スクウェア・エニックスから2022年3月18日に発売された「STRANGER OF PARADISE FINAL FANTASY ORIGIN」(以下、「FFオリジン」)について、楽曲制作に携わっているスクウェア・エニックスの水田直志氏、岩﨑英則氏、山﨑良氏、3名へのインタビューの模様をお届けする。

「FFオリジン」は、「ダークな世界観+高難易度アクション」というコンセプトで、「FFI」の悪役・ガーランドに焦点を当てた作品だ。

Gamerでは、これまでにも本作の開発に携わっているスクウェア・エニックスの藤原仁氏(プロデューサー)、井上大輔氏(ディレクター)、コーエーテクモゲームス Team NINJAブランド長の安田文彦氏(プロデューサー)らへのインタビューなどを数回に渡って行ってきたが、今回はコンポーザーの水田直志氏、岩﨑英則氏、山﨑良氏の3名に「FFオリジン」の楽曲インタビューを行った。

本作をプレイした人からも非常に評価の高い楽曲の制作秘話について迫っているので、「FFオリジン」を既にプレイした人はもちろんのこと、まだプレイをしていない人にも、楽曲に凝らされている工夫などから、ぜひ改めて本作に興味を持ってもらいたい。

水田直志氏 岩﨑英則氏 山﨑良氏

なお、クリア後プレイレビューも掲載しているので、こちらもあわせて読んでもらえれば幸いだ。

「FFオリジン」の楽曲イメージは「男臭くて荒々しい」

――まず「FFオリジン」の楽曲のコンセプトみたいなものがあれば教えてください。

水田氏:曲想としては、最初に野村(野村哲也氏)が「男臭くて荒々しいような感じにしてほしい」と言っていたので、それを本作の作曲の基本にしました。

――男臭い(笑)。水田さんの普段の楽曲のイメージとは、ちょっと違う感じですよね。

水田氏:「かっこいい」とか「洗練されている」とかとは違って、もっと骨太な感じにしてほしいのかな、というのは最初の打ち合わせで感じたので、僕が作る場合のコンセプトにはなっていますね。

――「FFオリジン」ならではの楽曲作りということで、特に意識した点はありますか?

水田氏:ステージの探索をしている時に、ひとつのエリアで曲は3段階に分かれているのが大半なのですが、最初の曲があって、そこから2回切り替わることで全部で3曲になるんですよ。ステージの奥に入っていくにつれて、聞こえてくる音楽が変わってくるので、すごく長いものにするよりは、自然に奥深くに入っていくような感じを目指しました。同じ曲をステージ中ずっとループさせるよりは、そのほうがユーザーさんの没入感を出せるのではないかと思いました。

――従来の「FF」は音楽が派手な感じのタイトルが多く感じますが、「FFオリジン」は全体的に抑えめだけれどなんとなく耳に残るというような、ちょっと今までの「FF」とは違った雰囲気を感じました。

岩﨑氏:僕の場合は、ダンジョンの奥に行けば行くほどちょっと緊張感が強まっていくみたいな演出がしたいと思っていまして、最初から音楽があまり主張しちゃうと、ユーザーさんがその世界に浸りにくいのでは、ということから、最初は空気みたいなくらいの曲が鳴っているんだけれど、だんだん「あれ、よく聞いたらこれ「FF」のあの音楽じゃない?」と感じるくらいの音楽でやろうかな、というのはありました。ちなみにこれはコンポーザー3名で特に話し合ったわけでもないのですが、なんとなく自然とそんな感じになったような気がします。

山﨑氏:僕は体験版の配信前からもうゲームをプレイしていて、「FFオリジン」のゲームのデザイン自体が、ダンジョンをどんどん奥に潜っていったその先がピークにあたるじゃないですか。「ここが一番盛り上がるところなんだ」いう場所がダンジョンの最後だと決まっているので、道中はあまり盛り上げすぎず、みたいなそういう温度感がありましたよね。あと、曲調はポップなものよりは雰囲気と、特に没入感を重視しようみたいな。ダンジョンは音楽をうっすらと聴いて、最後のバトルで盛り上げようっていう感じで。

――今、岩﨑さんが「特に3名で話し合ったわけでもなかった」というお話をされましたけれど、皆さん、序盤抑えめで後半から徐々に盛り上げ、バトルで最高潮、というような流れが自然とできていったのですか?

