日中共同制作のPC/スマートフォン用ノベルゲーム「Christmas Tina -泡沫冬景-」のレビューをお届けする。

目次
  1. 日本人の少女と中国人の青年が出会い、物語は動き出す
  2. いまどき珍しい“ド真ん中”な妹キャラ・絵美がかわいい
  3. 「言語の壁」や「登場人物の心情」を巧みに描く演出
  4. 「幸せの形」のひとつを示してくれる作品

「Christmas Tina -泡沫冬景-」は中国・四川省のゲームブランド、Nekodayが開発、シナリオを「120円の春」や「ナルキッソス」の片岡とも氏が担当したノベルゲーム。PC版はSteamや、DMM.com、DLsiteほか、同人ゲームを取り扱う販売サイトでも配信中。スマートフォン版はApp Store、Google Playでダウンロード購入できる。

2020年1月のリリース時は中国語版のみだったが、日本語化のためのクラウドファンディングで目標金額を達成し、2020年9月~10月にかけて日本語が追加。2021年1月29日にはPC版向けに2つのエピソードを収録したDLC「桜色零落&景色蕭然」もリリースされている(こちらも日本語対応済み)。

物語は1980年代後期、バブル経済に湧く日本を舞台に、日本人の少女と中国人の青年の出会いから始まる1年間の交流を描く群像劇となっている。ゲーム中に選択肢などは存在せず、攻略要素はない作品だが、これから詳しくお伝えする世界観やキャラクター設定、ゲーム内のビジュアルなどに心惹かれた方にはぜひ触れてみてほしい。

日本人の少女と中国人の青年が出会い、物語は動き出す

80年代後期、バブル期の日本を舞台にした作品といえば、ゲーマーが連想するのは「龍が如く0 誓いの場所」などだろうか。好景気に湧く街には華やかなネオンがきらめき、人々はお金にものをいわせて享楽に身を委ねている――当時を知らない筆者の、この時代へのイメージは上記の作品の印象もあって、こういったものだ。

しかし「Christmas Tina -泡沫冬景-」で描かれるのは、そんなこの時代のきらびやかなイメージとは、ほとんど無縁な人たちだ。

日本人の少女の名前は櫻井栞奈(さくらい かんな)。内気で人付き合いが苦手な性格だが、とある理由で地元の高校を中退。仕事を探してひとり上京することになる。

中国人の青年の名前は景萧然(じん しょうぜん)。大学受験に失敗し、再受験のための費用や学費を稼ぐため、日本に渡ってアルバイトを探すことを決心する。

上京後、仕事を探すふたりが紹介されたのは、いまはもう使われていない駅舎に「1年間住み込む」という不思議なバイト。本来はひとりいれば問題ない仕事が手違いで栞奈と景のふたりに紹介されたことで、成り行き上、ふたりでひとつ屋根の下に住むことになる。

日本語しか話せない栞奈と中国語しか話せない景では当然言葉は通じず、しばらくの間はぎこちない関係が続く栞奈と景。内気な性格の栞奈と、やや思いやりに欠ける接し方をしてしまう景では誤解も生じやすく、駅舎での日々はどちらにとっても気まずく、息苦しいものになってしまう。

いまどき珍しい“ド真ん中”な妹キャラ・絵美がかわいい

そんなふたりに転機が訪れる。栞奈の妹・絵美が駅舎を訪ねてきて、そのまま栞奈の部屋で一緒に暮らすことが決まるのだ。

ストーリー的なことはひとまず置いておいて声を大にして言いたいことは、この絵美というキャラクターが非常に可愛らしいということだ。天真爛漫で、真っ直ぐで可憐、そして少々薄幸という、いわゆる妹キャラとしてド真ん中の造形といえるだろう。声を担当する名塚佳織さんの演技もさすがのひとこと。切なくも温かいドラマが魅力の本作だが、妹キャラが好きならば彼女を目当てに本作をプレイしてもきっと後悔はしないだろう。

姉と違って明るく無邪気な絵美は、景ともすぐに打ち解け、中国語が分からないなりに彼の気持ちの機微を感じ取ってコミュニケーションを取っていく。彼女の存在が架け橋となって、お互いに抱いていた誤解も少しずつ解け、距離を縮めていく栞奈と景。

そこでふたりが気づくのは、自分たちが華やかな時代の空気に馴染めない、似た者同士だったということ。筆談での意思疎通ができるようになったり、簡単な言葉ならば相手の言いたいことが分かるようになったりと、少しずつ互いを理解し、惹かれ合っていく様子が微笑ましい。

