2021年7月9日にカプコンより発売予定のNintendo Switch/PC用ソフト「モンスターハンターストーリーズ2 ~破滅の翼~」(以下、「MHST2」)。発売が目前に迫る中、本作の開発に携わる、プロデューサーの辻本良三氏、ディレクターの大黒健二氏、アートディレクターの川野隆裕氏の3人にお話を伺うことができた。そのインタビューの模様をお届けする。
「ストーリーズ」の開発は「モンスターに乗って冒険」から始まった
――まず、「MHST2」開発の経緯について教えてください。
辻本良三氏(以下、辻本氏):前作の「ストーリーズ」が完成する前から、僕と藤岡(※藤岡要氏)の間でいろいろと構想がありましたし、発売後には続編を望む声も多数いただいていたんです。それから「MHST2」の方向性について話し合って、より幅広い層にプレイしていただくために、ビジュアル面の雰囲気を一新することになりました。ただ、どんな雰囲気がふさわしいのか形にするのに時間が掛かってしまい、ようやく形になってきた段階で、「これならイケる」という手応えを感じて、本格的な開発が始まったという流れです。
――前作より頭身が上がり、高い年齢層を意識している印象を受けました。
川野隆裕氏(以下、川野氏):そうですね。前作はビジュアル面で敬遠されてしまった部分が少なからずあったと思うので、今回はもう少しリアルな頭身に寄せています。
辻本氏:純粋に前作よりも幅広い層に楽しんでいただきたいのでビジュアル面も強化しています。
――前作は、ライダーをピックアップした物語だったと思うのですが、「MHST2」ではハンター側に焦点を当てるといった話は出なかったのでしょうか?
辻本氏:まず大前提として、元々「モンスターハンター」(以下、MH)シリーズをRPG化するなら、ストーリーや世界観をより深く描けるようなタイトルにしたいとうコンセプトがありました。
大黒健二氏(以下、大黒氏):もちろんRPGなら、アクションよりもそういった要素を伝えやすいということは分かっていました。その上で、もしハンターを主人公にした場合、「ハンターとはこういうものなんです」という流れを改めて説明する必要があるので、既にシリーズを遊んでいるプレイヤーの方にとっては、とっくに知っていることの繰り返しになってしまいます。それならば、ハンターではない視点を用意することで、より自然に「MH」の世界観を伝えられるのではないかと考えました。
そしてもう1つが、モンスターと関わることができるゲームにしたかったということです。1作目のコンセプトは、「モンスターに乗って冒険したい」というところから始まっていて、それなら「ハンター」よりも「ライダー」と呼ぶ方がふさわしいだろうと。そこからライダーという存在の設定を詰めていきました。
なので元々「ストーリーズ」は、すでにシリーズ作品を遊んでいただいているプレイヤーの方にも、また新鮮な気持ちで「MH」の世界観を楽しんでもらいたいという想いで制作が始まったタイトルなんです。前作で既に一度描いたとはいえ、「MHST2」ではまた違った方々にプレイしていただきたいという気持ちもありますし、ライダーが主人公を務めるのが「ストーリーズ」シリーズ全体のコンセプトでもあったので、今回もそこは変えないという決断を下しました。
――別のインタビューでは、前作をプレイしていない人が置いていかれるような内容にはしたくない、といったことをお話されていましたが、前作のキャラクターであるリリアやアユリアの登場が明らかになりました。こちらについてはいかがでしょうか。
大黒氏:前作との関係性で言うなら、ストーリーの根本がまったく別だということです。前作では「黒の凶気」にまつわる騒動が描かれましたが、本作のメインストーリーで描かれる出来事は、「黒の凶気」の事件とはまったく関係が無い内容となっています。
その上で、続編を作ることができたのも、前作を楽しんでくださった方々の存在があってこそなので、そういった方に喜んでもらえるような要素を入れたいという想いがありました。そこから「MHST2」のテーマが「共闘」に決まった時、前作のキャラクターが登場して一緒に戦うことができれば嬉しいのではないか、というアイディアが出たんです。特にアユリアについてはプレイヤーからの人気も高く、キャラクターとしても立っていたので、かなり早い段階から共闘パートナーとして入れたいと考えていました。
前作から大きく変わったバトルシステム
――前作の発売後、プレイヤーからは様々なリアクションがあったと思うのですが、それを受けて特に改善を加えた部分があれば教えて下さい。
大黒氏:それについては結構たくさんあるのですが、多くのお客さんに「気持ちいい」と感じていただけるようになったと考えているのはバトルシステムですね。「MH」のアクションの楽しさって、交互に回ってくるモンスターとハンターのターンの駆け引きにあると思っていて。ハンターが自分のターンに欲張って攻撃をし過ぎるとモンスターから痛い反撃がありますが、しっかりとモンスターのモーションやクセを覚えておけば、ハンター側はほとんどダメージを食らわないまま勝つこともできます。
元々前作のバトルシステムも、そうした「MH」シリーズならではの要素を、コマンドバトルに落とし込むことを重視して構築したものだったんです。ただ、3すくみの関係上、ある程度“揺らぎ”になるランダム性を入れざるを得ませんでした。その結果、せっかくモンスターのクセを把握しても、何度かは運で真っ向勝負に負けることがストレスに繋がってしまっていたという反省がありました。
今回はそういった揺らぎを極力無くしていて、しっかりとモンスターのクセを読み切れば「ずっと俺のターン」みたいな感覚で、気持ちよく勝利できます。ちょっと簡単すぎるんじゃないかという懸念もあったのですが、試してみるととにかく気持ちいいシステムに仕上がっていたので、この方向でいこうと。少し触ってもらえば、前作との違いをすぐに感じていただける部分だと思います。
もう一点が、絆遺伝子に関するものですね。絆遺伝子は前作にもあった要素で、ストーリークリア前から積極的に活用して欲しいと思っていたのですが、伝承をあまり使わないままクリアしたという方が予想以上に多かったんです。なので、より手軽に活用できるように、絆遺伝子をどのスロットにも入れられるようにしたり、同じ色の遺伝子を揃えるメリットをもたせて分かりやすく変更しました。クリア前から、絆遺伝子を活用した遊びがすごくやりやすくなっていますし、クリア後のやりこみ要素としての奥深さも持たせられたと思っています。
――本作では、モンスターのレアリティの段階はいくつまであるのでしょうか?