水田氏:最初の体験版(※2021年6月配信)に向けて、まず僕が最初から曲を作り始めていたので、その体験版のさらにテスト版のようなものに、僕が思う「FFオリジン」の楽曲の方向性を示したデモ曲が入りました。その状態のものをみんなで部屋に集まってプレイして、その時に「こんな感じで行こうと思います」というのを3人で話して、そこで大まかな道筋というか、全体のイメージがある程度共有できたかなと思います。それ以降は曲の内容について、最初に共有したイメージを元にみんなで作ったという感じですね。

岩﨑氏:僕と山﨑は最初は他の仕事をしていたので、「FFオリジン」への合流が遅れたのですが、まず水田が野村と井上(井上大輔氏)と楽曲についてやり取りをしていて、デモを作ってチェックしてもらって……というやり取りを行っていました。

水田がどういうデモを作って、それに対して井上たちがどういう返事をしたかというやりとりは共有されていたので、僕たちは「なるほど、こっち系にいくとNGなんだな」というのを、山﨑と眺めていました。一番大変なところは、水田が最初にとても細かく確認していて……。

山﨑氏:着地点を決めるまでが、すごい大変だっただろうな、と。

水田氏:(笑)

岩﨑氏:プロジェクトの最初は、プロデューサーやディレクターが納得するまでが大変だと思うのですが、僕はOKが出ているのを見てからやらせていただけたので、山﨑と僕は後出しじゃんけんみたいになっちゃって(笑)。多分そこでのエネルギーの消耗も、水田はすごい大変だったと思うんですよね……。僕は自然と「多分こういうのを求められてるな」というのが解っていて曲を作れたので、楽だったとまでは言いませんけれど水田の苦労には及ばないなと。

水田氏:最初は没というか、「もうちょっとこうしてほしい」みたいなのが野村や井上からあったのでかなり試行錯誤しました。

――ひゃあ、水田さんをもってしてもそこまで苦労されたのですね……。私は水田さんの曲が大好きなので、その没になったほうの曲も聞いてみたかったですね。それこそファンの目線でどっちがよかったかとか勝手に論評したいような感じですけれど。あっ、もちろん「FFオリジン」の音楽は最高でしたという大前提があってですよ!

水田氏:完全に没になったのは、最初の「Jack's Theme」で……野村に聞いてもらった時はもう全然ダメっていう感じで、5……6……、いや、7回は出したかもしれないですね。まあ、その時はまだプロジェクトが始まったばっかりな上にテーマ曲ですし、野村が企画を発案してきたタイトルなので、野村が求めているものになるまで、何度でもがっつりやったというのもあるのですが。

――なるほど、確かに野村さんがまず納得しないと始まりませんよね……。ではそれ以降は少しずつリテイクは減っていったのでしょうか。

水田氏:そうですね。ゲームのパートになってからは僕もある程度形が見えてきてはいたのですが、僕としては良くできたなと思って持っていったら、もうちょっとオーケストラっぽい感じにしてほしいとか、曲自体が完全にダメというよりはサウンドの方向性をこうしてほしいというのはたくさんありましたね。

よくあることですが、「そこを変えるんだったら、もう曲自体を変えるのと一緒なんだけど」というようなサウンド特有の事情と、発注側の温度感の違いは今回もありました(笑)。例えば……色で表現すると「赤くなっているところを黄色にして」みたいなイメージで要望を出してくると思うのですが、音楽の場合だと、その赤いところを元に他のところを組み立ててきているから、赤いところを変えるためには結局全部変えることになってしまうんです。

――それは確かに、実際に音楽を作る方じゃないと解らないお話かもしれないです。私も自分が作曲するわけじゃないので、それくらい安直に考えていました。

水田氏:専門外のことってそういう感じですよね(笑)。そういうところでちょっと難しかったところも、いくつかはありましたよ。具体的に言うと、カオス神殿でネオンが入っている「カオスとなる者」も、最初はもうちょっとロック……とまではいかなくてもシンセっぽい感じにしたのですが、「はい、OK」という感じにはならなくて。最初だったし、方向性でお互いに右往左往したりしていましたね。

コンポーザー3名の共通点といえば「FFXI」……のはずが?

