2022年6月10日に発売となったPS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One/PC(Steam)用ホラーアドベンチャーゲーム「クアリー ~悪夢のサマーキャンプ」のレビューをお届けする。
目次
人里離れたキャンプ場で若者たちが身の毛もよだつ恐怖に襲われるという、古典的なスラッシャーホラー映画を彷彿とさせる舞台設定が採用されている本作。加えて、プレイヤーの選択や簡単な操作の成否によって物語が幾通りにも分岐。すべての主要な登場人物たちの最終的な生死が、プレイヤーの手に掛かっているのが大きな特徴だ。
物語重視のゲームでありながら題材がホラーであるという性質上、このレビューを読む読者には「絶対にネタバレは避けたい」人と、「多少ネタバレがあってもいいから自分に合ったゲームか詳しく知りたい」人がいるのではないかと思う。
そこで今回は、途中までは物語冒頭の設定や、ゲームシステムを中心としたネタバレほぼ無しのレビューに。最後に「※中盤以降の展開のネタバレあり」の見出しを設けた上で、ある程度踏み込んだ言及をしてみることにした。ネタバレ無しの部分だけでも作品のテイストはある程度伝わるかと思うので、ぜひそこまでは読んでいってほしい。
「若さ故の過ち」により、惨劇の夜を体験するお膳立てが整う
「クアリー ~悪夢のサマーキャンプ」には、チャプター1が始まるまえに、プロローグが存在する。そこでは深夜、ふたりの若い男女が予定より早く“ハケット採石場”なる場所に向かったがために味わうこととなる恐怖体験が描かれる。
そして本編はその2ヶ月後。この2ヶ月間、ハケット採石場では子どもたちが夏休みを利用してキャンプを楽しむ、体験学習のようなものが行われていた。この子どもたちが帰宅していくのを見送った、キャンプカウンセラーの若者たちが惨劇の主人公だ。本来は若者たちも子どもたちと同じ日に家へと帰るはずだったのだが、とある理由でもうひと晩をここで明かすことになってしまったのである。
若者たちが1日長く滞在することが決まってからと言うもの、採石場の管理人であるハケット氏は様子が急変。若者たちを置いて車でどこかへ行ってしまう。そして彼らの会話の端々から、プロローグに登場した若い男女もキャンプカウンセラーだったのだが、キャンプ中、一向に姿を見せなかったことが明らかとなる。ほかにも、さまざまな不穏さが顔をのぞかせる若者しかいない採石場は、やがて夜が更けて行き……というのがざっくりとした序盤のあらすじだ。
そもそも、もうひと晩をこの場所で過ごさなければならなくなった理由も、とある若者のあまりに自分勝手な行動によるもの。その上、ハケット氏の「今晩はぜったいにロッジから出るな」といった忠告にも彼らのほとんどが聞く耳を持たず、「外でパーティーをしよう」と言い出す始末。こうして、彼らが酷い目に遭うお膳立ては整ったわけだ。
日中、自然に囲まれた採石場の風景は美しいが、日が暮れるとまさに“一寸先は闇”と言える、不気味な場所へと変貌を遂げる。茂みから何かがこちらを狙っている気がしても、それが何なのか分かる頃には、すでに生死を分けるような重大な決断を下さなければいけない時が来ている――本作で描かれる暗闇は本当にとても暗いのだが、これによってゲーム的にも違和感なく、重大な選択が生じやすいものになっている印象を受けた。
ストーリー展開を左右するインタラクションは「判断が裏目に出る」ことも……
ゲームとしては、ストーリー展開にあわせて視点人物となる若者は切り替わっていき、彼らを操作して目的地へ向かったり、周囲を調べるといったパートも。こうした中でもほかの若者との会話が発生し、関係性に変化が生じたりする。特定の場所を通ったときに見つかるタロットカードを集めるという、収集要素もある。
彼らが危険と隣合わせになるような局面では、いくつかの種類の時間制限つきのインタラクションが画面上に登場。それはイベントシーン中の操作の成否によって展開が変わる、いわゆるQTE(クイックタイムイベント)であったり、時間内にどういった行動を起こすか? それとも行動自体を起こさないのか? 銃の引き金を引くか、引かないか、銃の狙いは合っているかなど、シチュエーションによって形式は違ってくる。変わり種では、若者を探している襲撃者に対して、ボタンを押している間「息を止める」ことで気配を消すというものもある。
一見してどんな選択をするのが彼らの生存に繋がるか分からないものも多く、こうした「判断が裏目に出る」という可能性が、本作のあらゆるインタラクションを悩ましいものにしてくれている。
QTEはその名前を聞いただけで眉をひそめる人も少なくない、好き嫌いが分かれるシステムだ。しかし、本作のQTEはスティックのアイコンが画面に出てから倒すべき方向がゆっくりと表示されるといった表現上の工夫もあって、反射神経や死に覚えが必要なものにはなっていない。よほどよそ見などをしていなければ、成功したいQTEで失敗することはないだろう(なお、筆者は全編通して1度だけよそ見をしていて失敗した)。