栞奈と景の雇い主である女性・佐倉詩織や、景に怪しい仕事を紹介しようとする中国人・江小墨(こう しゃも)といったサブキャラクターも、それぞれの事情を抱えており、そんな彼らの人物的背景も、栞奈たちの行く末に密接に関わってくる。

春、夏、秋……そして2度目の冬。穏やかながら、いくつもの忘れられない出来事を経験し、日々を過ごしてきた彼女たちは、大きな決断を迫られることになる。ここまで物語を追ってきた者ならば、その結末に胸が温かくなるはずだ。

「言語の壁」や「登場人物の心情」を巧みに描く演出

本作の演出面での特徴としては、日本語版でも作中で中国語で喋っている人物の音声には中国語が用いられている点が挙げられる。

たとえば、栞奈の台詞はテキスト・音声共に日本語、景の台詞はテキストは日本語、音声は中国語になっているため、プレイヤーは双方の主張を十分に理解しながらも、コミュニケーションの上での言語の壁をリアルに実感することになる。

前述した中国人男性・江は、景をはじめとする中国人と会話をするときは中国語、日本人と会話をするときは片言の日本語を使用しており、この特徴も日本語、中国語両方の音声が用いられている形式だからこそ際立っている。

映像演出もバリエーション豊かで、見どころのひとつ。ストーリー展開や登場人物の心情によって画面レイアウトが多様に変化。これにあわせて立ち絵も横向き、後ろ向きなど様々なパターンが用意されており、文字が表示される位置なども変わってくる。多くのノベルゲームにある「こちらを向いた上半身の立ち絵+背景+テキストウィンドウ」といった形式のみに囚われない表現が駆使されていて、ストーリー的な起伏は大きくはない作品ながら、淡白さを感じにくいのはこういった工夫によるところが大きいように思う。

ストーリーはいくつものチャプターに分かれており、1チャプターの読破に掛かる時間は10分~15分程度。比較的短い間隔で切りの良いところまで読めるので、すきま時間などを利用して少しずつ読み進めるようなスタイルとも相性が良い。なお具体的なチャプター数の明言は控えるが、エンディングまでに掛かる時間は10時間~12時間程度になるだろう。

「幸せの形」のひとつを示してくれる作品

不器用な男女の交流を描く本作。バブル期という時代を舞台にしてはいるものの、その切なくも温かい物語には普遍的な魅力がある。一方で、スマートフォンや携帯電話がなく、したがって翻訳アプリなども存在しない時代だからこそリアルに感じられるもどかしいドラマは、この時代が舞台ならではの部分でもある。

また、“ポケベル”や“ムーバ”といった固有名詞や、当時の若者文化に関する描写があるなど、当時を生きていた人にとっては懐かしさを感じられ、若い方にとっても興味深い部分も多いことと思う。

個人的にはノベルゲームのファンというよりは、時代も作風も異なるが、2020年にアニメ化された「イエスタデイをうたって」などの作品が醸す雰囲気がお好きな方におすすめしたいゲームだ。

作品のテーマに大きく関わる部分ではないものの、景の過去が明かされる中で、60年代から70年代に掛けて中国で起きた“文化大革命”にまつわる出来事に翻弄される様子が描かれるなど、海外の歴史に興味を持つ切っ掛けになる場合もあるだろう。

最後に、本作には“ティナ”と呼ばれる黒猫が登場する。心優しい人にはよく懐く反面、どんなに懐いた相手でも、捕まえようとすると逃げてしまう、不思議な猫であるティナ。この猫は本作における「幸せの象徴」であるように思える。

本作の登場人物は誰もが自分にとっての幸せとはどんなものなのかを探している。しかし確かなものに手を伸ばそうとすると、それはいつもすり抜けてしまう。では彼らはどうすれば幸せになれるのだろうか? 結末を見届けた方ならば、それが少しだけ分かるようになるかもしれない。

派手な作品ではなく、続きが気になって夜も眠れない――といった類のストーリーでもない。しかし、こういった作品こそを求めている方は、決して少なくないのではないかと思う。少しずつ、心の乾いた部分が潤っていくような物語だ。

Steam:https://store.steampowered.com/app/1049100/_/
App Store:https://apps.apple.com/jp/app/id1521418257
Google Play:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.NekoDay.ChristmasTina.JP

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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