――ちなみに久しぶりに「FFXI」の楽曲メンバーが勢揃いしましたが、「FFオリジン」の音楽が果たす役割的に「FFXI」と同じように感じたところや、「FFXI」とは違うと感じたところはありましたか?

水田氏:ゲームの後ろで流れてる曲という意味では、基本的には考えなければいけないことは同じですが……ずっと聞いていても鬱陶しくならないようにとか、妙に主張しすぎて浮いた感じにならないようにとか、そういうところは「FFオリジン」とか「FFXI」とかに限らず一緒じゃないかなと思います。

でも、どういう雰囲気のゲームにしたいかというのがタイトルごとに全然違うので、根本的なところは一緒だけどその上に乗ってくる手触りとか、聞き触りとか、ゲーム全体の雰囲気をどうしたら届けられるかというところがタイトルごとに違いますね。

岩﨑氏:「FFXI」は、フィールドを歩いてる時はフィールドの曲が鳴って、バトルになったらバトル曲が鳴るという、そういう場所が多いと思いますし、逆に常にバトルが待ち構えているような対戦系のゲームだとフィールドを歩いている間もバトルっぽい高揚感のある曲になりますよね。「FFオリジン」は、エリアを歩いている時は「FFXI」と近い感じのおとなしめな楽曲で、バトルになったら一気にバトル曲に切り替わるっていう緩急を付ける演出は、「FFXI」と共通する部分ではありましたね。

一方で「FFXI」は色々なワールドを旅するので、「じゃあここはちょっとエスニックな感じにしよう」とか楽曲のジャンルの振れ幅が大きかったのですが、「FFオリジン」に関してはコンセプトがコンセプトなので、あんまり無計画に色んなジャンルの音楽をやると世界が壊れちゃうんですよ。「ダークで、重い」みたいな「FFオリジン」の楽曲のベースがあった上で作らなきゃいけない、というところが違うところかもしれないですね。

――先程水田さんがおっしゃっていた、「骨太な感じ」ですね。

岩﨑氏:そうそう。具体的なサウンドで言うと、重心が低い音楽だったりとか、あんまりきらびやかじゃない感じかな、なんて思いながらやっていました。

山﨑氏:僕はたまたまこの3名でしたけれど、そこまで「FFXI」は意識していなかったですね。ただ「FFXI」も「FFオリジン」も、必然的に水田が担当した曲数が多いので、全体的に水田節というか、それはありますよね。

ちなみに僕の場合、「FFXI」はマニュピレーターとして参加していたので、今回コンポーザーで参加させてもらって、それが新鮮でした。この3名の共通項は確かに「FFXI」で長い付き合いではあるのですが、割とフレッシュな感じでやらせてもらいました。

岩﨑氏:「FFXI」のメンバーだっていうこと、割と忘れてましたよね(笑)。

水田氏:そうそう、指摘されて、「そういえば」って思い出したレベルです。

山﨑氏:僕ももうマニュピレーターを離れて長いから、すっかり記憶から抜けていました。

――私はコンポーザーで皆さんのお名前を拝見した時に、「『FFXI』のメンツ大集合じゃないですかー!」と喜んでいたんですが、意外と皆さんするっとスルーされているんだなということがわかりました(笑)。

アレンジではなくモチーフとした理由

――基本的に「FFオリジン」の楽曲は過去BGMのアレンジというより、モチーフとなった楽曲の印象的なフレーズを少し混ぜ込んでいるというような感じの楽曲でしたけれど、アレンジではなくこのようにうっすらと使おうと思ったのはどうしてでしょうか。

水田氏:これはもう最初から、アレンジ曲ではなくて、オリジナル曲の中に気付く人は気付く程度にうっすらと原曲のモチーフが入っている感じにしたいというのが、井上のオーダーとして明確にありました。ただ、最初にデモを出した時に「入れるとしたらこれぐらいですかね?」というのは聞いてもらって、曲ごとに「もうちょっと原曲のフレーズがあったほうがいい」とか、逆に「これだとどこにモチーフがあるか全然わからない」というのはありました。

岩﨑氏:うん、ありましたね!

