日本一ソフトウェアが2022年6月30日に発売する、PS4/Nintendo Switch用ソフト「void* tRrLM2(); //ボイド・テラリウム2」のプレイレポートをお届けする。
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退廃的な世界観が生み出す「美しさ」と「儚さ」
「void* tRrLM2(); //ボイド・テラリウム2」は、人類最後の少女「トリコ」と、それを守るロボットの物語を描いたRPG。2020年1月23日に発売されたPS4/Nintendo Switch用ソフト「void tRrLM(); //ボイド・テラリウム」の続編にあたるタイトルだ。
本作の舞台となるのは、文明が崩壊し、人類が滅亡した未来。俗に「ポストアポカリプス」系とも呼ばれる終末的な世界観が描かれ、プレイヤーはスクラップ場で目を覚ました1台のロボットを操作し、人類唯一の生き残りの少女である「トリコ」のお世話をしていくことになる。
本作のストーリーは、前作「void tRrLM(); //ボイド・テラリウム」のあるエンディング後の時間軸となっているが、前作をプレイせずとも物語においていかれることはない。本作は「ロボット」、「トリコ」、「ファクトリーAI」(トリコたちが住むテラリウムの管理を行うAI)以外のキャラクターはほぼ登場せず、物語自体の構造も非常にシンプルで、「2」での物語の鍵となる要素は、本作から新たに登場した存在となっている。公式サイトでは前作までの大まかなエピソードが「あらすじ」として公開されており、物語を理解するのに必要な情報はそれでほぼ揃うはずだ。
ただ、「トリコのお世話をする」という行為への感情移入度は、前作をプレイしていた方が高まるのは間違いない。より深く楽しみたいのであれば、発売前に「1」をプレイしておくのもオススメだ。
本作の魅力を語る上で「世界観」は欠かせない要素でもある。
文明が崩壊した絶望的な状況にありながらも、登場人物たちは悲観しておらず、良い意味で淡々と物語が進んでいく。古谷優幸氏によるイラストと、杉江一氏の音楽も、本作の世界観が持つ残酷さ、美しさ、もの悲しさのすべての要素を同時に感じさせてくれる。その世界に存在していることが心地よい「ICO」や「ワンダと巨像」、「風ノ旅ビト」といったタイトルに少し雰囲気が通じる部分もあり、そうした作品の世界観に惹かれたプレイヤーは、本作の世界観にも引き込まれるのではないだろうか。
ランダム性を残しつつも、カジュアルに楽しめるローグライクゲーム
「ローグライクお世話RPG」とも銘打たれている本作は、「不思議のダンジョン」シリーズなどに代表される「ローグライク」と、「たまごっち」などに代表されるお世話ゲームのジャンルを融合させたようなシステムが特徴となっている。
プレイヤーはロボットを操作してダンジョンに潜って資源を持ち帰り、資源を使ってトリコが生存するための「テラリウム」の環境を整備していく……というのが主なゲームのサイクル。
「ローグライク」というジャンルに対して、「ダンジョン内で力尽きると初期レベルに戻され、所持していたアイテムをすべて失う」というストイックなゲームというイメージをもっているプレイヤーも少なくはないだろう。実際、筆者もローグライクゲームがあまり得意な方ではないのだが、本作はストレスを感じる部分が少なく、かなりカジュアルな感覚でプレイできるゲームだと感じた。
とくに大きいのが、デスペナルティの少なさだ。本作のダンジョンはランダム生成され、配置された武器や防具、グレネード等のアイテムを駆使しながら探索する、ローグライクゲームとしてはオーソドックスなシステムが採用されている。
ただし、本作でダンジョン内で入手したアイテムはそのまま持ち帰ることはできず、汎用資源に自動的に変換される。このため、「強い武器を拠点に持ち帰り、再出発するときにその武器を再度持ち出す」といったプレイはできないようになっている一方で、汎用資源への変換はダンジョン内で力尽きてしまった場合も行われる。本作では「おせわっち」(※詳しくは後述)の機能を使うことで、いつでも拠点に帰還することもできるのだが、帰還した場合と途中で力尽きた場合で、入手できる資源量は変わらないのだ。
