NetEase Gamesからリリースされた「エゴエフェクト:フラクタス」をレビュー。北島行徳氏を筆頭に、豪華制作陣によって作られたスマートフォン向けRPG。その魅力を詳しく紹介する。
「エゴエフェクト:フラクタス」は、NetEase Gamesからリリースされたスマートフォン向けRPG。本作はシナリオを「428 ~封鎖された渋谷で~」の北島行徳氏が担当。また、背景美術を担当するのはスタジオジブリの名作に携わったDehoGallery。そして作曲担当は川井憲次氏と、非常に豪華な制作スタッフによって作られている。このため、リリース前から期待していたという人も多いのではないだろうか。本記事では、そんな本作の魅力を紹介する。
人々の運命がもつれあう!他では味わえない群像劇ストーリー
本作において、制作スタッフの影響を最も強く感じさせる部分がストーリーだろう。本作の舞台は、仮想世界「パラディ」。「パラディ」は、ワールドブレイン社という企業の持つ人工知能“SOUL”がシミュレートした「100年後の未来」を再現したものとなっている。
100年後、人類はさらなる発展を遂げている…のかというと、まったくそんなことはない。文明の崩壊したポスト・アポカリプス的状況になっている。なぜ文明が崩壊してしまったのか、非常に気になる点ではあるが、それ以上に差し迫った問題が「パラディ」ではデスゲームが繰り広げられているという点。
デスゲームを行っているのは、ジョン・ドゥという正体不明の人物。「パラディ」にログインしたプレイヤー達は皆ログアウトできない状態になっており、ログアウトするためには、デスゲームに参加せざるを得ない状況だ。
デスゲームの内容は、全プレイヤー共通ではなく、グループごとに異なっている。たとえば、主人公の一人である刑事・ヤンがアイドルのソヨン、占い師・メイとともに巻き込まれるデスゲームは、「影踏み」。これは遊びの「影踏み」と同様、鬼役の人物の影を踏むことがクリア条件。もちろん、鬼に影を踏まれたら負けとなる。
一方、2人目の主人公であるアナウンサー・サラは、映画監督のロバート、私立探偵のアーサーとともに「闘牛」に巻き込まれる。これは襲ってくる牛役を赤い布で引き付け、貫くことがクリア条件。「影踏み」とはまったく異なるルールだが、デスゲームだけあって、いずれもゲームに失敗すると元の世界に戻れないことが示唆されてる。
ここまでを読んで、「仮想世界」と「デスゲーム」という要素が本作の特徴と思わせてしまったかもしれない。しかし本作のシナリオが特徴的なのはこの先だ。本作は複数の主人公の物語を並行して描く群像劇ストーリーを採用。その上で、各登場人物の行動を決める選択肢が、別の登場人物のストーリーにも影響を与えるようになっている。
たとえば、主人公Aの選択肢として「赤信号でも横断歩道を渡る」「信号が青になるまで待つ」というものがあったとしよう。ここで、「赤信号でも横断歩道を渡る」を選んだとする。すると、選択の結果、交差点で事故が発生し、大渋滞が起きてしまう。この結果は主人公A自身にはさほど大きな影響を与えないが、別の主人公…たとえば主人公Bには大きく影響する。たとえば、渋滞が原因で誘拐犯から指定された場所に到着できず、人質が殺されてしまう…などといった形で。ここに書いたのはゲーム内に出てくる選択肢ではないが、登場するのはこんな風に、「ある人物の選択肢が別の人物に影響を与えている」というシチュエーションが本作の特徴だ。
各登場人物の選択肢が、その選択を行った本人のみならず、別の登場人物にも影響をもたらす…。この形式は、北島行徳氏が担当したノベルゲーム「428 ~封鎖された渋谷で~」で見られたもの。シナリオ構造があまりに複雑になるためか、同様のシナリオ形式を持つ作品はノベルゲームでも多くない。ましてやスマートフォン向けRPGとなると、ほとんど見ない。文字通り、他では味わえないシナリオとなっている。
他では味わえないのはいいとして、では、おもしろいのかというと、もちろん、おもしろい。そもそも、「各主人公の選択肢が影響を与え合う群像ストーリー」という形式の時点で、おもしろさを持っている。どうしようもなく絡み合い、もつれあった人間の運命を解きほぐしていく感覚が、気持ちイイのだ。その上で本作は、デスゲームの持つ緊迫感が追加されている。また、仮想世界が舞台になっていることで、仮想世界内の人物が現実の誰なのか、どんな人物なのか即座に信用できるわけではない。このため、「真相はどうなっているんだ?」という興味がかき立てられ、どうしても続きが気になってしまう。ミステリー好きなら味わったことがあるだろう、「この事件の真相を知るまで寝られない」という、あの感覚だ。