山﨑氏:「これだとそのまんま過ぎる」っていうのは結構ありましたよね(笑)。

――そのまんま過ぎるのは駄目だったんですか?

水田氏:「FFオリジン」のステージ自体も、ほとんどそっくりのところもあるのですが、ゲーム全体の作りとして「どこかの誰かが模造した」というコンセプトだったので、音楽もそこを重視したという感じでした。

山﨑氏:とは言っても、実際やってみて割とケースバイケースなのかな、とは思いましたけどね。元々の曲調がダンジョンっぽいところは結構そのままの雰囲気の延長ではあるのですが、バトル曲だったりとかは難しいですし。

岩﨑氏:メロディーがある曲なんかは難しかったですよね。僕はそれでいうと「FFVII」の魔晄炉の曲をアレンジしたのですが、あの「ちゃーらーらーらー」っていう魔晄炉のワンフレーズが鳴っただけで「原曲まんまですよね」って言われちゃって。むしろ原曲で入れたのは、そのフレーズだけだったんですけど……(笑)。

それで「そうか、メロディが強い曲はそれが入るだけで駄目なんだ」と思って、今度は「ちゃーらーらーらー」っていう音だけを抜いたんですよ。そうしたら「全く気にならなくなりました」って言われたので、「さじ加減むず!」って思いました。

――「ちゃーらーらーらー」だけでそんなに変わるんですね、むずっ(笑)。

岩﨑氏:山﨑が今言ったみたいに、もともと原曲がダンジョンのような雰囲気の曲は多分オリジナルに近くても井上的に気にならなくて、「あの曲というとこのメロディだよね」というのが鳴ってしまうとダメだったのかな、と思っていますが、そのさじ加減は曲によって結構違う感じでしたね。

――でも、「古代人の塔」……「FFXI」のデルクフの塔で流れている「Tough Battle #2」はかなり原曲に近かったですよね?

山﨑氏:あそこだけはちょっと特殊なんですよ。というのも、他のエリアは3段階なのに、ここは「Tough Battle #2」だけで残り2段階が無音という仕様。今回ダンジョンを作っているメンバーも、かなり「FFXI」をやり込んでいて、ここはストレートに「Tough Battle #2」でいって「キター!」みたいな雰囲気にしたいという圧を感じました(笑)。井上と話しても、ここに関しては1曲で直球でいこうということになりました。

――ちなみに「Tough Battle #2」は水田さんが作られた曲ですけれど、ご自身でアレンジしようという発想はなかったのですか?

水田氏:発注リストに「Tough Battle #2」があったのですが、違う人のテイストが入ったほうが面白いんじゃないかと思い、あえて自分以外の担当にしてもらったという感じです。

――私は作曲しないのでよくわからないのですが、よくイラストレーターさんが線画だけ描いて他の人に塗ってもらうみたいなことをされていますが、あれに近いような感覚ですかね……。

水田氏:そうですね。僕が僕の曲をやっても僕の曲にしかならないですが、他の人にやってもらった方が、全然違うものになって面白いと思いました。

山﨑氏:「Tough Battle #2」は一応再構築を試みたのですが、水田の曲は音色も込みですごく緻密に作られているので、部分的に抜き出そうとしても、綿密に積み上げられているので……下手にいじるとガシャーンと大事故を起こして崩れちゃいそうな感じでした。なので楽曲のコアを崩さないようにやった結果、原曲の延長線上が一番いいんじゃないかな、と思ったんですよね。これは結果論ではありますが、演出的にもストレートにあの曲! と分からせる必要がありました。

――なるほど、それで「Tough Battle #2」だけ、やけに他の曲と毛色が違ったんですね。

20年以上スクエニに在籍しているコンポーザー3名だったからこそ作れた音楽

――先程、曲の発注は井上さんや野村さんからだったというお話がありましたけれど、他に何か印象的だった発注とかエピソードはありますか?

