スクウェア・エニックスからリリースされた「ファイナルファンタジー ピクセルリマスター」シリーズより「ファイナルファンタジーIII」をレビュー。リマスターで生まれ変わったその魅力に迫る。
「ファイナルファンタジー ピクセルリマスター」は、「ファイナルファンタジーI」から「VI」までの6作品をリマスターするというプロジェクト。2021年8月現時点では、「I」から「III」までの3作品が、Steamとスマートフォン向けに配信されている。
「ピクセルリマスター」の対象となっているタイトルは、どれも単独でみれば現在でも遊ぶことは不可能じゃない。しかし、1つのハードでシリーズをまとめてプレイしようと思うとできなかったり、リメイクの開発時期がバラバラで仕様が異なっているため、プレイフィールに統一感がなかったり…といった問題があった。こうした問題に対応しようというのが「ピクセルリマスター」だ。
UIや表現を現代向けにリマスターした「ファイナルファンタジー」
プレイフィールに統一感がないという課題に対応するため、「ピクセルリマスター」のタイトルは、いずれも同じ規格のもとに作られている。「ピクセルリマスター」の名の通り、基本的には、2Dドット絵が基準。たとえば「ファイナルファンタジーIII」や「ファイナルファンタジーIV」のリメイクとして3D版もリリースされているが、「ピクセルリマスター」では3D版ではなくファミコンやスーパーファミコンでリリースされていた2D版…つまり初代がベースとなっている。
また、「ピクセル」リマスターということで、単に2Dというだけでなく、ドット絵ということも重要なコンセプトといえるだろう。解像度の高い2Dによるリマスターではなく、明確にドット絵と分かるリマスターだ。ただし、単なる「ドット絵」ではない。リマスターというだけあって、現在の解像度に合わせたドット絵描き直しが行われているのはもちろんのこと、光と影の表現やエフェクト表現などには、現在の技術がふんだんに盛り込まれており、2021年現在のピクセルアートとしての美しさが表現されている。
ビジュアルだけでなく、BGMもアレンジが施されている。しかも、ただ曲をアレンジするだけでなく、状況によって曲のアレンジを変える…という粋な演出が存在。今回このレビューで触れる「ファイナルファンタジーIII」では、通常の戦闘曲と、ミニマムを使って小人化した状態とではアレンジが異なっている。
ちなみに、今回のリマスターで筆者が最も嬉しかったのは、UIと操作性。家庭用機向けのリマスターではそこまで気にならないのだが、これまでのスマートフォン向けの「ファイナルファンタジー」リマスター作品では、UIと操作性に引っかかる部分…微妙なストレスを感じていた。
ただこれは、リマスターの手法が問題なのではない。そもそも家庭用機向けに作られた作品をスマートフォンに移植している時点で、どうしたってUIと操作性に問題が生じてしまう。なぜなら、最初からスマートフォン向けに作られるゲームというのは、タッチパネルの操作性を考慮した上でマップやゲームバランスを整えるからだ。ただ、マップやゲームバランスに手を加えるとなると、移植の範疇を超えてしまう。なので、これまでのリマスターでは、引っかかりを感じずにいられなかったのだ。
しかし、今回のピクセルリマスターでは、これまで感じていたUIと操作性への微妙なストレスを感じなかった。これまで筆者がストレスを感じていた点は大きく分けて2つ。1つは「戦闘のコマンド選択」で、連続のコマンド選択に指を大きく動かす必要があったり、両手で動かしたりする必要があることをストレスに感じていた。
しかし、今回のリマスターでは画面のどこでも連打すれば手近な敵を通常攻撃できるほか、敵毎にコマンドを選びたい場合でもコマンドボタンの位置が大きく移動しない。このため戦闘が非常に快適。戦闘を倍速再生できるボタンも追加されているが、このボタンを使わずともテンポよく爽快な戦闘を味わえる。
そして、2つめのストレスポイントが「移動」。これは単純に思った通りの場所へ行けないもどかしさが不満だった。しかしこの点も今回は改善されている。まず、ナナメ方向の移動が可能なので、「上方向に移動しようと思っているけど、スワイプの距離が足りずに右方向へ行ってしまう」ということが起こらない。またこれは、スマートフォンのハードウェア的な進化によってタッチパネルの精度が上がっていることもポイントだろう。
「ジョブチェンジ」がテンポよく楽しめるピクセルリマスター版「III」
先に軽く触れた通り、筆者が今回プレイしたのは「ファイナルファンタジーIII」。iOS版でプレイしている。「ファイナルファンタジーIII」といえば、「ジョブチェンジ」が初搭載されたタイトルだ。戦士やシーフ、白魔術士といった職業の概念そのものは「ファイナルファンタジーI」から存在し、黒魔術士が成長するとその上級職である黒魔道士に「クラスチェンジ」するという要素も存在していた。しかし、冒険中、いつでも任意に転職可能な「ジョブチェンジ」が取り入れられたのは「III」が初となる。
