NetEase Gamesからリリースされたスマートフォン向けRPG「終末のアーカーシャ」をレビュー。「書物」を擬人化した世界観に、ポストアポカリプス的世界観をミックスしたユニークな魅力を紹介する。
「終末のアーカーシャ」は、NetEase Gamesからリリースされたスマートフォン向けファンタジーRPG。擬人化された書物…「幻書」とともに世界を救うための冒険を繰り広げるという作品だ。「幻書」として登場する書物は、「古事記」のような古典をはじめ、ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」、夏目漱石の「吾輩は猫である」といった有名文学作品、さらにはHPラブクラフト「クトゥルフの呼び声」に至るまで非常に多彩。
…とはいえ、ここまでの説明を読んだだけだと、数ある「擬人化モノRPG」のひとつに過ぎないように感じられるかもしれない。しかし、本作は「擬人化モノRPG」の中でもかなりユニークな作品だ。というのも本作は、「幻書」たちが活躍する「擬人化モノ」的世界観に、なんとゾンビもの的なポストアポカリプス世界観を掛け合わせている。
幻書VS不死者!崩壊後の世界をサバイブする物語
主人公=プレイヤーは、図書館で勉強中、「幻書」の少女と出会い、人間と「原書」を巡る戦いへと巻き込まれる。いかにもボーイ・ミーツ・ガールの王道といった形のオープニング。だが実は本作、この時点からサプライズが盛り込まれている。このサプライズはゲームプレイ後数分で目にすることができるので、ぜひ自分の目で確認してほしい。オープニングのこの展開を見て筆者は、「ありきたりの作品にはしないぞ」というスタッフの心意気を感じた。
戦いに巻き込まれた主人公は、本作のヒロイン、「砂の本の幻書」と契約を結び、「アーカーシャ館」の館主となる。タイトルにもある「アーカーシャ」とは、知識の集合体という意味。その名のついた「アーカーシャ館」とは、無数の知識とともに、現実改変の力を持った「アーカーシャの火」とを収めた場所のこと。主人公とヒロインの目的はこの「アーカーシャの火」を護ることだ。
ここまでの展開は、非常にファンタジックな流れを見せているが、「アーカーシャ館」から現実に戻った時、世界の様相は一変する。文明が崩壊し、世界のあちこちに不死者が出現。生存者たちは、不死者を避け安全な場所に隠れながら、日々を乗り切るための物資を探すという状況に陥っていた。つまりこれは、ゾンビものでいうところのポストアポカリプス!
「幻書」というファンタジーと、ポストアポカリプス、2つの世界観はまったく別物に思えるが、筆者がプレイした限り、本作は違和感なく融合させているように感じた。違和感はないが、これまでにないというユニークさは感じる。これは、「不死者」のデザインも影響しているだろう。本作の不死者は、いわゆるゾンビ的な、「生身の腐敗」を感じさせるデザインではなく、操り人形的なデザインとなっている。なので、ファンタジックな「幻書」たちと並んで描いても違和感がない。
また、「幻書」のデザインも新鮮さを感じさせてくれる。最近のRPGは、神話や伝説、歴史上のキャラクターや事件などをオリジナルストーリーに絡める、広い意味での「伝奇」要素を取り入れることが少なくない。なので、たとえば、「不思議の国のアリス」のアリスが登場する作品というのは、本作以外にも存在している。ただ、そうした作品と比べて、人物ではなく本そのものを擬人化している点が、本作の「幻書」造形の特徴だと感じた。
たとえばガストン・ルルー「オペラ座の怪人」の「幻書」の場合、歌手クリスティーヌと怪人が融合したようなデザインをしている。また、「不思議の国のアリス」の「幻書」であるアリスは、ビジュアルこそアリスと白ウサギというオーソドックスなデザインだが、スキルは赤の女王の兵隊を呼び出すというもの。こんな風に、原点となった作品内の登場人物を抜き出して再現するのではなく、原点となった作品そのものの擬人化を試みている点が新鮮に感じた部分だ。
敵をいかに攻撃範囲へ収めるか!?敵味方の位置取りが重要なバトル
ゲームの流れに目を向けると、流れそのものは一般的なスマホ向けRPGを踏襲したものになっている。マップ画面から次のステージを選択。ステージ内では会話パートによってストーリーを描いた後、バトルが発生。バトルに勝利するとステージクリアとなり、次のステージが解放される…という構成だ。
会話パートも一般的なスマホ向けRPGで見られる、キャラクターがバストアップで会話を行っていく…というもの。しかし、本作はビジュアルクオリティが高い。まず、3DCGでありながら2D的に見せたキャラクターがよく動く。さらに、会話パートであってもエフェクトが多用され、ド派手な演出が行われる。なので、会話パートの満足感が高い。
RPGの醍醐味のひとつであるバトルパートは、敵味方の位置取りが重要な、戦略的なものになっている。ベースとなるシステムはターン制コマンド選択型のオーソドックスなもの。味方キャラクターのターンが回ってきたら使用スキルを選択し、敵を攻撃する。
スキルには単独、小範囲、広範囲、超高範囲という形で攻撃範囲が存在。単独は1体の敵のみを攻撃対象とするが、小範囲以上であれば、攻撃範囲となるサークル内の敵すべてを攻撃対象にできる。ただし、基本的に攻撃範囲と反比例して攻撃力が下がるので、攻撃範囲が広げればいいというものではない。しかし、基本的には「いかにして攻撃範囲内に多くの敵を捉えるか?」が重要になってくる。
攻撃範囲内になるべく多くの敵を捉える上で重要になってくるのが、吸着効果を持ったスキルや移動。吸着効果というのは、敵を引き寄せる効果のこと。吸着効果つきのスキルを使うと、メインターゲットの敵に対して周囲の敵が引き寄せられ、密集した状態となる。この結果、攻撃範囲内に多くの敵を捉えられるというわけだ。
また、敵は最も近いキャラクターへ向かって移動する。このため、おとり役のキャラクターを敵近くへ移動させることでも敵を密集させることが可能だ。となるともちろん、おとり役のキャラクターは高い耐久力を持っていた方がいいわけで、立ち回りに応じたキャラクター編成が重要になってくる。
こんな風に、攻撃範囲に向かって敵を誘導することが本作の戦略のメインだ。さらにここへ、バトル毎のギミックが加わり、立ち回りが変化する。たとえば、バトルによっては「炎の床」と呼ばれるダメージゾーンが出現。敵を上手に「炎の床」へ誘導できれば効率的に倒せるが、逆に味方キャラクターが「炎の床」に入ってしまうと、苦戦を強いられるハメになる。
他にも、敵に特定エリアまで移動されると敗北となるディフェンスゲーム的バトルが存在したり、攻撃することで敵を巻き込み爆発するドラム缶といったギミックが登場したりと、多彩な要素が用意されていて、バトルが単調になることを防いでいる。世界観やストーリー抜きでバトルだけ取り出しても、魅力的な作品に仕上がっていると感じた。
スマホRPGの基本を押さえつつ新鮮な要素を盛り込んだ意欲的な作品
書物の擬人化、バストアップのキャラクターによる会話で進行するストーリー、ターン制のコマンド選択型バトルなどなど、いずれも要素としてはスマホRPGの基本を押さえたもので、大きな目新しさを感じない。しかし本作は、それぞれの要素に新しい工夫を盛り込むことで新鮮さを実現している。本作を作成したクリエイターの意欲が感じられる…これが、本作をプレイしての筆者の感想だ。擬人化モノと聞いて、「また?」と感じた人であっても、是非触れてみてほしい。