水田氏:変に尖ったものよりは、割と聞き慣れた感じのものが多かったかな、とは思いますね。単純に好みとかそういう問題ではなく、あまり突拍子もないことをやろうとしていた感じではないような雰囲気に感じました。憧憬というか、どこかで聞いたことのあるようなものに落とし込みたかったのかなと。

――憧憬……わかる……水田さんの音楽を大きなひとことで表すなら「憧憬」とか「郷愁」ですからね……。

水田氏:そうですかね、ありがとうございます。僕はもうちょっと攻めた感じのことをやってみたくはあったのですが(笑)。

――私は何せ長い「FFXI」プレイヤーなので、水田さんの楽曲は生活音という感じですけれども、確かに攻めに回った水田さんの楽曲も聞きたかったですね。水田さんが攻めに回ると「FFXIII-2」や「LIGHTNING RETURNS FFXIII」みたいな、これまたすごいのが出てきますから……!

岩﨑氏:発注リストを見ると、アレンジに関してはかなり具体的に、どのナンバリングのあの曲をやってほしい、みたいなことが事細かく書いてあったので、野村や井上らは相当しっかりしたビジョンを持っているんだなというのが、そのリストから伝わってきて、僕も水田と同じように捉えました。

……とは言っても、僕は水田がたくさん曲を書いた後に合流したので、「これだけいい曲が揃っているから、僕が一曲ぐらい遊んでもいいかな」ぐらいの感じで、変化球みたいなバトル曲とかを入れさせてもらったりもしましたね。多分最初にそれをやるとNGだったかもしれませんが、曲が揃ってきていたのでそういった攻めのチャレンジができてしまいました(笑)。

山﨑氏:最初の体験版の時くらいに水田と話したのですが、「別に3人でそろえなくてもいいんじゃない」っていう感じで……変にコンセプトを決めてもどうせバラけてくるだろうし、それよりもそれぞれがかっこいいと思うものをやろうという感じで、ノーコンセプトくらいでスタートしましたよね。

岩﨑氏:とは言っても、このメンツはみんなスクエニに20年以上いるじゃないですか。だから無意識に持っているコンセンサスみたいなものはあると思います。それぞれが好き勝手やるっていうと、とんでもないことになるんじゃないかと思われそうですが、「スクエニ」で「FF」だし、「FFオリジン」はこういう世界観だし、ってなった時に弾き出す、無意識の共通項みたいなのがあって、それを踏まえた上でみんな好きに暴れるみたいな……そういう感じで“好きに作ってきた”というのはありますよね。

全然知らないコンポーザーが3人集まって好き勝手にやろうよというのとは違いますし、今回の「FFオリジン」の楽曲で3人とも自然と似ている部分があるとしたら、多分それは我々が20年以上スクエニで音楽を作り続けてきたからこそ持っている何かかもしれないです。

――ちなみに「実は発注にはなかったんだけれど勝手に独断で作ってみたら想定外にはまってしまった曲」みたいなものはありますか?

水田氏:大した曲ではないですけど、例えばノーマルバトルは「Battle: The Warrior」が元々最初にあって、ゲームが始まって一番最初にバトルする時の曲にも「Battle: The Warrior」が使われていました。でも、なんかおどろおどろしい感じの城に入っていきなり勇ましい感じのバトル曲が流れるのがちょっと変だなと思ったので、最初のバトルだけは「何かやばいところに来たな」みたいな曲にしようと思って、「Battle: The Warrior in the Darkness」を作ったりだとか……。

イベントとかで敵に襲われたりする時の曲が発注にはなかったのですが、大体こういうのが必要になる、というのが経験則でわかっていたので、一応「Onslaught」を作っておいて提出したら、案の定色々なところで使われることになったりだとか。