そしてこの「ジョブチェンジ」が、ゲーム進行上、高頻度に要求されるという点が「ファイナルファンタジーIII」の特徴だろう。たとえば、序盤でもっとも「ジョブチェンジ」の妙味を味わえるのが、こびとの村~ネプト神殿にかけてのイベントだ。こびとの村やネプト神殿のダンジョンに入るためには、「ミニマム」の魔法によって主人公たちをこびと化させねばならない。しかし、こびと化は文字通り体格が小さくなってしまうので、攻撃力や防御力が大きく減退してしまう。そこで、全員魔道師系にチェンジさせ、後列に配して戦うことになる。
こんな風に各イベントに対して有効な魔法とジョブが存在し、臨機応変にパーティー編成を変えていくというのが「ファイナルファンタジーIII」の楽しさ。編成の自由度はそれほど高くないものの、状況に対して有効な編成を探し出すパズル的な楽しさは今プレイしても色あせていない。
この「ジョブチェンジ」の楽しさを、テンポよくスマートフォンで味わえるというのが今回の「ピクセルリマスター」の魅力だろう。個人的には、「III」は懐かしさ抜きで2021年現在の作品としてプレイしても十分楽しめる作品だと思う。たとえば、インディゲームの一作を手に取るような感覚で本作をプレイしても、物足りなさを覚えることはないだろう。
ストーリー的な特徴は、ちょっとした冒険心から、世界を巡る戦いに巻き込まれていく…という少年マンガ的な冒険ファンタジーの王道が味わえること。物語り中にはもちろん、悲劇的な要素も描かれているが、本作は「ファイナルファンタジー」シリーズの中でも、正統派の成長ストーリーが比較的明るめに描かれている。なので、ファンタジーファンであれば誰でも親しめるだろう。
ちなみに先に書いた通り、ピクセルリマスター版「III」は、ファミコン版「III」がベース。なので、3Dリメイク版「III」に存在していた主人公4人…ルーネス、アルクゥ、レフィア、イングズのキャラクター設定は用意されていない。ストーリー冒頭、祭壇の洞窟を探索するのもルーネス1人ではなく、主人公4人揃った状態。そして主人公に個性はなく、プレイヤーが自由に名前を付け、その背景を自由に想定できる形となっている。
あのころの思い出に浸る!ファンならではの楽しみ
既に「ファイナルファンタジーIII」をプレイしたことがあるという人にとっては、本作は単にRPG的な面白さを味わうものではなく、懐かしさを味わうグッズとしても機能するだろう。筆者もそんな一人だ。
筆者がはじめて「ファイナルファンタジーIII」をプレイしたのはFC版。当時中学生で、放課後になるや否や電車に乗って東京の代々木へと向かったのを覚えている。
なぜ代々木なのかというと、当時スクウェア(現スクウェア・エニックス)が代々木駅前で「FF SHOP(エフエフショップ)」という「ファイナルファンタジー」関連グッズ専門店を運営しており、「III」をそのお店で買いたいと思ったから。筆者は当時住んでいた場所から代々木までは電車で1時間半くらい。地元の店で買った方がすぐにプレイできるし、交通費もかからないのだが、わざわざ代々木まで出かけて買った。なんとなく、「FF SHOP」で買うことに価値があるように感じたのだ。
それほど、当時から「ファイナルファンタジー」のことが好きだった。「III」をプレイすると、そんなことを思い出す。恐らく、「III」プレイヤーそれぞれにこうした思い出があることだろう。
既存プレイヤーにとっては、こうした思い出を塗り替えるのではなく、「浸らせてくれる」のが「ピクセルリマスター」の魅力ではないかと思う。最新技術を使って現代的なゲームシステムへリメイクするのと違い、「ピクセルリマスター」はあくまでドット絵。なので、「あの思い出のシーンが、こう変わった!」という驚きは少ない。けどその代わり、プレイを通じて過去の自分とシンクロしていくような感覚が強く味わえる。前述の通り、ドット絵と言っても現代的な技法によって美しくリマスターされているのだが、それでも不思議なことに、昔遊んだファミコン版とまったく変わらないように感じられ、あのころの自分の気持ちに近い感覚に陥るのだ。恐らくこれは、「昔遊んだゲームのオリジナル版を今プレイすると、古臭く感じる」ことの逆なのだろう。ゲーム内容は思い出によって美化されているため、同じ内容を今プレイし直すと、古臭く感じてしまう。しかし「ピクセルリマスター」はリマスターの塩梅が絶妙なので、美化された思い出と上手にバランスが取れているのではないだろうか。
今回ピクセルリマスター版「III」をプレイしてみて、筆者はその内容にとても満足している。「I」も「II」も欲しいし、今後リリース予定の「IV」~「VI」も楽しみでならない。となると、一点残念なのが、スマートフォン版はお得なバンドル(まとめ買い)メニューが用意されていないことだろう。この点はスマートフォンのストアの仕様によるもののようだが、ファンとしては残念だ。ストア側には是非まとめ買いの機能を用意してほしい。
ちなみに、筆者的にはこの「ピクセルリマスター」の仕様に基づいた「ファイナルファンタジー」最新作を遊びたいとも思ってしまった。つまり、3Dの方向ではなく、2Dのまま進化した「ファイナルファンタジー」シリーズ最新作。これが実現されたら筆者はフルプライスでも確実に買う。夢のような話だが、そんな夢を見てしまうくらい、「ピクセルリマスター」に満足している。
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