現在、数多くの企業とのコラボレーション企画「アイドルマスター SideM 315プロダクション お仕事コラボキャンペーン」を発表し日々話題を集めているドラマチックアイドル育成ゲーム「アイドルマスター SideM」(以下、「SideM」)。中でもキャンペーンに応募し、約200店舗の書店とコラボ、多くのプロデューサー(「アイドルマスター」シリーズファンの総称)に改めて本や書店に触れる機会を生み出した日本出版販売(以下、日販)に話を伺った。

目次
  1. 出版業界における日販の役割と、今回のコラボ企画に至った理由
  2. 企画の反響を受け3人の担当者が語る、書店の魅力と頑張る理由

今回インタビューしたのはキャンペーンに応募し、本企画を提案した片山淳子氏(仕入流通本部 マーケティング部 MD課)、鈴木風薫氏(同MD課)、樋口佳菜氏(首都圏第四支店 第二係 兼 (株)MPD北関東支店)の3人。※部署名は取材当時(2022年3月)のもの

出版不況と言われる昨今「SideM」との新しいコラボの形で書店と読者に元気を与えた本企画はどのようにして生まれたのか? 企画誕生の経緯や反響、取次会社で働くことへの想いを語っていただきました。

アイドルマスター SideM 315プロダクションお仕事コラボキャンペーン:
https://sidem-gs.idolmaster-official.jp/collabo/

出版業界における日販の役割と、今回のコラボ企画に至った理由

――まずは企画のことをお伺いする前に、日販さんも含まれる「取次」という会社が出版業界でどのような役割を果たしているのか、そしてその中でみなさんが普段どのようなお仕事をされているのかということからお話しいただけますでしょうか。

片山氏:取次会社が持つ一番大きな役割は、簡単に言うと、みなさんが行かれる書店さんにいろんな出版社さんの商品を卸すことです。

樋口氏:本の専門商社と言えばわかりやすいかもしれません。

――ほとんどの本は完成したら一度日販さんなど取次会社に集約され、そこから全国の書店さんに配られていくんですよね。

樋口氏:そうですね。その中で私は書店さんの営業担当として、こういう本を仕入れたいとかこういう売り場を作りたいといった書店さんの悩みや要望を聞きながら一緒に売り場を改善していくお仕事をさせていただいております。

鈴木氏:私と片山が所属する部署では、書店店頭でのフェアを企画しています。他にも幅広い業務があるのですが、基本的には出版社さんと書店さんを繋げて、より活発な書籍流通を目指していくことが取次会社の仕事ですね。

――では書店さんとの窓口である樋口さんたち営業の方を通して書店員さんたちの想いが日販さんに伝わり、それを汲んだ企画を片山さんと鈴木さんのいらっしゃる部署で考え、また営業の方を通して全国各地の書店さんに広がっていくイメージですね。そんなみなさんがどこで「アイドルマスターSideM 315プロダクション お仕事コラボキャンペーン」を知り、今回の企画に至ったのでしょうか。

樋口氏:きっかけは、私が「SideM」の生配信を観ていたことです(笑)。当時は「こんなことやるんだ、面白いな」と思ったぐらいで、自分の会社でやろうとまでは考えていませんでした。ただ、どうすれば書店さんの売上をあげていけるかを模索しているなかで、書店さんの中にネイルサロンを開いてみたり、本以外の物で集客しようという動きが出ていて、ほかの業種とコラボできないか交渉したりしていたんです。その一環で、自分が好きなコンテンツで書店さんの売り上げに貢献できる案があれば楽しいなあと思っていろいろ調べていたのですが、やはりなかなか実現には至らなかったんです。

そう考えている中で「SideM」でもキャンペーンをやっていることを思い出して、これなら実現できるんじゃないか?と。鈴木に軽く「このキャンペーン企画できないかな?」って送ったみたら「いいじゃん!」とすぐ返事をくれて(笑)。

鈴木氏:樋口と同じく私も「SideM」のプロデューサーだったので、ぜひやりたい!と思ったんです。そこから私が、他の「アイドルマスター」シリーズでプロデューサーをやっている片山を誘いました。

片山氏:私はMobageの「アイドルマスター シンデレラガールズ」でプロデューサーを始めて、今は他のブランドもやっているんですけど、「SideM」は未プロデュースでした。これを機に、新ユニットのC.FIRSTのビジュアルに惹かれたこともあり「SideM」のプロデューサーも始めました(笑)。

――みなさん、プロデューサーだったんですね!