ローグライクゲームではデスペナルティが重めに設定されていることも多いが、本作のデスペナルティはないに等しく、かなり気楽に探索を行えるようになっている。
加えて、レベルはダンジョンごとにリセットされるものの、拠点で様々な種類のアイテムをクラフトするごとに「クラフトボーナス」が加算され、ロボットの初期パラメータやアイテムの所持上限などが強化される。何度もダンジョンに潜り、ダンジョン内で入手できるレシピを持ち帰って新たなアイテムをクラフトしていけば、自然とロボットも強化される。最初は難しいと感じたダンジョンも、ロボットが強くなることで楽に突破できるようになっていく。
さらに「2」からの新要素として、武器の熟練度の概念も追加された。ダンジョン内で入手した武器を装備して使い続けると、ハンマーやブレード、ドリルといった武器のカテゴリごとの熟練度が上昇していき、ステータスアップやアクティブスキル習得の恩恵が与えられる。この熟練度は「クラフトボーナス」と同様に次以降のダンジョンにも引き継がれるので、現在作れるクラフトレシピをすべて開放してしまった状態でも、ロボットの能力の底上げを行えるようになった。
その一方で、毎回プレイするごとに大きく展開が変わる、ローグライクならではのランダム要素も存在する。
中でも特徴的なのが、レベルアップ時の「スキル抽選」システムだ。本作のレベルアップでは、ランダムで選ばれた2つのスキルの片方だけを選択して習得するという独自性の強いシステムが採用されている。スキルごとにランクも存在しており、序盤から高ランクのスキルの抽選に当たれば、その後が一気に楽になるが、いつまで経ってもランクの低いスキルしか習得できない……というパターンも起こりうる。そのため、運が悪いと思うような成長ができず、あっさりと死んでしまうこともあるのだが、前述の通り本作はデスペナルティがかなり軽く設定されているため、それがストレスにならないような作りになっている。
習得できるスキルには、ステータスなどを底上げできるパッシブスキルの他にも、ENを消費して行うアクティブスキルも存在。「2」からは設置したポータル間を瞬時に移動できる「ポータル」や、地中に逃れて脅威を避けられる「ダイビング」といった新たなスキルも追加されている。
ゲームをある程度進めると、「ファイター」「ヒーラー」などの「ロール」を装備できるようにもなる。ロールはレベルアップ時のスキル抽選に影響し、「ファイター」ならダメージ関係のスキルが多いといったように、ある程度成長の傾向を決めておくことができる。
「湿度」「温度」の概念が追加され、「テラリウム」ではより繊細な管理が必要に
ダンジョンの探索と並んで重要なのが、テラリウムにいるトリコのお世話だ。
テラリウムでは、ダンジョン内から持ち帰ったレシピと素材を用いてクラフトしたアイテムを配置することができる。オンラインゲームでよく導入される「ハウジング」のシステムに近い要素だが、スペースがかなり限られているのが特徴。現実のテラリウムと同じように、限られた空間をいかに有効活用するかがポイントになる。
「2」からは、新たに「湿度」と「温度」の概念が追加され、考えなしにアイテムを配置することのデメリットも生じるようになった。例えば水草を配置しすぎると部屋内の湿度が異様に高くなり、トリコが「かびまみれ」の病気に掛かりやすくなってしまう。
そのためトリコにとって快適な温度・湿度を維持したいのだが、「湿度」と「温度」は、もう一つの新要素である「家庭菜園」にも影響する。「家庭菜園」は、クラフトした種に水をやり、植物を育てられるシステムで、植物の種類によって育ちやすい湿度や温度が異なる。トリコと植物、両方に気をつかいながらテラリウム内の湿度・温度を調整する必要がある。
植物はクラフトで作成する「種」を植えて行う。 「じょうろ」を使って水をやり、ダンジョンでしばらく探索を行ってから帰還すると、植物が育っていく。 |