ほかのインタラクションも時間制限で焦ることはあれど、基本的にはプレイヤーの望んだ選択を失敗することはほとんどないと思われる。身体的に不自由な部分があるなどの理由で瞬発的な操作が難しいプレイヤーのためのアクセシビリティオプションも充実しており、これを活用する方法もある。内容はハードでありながら、あらゆるプレイヤーにフレンドリーなゲームとなっているのだ。さまざまな条件を事前に設定し、ストーリーだけを楽しめる「ムービーモード」も、最初から選択できるようになっているのも特筆すべき点だろう。
なお、シチュエーションによっては選択の結果、登場人物たちは絶命してしまうのだが、こうしたシーンの一部はかなり激しい暴力表現により描写される。PC版では海外版と同様の表現で描かれ、PS5版やXbox Series X版などのコンシューマ版では国内のレーティングに準拠した表現に一部修正されている点に注意。ただし、たとえば暴力シーンを見せないために暗転してしまうような不自然な表現にはなっておらず、いずれも本作の体験を大きく損なうようなものにはなっていないようだ。
一度ゲームをクリアすると3回までキャラクターの死を「無かったこと」にできる「死亡リセット」機能もアンロックされる。より多くの展開を目にしやすくなるあたり、分岐があるゲームはいろいろな展開を試したいという人にとっては嬉しいところだろう。
大人キャラクターたちの圧倒的存在感に感嘆、若者たちは現代的な等身大の描写に
この手のホラー作品にあまり触れない人の中には、「ジャンプスケア(突然恐ろしいものが画面に登場する、大きな音で驚かせるなどの恐怖演出)が苦手」という人が少なくないだろう。何を隠そう筆者もそのうちのひとりなのだが、自分の感覚としては、本作において「勘弁してくれ……」とぼやきたくなるような、心臓に悪い、悪質なジャンプスケアは見当たらなかった。
本作にも敵対者が突然飛び出してくるような場面はあったものの、その前には予兆となる演出があったり、ゲームとしての選択肢があったりしたため、その後の展開に向けた心の準備をしやすかったのが、そう感じた理由として大きかったと推察する。
上記のような個人的な趣向もあって、海外のホラー映画はほとんど観てきていない筆者なのだが、本作の登場人物は実在の俳優をベースにモデリングされており、どうやら海外ホラーのファンならニヤリとできるキャスティングとなっているらしい。確かに、とくにストーリーの要所で登場する大人のキャラクターたちは、誰もが表情の変化ひとつで不穏さが漂うような凄まじい存在感を放っており、この役者たちがホラー映画で唯一無二の役どころを演じているというのは想像に難くない。
唯一、筆者が認知していた役者といえば「名探偵ピカチュウ」で主人公のティムを演じていたジャスティス・スミスで、本作では若者たちの中では比較的理性的な人物であるライアンを演じている。ハケット氏の忠告を無視したパーティーの決行にも明確に反対するのはこの青年くらいで、若者たちの中で誰かに感情移入するとしたら、まずはこのライアンになるプレイヤーが多いのではないかと思う。
ホラーとしての作風や各種演出からは80年代テイストを感じられる本作だが、物語の舞台自体は明確に現代であり、単に懐古的な内容にはなっていないのは注目すべき点だ。
たとえばどのキャラクターもスマートフォンを所持しており、エマというキャラクターは採石場にいる間の自分の様子を配信するなど、SNSでの情報発信に余念がない。また、ライアンは怪奇現象を紹介するポッドキャストにハマっているなど、彼らが現代に生きる等身大の若者であることが分かる描写が多々ある。とあるキャラクターは同性愛者であり、かといって仕草や口調でそれと分かるようなステレオタイプではない描き方がなされているのも、2022年のゲームだからこその水準を満たした描写であり、特筆すべき点だろう。
なお、本作の日本語版は音声も含めたフルローカライズ仕様となっている。吹替は非常に秀逸ではあるが、豪華俳優陣が演じていることもあり、原語音声が選択できない点を残念に思うプレイヤーはいるかもしれない。また、オプションで表示できる字幕は妙なところで改行があったり、同じテキストが二度表示されたりと、吹替と比べるとおざなりなものになっているのは否めない。
「“神の視点”でもって若者たちの運命をもてあそぶゲーム」なのかもしれない
「クアリー ~悪夢のサマーキャンプ」のストーリーは複数のチャプターに分かれており、ひとつのチャプターをクリアするごとに謎の老婆が登場。探索中に手に入れたタロットカードを使って今後の展開のごく一部を水晶玉で見せてくれるという場面が挿入される。