――あー、確かに一番最初のバトル曲だけ違うなって思っていたんですけれど、あれは水田さんが独自に作ってそのまま採用されたんですね。

水田氏:はい。体験版を最初にプレイするときは、自分もひとりのプレイヤーの気持ちで、何も知らない体でフレッシュな気持ちでプレイして、曲も聞こうとしているのですが、その時に自分なりに「あれ?」と思ったので、やっぱりその気持ちは大事にした方がいいかなと思いました。曲を増やすのは手間ではあるのですが、やっぱりあった方が良かったですよね。

――良かったです! 最初の体験版の時は、条件でバトル曲が変わるのかなと思っていたのを思い出しました。でも何周もやっていくと、最初だけ違うんだな、と。「Battle: The Warrior in the Darkness」から、「FFオリジン」のイメージとかもすごく伝わってきましたし。ちなみに通常バトル曲の「Battle: The Warrior」は、おそらく今回の作品の中でも最も多く聞くことになる曲だと思うんですけれども、それを意識して工夫したところとか心掛けたところはありますか?

水田氏:おっしゃる通りいちばん回数を重ねて聞く曲なので、単調にならないように展開がどんどんあるのがまず大前提ですね。そんなに長い曲でなくともずっと聞いていられる、というのが、個人的に考えるバトル曲の基本です。あと、バトル曲ってゲームの顔になる……とまでは言わないですけれど、やっぱり何度も聞く曲なので、そんなに難解なものじゃなく、それでいて耳に残るフレーズがあるといいなと……その3つの要素を大事にしています。

――耳に残る場所ってプレイヤーの皆さんによって違いそうですけど、それがまた良いのでしょうね。私は「Battle: The Warrior」の一番最後のほうで流れるフレーズが「ああ、これは水田さんのビブラートだな~」という感じがして耳に残っているんですよね。

様々なモチーフ曲のより詳細なエピソードに迫る!

――セーラ姫のテーマ「Sarah's Theme」はハープが使われていますけれど、「Sarah's Lute - Motif from "Opening Theme"」などは「FFI」でセーラ姫からリュートをもらうシーンの流れを経て作られたんでしょうか?

水田氏:「Sarah's Lute - Motif from "Opening Theme"」は、企画の時から発注リストにもリュートを演奏するということが書いてあったので、ああいった曲は基本を押さえてというか……必要な要素を入れる感じで作りました。

――やはりリュートの演奏自体は、重要なイベントとして最初から決まっていたのですね。

水田氏:リュートだけで弾いている曲は「Sarah's Lute」などもありまして、セーラがお気に入りの曲をつま弾いているようなイメージで作りました。

――今回、「FFI」から「FFXV」まで、実に多くのモチーフマップと、それに伴うモチーフBGMが登場しましたが、特に印象的だった楽曲制作秘話などはありますか?

水田氏:個人的には全部に全力を出したつもりなので、なかなかひとつを選ぶのは難しいですけれども、「FFXV」の下村さんの「Somnus」をピアノでアレンジした「Will You Resist Or Accept? - Motif From "Somnus"」は、個人的にアレンジがうまくいった感じがして、気に入っていますね。でも、全部大事な曲です!

――それはもちろん、そうですよね! 今回、基本的にもモチーフとなるマップが決まっていることでBGMもほぼ必然的に最初からどの曲を使うかも決まっていたと思いますが、難しかった曲などはありますか?

水田氏:発注リスト上に、このマップでこの曲を使いたいという指定が最初からあって、例えば「FFIII」だったらクリスタルタワーをモチーフに使ってください、みたいな……その指定された曲をどのように使っていこうかというところでは、結構悩みましたね。

――アレンジじゃなくて、モチーフですもんね。

水田氏:そうなんですよね。その中でもどれが難しかったかというと……グルグ火山マップの「FFVIII」の炎の洞窟をモチーフとしている「Calamity's Passage – Motif from “Find Your Way”」なんかは結構攻めた感じにしたので、「気に入ってもらえればいいな」とドキドキしながら出しましたね(笑)。それは結局大丈夫だったので胸を撫でおろしましたけれど……そんなにアレンジしにくい曲というのも、あまりありませんでした。