テラリウム内では、トリコとのコミュニケーションもとることも可能。 頭をなでたり、おもちゃを使って遊ぼう。 |
またロボットが探索に出ている間は時間が経過し、トリコがお腹を空かせたり、テラリウムが汚れていってしまう。そのため、定期的にトリコにご飯をあげたり、テラリウムを掃除する必要があり、ずっと探索を行うのではなく、ある程度のサイクルでテラリウムに帰還することになる。
そんな時に便利なのが、テラリウムにいるトリコの状態を常時知らせてくれるガジェットである「おせわっち」。「2」では機能が拡張され、拠点への帰還とテラリウム内の掃除の他にも、トリコにご飯をあげたり、遊んでご機嫌を取れるようになった。ただし、おせわっちでご飯をあげても空腹度は回復しない。テラリウムのときとは異なり、空腹時の体力ゲージ減少が緩やかになるという効果になっている。
おせわっちからトリコのお世話をするにはENが必要だが(ENが切れるとロボットは動けなくなり、テラリウムに強制帰還となる)、ダンジョン内でバッテリーを入手した際などENに余裕のあるタイミングでお世話を行っておけば、その後ダンジョンに潜る時間を延長できる。トリコのお世話をするために、探索用ENをどれだけ消費するかという判断も、本作ならではの戦略性となっている。
物語への没入感を損なわない、一貫性のあるゲームデザイン
冒頭では本作の世界観の魅力について少し触れたが、近未来的な世界観とゲームシステムの親和性が高く、ゲームデザインにしっかりとした一貫性が感じられたのも本作の優れているポイントだろう。
例えば「おせわっち」のテラリウムへの帰還機能を使うと、ロボットは即座に自爆を行う。その後拠点で復活するのだが、これはデータだけをテラリウムへと送り、別のボディで再起動していると考えられる。これはローグライクゲームのお約束である「レベルが1に戻される」仕組みの理由付けとして機能しているのに加えて、プレイヤーがロボットである必然性や、近未来的な世界観の表現にも成功している。
力尽きた場合でも資源を持ち帰れるのも、汎用資源に変換して転送しているという設定があり、物語上の設定とシステムがしっかりと結びついているので、没入感を削がれることが少ない。本作のような「世界観に浸る」ことが魅力の1つでもある作品にとっては、こうした細かな部分に配慮されているのは嬉しいところだ。
また、純粋なローグライクゲームとしてみれば、トリコはプレイヤーにとって足かせとなる存在だ。一方で序盤のストーリーでは、謎の病気に掛かったトリコの腕がもがれてしまうという一幕があったり、お世話を怠ったしまったときにトリコがかかる病気は、どれもえげつないものが多い。そのため、「しっかりと自分がお世話をしなければ」というモチベーションが生まれるし、テラリウムを整備するとトリコが喜んでくれたり、配置した椅子に座ってくれたりなど、リアクションが豊富に用意されていることもあり、自然とトリコに対して愛着が湧くような作りとなっている。
ハード世界観が描かれる一方で、ゲームシステム側はユーザーフレンドリーな仕組みになっているのも面白い。
ランダム性によって、毎回の探索が異なる体験を与えてくれるローグライクの良さを残しつつ、最大のストレスになるデスペナルティをほぼ撤廃したことで、間口の広いシステムになったという印象だ。また「トリコのお世話のためにダンジョンの途中でも戻らなければならない」という制限によって、自然と1回のダンジョン探索が長くなりすぎないように調整されるので、ちょっとした空き時間にプレイしたくなる。「ローグライクゲームをプレイしてみたいけど、ストイックな要素は苦手……」という人には、とくにオススメできる。
基本的なシステムは前作から変わっておらず、おせわっちの機能拡張、家庭菜園に武器の熟練度といった要素が追加された形なので、前作に魅力を感じたプレイヤーなら、当然本作も楽しめるだろう。
6月23日からは、本作の体験版も配信中。ゲーム本編とは異なるオリジナルのストーリーがプレイできるので、まずは体験版をプレイしてみて欲しい。