鈴木氏:そうなんです。私は「SideM」のアイドルたちの人間としての深みに引き込まれてプロデューサーになりました。今はS.E.Mの山下次郎さんと、Legendersの葛之葉雨彦さんの担当をしています。

樋口氏:私はJupiterの天ヶ瀬冬馬くんの担当です。「SideM」を好きになったきっかけが、1stライブ(THE IDOLM@STER SideM 1st STAGE ~ST@RTING!~)の円盤が発売されるタイミングで行われた上映会を友達に連れられて観に行ったことなんですね。それがほんとに初めての「SideM」で当時は全然詳しくなかったんですけど、Jupiterが歌う姿を観てすごい泣いちゃって……(笑)。

片山氏・鈴木氏:(笑)。

樋口氏:みんな泣いてたんです(笑)。そこですごいコンテンツだなと思って、プロデューサーになりました。

片山氏:私は「SideM」に関しては入ったばかりなんですけど、「アイドルマスター」シリーズ全体で共通してアイドルとプロデューサーの方々の関係がとても素敵ですし、プロデューサーの方々の一体感も魅力だなと思います。その中の「SideM」とせっかく一緒にお仕事できるということで、出版取次としてぜひコラボしたい!と思い、企画検討を進めることになりました。

――なるほど。では「『アイドルマスター SideM GROWING STARS(以下、サイスタ)』のアプリを提示すれば1冊につき1枚ランダムで限定しおりを配布」「全国49店舗では応援店として店舗ごとに異なるアイドルの特製ポスターを掲示」という企画の形になるまでにはどのように考えていったのですか?

片山氏:会社からGOをもらうにも企画内容というのはすごく重要で。「アイドルマスター」の知名度を伝えること自体は割と簡単でした。ただ、その人気の作品をどう書店さんに人が来る仕掛けに繋げるのかが会社に伝わらないとGOも出ないですよね。なので企画内容についてはこのメンバーでいろいろ考えました。

たとえば、アイドルの方が関わった企画で出版業界でも話題になった、乃木坂46さんと光文社さんがコラボした「乃木坂文庫」というフェアがあるんです。既刊のカバーを乃木坂のみなさんの撮りおろしカバーに掛け替えて書店で展開してもらうというもので、今回も315プロダクションのアイドルの特製カバーを作るのはどうだろう?という案も出たんですが……。

――それだとフェアで注目を浴びる本が限定されてしまいますよね。個人的に今回のフェアは、出版社さんの壁を越えてプロデューサーの方が自由に本を選べるという点が、取次さんが考えてくれたからこそできる企画だなと感動したポイントのひとつです。

片山氏:それに「このアイドルにはこの本を」ということを私たちが決めていいのかな?という考えもあって(笑)。そういう経緯でまずは全ての本を対象にノベルティしおりを付けることが決まりました。加えてさらに書店に行く付加価値を高めたくて、都道府県ごとに応援店舗を置き、アイドルのみなさんにポスターという形で出張していただくことを思いつきました。私自身もそうですが、好きな作品のポスターがあったらみなさん写真を撮りに行きたくなるのではないかと思いまして(笑)。書店に行くだけでもプロデューサーさんに楽しんでいただけたら、と。

――なるほど。参加される書店さんはどのように決まったのでしょうか。

片山氏:参加書店さんを考える時に特に大事にしたのが「書店とお客様のどちらも応援したい」という今回の企画コンセプトでした。せっかく全国の書店と繋がりがある日販が実施する企画なので、なるべくたくさん、全国各都道府県の書店と書店員さん・お客さんを応援できるようにしたいと考えたんです。なのでまずポスター掲示をお願いする応援店に関しては、今ひときわ出版業界として元気になってほしいという意味でも、その地域全体を元気づけたいという意味でも、地元に根付いているチェーンの書店さんに優先的にお声がけしました。ノベルティ配布店に関してはこちらでハードルは設けず、希望してくださった書店さんにご参加いただいた形ですね。

――そのように生まれた本企画において神速一魂のふたりが告知に登場したことも話題になっていましたが、彼らに依頼した理由は何ですか?

鈴木氏:我々としてはやはり書店さんに関係する企画なので、本に関わりのある方に告知をお願いしたいなあと、「アイドルマスターSideM 315プロダクション お仕事コラボキャンペーン」を実施しているバンダイナムコエンターテインメントさんにお話していたんです。候補には元小説家の九十九(一希)先生や、本が身近な教師という職業だったというところでS.E.M.もいましたが、最初のカードイラストでも本を持っているぐらい本好きな黒野玄武さんが、一番親和性が高いのではと思い、玄武さんが所属するユニットの神速一魂にお願いすることにしました。

――神速一魂は「頭脳で歴史を拓け」と歌うぐらいなので本という点でもぴったりですし、楽曲もみんなを元気づけるという要素が強いユニットだと思うので、「書店さんとお客さんを応援する」というコンセプトにも見事に合っていると感じました。

鈴木氏:ありがとうございます。Twitterでも神速一魂担当のプロデューサーさんたちが大喜びしてくださっていたので、我々も本当に嬉しかったですね!