弱点をついてブレイク!スキル選択と編成がモノをいう戦略的バトル
ここまでストーリーを中心に紹介してきたが、本作はRPGなので、もちろんバトルも用意されている。本作のバトルはストーリーとは別に独立した形で用意されており、バトルパートでシナリオが語られることはない。
ストーリー要素がないだけで、バトルパートの構成は、一般的なスマホRPGの形に近い。ステージを選んでバトルに挑戦、敵をすべて倒すとクリアとなり、次のステージがアンロックされる。
バトルは、弱点をつくための属性攻撃と、FPによるスキル強化という2つの要素を柱とした戦略的な内容。味方キャラクターのスキルと敵、ぞれぞれに属性が設定されており、敵の弱点属性となるスキルで攻撃すると、敵の弱点バリアを減らすことができる。弱点バリアの数値が0になると敵はブレイク状態となり、1ターン行動不能になる上防御力が激減。プレイヤー側のチャンスとなる。
チャンスを最大限活かすための要素がFP。FPは1ターンに1ずつ貯まっていくポイントで、消費することでスキルを強化できる。また、FPを3消費することで強力な必殺技が使用可能。なので、敵の弱点属性で攻撃→敵をブレイク→FPを使って必殺技で大ダメージというのが基本的な立ち回りとなる。
このバトルシステムでモノを言うのが、スキル選択とパーティ編成だ。スキル選択においては、敵の弱点を突けることが最優先される。しかし、ただ弱点を突ければいいというものじゃない。たとえば、弱点バリアの数値が大きい敵を相手にする場合、複数回攻撃可能なスキルが有効。一方、複数の敵が同じ弱点を持っている場合、全体攻撃可能なスキルで一気に全体の弱点バリアを減らすことができる。
さらに、有効な補助スキルを適切に使うことも重要。たとえば、敵の防御力をダウンさせるデバフ系スキルを使った上で敵をブレイク状態に追い込めば、圧倒的なダメージを与えることができるし、味方キャラクターにFPを与えるバフ系スキルを使っておけば、より少ないターン数で必殺技を繰り出し、敵を全滅させることができる。
つまり、本作はキャラクターの能力と同等か、それ以上にスキルの内容が重要。だからこそパーティー編成も重要なのだ。レア度やレベルだけじゃなく、どんなスキルを持っているのか、誰のスキルと連携させるのかといった戦略に基づいて編成するのは、トレーディングカードゲームのデッキ編成のようで、非常におもしろい。
抜きんでたストーリーの楽しさ!しかし惜しさを感じる部分も
ストーリーの紹介で触れた通り、本作のストーリーパートの楽しさは群を抜いている。他のスマートフォン向けRPGではなかなか味わえない楽しさであることは間違いない。ただ、だからこそ、惜しいと感じた部分もあった。それは、ストーリーパートとバトルパートの繋ぎ込みの部分だ。
本作はストーリーパートとバトルパートはそれぞれ独立していると書いたが、まったく切り離されているわけではない。ストーリーパートをある程度読み進めると「システムロック」状態となってそれ以上読むことができなくなる。さらに読み進めるためには、バトルパートで指定されたステージをクリアしなければならない。つまり、ストーリーがおもしろくて夢中になっている途中で中断され、バトルをクリアしなければならなくなるわけだ。
もちろん、本作のみならずたいていのRPGのバトルが、ストーリーの途中で挿入される。しかし、ストーリーパートとバトルパートがシンクロしているため、気にならない。たとえば、ストーリーパートでライバルキャラクターが登場し、そのままそのライバルとの戦闘になった場合、ストーリーが中断したとは感じないだろう。むしろ、ストーリーの盛り上がりと同じレベルの感情移入がバトルに対して行われるはずだ。だが本作の場合、ストーリーパートとバトルパートは「システムロック」の解除以外シンクロしていない。なので、ストーリーが盛り上がっていればいるほど、どうしてもバトルが作業のように感じられてしまう。バトルシステムも楽しい作品なだけに、これはちょっともったいないと感じてしまった。
ではストーリーパートにバトルパートを組み込めばいいかというと、そうではない。もし組み込んだ場合、「複数の登場人物の選択肢を選び直しストーリーの流れを正しいものにしていく」という本作の良さが、ぼやけたものになってしまうだろう。恐らく制作陣も、だからこそストーリーパートとバトルパートを分離させたのだと思う。なので、なんとも歯がゆさを感じてしまった。
最後に書いた勿体ない点はあるものの、群像劇ストーリーと戦略性、いずれも高い仕上がりになっている。その上、とりわけストーリーパートが秀逸。北島行徳氏や制作陣のファンはもちろん、ゲームのストーリー性に魅力を感じる人は、一度プレイする価値のある作品だと思う。