援もあるものの、それだけではまったく足りない。なので、支援者と並んで、増加させるための積極的行動が必要になる。

つまりプレイヤーはモラルの維持、支援者とマルクの増加を意図して「ミッション」を行っていくことになる。そして、「ミッション」の成功/失敗を分けるのがメンバーの能力だ。

本作はかなり細かくパラメータ設定を行っており、「力」「共感」「雄弁」といったまさしく能力を表現するパラメータ以外にも、「社会民主党員」「無神論者」「人種差別」など信条、立場に関するパラメータ、「感情的」「無鉄砲」「落ち着きがない」などの性格面に関するパラメータなど、多数のパラメータが用意されている。

これらのパラメータがミッションの成功/失敗に影響を与えるわけだ。複雑に思えるかもしれないが、ミッションの確認画面に必須となるパラメータが表示されるため、プレイするとそこまで複雑には感じないだろう。

また能力以外に、アイテムが必要となる場面もある。たとえば、反政府のメッセージを拡散するためにチラシを配るなら「紙」が必要になるし、政治犯として逮捕された人たちを拷問キャンプから救い出すには、拷問キャンプに潜り込むため「突撃隊のユニフォーム」が必要だ。

こうしたアイテムを手に入れるためには、まず別の「ミッション」を達成しなければならない。たとえば「紙」を入手するのであれば、まず資金を集めるミッションで紙を購入するための「マルク」を獲得。その後、紙の入手ミッションを成功させる必要がある。

なお、能力以外にも「ミッション」の成功/失敗を分ける要素がある。「ゲシュタポ」だ。「ゲシュタポ」はナチスの秘密警察。当然、レジスタンスにとっては敵となる存在だ。ミッション中、メンバーが「ゲシュタポ」と接触することがあり、プレイヤーは選択を迫られる。

選択は、「ミッション」を諦める代わりに逮捕のリスクがない「逃げる」、逮捕のリスクはあるが、「ミッション」を部分的に達成できる「隠れる」、大きな逮捕リスクがある代わりにミッションの完全達成を狙える「強行する」の3つ。どれを選ぶべきか?非常に悩ましい選択だ。

ちなみに、敵は何も外部だけに存在するわけではない。「ミッション」遂行中、メンバー同士で「コイツ、目撃されたのでは?」と疑念を持つことがある。また、イベントが発生してメンバー同士が仲違いすることもあるし、場合によってはメンバーの家族がナチスに入ってしまう…なんてケースも!

各状況に対してどんな判断をするか?は、プレイヤー次第。場合によっては、ピンチをチャンスとして活かすこともできるだろう。たとえば、メンバーの家族がナチスになった場合、それとなくナチスの情報を聞き出してもらう…なんて選択肢が出現する。

もちろん、レジスタンスのメンバーだとバレたなら、タダでは済まないだろう。非常に重苦しいシチュエーションだ。ただ、こうしたイベントに限らず、本作のムードは終始重苦しい。何せナチス支配下を描いているので、ユダヤ人に対して迫害が行われるイベントもあるし、一般人がナチスに染まっていく様子も描かれる。

また、「本作がシリアスゲームである」という前提も、重苦しさを増している。本作に描かれていることはファンタジーではなく、歴史上起こったこと。この重苦しいムードも、人種差別を描いた胸糞悪いイベントも、どこにでもいる一般人がナチスに取り込まれていく気持ち悪さも、すべて現実に起きたことなのだ。

本や映画で歴史を見る時、我々は確かに歴史を学んでいるのだけど、それは頭だけで理解しているように思う。しかしプレイヤーとしてゲームで追体験すると、その時の雰囲気が心に、感情に伝わってくる。これこそが、「シリアスゲーム」の価値。「ゲームという形式」を社会問題解決のために活用する意味だろう。

誰にでもオススメできる作品ではない!しかし興味を持ったらプレイして欲しい

本作は、組織運営シミュレーションゲームとして練られており、ゲームとして楽しめる面白さを持っている。また、歴史に基づいていることもあって、イベント・ストーリーともに心に迫る迫力があり、プレイした人間の心に何かを残す作品であることは間違いない。

ただ、ここまで書いてきた通り、「おもしろい」「楽しい」を追求した作品ではない。正直、プレイ感は重苦しい。なので、手放しで誰にでもオススメできる作品じゃないことも事実だ。ただ、歴史に興味を持っているなら、プレイする価値はある。歴史系の書籍や映画では表現できない、「シリアスゲーム」ならではの体験価値を味わえるだろう。

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