アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第30回は2021年7月から12月にかけて放送されたTVアニメ「白い砂のアクアトープ」を取り上げます。

ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。
今回は、お仕事アニメを多数手がけたきたP.A.WORKSの最新作となるTVアニメ「白い砂のアクアトープ」を取り上げます。監督を務めるのは「凪のあすから」「色づく世界の明日から」などで知られる篠原俊哉氏です。
こんなゲームファンにオススメ!
- 「メガクアリウム」などの水族館経営シミュレーションゲーム
- 「FLOWERS」「夢現Re:Master」など女性同士の関係性を描くゲーム
第30回「白い砂のアクアトープ」
「学ぶ」ということは、そのための体験を受け入れるところから始まざるを得ない。それは「学び」は、人間の認識を変化させるからだ。その変化後の自分というものを、学ぶ前の自分はなかなか想像することができない。だから、人はその体験に身を投じる以外に学ぶことは難しいのである。
もちろん世の中には、これを利用して搾取を企む人間もいる。それを慎重に避けつつも、学ぶためには「一度やってみる」ことがどうしても必要なのである。そしてこうした学びに挑まなくてはならない機会は、学生の時よりも、社会人になってからのほうが多い。
“お仕事アニメ”は各種あるが「白い砂のアクアトープ」は、社会人が直面する「身を投じることでしか学べない」という局面を描いた珍しい作品だった。
物語の舞台は沖縄。祖父が館長を務める小さな「がまがま水族館」の館長代理を務める高校生・海咲野くくると、元アイドルで沖縄にやってきた宮沢風花が、物語の中心人物だ。第1クールは、閉館間近なこのがまがま水族館を舞台に、閉館を避けようと奮戦するくくるの行動が中心に描かれる。
がまがま水族館は、とても家庭的な雰囲気で優しい場所だ。だが最終的に閉館は避けられない。そしてがまがま水族館が閉館したことで本作のテーマが明確に浮かびあがることになる。
がまがま水族館は、まだ高校生のくくるにとっては「ゆりかご」であり、元アイドルとして疲れてしまった風花にとっては「雨宿り」の場所だったのだ。それは2人にとって必要な時間であったことは間違いない。だが「ゆりかごの中」にずっといるわけにはいかないし、「雨宿り」もずっと続けるわけにはいかない。こうして2人は、がまがま水族館を“卒業”し、改めて「アクアリウム・ティンガーラ」で働くことになる。
ここで2人は、ようやく「働く」ということと正面から向かい合うことになる。くくるはまさかの営業担当に命じられ、慣れない仕事に悩むことになる。風花はペンギンの飼育係として水族館の仕事と主体的に関わらざるを得なくなる。2人は、新しい仕事に身を投じるしかなくなるのだ。そして2人は変わっていく。
仕事によって磨かれる“適性”というものがある。これはしかし仕事に身を投じるという「学び」を経てしか磨かれない。でもそれが自分の人生を開く武器になる。そんなふうに働くことの意味を、地に足がついた描写を重ねて描いたのが「白い砂のアクアトープ」だった。
「白い砂のアクアトープ」公式サイト
https://aquatope-anime.com/
藤津亮太(ふじつ・りょうた)
アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。