ビリビリからリリースされた「エターナルツリー」をレビュー。美少女と巨大ロボットをフィーチャーした物語を、ノベルゲーム的演出で描くスマートフォン向けRPG。その魅力を紹介する。
「エターナルツリー」は、SF要素とファンタジー要素を融合させたスマートフォン向けRPG。舞台は神代と現世の文明が交わる大陸ティタレッラ。「神代」といってもドラゴンや魔法といった神話的な世界観ではない。現代文明の技術を大きく超えるオーバーテクノロジー的な世界観。その象徴が、ヒロインの一人である機関人形(ゴエティアドール)・アルテミシアであり、虚数機構(イマジナリーオブジェクト)と呼ばれる巨大ロボットだ。
美少女×巨大ロボット…この取り合わせだけでも胸が熱くなるところだが、機関人形と書いて「ゴエティアドール」、虚数機構と書いて「イマジナリーオブジェクト」と読むセンスが合わさるのだからたまらない。そんな筆者のような人のために、本作の魅力をお伝えしたい。
神代の遺産をめぐる物語を描いたスマートフォン向けRPG
本作のゲーム的な流れは、一般的なスマートフォン向けRPGの形を踏襲している。マップ上でステージを選ぶことで、ストーリーパートやバトルパートをプレイ。クリアすることで次のステージがアンロックされていく。ステージとステージの合間に、獲得した素材を使ってホーム画面で育成を行うといったかたちだ。
ステージは、ストーリーパート用とバトルパート用とで分かれており、、ストーリーパートのステージでバトルが発生することはない。ストーリーだけ。同じようにバトルパートでもストーリー演出が行われることはなく、バトルのみプレイするというかたち。ただ基本的に、ストーリーステージの次のステージはバトルステージ…と交互に並んでいるため、自然な流れでストーリーとバトルをプレイできる。
バトルパートのシステムは、ターン制・コマンド選択式バトルをベースにしつつ、よりハイテンポにプレイできるようアレンジしたものになっている。特徴的な部分は、同じターン内でスキル使用と通常攻撃が行えるという点だろう。
通常攻撃ボタンを押すまでターンが経過しないため、スキル自体が使用可能なのであれば、好きなだけ使用できる。スキルは一度使用するとクールタイムが発生するが、バトル開始時点では全キャラ全スキル使用可能状態になっているため、スタート直後一気にバフをかけてしまう…なんてことが可能だ。
通常攻撃ボタンはキャラクターごとに分かれているのではなく、パーティ全体で1個。ボタンを押すと全員分の攻撃が行われ、ターンが経過する。必ず味方→敵というターン順なので、開始直後にで全スキル使用、バフをかけまくって通常攻撃…という立ち回りを行えば、敵を一気に壊滅することも不可能ではない。このため、オート機能や倍速機能を使わずとも、テンポが速いと感じた。もちろん、オート機能や倍速機能を使えばより速いテンポで快適にプレイできる。
注目の巨大ロボット…虚数機構(イマジナリーオブジェクト)は、バトルにおいて必殺技的ポジションになっている。バトル中蓄積されるゲージを消費して使用可能。バトル時のキャラクターがディフォルメされた2Dで描写されているが、虚数機構はリアル頭身・3D演出の迫力ある演出で描かれる。これはアツい。
ノベルゲームの魅力を活かした演出が光る!ストーリーパート
バトルパートは、テンポのよさや虚数機構の迫力ある演出などの魅力を持っており、おもしろい。ただその一方で本作ならではといえるほど強い個性を放つシステムではない。ターン制・コマンド選択式バトルのバリエーションのひとつといった印象だ。これに対しストーリーパートは、本作ならではといっていい個性を持っている。
スマートフォン向けRPGのストーリーパートは、背景グラフィックの上に「立ち絵」と呼ばれるキャラクターの正面向き画像を配置し、セリフ中心に描くことが多い。セリフは、画面下部のメッセージウィンドウ内に表示される。2Dアドベンチャーゲームで多く採用されてきたスタイルだ。これに対し本作のストーリーパートは、セリフのみならず地の分…いわゆるナレーションの文章までふくめてすべて、画面全体に表示する。これは、ノベルゲームで多く採用されてきたスタイルだ。
結果的にグラフィックと文章でストーリーを表現していくわけなので、一見するとこの2つの表現方法にさほどの差はないように思える。確かに、表現するものが単なる会話のやりとりであれば、この2つの表現方法にそれほど差は発生しないだろう。ただ、表現するものが動きを伴うものだと、大きな差が生まれる。
最近では、2Dイラストを3Dポリゴン化することで滑らかな動きを実現するスケルタルアニメーションなどの技術が出てきているため、立ち絵を用いた2Dアドベンチャーゲーム的演出であっても、キャラクターが豊かなアニメーションを見せることも多い。ただそういう作品であっても、キャラクターが正面向きという点は基本的に崩れていない。なので、キャラクター同士が空間内を移動して斬り合う…などのアクション的な演出にはどうしたって無理がでてしまう。向かい合っているはずの敵と味方が並んで正面向き…という絵面になってしまうからだ。
