2021年7月29日に発売される、サイバーコネクトツー初パブリッシングタイトルとなるドラマティックシミュレーションRPG「戦場のフーガ」のレビューをお届けする。
目次
「戦場のフーガ」はイヌヒト、ネコヒトという人間と犬・猫の特徴を併せ持つ人々が暮らす浮遊大陸を舞台とした、サイバーコネクトツーが手掛ける作品群「リトルテイルブロンクス」の流れを汲む一作だ。ゲームジャンルは異なるものの、そういう意味では初代PlayStationで発売された「テイルコンチェルト」や、ニンテンドーDSの「Solatorobo それからCODAへ」などの後継作と言える。
加えて、サイバーコネクトツー初パブリッシングタイトルにして設立25周年の記念タイトルでもあり、さらに言えばこれから仕掛ける「復讐三部作」の、第1弾タイトルも兼ねているという。
つまり本作は、サイバーコネクトツーにとって原点といえる構想の後継作であり、これから先の未来の道しるべでもある、“一世一代の勝負作”と言えるわけだ。当初は2019年に発売予定だったものが、そこから2年の歳月を掛けて作り込みが成された経緯からも、その意気込みのほどは伝わってくるだろう。そして先に今回のレビューの結論を言ってしまうと、その作り込みは多くのの部分で見事に実を結び、傑作と呼ぶべきゲームに仕上がっていた。
なお、本作はPS5、PS4、Nintendo Switch、Xbox Series X|S、Xbox One、PC(Steam、Epic Games Store)と、あらゆる現行ゲームハード及びPC向け主要プラットフォームでリリースされる。この中にひとつでも所有ハードがあるのなら、すぐに戦場行きのチケットを手に入れることが可能だ。
あらゆる選択が子どもたちの未来に返ってくる……繰り返される“希望と絶望”
愛くるしい姿をしたイヌヒト、ネコヒトの子どもたち。彼らが乗り込む禍々しさすら感じられるデザインの巨大戦車「タラニス」。そしてこのタラニスに備わっている、ひとりの子どもの命を犠牲にすることで使用可能になるという恐るべき最終兵器「ソウルキャノン」。このあたりが、「戦場のフーガ」の情報をざっとチェックしたときにとりわけ目を引く部分だろう。
牧歌的な雰囲気からは「テイルコンチェルト」や「Solatorobo それからCODAへ」との共通点も見い出せる。しかし、戦火に巻き込まれた子どもたちを主人公とし、戦わなければ連れ去られた家族を救い出せない……そして時として彼らの命を犠牲にすることも可能という悲壮な設定は、過去作と一線を画している。
こういった部分も本作の魅力のうちではあるが、実際にゲームをプレイしてみてとりわけ強く印象に残るのは、あらゆる局面で生じる“選択の重み”だ。
本作は章仕立てで物語が展開。ゲームの進行に沿って複数のパートを行き来する構成になっている。各章の冒頭には現在のシチュエーションを示すストーリーが描かれ、ここで提示された目的地にたどり着くため、タラニスに乗り込んだ子どもたちは、「進行ルート」をひたすら右へと移動していく。
この「ルート進行」パートで止まったマスの種類に応じて、戦闘、インターミッション、遺跡探索といった後述するパートへと移行したり、アイテムの入手や回復が行われることになる。ルートの右端まで進むと強力なボスとの戦闘が待ち受けており、これを撃破するとストーリーが進展。付近の村の住人との会話やアイテムの物々交換を経て、次の章へと進む――というのがゲーム全体の流れだ。
それぞれのパートでの選択は、相互に大きく影響を及ぼし合っている。
戦闘では、子どもたちに割り振られた3つの属性や、SPを消費して放つ各種「スキル」の使い分けが重要。これらをより良く運用するための適切なタイミングでの配置替えなど、臨機応変な思考力が問われる。判断ミスはその後の戦局に大きく影響を及し、また戦闘での評価が高ければ得られる経験値も多くなるため、常に最善手の模索を要求されるのだ。
戦闘に至るまでの準備段階も選択の連続だ。進行ルートでは時折“ルート分岐”が存在し、先々のマス目の種類や敵の手強さなどを考慮に入れて、状況に応じたルートを選ばなければならない。
「インターミッション」と呼ばれるパートでは、非戦闘時の子どもたちの、タラニス内部での生活が垣間見える。育てた野菜や、家畜が産んだ卵から料理をつくったり、タラニスの装備を強化したり。子ども同士での交流を行い「親愛レベル」を上げれば、その組み合わせで戦闘に望んだときに恩恵が得られるし、寝台で眠って身体を癒やしたり、洗濯を行うこともできる。
