KEMCOの新作RPG「彩色のカルテット」をレビュー。美しいドット絵が特徴の2DコマンドバトルRPG。一見レトロにも見える本作だが、プレイすると現代的な魅力を持っていることに気づかされる。
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「彩色のカルテット」は、2020年7月2日にKEMCOが配信開始したiOS/Android向けRPG。美しいドット絵で彩られた世界を探索する、KEMCOお得意の2DコマンドバトルRPGだ。ドット絵、コマンドバトルといった要素からレトロな印象を持つ人もいるだろう。しかし、プレイしてみると現代的な要素が多く盛り込まれていることに気づかされる。古くて新しい。そんな本作の魅力について、この記事で紹介したい。
平和な世界に発生した異変の真相を探るため冒険の旅へ!
本作の舞台は、神によってロール(役目)を与えられた泉人という存在が暮らす世界。人々は、ロールの効果によって王になったり、宿屋の店主になったりして社会が作られている。そんな世界を突如、異変が襲う。断続的な地震によって、各地で陥没事故が発生しだしたのだ。
本作の主人公は、春の国スフリのフリュー村で神官を務めるアーク。彼はこの異変を探るため、生まれた時から一緒の忠犬・フォールとともに冒険の旅へと繰り出す。そして道中、彼らの仲間となるのがスフリ国の王女・エアラとその専属メイドであるイヴェールだ。
基本ゲームシステムはオーソドックスな2DRPG
基本的なゲームシステムは、オーソドックスな2DRPG。バーチャルパッドでキャラクターを動かし、フィールドや街、ダンジョンを探索。ストーリーを進めていく。
移動中、モンスターと遭遇すると、戦闘画面へ。モンスターとの遭遇はランダムエンカウント方式だ。バトルは、ターン制のコマンド選択式。画面上部に表示された「アクティブバー」の中央にキャラクターアイコンが来るとそのキャラクターの行動順となり、コマンド選択が行える。
現代を感じさせるHD-2D的なビジュアルとアクトスキップ/アクトオーバー
ここまでに紹介した要素はいずれも、スーパーファミコン世代のレトロRPG的な要素といえる。ここに加わってくるのが、HD-2D的なビジュアルや、ターンの蓄積を行うアクトスキップ/アクトオーバーといった現代的要素だ。
本作は確かにドット絵なのだが、いわゆるレトロなドット絵ではない。それが顕著にわかるのが戦闘シーン。戦闘シーンの背景は、ドット絵をテクスチャーとして3D処理したと思われる、独特のビジュアルテイストに仕上がっている。その上さらに、攻撃の度に動き回るキャラクターや美麗なエフェクトといった演出が施されているため、印象は非常に現代的。
最近の2Dゲームでは、ドット絵と3D技術を組み合わせることで2Dビジュアルを進化させており、ニンテンドーSwitchのRPG「オクトパストラベラー」では、こうした手法を「HD-2D」と呼んでいた。たとえば、3Dモデルとドット絵を組み合わせることでリアルな影を表現したり、物体の凹凸を処理するノーマルマップと2Dビジュアルを組み合わせることでリアルな陰影を表現したりといった手法が「HD-2D」的手法。こうした手法を用いることで、現代的だがどこか懐かしいという、独特なテイストが生まれるのだ。
また、戦闘では攻撃やスキルといっスタンダードなコマンド以外に、アクトスキップ/アクトオーバーというコマンドが用意されている。アクトスキップは、行動順をスキップすることでアクトオーブを貯めるコマンド。アクトオーバーは、アクトオーブを消費してコマンド入力が行えるというコマンドだ。つまり、あえて行動しないことでターンを貯め、ここぞというタイミングで一気に連続行動が行える。また、アクトオーブがあれば、防御力がアップするため、アクトスキップの重要性は高い。
アクトスキップ/アクトオーバーのように連続行動を可能にするシステムは、「ブレイブリーデフォルト」や「オクトパストラベラー」などのモダンな2DコマンドバトルRPGで見られるシステムだ。本作の場合、アクトスキップ/アクトオーバーのシステムに、アクティブバーによる行動順や、スキルシステム、アクトオーブを使った防御力アップといったシステムが結びつき、独自のプレイ感を持ったシステムへと昇華されている。
たとえば、ボス戦などの強敵と戦う際、敵の通常攻撃が来るだろうタイミングではアクトスキップを行いアクトオーブを貯め、敵の特殊攻撃が来るだろうタイミングでアクトオーバーすれば、効率的に戦うことができる。さらに、本作のスキルはスキルポイントによる使用回数制限がなく、クールタイムが終われば何度でも使うことが可能。そこで、スキルを使ってクールタイムの間アクトスキップ、再びスキルが使用可能になったらアクトオーバーで一気に叩き込む…なんて使い方もできるのだ。
自分の手でお話を作り出すかのような感覚が楽しい
…と、ここまで本作の持つ魅力について書いてきたが、実は、筆者が魅力に感じているのは全く別の部分だ。もちろん、ここまで書いた部分も本作の魅力であることに違いはない。が、筆者が感じた部分は別にある。それは、かつてのレトロなRPGが持っていたものの、現代のRPGではほぼ失われてしまった部分…。探索の楽しさだ。
現代のスマホRPGは、多くの場合、戦闘シーンだけを繰り返すものが多い。会話シーンでストーリーを楽しみ、その後、数分程度の戦闘シーンを行うというタイプだ。この場合、メインは戦闘シーンといっていいだろう。一方、レトロRPGでは、どちらかといえば、街での情報収集やダンジョン探索の方に割く時間の方が多かった。つまり、探索メイン。本作は、この探索メインの楽しさをしっかり残しているのだ。
探索メインの何が楽しいかといえば、自分の手で冒険を進めている実感だ。小説のようにお話を読んだり、映画のようにお話を見たりするのではなく、自らが話を作り出しているような感覚がそこにはある。もちろん、戦闘メインのRPGもおもしろい。だが、探索メインのRPGには別の良さがあるという話だ。
特に嬉しかったのがパズル的な作りのダンジョン。隠し通路を探したり、ベルトコンベア的なギミックを活用して道を切り開いたり…という感覚が、とても楽しい。本作は、移動することが非常に楽しい作品なのだ。
すべてのRPGファンにオススメできる良作RPG
レトロRPGの基本システムをベースにしながら、現代的な要素を加えることで、独自のおもしろさを生み出している本作。レベルアップやゲームの進行スピードのテンポも速く、快適に冒険の旅が楽しめる一本だ。レトロRPGファンはもちろん、現代のRPGのファンでも間違いなく楽しめるだろう。興味を持ったなら、是非プレイして欲しい。