大黒氏:最大で7になります。もともと「ストーリーズ」のレアリティは、対戦のために格闘技のウェイト的な位置づけで設定したもので、ストーリー本編中に出てくるモンスターは、7段階の中間くらいのレアリティになっています。
――モンスターの巣からタマゴを拾う時、モンスターが襲ってくる確率は場所によって変わるのでしょうか?
大黒氏:場所によって変わることはないですね。寝ているモンスターに関しては、タマゴが無くなるまで探し続けると、ほぼ起きるようになっています。巣にモンスターがいない場合は、戻ってこないケースもあります。
――寝ている時と留守にしている時だと、後者の方がチャンスだと。
大黒氏:そうですね。他のプレイヤーと共闘する際には、仲間が先にタマゴを探していると、自分はまだタマゴを手に入れられてないのにモンスターが戻ってきてしまったり、共闘ならではの面白いシチュエーションが発生することもあります(笑)。
――序盤のプレイでは、スピードタイプのオトモンが少ない印象を受けたのですが、どのような意図があったのでしょうか?
大黒氏:イャンクックやプケプケ等、「MH」シリーズの序盤に遭遇するモンスターのタイプを考えていくと、どうしてもテクニックタイプが多くなってしまうんです。もちろん、全タイプの加入バランスが均等になるように、モンスターの登場順を入れ替えるという選択肢もあったのですが、やはり元々のモンスター達の「MH」シリーズでのイメージを守って、違和感のない順番で登場させる方がいいだろうと判断しました。序盤のスピードタイプはドスランポスくらいしかおらず、なかなか貴重な存在なので、そこで愛着を抱いてもらうのも面白いのかなと。
不便さを残すことで、マルチプレイの疑似体験を目指した共闘パートナー
――本作の共闘パートナーは戦闘で頼りになる一方、プレイヤーからは一切指示が出せなかったり、不便な部分もあると思います。あえて不便さを残したのは何故なのでしょうか?
大黒氏:理由はいくつかありまして、一つは共闘感を出すためです。例えば僕が辻本と共闘でプレイするとして、いちいち僕の方が指示を出すのではなく、お互いに良いと思う行動を選択しますよね。それと同じで、自分がすべて指示を出すよりも、キャラクターらしさを感じられますし、マルチプレイに近い共闘感も演出できると考えたんです。
もうひとつはテンポの問題ですね。コマンドバトルの場合、全ての仲間に指示を出すと1ターンで必要な操作が増えるので、どうしてもゲームテンポが落ちてしまいます。それならば、自分の行動だけを決めてすぐに戦闘が始まるテンポ感の方が良いのではないかと判断しました。ここは開発チームの間でもかなり議論が出た部分だったのですが、最終的に今の形に落とし込めたことには手応えを感じています。
――「MHST2」では、自分やオトモンに対する攻撃なら、3すくみの相性でほぼ勝てるようになっている一方、共闘パートナーが狙われた時は、3すくみに負けるタイミングが生まれるようになっていて、それが適度な揺らぎとして働いているのが非常に面白いと感じました。そこも見越した上での仕様だったのでしょうか。
大黒氏:そこはかなり調整に苦労した部分で、最初の頃はなかなか意図したバランスにできなかったんです。開発初期の途中までは、プレイヤーと共闘パートナーでライフゲージを共有する仕様になっていて(製品版ではそれぞれが個別のライフゲージを所持)、共闘パートナーが3すくみに負けた結果、自分のミスではないにも関わらずライフゲージが減ってしまう仕様だったんです。一時は、やっぱりパートナーに指示を出せた方がいいのか悩んだこともありました。
ただ、マルチプレイの共闘でも、自分ではないプレイヤーが3回倒されてクエストが失敗になるのはストレスになりますよね。それならプレイヤーとパートナーでライフゲージを別にすれば、片方のミスだけでクエスト失敗にはなりませんので、ストレスを軽減できるのではないかと考えました。
あとは共闘パートナーが加入する時には、その時点のプレイヤーよりも少し強いくらいのステータスになっていたり、細かい調整を何度も経て現在の形に落ち着きました。共闘パートナーについては、開発チームの間でも様々な意見があって、特に自分のこだわりが強く出た部分になったと思います。
――アップデートで、「モンスターハンターライズ」からのオトモであるガルクがオトモンとして本作に登場することも発表されましたが、どんな特徴をもっているのでしょうか?
大黒氏:他のオトモンと比べて、性能的に特別優れているなどの差別化はしていませんが、遺伝子も優遇していますし、パラメーター的にも扱いやすいオトモンになっていると思います。何より、ライドした時に気持ちよさを感じられるオトモンになっていて、開発者の“ガルク愛”を感じていただけるかなと(笑)。開発者目線でも「お前ら愛情注ぎすぎ」と言いたくなるくらいこだわっているので、「ライズ」でガルクに愛着をもたれたプレイヤーの方々にも納得していただけるのではないかなと思います。
――ありがとうございました。