「この仕事をくれてありがとう」って日販に感謝してくださる方もいらっしゃったんですよ。他にもポスターを見に来てくださって「ちゃんとお仕事してるの見てきたよ」と言う方もいらして、リアルなアイドルとプロデューサーに近い関係をみなさんが持っていることを今回感じました。

企画の反響を受け3人の担当者が語る、書店の魅力と頑張る理由

――今、鈴木さんから本企画の反響のお話が少しありましたが、他に反響を感じた点があればお聞かせいただけますか。

鈴木氏:Twitterで行った「#315(サイコー)な本」というハッシュタグキャンペーンが印象的でしたね。コラボ開始は3月8日からだったんですが、2月頭に「SideM」の生配信で告知していただいた後、ひと足早く2月18日から「プロデューサーの皆さんにおすすめの最高な本を紹介してください」という内容で「#315な本」というハッシュタグキャンペーンを実施しました。それが3月末までで1300件以上も投稿があり、プロデューサーの皆さんだけでなく、書店さんや出版社の方も参加してくださり、想像以上に幅広い方に反応していただけました。

片山氏:ツイートで何かが当たるキャンペーンはよくありますが、今回はただ「書店さんで本を買うとしおりがもらえるから、これを機にみんなで好きな本の話をしてみましょう」と投げかけただけなんです。それでも投稿してくださる方がたくさんいらっしゃったので、この「SideM」というコンテンツを好きになる方との相性も良かったのかもしれません。

アイドルにちなんだ本を紹介している方もたくさんいらっしゃったんですけど、いろいろなジャンルの本が紹介されていて、改めて「SideM」のアイドルの幅広さを感じられたのも面白かったですね。

樋口氏:ハッシュタグを見ていてすごく面白かったですね。結構マニアックというか、あまり知られていない本を紹介されてる方もいらっしゃいましたし、そのタグを見て買う本を探そうとおっしゃっている方もいたので、たくさんの方が新しい本と出会うきっかけになったと感じました。プロデューサーさん同士の新たな繋がりも生まれていて、やってよかったなと思いました。

――今回の企画で本や書店さんの魅力を知ったり改めて気づいた方もたくさんいらっしゃると思うのですが、そんな方々に今後も書店さんに行っていただけるように「おすすめの書店の楽しみ方」があれば教えてください。

鈴木氏:私は本の装丁が大好きで。でもネット書店で買おうとすると、見た目はわかっても手触りや細かい装丁まではわからないですよね。たとえば布でできてるのかとかしっかり加工されているものなのかとか……現物を見て初めてわかることがあって、私はそういうところに書店さんに行く楽しみを感じますね。書店さんを巡ってるうちに「この背表紙なんだろう? 金の箔押しがすごくいい!」みたいな意外な出会いが結構あるんです。

――書店さんを、美術展のように楽しんでいらっしゃるんですね。

鈴木氏:はい。自分の本棚に好きな装丁の本が並んでいるとすごく気持ちが上がるんです。プロデューサーの皆さんのなかにも、同じような楽しみを感じてくださる方がいるんじゃないかなと思います。

樋口氏:私は、書店員さんの描かれるPOPも見て欲しいと思います。最近POPをすごく上手に描かれる方が多くて。POPって人となりが見えるんです。「何だこの本は!?」と思うものを激推ししてコーナーを作っている書店さんとかもあるんですけど(笑)、そこにある熱いPOPを見ると「どうしてこの人はこの本を推したんだろう?」「これってそんなに面白いのかな?」って気になってくるんですよね。それを読んで面白かったら、そのPOPを描かれた方が推す他の本を買ってみようと思えてきます。

そうやって書店員さんのおすすめを巡ってみると、新たな出会いになるんじゃないかなと思います。

――書店員さんからすると、おすすめを聞くことは迷惑ではないのでしょうか。

樋口氏: POPを描いている方なら全然ありだと思います! むしろいいものを知ってほしくて描いていらっしゃるわけですし、実際私が担当書店さんでも、スタッフおすすめ棚を作ろうという動きもあるんです。おすすめを伝えたいと思っている書店員さんは結構多いので、お客さんから聞かれることもウェルカムだと思います。自分が好きなものを好きと言ってもらえると嬉しいのは書店員さんも同じだと思います。なのでたくさん聞いていただければと思います。