というのも、これが純粋にアレンジ曲にしてほしいという発注だったら違ったと思うんですが、もともと「FFオリジン」用のオリジナル曲を作ってからそこにそのマップのモチーフを入れるという感じだったので、あえて難しくないところを取り出す手法とかもあるんですよ。

――なるほど。今回のような楽曲の場合だと、ご自身にとって使いやすいところを切り取って入れることができたんですね。

水田氏:はい。ちょっとあんまり面白くない答えになっちゃって、すみません(笑)。

――いえいえ、そういう手法があるんだというお話が伺えてよかったです。岩﨑さんはいかがですか?

岩﨑氏:「FFIV」がモチーフの浮遊城……「Whence the Winds Blow - Motif from "Tower of Bab-il"」~「Beyond the Heavens」~「Castle of Wind, Suffused with Hatred - Motif from "Tower of Bab-il"」とか、あと「FFII」がモチーフの西の城の「Treachery and Trust - Motif from "The Imperial Army"」~「Adversity」~「A Promise - Motif from "The Imperial Army"」とかは、自分的には結構面白いことをしたので、印象に残っていますね。

基本的にダンジョンは前半、中間、後半という3曲の構成になっていて、でも原曲は「バブイルの塔」や「帝国軍のテーマ」というように1曲だけじゃないですか。だからこれをどうやって3分割しようか、という悩みがあって……。3曲全部に元のモチーフを入れるのか、3曲のうち1曲だけ入っていればいいのか、みたいなのを作りながら模索していました。

――特に「帝国軍のテーマ」も「バブイルの塔」も、元がそんなに長い曲でもないだけに難しいですよね……。

岩﨑氏:全然違う3曲を作るっていうのでもいいのですが、何となく雰囲気は寄せたいので、1回原曲をアレンジした状態で、次は原曲が全く入ってこないんだけど似て非なる曲みたいなものを作って、どう差別化しようかというところで悩みましたね。

ただ、自分の場合は「FFオリジン」に合流したのが最後になってしまったので、1曲ずつ自分で打ち込んで綺麗にミックスするやり方をしている時間もありませんでした。なので、とりあえずなんとかガーッと曲を作って、1日で一気にレコーディングを何十曲としてきて……でも1日でレコーディングをすると、使ってる楽器などが全部一緒になってしまうので、良くも悪くも同じようなサウンドになりがちなんですよ。それを避けるために、オーケストレーションで入ってくださった亀岡夏海さんにも結構無理をお願いして、かなり実験的なレコーディングをしました。

――ほほう、具体的にはどのような……?

山﨑氏:レコーディングには僕も同席していたので見ていたのですが、「このままいくといつものハートウォーミングな感じになっちゃうので、そうじゃない風にいきたい」みたいなこととか話されていましたよね。

岩﨑氏:そうそう、だから亀岡さんが作ってきてくれたアレンジに、更に現場で直接手を入れていくような感じで……。というのも、亀岡さんが作ってきてくれたアレンジが言い方は悪いかもしれないのですが、少し綺麗すぎたんですね(笑)。なので、「もっと汚く弾かないと」というような感じのことを伝えて、奏者さんたちにもわざと下手に弾いてもらうようにお願いをしたりとか、ヘンテコとも言える演奏を2回ぐらいしてもらって、それを重ねてみたりとかしています。

「FFオリジン」のコンセプトがダークですので、サウンドが軽くなっちゃうとコンセプトと違ってしまいますし、そこをなんとかなるように色々現場で創意工夫して、その工夫が特に上手く出せたのが西の城と浮遊城かな、と思っています。

――「FFオリジン」の音楽って全体的に荘厳でありつつ歪(ひず)んだ感じがしますけれど、その歪みのイメージが、今のお話でぴったりハマりましたね。

岩﨑氏:歪んだ感じというのは、まさにあると思います。弦とかは、指のポジションや指が交差する場所という演奏手法は基本的に決まっているのですが、意図的に駒(※バイオリンの4本の弦を所定の位置に支え、弦の振動を伝える部品のこと)の近い方で弾いてもらい、それによって音を細くしたり濁らせたりすることができるので、それによって先程言ったように”汚く”弾いてもらっているんですね。それが歪みとして無事に感じ取っていただけているならば、嬉しいです。

――あのなんともいえない本作の楽曲の端々に感じる歪みの一端がわかって嬉しいです。山﨑さんも、なにかエピソードはありますか?