こうしたシーンや、作中の視点人物がコロコロ変わることもあり、このゲームにおけるプレイヤーの立場は「登場人物になりきる」というよりは、もうひとつ上のレイヤーから若者たちの行動を見届ける、いわば“神の視点”のようなものである印象を強く受ける。
そう考えてみると、QTE含め各種インタラクションの難易度が低く設定されており、どんな選択もほとんどプレイヤーの自由である点からも、若者たちのひとりとして決死の行動を取っているというよりは、「彼らの運命に興味本位で介入している」ような感覚を覚えてくる。
ムービーモードで登場人物たちひとりひとりの行動方針を任意で決定してしまえたり、デラックスエディションの特典のひとつが数多くの登場人物に最も惨たらしい死を与える「ゴアフェスト」である点からも、本作がちょっと悪趣味な楽しみ方を推奨しているゲームであることは明らかだ。
もちろん、少しずつ明かされていく登場人物たちのパーソナリティに愛着を感じ、彼らがひとりでも多く生き延びるために導くのだって楽しい。しかし、せっかくならば2周目は、彼らがなんとか危機を脱しようというところであえて誤った行動をさせ、恐怖し、慌てふためく様子も見ておきたい――そう思うのも、好奇心を持った人間の性ではなかろうか?
この問いに共感した人は、根っからの善良な人間以上に、本作を骨の髄まで楽しめるかもしれない。
今回のレビューではプレイできていないが、オフライン/オンライン共にマルチプレイにも対応しており、投票によって物語展開が変化するなど、独特のゲームプレイが楽しめるようだ。「趣味が合う」知人がいる人は、こちらも試してみるといいだろう。
※中盤以降の展開のネタバレあり:趣向によっては「恐怖の質」に関して違和感を覚える可能性も
本作のプレイを続けていると、その物語が若者たちと、とある条件が揃ったときにこの採石場に現れる怪物たちの凶暴性に身を任せた行動、そしてこの怪物たちに対する怪しげな大人たちの思惑が入り乱れたものであることが分かってくる。
そして中盤の展開では「正しい処置を施さなかった場合、怪物に噛まれた者もまた怪物になってしまう」ことが明かされる。これはいわゆる“ゾンビもの”などによくある設定だ。
もうひとつ、こちらは“ゾンビもの”ならばかなりイレギュラーな設定と言えるのだが、本作の場合、怪物化した人々は「その人が怪物化する原因となった大元の怪物を殺すことで、人間に戻れる」というルールが存在するのだ。さらには「怪物化した場合、人間のときに受けた傷は致命的なものでさえ治癒する」というルールもある。
これらのルールを総合したとき、少々都合が良い設定のように感じる人もいるのではないかと思う。筆者としても、ゾンビ化や怪物化、それから身体的な欠損は、「元には戻らない」という不可逆性があるからこそ、恐怖を増幅させる要素になっている面はあるように感じる。
ただし、これは「仲間が怪物に変わってしまう」という恐ろしさを一度も描かなければストーリーが平坦になってしまうが、ゲームとして物語展開の幅を持たせる上で、「怪物に変わってしまった者が人間に戻り、生存する」という結末も用意する意義があった――というような制作上の葛藤があった上で、折衷案を選んだのではないかと推察できる。「その上で、どんな結末を目指したいか?」というプレイヤーの選択こそがこのゲームの本質である以上、納得して楽しむのがよい心構えなのだろうとも感じる。
それに、怪物などから即死級の攻撃を受けた人間は、治癒などを模索する余地なくアッサリ死んでしまう。そうした面での残酷さや、プレイヤーの選択から生じる“取り返しのつかなさ”が失われているわけでは無いことも強調しておきたい。
上記の点に違和感や物足りなさを覚える人もいるとは思うものの、「調子に乗った若者たちが、まさに“悪夢”と言いたくなるような酷い目に遭うところが見たい」というちょっと悪趣味な欲望は、しっかりバッチリ叶えてくれるのが「クアリー ~悪夢のサマーキャンプ」だ。ここまで気になって読んでくれた人も、その点は安心して(?)手に取ってみてほしい。
(C) Supermassive Games 2022. Published and distributed by 2K. Supermassive Games, The Quarry and Quarry names and logos are trademarks or registered trademarks of Supermassive Games Limited. All rights reserved. 2K and the 2K logo are trademarks of Take-Two Interactive Software, Inc. All rights reserved.
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