インターミッションでやれることの中から、何をするかを決めるのはプレイヤーの役目。どの行動も、何かしらその後の戦闘や、また次のインターミッションで恩恵を受けられるものとなっているのだが、各種行動では「アクションポイント(AP)」が消費される。これがゼロになると何もできなくなるので、やりたいことをすべて達成できることは稀だ。どんな準備を優先し、何を諦めるか、プレイヤーの判断に委ねられる。
そうした大小の選択を経て、ボス戦でどうしても勝てそうにない状況に陥ったとき、ついに“ソウルキャノンの使用”という選択が現実味を帯びてくるのだ。
望まぬ結果にたどり着いたとしたら、それはすべて、そこに至るまでの選択を積み重ねてきたプレイヤーの責任だ。もちろん逆もまた然りで、子どもたちの運命を良いものへと導けたときの達成感は、選択の結果がダイレクトに返ってくるからこその、大きな喜びと安堵をもたらしてくれる。
本作を象徴するキーワードに“希望と絶望”というものがあるが、これはストーリーだけを指すわけではなく、ゲームプレイにも強く結びついている言葉なのだ。
最終的に覚えることはそれなりに多いが、チュートリアルが非常に丁寧なので、ひとつひとつの要素を順を追って理解し、ゲームプレイに活かしていけることと思う。
引き続き、各パートの詳細なゲーム性についても書いていこう。
弱点属性や、戦局に応じた編成が勝利のカギ……奥深いバトルシステム
戦闘はターンベースで行われ、画面上部にあるタイムラインで左端にたどり着いた者から順に敵に対して攻撃を仕掛けられる。ここで肝になるのは、敵兵器にはそれぞれに弱点が設定されており、この弱点を突けば、その兵器のタイムラインの進行を遅らせることができるという点だ。
最終的に12名が仲間になる子どもたちは、タラニスで使用する武器によって3タイプに分けられる。この3タイプとは攻撃力は低いが命中率が高い「マシンガン」、攻撃力と命中率のバランスが取れた「グレネード」、攻撃力が高く、命中率は低い「キャノン」となっており、それぞれが青、黄、赤のイメージカラーに色分けされている。これらの色のアイコンが敵の体力ゲージ下に表示されており、対応した武器で攻撃すれば弱点を突けるというわけだ。
メインでバトルに参加する子どもは最大で3人。この人選を切り替えられる「戦術モード」は一度使用すると3ターン経過するまで使用できなくなるので、先の展開を見越した編成が求められる。
また、このメインで戦う子どもたちにはそれぞれにサポートの子どもをひとり付けることになる。このコンビの“組み合わせ”とその“親愛度”により、敵に攻撃を仕掛けたときに回復、命中アップなどの「サポート効果」による恩恵を受けたり、ハートマークのゲージが100%になることで放てる「協力必殺技」の効果が変わったりするのだ。
序盤はただ3種類の弱点属性を突いているだけでもそれなりに有利に立ち回れるだろう。しかし、徐々にそれだけでは苦戦を強いられるようになり、一方でレベルアップにより子どもたちが多彩な「スキル攻撃」を使えるようになってくると、考えうる戦略は複雑化していく。
たとえば一部の敵には「装甲ランク」という数値が設定されており、この数値が高い敵にはダメージがあまり通らない。とくに強敵相手ならこの数値を下げないことには弱点を突こうが満足なダメージを与えられないのだが、これを下げるスキル攻撃は、「マシンガン」を使う子どもしか覚えない。また、長期戦を強いられそうならば、敵を状態異常にするスキルが豊富な「グレネード」での攻撃を見舞ったほうが良いかもしれない。あるいは逆に一体一体は強くないものの、数の多さに手を焼きそうな敵は、弱点を無視して「キャノン」による強力な全体攻撃スキルで一網打尽にしてしまう選択も考えられる。
もちろん終盤まで弱点を突く攻撃も有効ではあるが、複数の種類の攻撃を加えないと怯まない敵兵器が多くなってくることもあり、もっと大局を見てベストな判断をすることが求められるのだ。ここに、「協力必殺技」や一部の行動が大幅に強化される「ヒーロー状態」(詳しい発動条件は後述)といった切り札的なカードをいつ切るべきか? という判断も加わり、本作の戦闘は常にプレイヤーの思考力をフル回転させてくれる。
試行錯誤のし甲斐があるターンベースの戦闘が大好物のRPGファンは多いことと思うが、そういった方が本作を手に取れば、近年でもトップクラスの満足感を得られるのではないかと思う。
厄介ながら重要なポイントである「怪我」、「戦闘不能」の概念