山﨑氏:僕が担当した中では、「FFXIII」のサンレス水郷をモチーフとした「Refrin - Motif from "The Sunleth Waterscape"」あたりの曲が、かなり印象に残っていますね。2回目の体験版にも入っていたと思うのですが、浜渦正志さんによる原曲も僕自身とても大好きな曲で、原曲の良さを壊さないようにするというプレッシャーもありました。

結局、光歪の水郷の曲は、冒頭のストーリーでネオンが「私は以前ここにきたことがある」と言い、全体的にふわふわとした記憶をたどるようなシーンが続いたので、メインモチーフは使うけれどアレンジは全く別という、どちらかというとアレンジよりも劇伴に近いイメージで作りました。

――光歪の水郷の曲って、前半は寂しげなピアノが目立つサンレス水郷という感じで、後半になってくるとすごく緊迫した感じのサンレス水郷になり、雰囲気ががらりと変わりますよね。

山﨑氏:「Refrin - Motif from "The Sunleth Waterscape"」、「Growing Darkness」、「Place of Amalgamation - Motif from "The Sunleth Waterscape"」と3曲あるうちの、1曲目と3曲目はサンレス水郷から2ヶ所のモチーフを使っているんですが、前半と後半で物語の雰囲気も変わってきますし、特に後半は奥へ行くほど緊張感が高まりますから、それでああいう作りの曲になりました。

――「Place of Amalgamation - Motif from "The Sunleth Waterscape"」は、弦楽器が凄い焦っているような感じで、心を掻き立てられるんですよね。それでは最後に皆さんから、ひとことずつメッセージをいただければと思います。

水田氏:「FFオリジン」の感想を見ていると、主にストーリーの面で「後半になってくるにつれてすごい盛り上がって、最後までクリアしたら「FFI」がやりたくなった」というお声を目にすることが多くて、自分も最初にこのゲームのストーリーを読んだ時に「そういう物になればいいな」と思いながら作ったので、それが伝わったならば何よりです。

一方で、アクションゲームだから「FF」らしい物語の良さがないんじゃないかと思って敬遠してる人がいたら、「そんなことはないよ」とお伝えしたいです。確かにゲームの内容はアクションゲームですが、「やって良かった」というクリア後の物語の読了感にはちょっと意外な展開も含まれていますし、そしてそれがちゃんと「FFI」の歴史につながっている作りになっていますので、ぜひ食わず嫌いをせずにやってもらえたら嬉しいです。……って、音楽とは関係のない宣伝をしてしまいましたが、ついでに音楽も好きになってもらえたら嬉しいです(笑)。

岩﨑氏:まだ遊んでいない方は、機会があったら是非遊んでほしいというのは僕も一緒ですね。あとはまだこれからDLCがありますので、引き続き遊んでいらっしゃる方は、そちらも楽しんでいただけたらと思います。

山﨑氏:サントラだけ聞く人っているのかな。あまり考えにくいので、僕も同じようなお話になってしまうのですが。

――すみません、私サントラだけ聞くこともある人です。本作はもちろんめちゃくちゃ遊んでおりますけれども。意外といるんですよ、音楽が好きでCDだけ買う方って。

山﨑氏:そうなんですね。ゲームと音楽は密接なので、やはりプレイしてもらうのが一番嬉しいです。「FF」の過去の曲なども散りばめてはいるのですが、往年のファンに向けているだけではなく、これから「FF」をやる人にも通じる内容ですし、毎回チャレンジを重ねる「FF」の新しいひとつの方向性だと思いますので、よろしくお願いします。

――ありがとうございました。

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