なので、プレイヤーは「2Dアドベンチャーゲーム的演出とはこういうもの」という、いわば「お約束」の下に自分を納得させることになる。一方、背景グラフィック+テキストというノベルゲーム的演出だと、こうした問題がない。とりわけ本作では、時には主人公の背中を見せたり、時にはマンガのようにキャラクターを複数のコマに分けることで異なる空間を同一画面に描写したりと、実に様々な手法を駆使し空間を表現している。
さらに本作の演出は、空間のみならず、時にはアートスタイルすら飛び越えて見せる。その代表例がコミカルなシーン。なんと、ディフォルメされたビジュアルへと変化するのだ。これは、コミカルなシーンをよりコミカルに見せる効果もさることながら、バトルパートとの「つなぎ」という意味合いでもおもしろく機能していると感じた。
ストーリーパートがリアル頭身でバトルパートのみがディフォルメキャラクターだとどうしてもゲーム的なもろもろの都合を感じてしまうが、ストーリーパートでもディフォルメキャラクターが登場すると、バトルパートにおけるディフォルメキャラクターもこのゲームの演出として受け入れられるのだ。
こんな風に本作のストーリーパートでは、キャラクターを正面から見せるという制約がないことを活かし、様々なビジュアル的演出を行っている。ただその一方で、本作のストーリーパートにはボイス演出がない。この点が、人によっては物足りなく感じられるかもしれない。ただ筆者としては、特に気にならなかった。これには「時間軸」が影響していると思う。
ここでいう「時間軸」というのは、「鑑賞するのに必要な時間を誰がコントロールしているか?」ということを意味している。ボイスの場合、「時間軸」ゲーム側にある。たとえば30秒で言い終わるセリフをボイスで聞くためには30秒かかる。当然、2時間分の脚本をボイスで聴く場合、時間は2時間必要だ。しかし2時間分の脚本を「読む」場合、必要な時間は2時間ではない。読む速度の速い人なら1時間もかからず読み終わるだろうし、時間をかけてじっくり読む人なら2時間以上かかるだろう。「読む」場合、「時間軸」は読者側…すなわちプレイヤー側にあるわけだ。
本作のストーリーシーンはノベルゲーム的な演出になっているため、プレイヤーは「読む」ことを意識させられる。もちろん、2Dアドベンチャーゲーム的演出のゲームでもセリフを読むことになるのだが、ノベルゲーム的な演出の本作では「地の文」まで含めて読むことになるので「読む」という比重が高い。先に書いた通り、「読む」という行為はプレイヤー側が「時間軸」を持つ行為。なので、ボイスがなくとも問題ない…むしろ、ずっと自分のペースで鑑賞できて快適だと感じた。
実は、この「読む」という行為こそ、本作のストーリーパート最大の魅力ではないかと思う。本作序盤では、主人公とその相棒エイキョ、そして機関人形アルテミシアの3人を中心に物語が展開していく。主人公とエイキョはフリーのシーカー。シーカーとはトレジャーハンター的な職業。多くのシーカーはなんらかの組織に所属するが、2人はフリーとして活動している。つまり、ワイルドな職業の中でもさらにワイルドな2人というわけだ。まずはこの主人公2人のワイルドな関係が、地の文も含めた文章表現によって掘り下げられていく。ワイルドさとコミカルさを融合させた展開は、バディものの探偵作品を読んでいるかのような楽しさがある。
この2人の関係をさらに面白くするのが、主人公が遺跡の探索中覚醒させた機関人形アルテミシア。神代の時代の存在であるため、2人にとってはこの上ないほど未知の存在。だからこそ必然的に、凸凹なコミュニケーションになる。これがおもしろい。しかしその凸凹した関係も、様々な出来事を経ることで徐々に嚙み合っていく。こうした展開はまさに王道、最初は笑いながらもいつの間にか熱いものへと変わっていく展開が心地いい。
本作はこうした展開を見せるための手段として確かに様々なビジュアル的演出を駆使している。しかしそれらはあくまで「読む」ことのスパイスに過ぎない。主体は明確に文章だ。「読む」ことが楽しい。これが本作のストーリーパートの特徴だろう。
SFロボットもの好きはプレイする価値あり!な一作
非常に個人的な要望として、ここまでストーリー要素が強いのであれば、できればストーリーパートの登場人物とバトルパートの編成が連携するような工夫がほしかった。ストーリーパートでは、主人公、エイキョ、アルティミシアの3人の前に敵が…という展開になのに、バトルパートへ入れば5人編成、しかもストーリーパート未登場のキャラクターもいる…というのは、没入感が削がれるからだ。
ただガチャでキャラクターを獲得するというスマートフォン向けRPGのフォーマットを踏まえると、これは許容範囲といっていいだろう。そしてこの要望を除いては、特に不満に思うところはなかった。ノベルゲーム的演出を活かし「読む」楽しさを体験できるストーリーパートと、テンポのよいバトルパートが組み合わさった本作は、SFロボットもののファンであればプレイする価値がある一作だ。