もう少し戦闘システムにおけるユニークな部分をピックアップすると、「怪我」と「戦闘不能」の概念が挙げられる。これらはプレイヤーが操作する子どもたち側が敵の強力な攻撃を受けたときに一定確率で陥る状態異常の一種。「怪我」自体には能力低下などのデメリットはないが、「怪我」をしている状態でもう一度「怪我」に値する攻撃を受けると、その子どもは「戦闘不能」になってしまうのだ。
ちなみに子どもたちの状態異常はタラニスの残りHPが少ないほど陥る可能性は高まるので、防ぐには回復系のスキルやアイテムで、なるべく残りHPを多い状態にキープしておくのが有効だ(回復よりも攻撃を続けたほうが良さそうに思える状況も多いのがまた悩ましい……)。
「戦闘不能」になった子どもは文字通り、回復するまで戦闘に一切参加できなくなる。そして「怪我」と「戦闘不能」は、「インターミッション」で寝台を使い、睡眠を取るまで回復できない。怪我をした子どもをメインとして戦闘に参加させ続けるのは、慎重にならざるを得ないだろう。
これがなければ少なくないプレイヤーが、一部の子どものみを戦闘に駆り出し、主力となる子どもだけを強く成長させていく育成方針になったかもしれない。しかし戦闘不能を回避するため、そして誰かが戦闘不能になった場合に備え、すべての子どもたちを十二分に戦える状態にしておく必要性が生じている。
同じ属性の武器を使う子どもでも、基礎的なステータスや覚えるスキル、覚える順番が異なっているので、性能面でもひとりひとりに個性が感じられるはずだ。そうしていろいろな子どもたちを必要に応じて使い分けることが、ゲームシステムへのより深い理解や、きめ細やかな戦略の構築にも繋がってくる。
プレイしていると非常に厄介に感じる「怪我」、「戦闘不能」の概念だが、これがあるからこそプレイ体験は豊かになり、そして子どもたちひとりひとりへの愛着も増すものと言えるだろう。
そしてどの子どもも大切に感じられるように設計された本作のゲームデザインを思えば、やはり「ソウルキャノン」は、使わないほうがいいのである。
ルート進行、インターミッションでも選択の連続
ルート進行時に分岐点があるときの選択肢は、「安全な道」、「普通の道」、「危険な道」という3種類に大別される。難度の高い道を選べばその分、経験値が多く手に入るし、アイテムマスや回復マスの恩恵も、大きくなる傾向にある。しかし、通常の戦闘マスは赤いアイコンなのだが、「危険な道」にのみ登場する紫アイコンの戦闘マスで戦う敵兵器は、ちょっとこの道を選んだことを後悔するレベルで手強く、激戦は必至だ。とは言え、あえて“危険”と言われた道を選んだのだからプレイヤーの自業自得なのだ。
もちろん「安全な道」を選ぶことで大切なものを守れる局面もあるはず。繰り返しになるが、すべてはプレイヤーに委ねられている。数多の戦闘を乗り越え、ルートの先に回復マスや「インターミッション」のマスが見えてきたときは思わず安堵するだろう。
「インターミッション」では、前述の通り限られたAPを消費して行動を取ることになるのだが、ここでの選択をいっそう悩ましいものにしているのが「みんなの連絡ノート」の存在だ。
ここにはそれぞれのキャラクターの思い思いの「やりたいこと」が書かれており、これを満たした子どもは「絶好調」状態になる。絶好調状態で戦闘を続けた子どもは「ヒーロー状態」となり、「通常攻撃の威力2倍」、「攻撃がすべてクリティカルになる」、「攻撃した敵の弱点をすべて突き、装甲をすべて破壊する」といった非常に強力な効果が5ターンにわたって付与されるのだ。
できればなるべく多くの子どもを絶好調にしたいところだが、それとは別にプレイヤーとしての優先事項も都度存在するはずなので、何をどこまで追求し、どこから折り合いをつけるか? という葛藤が生まれる。
それから連絡ノートには「現状不可能なこと」は表示されないので、チェックすることで「今回のインターミッションでやれること」に気づけるという側面もある。とくに食堂でよりレベルの高い料理をつくれるようにする、一度に寝れる寝台の数を増やすといった各種施設の拡張は、その後の施設の効果をパワーアップさせ、APも消費しないため、可能なものは余さずやっておくべきだろう。
なお、戦闘でタラニスのHPがゼロになり、撃破されてしまうとゲームオーバーになるのだが、このとき、復帰ポイントは最後のインターミッションの「終了後」か「開始前」かを選択できる。インターミッションでの行動に改善点がありそうならば、ここでの行動を変えることで、状況を変えられるかもしれない。