――そういえば今回も、「SideM」コラボに合わせてコーナーを作ってる書店さんがいらっしゃったのをTwitterで拝見しました。

鈴木氏:古論クリス先生のコーナーを作っていただいた成文堂書店 南浦和店さんですね! 実は私、企画がスタートした8日の朝に書店さんにお伺いして開店を一緒に迎えたんです。第1号のお客さんが来たときもそわそわしながら陰から見守ってたんですけど(笑)、クリス先生のこれまでの衣装を全部描いてくださったり私物のタオルやフィギュアまで置いていただいたり、すごく熱の入った書店員さんだったので、プロデューサーさんとも会話がたくさん生まれていて。それを目の前で見ることができて、この企画が新しい繋がりを生んだんだなと感じられたのはすごく嬉しかったですね。

――みなさんが今、どういうことを目指して働いていきたいと思っているかをお聞きして終わりたいと思います。

樋口氏:私は一番書店さんに近い立場でお仕事させていただいていますが、出版不況とも言われ本が売れにくい今、閉店されてしまう書店さんもすごく増えてきてしまっています。それを乗り越えるためにも、お客様に書店で本を買ってもらえるよう売り場を考えている書店員さんの想いを実らせたい、選ばれる書店さんにしていけるサポートをしたいと強く思っています。

また、お客さんにもいろんな本に出会ってほしいなと思っています。ネットショッピングだと自分が欲しいものしか見つけられなかったりすると思うんですけど、棚を見たり書店員さんに相談したりといろんな選択肢が増えるのが書店さんのひとつの魅力です。自分ひとりじゃ探せなかった本にも出会える場所なので、しっかりサポートして書店さんの売り上げを上げていき、いろんな本に出会ってもらえる機会に繋げたいと思っています。

鈴木氏:私はもともと本やゲームなどが好きでエンタメ業界を目指していたんですが、その中でなぜ出版取次を選んだのかと言うと、たくさんの出版社さん・書店さんとお仕事ができて、選択肢が幅広い会社だと思ったからなんです。その中でずっと、今回の「SideM」のように私が好きなものを広めていけたらなおいいなあと思っていて。その好きなものを主軸に仕事ができた今回、自分が楽しいと思いながら進める仕事は熱もかなり入るし、さらにお客さんが喜んでくれるという結果がついてくればこんなにも嬉しいものなんだって実感しました。

これから先も、自分自身もお客さんも楽しめて、それでいて出版社さんや書店さん、ひとつに閉じることなく業界全体を盛り上げていく企画を提案していきたいと思っています。

片山氏:私が出版業界に入ろうと思ったのは、もともと書店でアルバイトをしていたことがきっかけです。樋口も言ったとおり、書店員さんって日々すごく工夫しながらお仕事されていて、でも、それ以外にもやることが多いんですよ(笑)。だから取次が書店さんを助けることで、書店員さんの想いを活かしながら「書店って面白い場所だよ」ってもっと伝えられるようにしたいと思ったんです。みんなが自分の色を出したお店を自由に作れるような出版業界になったらいいな、って。

なので実は今回の企画も「書店さん側にあまり負荷がないように」ということはかなり意識していました。おかげさまで、ほとんどの書店さんが「売り上げが上がってよかった」「次もあれば参加したい」と言ってくださっていて。もともと「SideM」を知らなかった書店員さんでも「思った以上に反響がありました」とか「しおりの柄に反応されるお客さんとのやり取りが楽しかったです」とか、これまでにないお客さんとの繋がりを楽しんでいただけたみたいなんです。写真を撮るときにちゃんと「SNSに上げていいですか」って確認されたプロデューサーさんも多かったらしくて、書店員さんにも「このポスターってそんな引きがあるんだ」って伝わっていました。

――確かに「書店の方に許可をいただきました」と写真をアップされている方もよく見かけて、「SideM」のプロデューサーさんたちらしいなあと感じました。

片山氏:そうですよね。アニメ関連書籍中心の書店さんであればまだしも一般の書店さんではゲームやアニメとコラボした企画はあまりないんですけど、書店員さんからいい反響を頂けたことはとても嬉しいです。当初私が目指していた、取次という立場から、各書店さんがあまり負荷のない形で自分たちの色を出せて、お客さんにも書店の楽しさを新たに伝えられる機会をひとつ作れたんだなあと思いました。今後もお客さんに「書店に行くと楽しいよ」と伝えられるような企画をたくさん実施したいですね。

――ぜひ、またやっていただけたら喜ぶ方はたくさんいらっしゃると思います。

片山氏:だと嬉しいですね! おかげさまで実は今、社内でも今回のコラボが注目を集めておりまして。書店さんのSNSもバズったりしたので、顧客視点のマーケティングできちんと書店さんに還元できたということで高評価だったんです。店頭の売り上げも伸びていたんですよ! 本当に、皆さんが本を買ってくれたおかげですね。買ってくださった本を読んで、また次に読みたい本に繋がったり書店さんに行こうという気持ちが湧いてくれたら、私たちもとても嬉しいです。

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