戦闘時にタッグで行動させ続けたり、インターミッションで会話を重ねたりした子ども同士の「親愛度」が特定のレベルまで上昇すると見ることができる「絆イベント」も、インターミッションの醍醐味のひとつだ。
「絆イベント」は子ども同士のすべての組み合わせに3段階用意されており、より高いレベルを要求されるイベントを見るほど、二者間の「協力必殺技」の威力も上昇する。12名の子どもたち全員の、あらゆる二者間の組み合わせにおいて、それぞれ3通りのイベントが用意されているということなので、かなり膨大な量だと言える。イベント自体も戦火に巻き込まれた子どもたちがお互いの心の傷に触れ合い、徐々に分かり合っていくような、切なくも心温まるものになっており、思わず最後まで見届けたくなるはずだ。
ゲームを1周エンディングまで見届けただけではすべての「絆イベント」を見ることは不可能。それでもすべての子ども同士にイベントが用意されているあたり、本作でもかなり重点を置かれた要素のひとつであるのは間違いない。こういった部分の作り込みが、すべての子どもたちを命ある存在としてプレイヤーに意識させてくれる。
適度なアクション性とパズル要素が楽しい遺跡探索
「遺跡探索」についても言及しておこう。ここでは罠や生息するモンスターの動きをかわしながら、鍵を見つけ出し、宝箱を開けることでクリアという、このゲームで唯一のアクション性のあるチャレンジが楽しめる。
ここでも戦闘と同様、クリア後に総合評価が下される。この評価は道中にあるアイテムをできる限り入手し、モンスターも可能な限り撃破することで高まるのだが、これを目指そうと思うとパズル的な思考が要求される。
道を塞いでいる壁を壊したり、敵を倒すには途中で拾える“トイガンの弾”が必要になるのだが、闇雲に使用してはすべての部屋をまわる前に弾が尽きてしまう。どういった順番で使っていくか、というのが重要になるのだ。
「遺跡探索」は進行ルート上の遺跡のマスに止まったときにチャレンジできるほか、一度行った遺跡にはインターミッションでもAPを消費して再挑戦することができ、これが「みんなの連絡ノート」に書かれた条件になっている場合もある。本作の芯の部分ではないものの、ゲームプレイに彩りを添えてくれる要素だ。
新たなる挑戦の始まりを告げるに相応しい傑作
無論、本作は「完全無欠のゲーム」ではない。たとえば、子どもたちに掛かっている状態異常の種別や、ゲージが貯まっていない状態での「協力必殺技」の効果が分かりづらい。「戦術モード」であれこれ子どもたちの配置を入れ替えたあと、「やっぱり元に戻したい」と思ったときに、パッと戻せる機能が欲しい、などなど――完全新規で作られたゲームシステムゆえに、インターフェース面で煩わしさを感じることは少なくなかった。
また、このレビューはノーマルエンディング到達時点で書いているのだが、少なくともこの時点で語られたストーリーにおいて、終盤まで引っ張られた「とある謎」の真相に関しては、やや肩透かしという印象を抱いた。ただ、より良い結末に到達することで明かされるであろう伏線もいくつか残っているため、ここでの展開次第で印象は違うものになるかもしれない。
「ニューゲーム+」を選択すれば、レベルやアイテム、親愛度などを引き継いで2周目に挑戦でき、より良い結末の追求はもちろん、「ソウルキャノンを使い続けたらどんな結末になってしまうのか?」という、暗い好奇心を満たすための探求も楽しめてしまう。愛すべき子どもたちの可哀想な結末は見たくないプレイヤーも多いことと思う。しかし、そうした選択にも、それに見合った別の展開を用意しているというこだわりは、子どもたちの“命の重み”を、より強く意識させてくれるものでもあると個人的には感じる。
1周分のゲームボリュームとしても満足の行くものであり、2周目以降ならではの楽しさも豊富。そしてゲームシステムは繰り返しのプレイに耐えうる奥深さを有している。通常版の価格が4,180円(税込)というミドルプライスであることを考慮に入れると、コストパフォーマンスも抜群と言っていい。
「戦場のフーガ」は、サイバーコネクトツーの新たなる挑戦の始まりを告げるに相応しい、すべての構成要素が噛み合った傑作に仕上がっている。“ケモノ”や“ソウルキャノン”などのキャッチーなアピールポイントに惹かれた人も、やり甲斐のあるターンベースのRPGを探している人も、きっと心から夢中になれるだろう。
ここまでレビューを読んで心を惹かれた方には、ぜひプレイして、子どもたちを幸せな結末へと導いてほしい。